11.三年
祭りが終わった夜中、水月が寮に行くとリビングに薄っすら明かりが付いていた。
夜中の三時だってのに誰が起きてんだろうと見に行くと、月火と火音が床で添い寝状態で寝ていた。
月火は火音に掴まって、火音は月火の頭を撫でている。手が動いてるのを見りゃ起きているのが分かる。
額に青筋が浮かぶのも束の間、火音がこちらを向いた。
「水月ここ代われ」
「何当たり前のようにくっ付いてんだロリコン」
「泣くんだから仕方ねぇだろ。時空も相当しつこかったし」
「シッシッ、退いて、邪魔」
火音がソファに逃げたので、水月は月火の泣き寝顔を撮ってから横に寝転がった。
「月火が泣くなんて珍しい」
「思春期真っ只中に初対面の成人から襲われたらそりゃ泣くし震えるだろ」
「麗蘭が連れてったのにね」
「麗蘭も緋紗寧に泣き付いてた」
「……出るとこ出るね」
「うん」
断言した水月は有言実行の権化なので、眠かった火音はそのまま眠り始めた。
水月が月火の頭を撫でると、下側にあった腕を掴まれた。
そのまま細い指先が腕に刺さるぐらい強く握られ、その痛さ強さにびっくりする。
昼間あんなか弱いのに、寝てる時ってこんな握力出んの。そりゃ、火音も嫌がるような。
翌朝になって、目を覚ませば月火は火音とは反対のソファに寝ていた。
水月はジャージを脱いで、腕を確認する。
「呪われたみたいになってんな」
「うーん、あんな力強いんだね」
「火事場の馬鹿力とまではいかずともって感じ」
火音の方を見ると、半袖の火音はちゃんと湿布に包帯で留めていた。
月火にやってもらったのね。
「……ねむ」
「寝れば?」
「何時?」
「四時半」
「おやすみー」
人の声で目を覚まし、顔から腕を退ける前にうつ伏せになった。
起きると、ちょうど朝で皆が集まっていた。
白葉がやってきたので、抱っこして前に突っ伏す。
「水月、起きたんなら顔洗ってきなよ。人とは思えない顔してる」
「……弟にいじめられる」
「兄さん方出るならさっさと出てください」
「ねー火音は?」
「朝練です。五時前に出ていきましたよ」
「三時まで起きてたのにね」
「へー」
まるで興味なさそうな月火に呆れながら、水月も朝の用意をした。
その間に火光はソファに座ってスマホをいじる。
生徒たちも何故か集まっているが気にせず。
「ね〜月火これ知ってる?」
「……最近聞くやつですか。よくは知りませんが、神戸に出没するというのだけ」
「何? 神戸の妖怪?」
「ビンゴ」
校庭で二年が一年を投げ飛ばしていると、中等部の三年生がやってきた。
火光がそっと逃げ、それに気付いた玄智が火光の腹を殴る。
「痛い……」
「神々先輩! 空中戦のやり方教えてください」
「空中戦? 体術なら火光先生に習うといいですけど」
「火光先生はぶっ飛びすぎて何言ってるか分かりませんでした」
「教師としてどうなんでしょうね」
「僕が教師できてるのは持ってる子たちが一級品だからだよ?」
「自覚ありみたい」
月火は駆け寄ってきた少年の頭に手を置くと、頭を押さえたままパーカーの前を開けた。
後ろに回ってそれを脱がし、炎夏に渡して引きずっていく。
「扱いが雑すぎる」
「まぁいいじゃん。嬉しそうだし」
「Mっ気かな」
「純粋なんだよ」
月火が三年生と空中を広く使って戦う。
腕の筋力も足の筋力も申し分ないし、妖心術も玄智に引けを取らない天才レベル。
何が惜しいかって、慎重すぎて怯えてなかなか打ち込んでこないところ。
ふっと隙を見せるとちゃんと飛び込んできたので、それを捕まえた。
「強いんですから怖がらなくていいのに」
「……降ろしてください」
「はいどうぞ」
二人で降りると、火音から思考が伝わってきた。
「戻りましょうか。色々教えてあげましょう」
「ありがとうございます……!」
戻ると、火音が出てきていた。
置いていかれた三年のもう一人が月火のそばにいる方に駆け寄って、二人で仲良く喧嘩し始める。
「知り合いなんですね」
「縁があって」
「失礼ですよ」
脳内であってもいらん縁とか言うな。
月火が火音をたしなめていると、火音を校庭に呼び出した本人がやってきた。
「ひおとせんせー! かこー!」
「あれ、おー! おかえり〜!」
「日本語ーッ!」
キャリーケースを置いて走ってきたその男は火光に飛び付いて、火光はそれを受け止めた。
高等部三年、閏間鞠。
お察しの通り、陸上部部長の閏間と年子の弟。予定より早く生まれた兄は身長が低い。
「閏間、もう一人は?」
「お疲れ様っす火音せんせー」
「お前兄貴に似てきたな」
「海外かぶれって言ってください」
「帰国許可降りたんですね」
「そのことで話があって」
「神戸に置いてきたんでしょう? 神戸支部から全部聞いてますよ。今編成組んでます」
月火が笑うと、閏間は感動したように目を輝かせた。
流石の敏腕当主。
「月火、神戸って今朝の?」
「そうです。三年生の一人が怪異に魅入られたっていう」
火光と月火の会話を聞いていた麦の挙動が一瞬おかしくなり、火音と炎夏が麦を見下ろした。
目が潤んで、呆然とした様子で、「お兄ちゃん」と、そう一言、呟いた。
月火が振り返り、泣いた麦を指さす。
「妹なら兄の強さを信じなさい。一年なら三年の背中を追いなさい。二級なら一級を見習いなさい」
「妖神学園高等部の肩書きは伊達じゃないよ。お兄ちゃん信じなさい」
「助けに行けるように力付けろ妹。兄貴の前にお前が死ぬぞ」
麦の頭に手を置いた玄智と隣に並んでいた炎夏は月火の方に行き、結月は麦の前にひょこっと出てきて頭を撫でた。
「ここには特級四人もいるからね。四千人力だよ」
「あれ桁が……」
「結月二桁少ないって!」
「え?」
「四億人力だって!」
「五桁ふーえた! 両翼頼んだ。私知らーん」
「もちろん。僕先輩と仲良いんだよ」
「まー後輩泣いてるなら手貸さんわけにもいかんしな」
頼もしすぎる二年に閏間は感激して、火光と揃って口を押さえた。
「ちょっと火光生徒頼もしすぎん?」
「待って僕も感動してる」
「ファンになりそう……!」
二人がそんなんを言っている間に、麦の前に氷麗が現れた。
「神戸の妖怪ってあんたの兄貴なの?」
「え、あ、う……」
「兄妹揃って弱いって最悪じゃん。さっさと死ねばいいのに、人の荷物にしかなんないし」
麦の明るくなりかけていた表情がゾッと暗くなると同時に、氷麗の顔面に飛び蹴りが当たった。
「黙れ高等部の中で最弱が」
月火と氷麗が指揮台に突っ込んで、麦がビクッと震えると背中に火音の手が当たった。
そのまま、二年の方に背を押される。
「心配すんな。妖輩のトップは真の荷物を置いとくほど情に厚くねぇ」
「ちょっと火音さァんッ!?」
「最悪な人間がクラスにいても信頼できる人間が周囲に何十人といんだ。視界広くしろ。弱者に怯える必要なんかねぇよ」
お待たせいたしました。




