77.バレ
月火は麗蘭と火光とともにスイーツを食べ、生徒三人と晦は昼食を。
四人がけの座敷に七人、めっちゃ狭い。
「兄さんたち食べたら授業に戻るんでしょう。私と麗蘭は寮に帰るので戻ってくださいね」
「月火は麗蘭と何の話すんの?」
「火音さんの話です」
「じゃ僕も行く」
「俺も行く。廻醒に報告頼まれてる」
「炎夏行くなら僕も行くー」
「え、え、私一人……?」
「結月も来たら?」
「う、うん……?」
すんげぇ身勝手に決めるなこいつら。
火音が安定していてよかった。鬱だったら死ぬほど嫌がって最悪自傷に走るし、躁だったらブチギレるので。
火音は基本的に冷静なので躁でも怒ると言うよりテンションが高めに似た場合が多いが、普通に怒る時は怒る。まぁ火光とは見た目も中身も似てるからな。
あの人が怒ったら怖い。ほんとに。
「ね、月火いいでしょ」
「別に構いませんが火音さんが追い返した場合はおとなしく帰ってくださいね。私は収めないので」
「うん? うん」
皆が首を傾げながら頷くと、麗蘭は不安そうに月火を見上げた。
「月火、大丈夫なのか?」
「顔を合わせる頻度が圧倒的に減りましたからね。さして深く考えてない今の勢いで済ませましょう」
「勢い……」
「思考がまとまると私じゃ動かせなくなるので」
「よしじゃあ早く行こう!」
月火は残っていたわらび餅やパンケーキ、タルトやケーキ類を瞬間食うと、立ち上がった。
「晦先生も来るでしょう?」
「え、わ、私も?」
「来い。私の代わりの伝達係だ。火光じゃ不安すぎるからな」
「おいチビ」
「すみません」
皆で座敷を出ると、月火の寮に向かう。
火音の傍には黒葉がいるのでまぁ、今のところ大丈夫だろう。
出てきた白葉は月火を見上げると、手に擦り寄った。
「ねぇ主様、主様は主様視えないの?」
「知りません」
皆で寮に戻ると、火音はソファに寝転がっていた。収納に入っていた、月火の羽毛布団にくるまって。
本家でずっと使っていた羽毛布団を高等部に入る時に持ってきたのだが、今さら出すか。
それを剥がすと、相変わらず黒葉とくっ付いてスマホを見ていた。黒葉は熟睡。
視線で会話して、仕方がないので羽毛布団を頭までかけ直した。内心怒ってるけど知りません。
「火音、調子どうだ」
麗蘭が声をかけると、火音は体を起こした。
黒葉をクッションの上に乗せると、耳がピンと立って目を覚ます。そのまま、麗蘭の横を凝視した。麗蘭の横、麗蘭を見ている紫月の場所。
犬猫って、こんな感じで空を見つめてるんだろうか。
「……なんだ?」
「別に。普通」
「月火!」
「俺に聞くなよ……」
「嘘を言わないかの確認だ」
「最近は落ち着いてますよ。問題を自分で解決したのも大きいと思いますけど」
「火音の戸籍決まったの?」
自分の席に座り、飴を咥えてスマホを見ていた火光が顔を上げると月火は小さく頷いた。
コップが人数分置かれたお盆を置いて、麗蘭と火音に飲み物を持っていく。
「一応戸籍だけ双葉に移すことにしました。名字は変わりますが名前はそのままです」
「火音先生が決めたってこと?」
「火神のままじゃねぇの?」
「御三家から没落という最悪の汚名を負った火神に居続ける利はありませんからね。神々の家系とわかったのに火神を名乗り続けると火神の名の影響力も揺らいできますし」
「影響力……?」
「没落した火神家。残ったのは次世代二人。そんなレッテルが貼られた中で火音さんがいたら元火神のあいつらが火神を名乗っても違和感が出ません。それは御三家の名誉に関わります」
「正式な人間じゃないのに名字を名乗るのはご法度なんだよ。僕が異例中の異例だっただけ。……僕の時もヤバかったらしいし」
火光の言葉に月火が小さく頷く。
婿入りですら、嫁入りとは違って当主でもない女は出て行けの風習。男は物理的にも精神的にも社会的にも力があるため、血を引かない男が御三家の名字を持つのは本当はよろしくない。
「……ということで炎夏さん、当主になるならさっさとしてください。子供の前で言うことじゃありませんが水神まで火神の二の舞になれば御三家は終わりです」
「水神は水明と水虎がいるからギリ生き残ってるようなもんだろ」
「火神も火音さんと和桜さんが抑えていたから今のまま落とせましたが。牽制勢力がいないと神々が問答無用で断罪することになるので」
月火の冷たい視線に炎夏と玄智は硬直して、何度も強く頷いた。
麗蘭がハハハと笑い、火光も苦笑いをする。
「青いねぇ。懐かしーなー」
「新しい当主候補というのはいつ見ても新鮮だな! これからの御三家が楽しみだ!」
「この二人に御三家の責任が背負えたらいいけどな」
月火はいらんことを言う火音の頭に手刀を落とすと、コーヒーを奪って頭に羽毛布団をかけておく。
「おいッ」
「次期当主が胃に穴を開けるようなこと言わないでください。ただでさえ年々当主交代が難航してるのに」
「御三家の当主交代なんてそんなもんだろ。お前が前例にいるだけまだマシだろうし」
「私の時は荒れましたからねぇ」
「そだっけ?」
「お前マジか」
こてんと首をかしげる火光に麗蘭は愕然としたが、一年ズと晦も首を傾げた。
「子供が当主になるなんて……みたいな不安はよく聞きましたけど、そんな大きな問題ってありましたっけ?」
「混乱が起こらないように、特に世界一の二人が再起不能になった直後でしたからね。神々内で全て収めたんです。まぁ元々私はよくできた次期当主だったので引き継ぎに関しては全く問題ありませんでしたが」
「帝王」
月火は火音の頭を殴り、火音は本気で頭を抱えて倒れうずくまる。その頭に、黒葉は乗ると丸まった。
「何、帝王って」
「火音さんの二つ名です」
「火音先生の二つ名は孤高の王者でしょ?」
「ダッサ」
「コイツが当主継いだ時に日本の帝王になってやるって断言したからさ」
「言ってませんねそんなこと」
「僕それ知らない!」
「知らなくて結構。さて火音さん、次期当主たちの勉強タイムは終わりです」
「薬でよくなってます。終わり、帰れ」
「薬って何? なんの?」
「来年度から復帰するつもりなら話しておかないとまた億劫になりますよ」
火音はコップを月火に返すと、布団に潜って消えてった。
月火はコーヒーを飲み干すと、火音の肩をバシバシ叩く。
「言うなら自分でって決めたでしょう」
「やめる」
「子供みたいなこと言わないでください。ほら」
「無理」
「無理じゃないです」
「無理無理無理絶対無理。なんで連れてきたん」
「火音さんがいいって言ったんでしょう……!?」
「連れて来いなんて言ってない」
「もー……!」
月火が肩を揺すって皆が呆れていると、麗蘭が布団を掴んだ。
「火音、海麗の所在が分かったぞ」
「…………まじ?」
「フランスにいる。入退院を繰り返してるがフランスで自然発生した怪異や日本から行ってしまった怪異を祓ってる履歴があった。フランスに遠征に行った奴が接触もできたらしい」
「マジで?」
「帰国はいつになるか分からんが連絡は取れる」
「まだ動けんの? てかなんでフランス? 国内でもできただろ」
「わからん。が、当時一番有名だった医者がフランスにいた。それ目当てだったのかもしれん」
「どうやって見つけたん」
「私が会社の社長に聞きに行った」
麗蘭が布団を剥がすと、火音は月火を見上げた。
「……お前が?」
「私はお前の上司だ。直属の部下を一番のお偉いに任せっきりにするわけにもいかんからな」
「面識があったのは、永遠に校長として生徒を見ている麗蘭の特権でしょうね」
「海麗と海麗の親には何度も会っていたからな」
火音が唖然としていると、月火に両手で頭を掴まれた。
「痛い痛い痛い」
「ありがとうございました」
「痛い……!」
「頭を付けて感謝しろ」
「痛い」
月火に無理やり頭を下げられた火音は頭を押え、火音を離した月火は羽毛布団を回収する。
麗蘭は月火がいなくなった隙に逃げようとする火音の服を捕まえて、ソファに手を伸ばす。
「聞けば三代目らしいな。三代目はついこの前届いたばかりだとか。月火が全部買ってるんだろう? 選ぶのから組み立て、掃除、カバー、全部月火が選んでやってるとか」
「なんで知ってんだ気持ち悪い……!」
「私は水月よりも頻繁に月火と連絡してるからな!」
「雑談してんじゃねぇ……」
月火が部屋にあったクッションを持ってきて、火音に差し出した。
逃げ場がないことを悟った火音はそれを奪うように取ると、ソファに座って溜め息をつく。
「ほんと不幸そう」
「引きずり回すぞ」
「ははっ」
月火それを鼻で笑うと、麗蘭のジュースと火音のコーヒー二杯目を淹れる。
「じゃあまず軽く喘息から説明しましょうか。ねぇ兄さん」
「僕ッ!?」
「さすが兄弟」
「関係なくない……!?」
「火光先生喘息持ちなんですか!?」
「喘息はわりと知ってる人いますね」
薬のことを色々と聞いた火光と買ってきてもらった炎夏、あと全てを把握している麗蘭。
で、まぁ晦姉妹。
「喘息は昔からあるんでしょう?」
「五歳……六歳ぐらいから?」
「他はありませんね?」
「……ないです」
「あったら見捨てますからね」
「新しく発症するようなやつは文句言うなよ」
「大丈夫です、麗蘭がだいたい把握してるので」
火音が麗蘭を見ると、水月の椅子を引っ張ってジュースを飲んでいた麗蘭はブイサインをした。
「……まいいや」
「あとは躁鬱のことですね」
「……双極性?」
月火は皆、主に火光と晦に再発した頃から今までのことをざっくりと説明した。
一年ズはスマホで調べて、麗蘭は説明に色々補足をして、火音はクッションを抱えたまま寝転がって皆に背を向けて。
あまりにも鬱転躁転の頻度が早いこと、薬で抑えていてもたまに症状が出ること、一度出たらそのあとも少し引っ張られることなど。
あと躁の時は暴走癖が出ると言ったら頭を叩かれた。




