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妖神学園 改正版  作者: 戯伽
1年生
76/103

76.美味しいもの

 目を覚まして、頭に疑問符が浮かんだ。




 殴ると、うずくまる。



「同居が駄目ならこれも駄目ですよ火音さんッ」




 完全添い寝状態の火音を殴ると、火音はおとなしく離れた。



「お前が寄ってきたんじゃん。ソファから引きずり下ろしやがって」

「そんなことしてません」

「お前が乗ってきたから降りたの。部屋行けって言ったら寝てるし」

「……私一晩中このままだったんですか?」

「そうですけど?」

「ごめんなさい」




 怒ってる火音から離れると、顔面を押えた。あーあ、やらかした。







 溜め息をついていると、いきなり後ろから腕が回って引き寄せられた。



「ぅわッ……!?」

「ストレス溜めすぎ。もうちょっと落ち着け」

「この状態で言います?」

「お望みのことやってやろうか?」






 床に伸びた火音から逃げると、顔を洗って準備をした。







 今日は学校どうだろうな。




 寝癖が取れないので髪を濡らすと、そのままドライヤーを当てた。横に流して、久しぶりにデコ出しで。



 髪を結んで眠れないようにすると歯を磨く。あー死にそう。







 朝食は火音の分だけ、ご飯と生姜焼き、ピーマンの昆布和え。あと味噌汁。


 放置の過程に入ってから、薬指を軽く咥えながら救急箱を漁る。



「指切ったん?」

「なんか血止まらないので一応絆創膏をと」

「お前今日も仕事やんの?」

「そりゃやらないと終わりませんからね」



 火音は少し不満そうな顔をすると、イマイチ頭が回っていない月火の代わりに絆創膏を出して手を洗わせた。めっちゃ深く切ってるし。骨見えてなくてよかった。

 てか、そんだけ深く切ったのになんで脳が認識してないんだ。



 ギリ、縫わなくてもいける範囲だろうか。骨見えてないしセーフかな。



 絆創膏を貼って、軽く押さえると止血した。




「……そろそろいいか」

「終わりましたか?」

「あ?」



 止血から手を離した火音が睨むと、月火はビクッと肩を震わせた。

 少し後ずさって、体の力が抜けているのを支える。



「……ごめんなさい。もう、やらないので」

「何を」

「わがまま、もう言わないので……火音さんの邪魔もしません……」

「誰もわがままなんか言ってないだろ」

「変に絡むのも気を付けます。迷惑かけないので……」

「何? 怒らないでください?」



 頷こうとして体を止めた月火の指先は震え、そのまま小さく首を横に振った。



「……怒っても、いいです。ごめんなさい」

「誰も怒ってないしお前はわがままも言ってない。邪魔もしてないし、まぁ変な絡み方は時々されるけどそれがお前の変な思考の本性だろ。お前の素なら俺はいいし」



 ぽろぽろと泣く月火の頬を撫でると、月火はゴシゴシと顔を袖で擦った。



「おい……」

「ごめんなさい。もうやりません」

「何を」

「全部」

「全部って何?」

「……全部は全部です。わがままも言わないし、変な絡み方もしません。手も切りません。泣きません。変な思考もやめます」


 あぁめんどくせぇ。

 コイツ、誘拐で一番ストレス食らってるくせにメンタル補強強すぎんだろ。なんで一週間近く我慢してんだ。



 顔を押える月火を抱き上げると、ソファに座った。


 膝に座らせて、頭に手を置く。




「俺には素を見せろって言っただろ。取り繕うのは他人の前だけでいいから。俺が怖いならそう言え。夢が嫌なら助けを求めろ。思考も気持ちも命も繋がってんだから一番頼るべき相手だろ」

「……でも、怒る……!」

「お前が変に我慢して怪我すんならそりゃ怒る。痛みを理解しろ。自分が傷付いたことを哀れめ。俺はお前が大切だから自分を傷付ける月火に怒ってる」



 月火は泣きながら、火音の胸に額を付けた。



 ここ数日、ストレスでまともに寝れてなかったはずだ。だから昨日、無意識のうちに誰かに守ってもらいながら寝ようとしたのだろう。たぶん、唯一事情を隠してもバレてしまう火音を頼って。


 それを分かったから月火を部屋に連れ返さなかったし狐に交代もさせなかった。きっと、起きた時無意識に頼った人がいなかったらそれこそ絶望してしまうから。



 それならこのあとのために。あの時頼れた人として残れるよう傍にいた方が圧倒的に安心感、信頼感が違うだろう。





 教師として同居人として、なにより自分として、絶対に月火の傍から離れるようなことがあってはならない。






「……ちょっと、落ち着きました」

「よしよし」

「うぇッ……!?」



 火音は月火の髪を解くと、頭を撫でた。



「向こう向いて」

「また面倒臭い髪型ですか?」

「今日は簡単なの」




 背を向けると、火音はまた慣れた手つきで髪を編む。


 器用貧乏な人って可哀想。



「お前は多才すぎる。もうちょっと一つのことを極めろ」

「なんでもできないと駄目なんです」

「できないと知られる前にかわす術を身につけろ。永遠に受け身じゃ稜稀様が完全に引退したあとにジジイたちに食われるぞ?」

「……そんなん習ってませんし」

「とりあえず何事も俺使え。だいたい流してやる」

「火音さんがいなかったら?」

「ずっと一緒にいますから」




 月火はそれを聞くと、ぷいっと顔を逸らして鼻で笑った。



「嘘くさ」

「プロポーズお望み?」

「いらないです。どーせ遊びでしょう」

「お前が婚約急かされたらやってやるよ」

「どーもー」

「嘘だと思ってるだろ」

「まっさかー。とーっても楽しみですよー」



 棒読みすぎる月火の頬を挟むと、成敗してから髪を結った。




 簪を持ってきて、結い上げる。



「なんですかこの簪」

「プレゼント」

「なんで」

「バレンタインにでもと思って」



 赤と白に金がアクセントの、火音が選ぶにしてはわりとシンプルめのデザイン。それでも日常使いには困りそうだが。



「バレンタイン遅すぎでは?」

「俺がバレンタインに送ったって分かったら周りがうるせぇもん。俺が送ったってのは秘密で」

「だんだん兄さんたちの扱い雑になってきましたね」

「気にしすぎても死にそうになるし。あまりに過干渉なのはさすがに嫌だろ。干渉する隙を与えなければいい」

「……似合ってますか?」

「見立て通り」



 月火はふふんと笑い、火音は髪の写真を撮って見せた。



 面倒臭い髪型やんけ。



「簪抜いたらすぐ解ける」

「……誰かの髪でやったことあるんですか? 知識だけじゃできないでしょう」

「逆に誰かの髪でできると思う?」


 ただの超人か。



 月火は立ち上がると火音の朝食の続きを用意する。







 火音が食べてる間に仕事。

 月火社が繁忙期にさしかかろうとしているのでその事前準備や、繁忙期に入る前に仕事を終わらせなければ。春は進級進学と同時に、新社会人になる人たちに支援を。

 どうやってもナチュラルに美しく愛らしくなるメイク用品を売り出す時期。



 頭痛を堪えて、溜め息をついて、眉を寄せて。




 悩んでいると、火音が寄ってきた。


「休んで仕事効率上げたら?」

「……重症……?」

「うん」

「美味しいもの食べたァい……!」

「学食でも行けば」

「……一人で?」


 コイツは一体何を望んでる。








 火音はジャージにウィンドブレーカー、月火は私服で。

 学食に向かう。


 月火の髪は火音が編み直した。月火に頼まれたのでやったが、簪を断られたのはちょっと不満。



「相変わらず人気ですね」

「お前が連れてきたんじゃん」

「囲まれてもウザいので」




 月火は券売機で食べたいスイーツを色々と買うと、それをバインダーに留めて食堂の人に渡した。番号札をもらって、座敷に行く。



「美味しいものは作らず買うが鉄則ですよね」

「うん」

「あとでエビフライとチキン南蛮も食べます」

「うん」

「シフォンケーキも食べたいんですよね。ここありましたっけ」

「うん」

「ねぇ」

「うん」



 火音の向かいに座った月火は机に手を突くと、スマホから顔を上げない火音の頬をつねった。



「……なに……」

「人の話に興味を持ちましょう?」

「だって知らんもん……」

「真顔で嘘を言うな」

「すみません」



 火音は頬を押えて、隣に移動した月火は火音の腕を掴むとスマホを覗き込んだ。



「え全員の知ってるんですか?」

「うん。鬼互の見付けたし全部探したろと思って」

「気持ち悪い」

「お前の裏アカは見てないから安心しろ」

「ありがとうございます」


 圧をかけられた月火はおとなしくお礼を言った。




 教師、生徒の全SNSを把握している悪魔から離れて、自分のスマホを見ようとした時。



 火音がスマホを差し出してきた。

 そこには座敷に入る月火と火音の写真。そのいいね欄に、玄智君。



「今授業中なんですけど」

「体育だろ。絶対抜けてくる」

「まさか」

「じゃ賭けよう」

「いいですよ?」


 火音が勝ったらスイーツ、月火が買ったらなんかプレゼント。




 五分もしないうちに、座敷が開いた。



「げっかー!」

「はい勝ち」

「なんで来たんですかッ……!」

「火音先生からいるよって来た!」

「おぉいッ! 卑怯! ズル! 無効!」

「ルールはないので」

「ねぇッ!?」

「いいだろ別に。いつも通りじゃん」

「美味しいものは買って食う! これ鉄則!」

「お前の中ではな」




 月火は机にうずくまると、首を傾げている炎夏と玄智と結月を見上げた。


 後ろからふらっと火光もやってくる。



「おい」

「見て先生愛しの生徒が揃ったよ」

「勝手に授業抜けないで」

「もうお昼だし! ね月火一緒に食べよ!」



 月火が微かに首を傾げると、火音が座敷の戸を閉めた。


 移動して、片開きの戸が開かないように足で押さえる。



「別にいいんですが」

「せめて兄共は追い払え」

「やっぱ雑になってますね?」

「さー?」



 月火が断ると、火音はスマホを出した。



 とりあえず戸を開ける。



「ちょっと火音先生」

「同級生来たしもういいだろ。帰らせろ」

「駄目です」

「面倒臭い……」

「駄目です」



 月火は火音の袖を掴み、一年ズは皆中に入ってきた。

 火音はうんざりしながら何とか逃げようとする。



「ねね、火音先生はサボり?」

「そんなもん」



 火音は玄智の問いに簡潔に答えると月火の手を払うと出て行ってしまい、月火は無表情ながら不満そうにする。





 火音病気療養は教師陣にしか知らされていないため、生徒の中では何故か休みという感じ。噂で、御三家から外れたので解雇されたとかそんなデマが流れているが火音ほど有能な人材を解雇するわけがないのでしっかり否定させてもらっている。




「……月火、火音なんかあったの?」

「色々と」



 月火はやってきたスイーツたちを受け取ると、机に並べた。


 溶けるものから潰していく。




「よく食べんね」

「月火、薬指どうした」

「あぁ、包丁で切りました。なかなかに深かったようで」

「月火ちゃんが怪我するの珍しいね」

「怒られたのでヤケ食いを」

「火音先生ってなんで休んでるの?」



 玄智の二度目の問と同時に、座敷には火音が呼んだ晦と月火が呼んだ麗蘭がやってきた。

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