10.政治の話⑵
お祭りが始まって、月火は火音とともにとりあえず買い食い。
夕方の現状説明中に月火に馬鹿とかアホとか言った腹いせに処理落ちさせられて、今は反省しておとなしく月火の騎士をやっている。
月火は買い食いして幸せそう。
「……さむ……」
「そんなに冷え込んでないんですけどね。はいウィンドブレーカー」
いつも通りジャージの火音は上着を着ると少し身震いをした。
月火は心配そうに火音を見上げる。
「部屋でおとなしくしてたらいいのに」
「鬼互来たからそれでもいいと思ったんだけど。時空来るらしいし」
「面識ありですか? 私曲者ってことしか知らないんですけど……」
「あれはほんとに存在するべきじゃない人種」
今年二十歳の時空、火音とは三つ離れているが、幼い頃は火音の方が圧倒的に体格が小さかった。そのせいか知らないが、多々襲われたことがあるそうだ。
いわゆるガチの面食いクズ。
「……あー気持ち悪い」
「一旦離れましょうか」
いつも通り階段下に移動して、しゃがみこむ火音の頭を撫でていると足音が聞こえた。
「あやっぱりいた」
見上げると、それはにこやかに手を振った。
「緋紗寧さん。お久しぶりです」
「やほーロリちゃん」
「何故ここに?」
「水虎さんに息抜きにおいでって言われたから。最近妖心術の稽古ばっかでパソコンもまともに触れてなかったし引きこもろうかとも思ったんだけどねー? あ、ロリが足りないと思って。ロリちゃんいるらしいし!」
「私目当てですか。補給が済んだらどっか行ってください」
「ね〜メイド服とか着る気ない?」
「犯罪に巻き込むなっつったろ」
「バレなきゃセーフ」
「暴露するからアウト」
月火が緋紗寧を睨んでいると、火音が顔を上げた。
緋紗寧を睨むと、のろのろと立ち上がる。
二人とも感覚同じなんだろうか、上着着て黒マスク付けて袖で手覆って。
「ね〜ロリちゃん俺と回ろ?」
「黙れロリコンナンパでもしてろ」
火音は月火の腕を掴むと緋紗寧を睨んだ。
緋紗寧がうーんと悩んでいると、ちょうどいいところにちょうどいいのがやってきた。
「よー月火! 火音! 休憩中か?」
やってきた麗蘭は月火に飛び付き、それに緋紗寧が目を輝かせた。それを見た火音は麗蘭を月火から離すと緋紗寧に渡す。
「やる。面倒見てろ。中も外も正真正銘八歳だ」
「言い方気になるけどまいいや」
「火音の兄か。麗蘭だ、よろしく」
「緋紗寧、よろしくね」
頭を撫でられた麗蘭は上機嫌になり、火音を見上げた。
「じゃ」
「わたあめ買ってあげよう」
「りんご飴も!」
「なんでも食べなさい」
「やたー!」
火音はそれを見送ると月火にもたれる。
「上司を贄に差し出すのはどうかと」
「いーの幸せそうだったし。俺は責任取らん」
「片割れだと何するか分かるんですか?」
「別に。まぁ異常性は自他共に認めてるし?」
「……襲わないでくださいね」
「襲われるようなことすんなよ」
腕をつねられた火音は冗談だと言って月火から離れた。
んな非人道的なことやんねぇよ。
「まだ食うだろ。回ろう」
「ついでに付き合ってください」
「はいはい」
今日出る出店の品には全て、妖神600というデザインがどこかしらに入っている。デザインしたのは火音。
この人、普段の生活性格からは信じられないほどポップで可愛い絵を描くので色々と描いてもらっている。月火の身の回りが火音の絵で埋まってきた。
火音と二人で出会う人、御三家関係者に現御三家の雰囲気や現状、火音と玄智の引き継ぎが上手くいっていることや着々と育っていることを、それとなぁ〜く伝えておく。
一応やってるけど、まぁなかなかだよ〜って感じで。あくまでも断言はしないし直接的なことは言わない。ただし、雰囲気だけはって感じ。さすが天下の月火様。
月火は明らかにホッとする古株たちにあははと笑いながら、そのまま頭を下げて別れた。
「さすが当主様」
「焼き鳥買ってください」
「よう食うなぁ」
「疲れてるんです。普段食べれないもの食べます」
「好きにしろ」
「焼き鳥四本ください!」
月火がそれを食べていると、二年ズに出会った。
「あ、いた」
「噂をすれば何とやら」
「ども」
炎夏は唐揚げをかじり、玄智は写真の加工に必死、兄共はその二人を撮ったり火音にうんざりしたり。
炎夏は二人を撮り、玄智に見せた。玄智は目を輝かせ、月火は眉を寄せた。
「こら」
「いい?」
「送って」
「おい」
月火はむすっとしたまま、それでも火音の袖を掴むのは離さない。
火音はなんとも気まずそうってか、なんで掴むんだって目で見てくる。離したらお前が囲まれるからだろうが。
火音を睨むと、火音はそっと視線を逸らした。
ふらっと、水明と水虎がやってきた。
「月火様」
「見て水明様」
「見せなくても見えてるよ」
「月火様、噂になってました」
「えぇでしょうね」
「大丈夫なんですか……?」
「緋紗寧さんが付いてこなかったのがラッキーでしたね。二匹もいたら私放置する自信しかありません」
「二匹……」
水虎は呆れ、水明は少しやつれた炎夏の頭を撫でた。
「炎夏、あんまり根詰めすぎないように」
「さっき火音様に脅されたからもうちょっとペース上げるって話してたところ」
「何脅されたって」
「現状を分からせるために事細かに説明しただけ」
「黙ってたのに」
「虚弱体質に乗っかってんのが不安すぎる。せめて水虎に回せ」
「火音さんが言います……?」
火音は月火の口を塞ぐとそのまま頬を挟んだ。
「何?」
ごめんなさい。
月火は火音の腕から抜けるとそっと半歩離れた。
「そもそも火音様がもうちょっと火神に関心していればこんな事態にはならなかったんですよ」
「そうか。どんまい」
水虎はわりとキレやすいタイプの兄を押さえながら、我関せずの顔の火音を見上げた。
「玄智君の教育はどうですか?」
「知らん」
「んな淡白な……」
「だって御三家じゃないし」
「これをやめるために火神抜けたのもあるんですよ。この方ほんっとに他人に何かを教えるのが苦手なので」
「なんで教師やってんですか」
「寮に住むため」
「この人食の確保が生きる中で最重要事項ですからね」
「んなことねぇよ」
「ありますよ。お腹空いたら私の邪魔してくるくせに」
「してねぇ」
「してます。めっちゃ邪魔です」
火音は不満そうに眉を寄せ、月火は文句があるなら言ってみろの態度で顔を逸らす。
二人の仲のいい痴話喧嘩に皆穏やかな顔して、内心の感情は色々な意味で全く穏やかではないが。
炎夏は目を煌々と輝かせる玄智の頭を殴ると、月火の胸ぐらを掴んで離れた場所に引きずっていった。
会話は聞こえないが、炎夏は何かを言った月火を殴って、殴って叩いて殴って蹴って。
月火が身を丸めるほど踏んだり蹴ったりしている。
「火音、何話してるの?」
「いや……色々……」
「どーせ依存しすぎたら火音先生が死んだ時に辛いぞ〜とかそんなんでしょ?」
すっげぇ的確に当てる玄智を見下ろすと、小さく頷いた。玄智はそれを鼻で笑い飛ばす。
「うちの理性担当は依存しすぎて地獄に落ちた人を何人も見てきたからさ」
皆が水明を見た。御三家なんて精神異常者の集まりなんよ。
玄智は二人のそばに寄ると月火をフルボッコにしている炎夏の腰を蹴り飛ばし、頭を抱えながら立ち上がった月火の腰に手刀を入れた。
二人が一斉に玄智を殴って、収まったらしい。
「お前マジ政略になった時地獄見るぞ。今暒夏が一番ってこと念頭に置いとけよ。あいつ火音様こそ目の敵にしてるからな。今はお前にしか干渉してねぇけど」
「月火、今の婚約者候補ってどんな並びなの?」
水月の問いに、大人組はなんでお前が知らねぇんだと呆れ驚いた。
月火は小さく首を傾げると、スマホを出して前稜稀から送られてきた表を確認する。
上から暒夏、炎夏、玄智、火光、廻醒、水明、水虎、火音。んで神下や御曹司がずらーっと。
皆が破壊力高めのそのリストを読み上げる中で、一番顔を引きつらせているのは火光だ。
「一応戸籍上は実の兄妹だよね……!?」
「血が繋がっていないというのは有名な話ですからね。近親相姦に当たらないのであれば法的婚姻が無理であれど子供は欲しいでしょうよ。特級の二人に加え神々本家の二人という最高の立場ですし」
「……お前よく淡々と語れるな」
「別に。それより廻醒さんよりも玄智さんが上に来てることがおかしいんですが……」
月火が眉を寄せて考えていると、少し心配そうにしていた火音に肩を掴まれた。
そちらを向いて、体を向ける。
「お久しぶりです」
「久しぶり、月火。皆も、火音君も思ったより元気そうでよかったわ」
「ありがとうございます、稜稀様」
火音は月火から数歩離れ、若手三人を前に出した。
こういう立ち位置的なのは、さすが完璧に育てられた当主候補生と言ったところか。
「月火、水月。学園六百周年おめでとう。さすがの手腕ね」
「いえ、歴代の当主が築いてきたシステムがあってこそですので。御三家の一角が潰れたのも私の管理不足です。先代には敵いません」
「僕は素直に受け取っとくー。ありがと」
水月は頭を下げる月火を横目に稜稀にお礼を言った。
稜稀と、そばにいた水哉も月火を見る目は厳しさはあれどとても心配しているような目だ。月火本人がそれに気付けば、いいんだけど。
「月火……」
「はい」
「…………祭りは皆で回ってたの?」
「いやたまたま会ったんだよ。月火と火音、二年ズ、水神兄弟で回ってたんだけどね」
「あら……火音君は麗蘭さんと回ってると思ったけど、じゃああれはお兄さんの方ね」
「あそうなの?」
「だいぶん仲良さそうだったんで預けた」
「そう。……皆で何の話を?」
「あぁ……」
火光は水月と少し視線を通わせたが、その前に月火が口を開いた。
「私の婚姻に関することです。今の序列の並びの確認を。水月兄さんに」
「なんで把握してないのよ……」
「てへぺろ?」
「キモいよ」
「おめぇもしてねぇだろうが」
「まぁねぇ!」
水月は火光の耳を引っ張って、火光はそれを払った。ふんっとそっぽ向く。
「月火、婚約する前に恋の十や二十しなさいね! 水月と火光は干渉しないこと、絶対に」
「はい」
「………………うーん」
稜稀のすごんだ声に火光は潔く返事したが、水月は溜めて溜めた挙句、肯定なのか否定なのかよくわからない返事をした。火光がスコンと殴る。
「月火、恋してるの?」
「毎日殿方から求愛メールが届きます」
「鬼互先生じゃないの?」
「いや知らないアドレスから」
「それはだいぶん危険なやつじゃないかしら」
「月火は火音先生とラブラブじゃん!」
「あら」
水月が玄智の背を蹴り、瞬間火光が水月の顔面を裏手打ちした。水月は顔面を押さえ、火光は少し痛がる玄智を心配する。
「……誤解しないでください。普通にかっ……同居して、食事を作っているだけなので」
「ふふぅん?」
コイツ今飼ってるって言いかけた。
火音は月火を睨んでから、目くじらを立てたような目で見てくる水哉からそっと視線を逸らした。ただでさえ火神と言う高貴な地位から降りたせいで見合いの話がどこからともなく舞い込んでくるのに、唯一の休息の地まで取らないでほしい。ガチめに死ぬから。
「……水哉様、正月のあれは火音様が火神でないと知ってストレスでおかしくなっていた時期の話なので心配しないでください」
「……父さん」
「だって」
「離婚しちゃったから色々ピリピリしてるのよ。ごめんね火音君」
「いえ……」
「でも不幸にしたら私が殺すからね」
「不幸にする前に僕が殺すから問題ない」
「月火が何かを察した時点で狐に噛み殺されると思うんだよね」
ここ、わりと危険地帯なのでは?
今さらか。
散々水月に脅されて脅迫されて、それでも適当に流していた火音の気付きに月火は呆れ返る反面、ちょっと笑った。火音が皆に追いかけ回されるのを見てみたいのがある。
「でも月火、愛ある結婚をしなさいね。私はほんとにあなたが三十路になっても男っ気がなかったら見合いは取るかもしれないけど、基本的に口は出さないから」
「……母様が決めてくださった方が間違いがないと思うのですが」
嘘
「私よりも圧倒的に当主としての歴がありますし、私は人を見る目がないと言いますか」
嘘
「正直恋がイマイチ分からないと言いますか、興味ないと言いますか」
これは半分ホント。どうせあとから却下されるんだし、どうでもいい。
でも、母よりは、人を見る目があると思うんだけどなぁ。
なんて思いながら顔を上げた。
知らない人と目が合って、そのままキスをした。




