4.式典
新年一学期一日目、火音は六時半から職員室に向かう。
仕事のペース取り戻さないと。
つっても月火に内緒でコソッとやっていたのでそこまで溜まってもない。ただし、ペース落ちたなぁ。
「休養明けから元気だね」
「疲れてきた」
「無理しないように。綾奈が監視するらしいから」
「うげ……」
火光もやってきて、久しぶりに二人で並んで仕事をしていると七時頃に他の教師もやってきた。
数ヶ月振りに揃った赤髪兄弟に皆が興奮しながら、士気が高まって仕事に精を出していると月火がやってきた。
「赤髪兄弟社畜になってますね〜おはようございま〜す」
「何しに来た悪魔」
「神と崇めろ。新人二人紹介です。新卒二人ですよ」
「おー」
「紅路先生と谷影先生です。どーぞよ……」
廻醒とその同期の視線が刺さり、谷影は気まずそうに顔を逸らした。
「よろしく! 谷影先生は監視の多い他コースにも入るプラス授業は三年受け持ちなのでここにはほっとんどいませんが一仲間として迎えてあげてください。火音先生紅路先生の教育係任せましたじゃ」
そう言うと月火は言い逃げのように去っていった。
火音は頬杖を突くとあからさまなため息を零す。
「よろしくお願いします火音先生!」
「うるせぇ……」
「赤城と同じタイプじゃん。気合うんじゃない? 火音こういうはつらつとした子の方が合うでしょ」
「疲れるじゃんウザくなる」
「本人の前で言いますかソレ!」
「言う! うるさいのは嫌いだから問答以外黙ってろ」
「パワハラで訴えます!」
「たぶん精神疾患ありで考慮される」
「横暴では!?」
「黙れ」
火音は朝の仕事を終わらせると、ちょろっとファイルの整理をした。去年のままだったので使いやすいように。
「あでも紅路先生ほんとにうるさすぎたら置いてかれるから気を付けてね」
「……はい」
「谷影は晦でいいでしょ。じゃ」
「あお前授業データッ!」
「二時間目終わりぐらいに送るよ!」
「遅せぇよッ」
火音は火光に怒鳴ると、ぶつくさ文句を言いながらスマホを出した。
パソコンをまとめるとマウスと接続を切る。
「火音先生パソコン持ってくんですか?」
「授業これで済まそうと思って」
「……ハイテク化……!」
「時短重要」
火音はとりあえず二年の教室に向かった。
中に入って、火光のパソコンからUSBを抜き取ると一年の教室に行く。
「火音先生が担任!? ほんとに!」
「進学式終わるまでの仮担当。担任は式あとに来た先生」
「えー残念、ビックリ実は火音先生とかない?」
「ない。休養明けが担任になるかよ」
火音が麦と話していると、氷麗も登校してきた。火音を見て目を丸くするが、そんなわけないかと自己完結して用意を始める。
時間を確認して、微かに首を傾げた。
これ、時間ズレてないだろうか。
当初の予定はあと五分ぐらい早く移動予定だった気がするが。月火の思考が来ないので、二年ズのボケ倒しをぶった斬ってんな。
「移動の準備しとけ。体育館シューズとメモできるもん」
「メモ……?」
「覚えれるならいらんと思うけど」
二年の教室に行き、火光を呼んだ。
「火光、なんで式の時間ズレてんの?」
「……ズレてる?」
「だって毎年20分移動じゃん」
「ガチ?」
「高等部入場遅れたら入学式ヤバいことなんのに。特に情報回ってきてなかったから」
火光はパソコンを開くと、去年のタイムスケジュールを確認した。
あぁ、ズレてるわ。
「月火ッ!」
「私教師じゃありませんのでー」
「タイムスケジュール作ったの誰だよ……」
「……神水溜?」
絶対記憶の火音の呟きに火光はビクッと肩を震わせた。ご愁傷さま。
「……移動しようか。たぶん他学年変わってないから」
「これ他コースもズレてんのガチ?」
「皆先行っといて。火音諸々頼んだコース回ってくる」
火光は走っていき、火音はすぐに高等部の移動を始めさせた。一年生はあとで火音が引き連れていくので。
新任教師が多いので慌ただしいなーと思いながら、二、三年なのでいつも通り並ばせた。
火光が回ってくれたおかげで、まぁ多少混んだがギリか。あとすんげぇ女子や部員からの羨望と光の眼差しが痛い。そんな「今日からやるんですか」みたいな目で見ないでほしい。たぶん一週間に一回ぐらい休むから。
「ひひひ火音先生ッ……! 私タイムスケジュール……! 火光先生にさっき聞いて……!」
「お前新任教師紹介で袖だろ。さっさと行け」
「すみませんッ……!」
火音は謝る神水溜に目もくれず、高等部の全コース体調不良や怪我等の健康記録に目を通した。一人倒れたら大抵トラウマ等で何人か倒れて新入生が混乱するので、それ予防で。
「……体調不良多ッ」
「火音が復活するって聞いて大興奮する子が多いんだよ。誰か頭ぶつけてたし」
「アホか」
「皆月火みたいだと気持ち悪いでしょ?」
「……お前髪上げたら俺より人気になるんじゃね? 愛想あるし身長高いし元から人気だし」
「やるか」
「月火に頼んだらたぶん大喜びで教えてくれると思う。この前髪で遊ばれたから」
「やるか!」
火光にやる気が入っていると、晦がやってきた。
「火音先生、校長が倒れたんですが……」
「知らんほっとけ殺しとけ」
「あれ麗蘭死んだら双葉五つ子死ぬんじゃないの?」
「御三家関係者俺と水明含め全員でやったら抱えれる仕事量」
「一人で十人分ぐらい抱えるもんね君ら。きも」
火音は前を通り過ぎようとする火光の腰を勢いよく蹴ると、高等部教師で高等部側に移動した。
初等部、中等部、高等部、大学部の親が大勢来ているのでかなり人が多い。が、式典ではマスクを外して顔を見せろと言われているのでマスクはできない。あと愛想は振りまかなくていいから不機嫌は隠せと言われた。麗蘭から。
人に言うなら失神ぐらい根性で起きろよなぁ。
「僕髪の生えぐせ真下だからセット持つのかな」
「案外ドライヤーで癖つく」
「火音みたいな髪質になりたかった」
「生徒に雑に触られたら直らんけどな」
「ちょいちょいっとやったら直るでしょ?」
「んな便利な髪ねぇよ。毎朝ドライヤーとアイロン必須だし」
「明日は月火にやらせよう! 二人とも! 何人失神するか検証で」
「教師がやることじゃねぇ」
なんてことを言っていると、チャイムが鳴った。
去年まで高等部主任の晦と妖輩コース主任の火音が交代でやっていたのだが、今年妖輩コース主任は火光に変わったのとその火光が拒否したので晦が一人で。
教頭なんていない。なんのための御三家・上層部・学園の連携だと思ってる。
いつも通り校長の顔を見せない声だけの祝辞と子供たちへの激励をして、そのまま入学式から進学式が終わった。あとは新任教師の紹介と、クラス担任の発表。
「一年のクラス誰?」
「なんでスケジュールを知っててそれを知らないの」
「お楽しみだってさ」
「月火は何がしたいんだろう」
「人を茶化したいんだろ。晦?」
「の予定だったんだけどね」
ちょうど、高等部妖輩コース一年生の担任が発表された。
『高等部妖輩コース一年の担任は紅路先生です』
「……教育係火光の間違いだろ?」
『またこのクラスに関しては人数が少し多いため、一人一人を見るために副担任が付き、副担任は鬼互先生となります』
「火光が教育係しろよッ!?」
「火音も教育されろってことじゃないの〜……?」
堂々の掴みかかられる火光は火音を落ち着つかせ、胸ぐらを離してもらう。苦し。
「月火にもなんか意図があるんだと思うよ。聞くかやる中で見つけてみなよ」
「すっげー腹立つ言い方」
「クラス持ちからのアドバイスさッ!」
「イケメンからのアドバイス。そのバカっ面直さないと一生モテない」
二人の喧嘩を同僚が必死に止め、二人を引き剥がした。
鬼互が火光に手刀を落とし、神水溜が澄まし顔の火音をおろおろ心配そうにする。
こういうことをしてるから、火光が病むんだな。




