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妖神学園 改正版  作者: 戯伽
1年生
75/103

75.未来の話

 夜、スマホを返してもらえない月火が火音の傍で仕事をしていると寮の扉が開いた。



「げっかちゃーん来たよー」



 兄共が顔を出し、火音も目を覚ました。




「火音寝てんの?」

「今起きました」

「見て〜ケーキもらった」

「ケーキ……? 何故」

「晦の差し入れ」

「僕が買ってきたんだよ」

「職務中の弟にケーキを出さないでください」

「サビ残お疲れってさ」

「残業代出してますから」




 月火が呆れていると、火音が体を起こす。

 背もたれにもたれて、意気消沈。



「寝てていいですよ」

「火音死にそうだね。大丈夫?」

「一応落ち着いてはいるんですけどね」



 月火は戸籍や名前のことを永遠に考えている火音に呆れると、ソファで伸びて寝ている黒葉を膝に置いた。


 黒葉は目を覚ますと火音の足の上に座る。



「……黒葉って黒いね」

「まぁ概念的存在面が強いですからね」


 火音の黒のジャージより黒い。





 火光たちが着替える間に月火はケーキの用意をして、ちゃんと四つあるのに薄笑いする。どうせ火音の分を火光が貰ってきたんだろう。つーかそういうつもりで水月も買ってきたんだろう。




 火光の皿にケーキを二個置くと、二人にコーヒーを淹れた。


 夕食は手早く簡単に、餃子でいっか。世間一般で言えば消して手早くじゃあないんだろうけど。私は味など考えないし肉汁も包み方も考えないので。




















 翌日の朝、起きてすぐにスマホを見ると小一時間前に火音から、戸籍は双葉に移して名前は変えないとだけ連絡が来ていた。


 おぉ、めっちゃ意外な結論が。





 リビングに行くと、火音がうずくまっていた。


 月火は朝の支度をすると朝食の用意を始める。





「火音さんご飯食べれそうですか」

「うん」



 今日は調子よさそう。






 二人で朝食を食べて、月火は時間を確認した。


 調子よくても何しでかすか分かんねぇからなこの猫。



 なんて思っていると、不満気な目をする火音と目が合った。



「なんですか」

「お前の俺が猫っていうのはなんなの? 俺猫じゃない」

「猫みたいに気ままで警戒心高いでしょう。あと仕草が猫。猫耳ついてる!」

「何言ってんの?」

「私の猫ですよ」



 不満そうな火音を無視して、火光に今日も欠席でと伝えた。



「学校行けばいいのに」

「焼きチョコ食べたいな……」

「話を聞け」

「チョコあったっけ……」

「おぉいッ!」



 棚を漁る月火を睨むと、月火は棚の中から嬉々としてクーベルチュールを取り出し頭上に掲げた。楽しそうでなによりです。





 火音がソファに寝転がってタブレットで絵を描いていると、月火が足元に座った。

 アイスに焼きチョコを混ぜて食べている。



「火音さんって彼女に煙たがられそうですよね」

「あっそ」

「今図星でしたね」

「彼女とかいらん」

「案外二次元に生きてますよねぇ」

「三次元とかいらん」

「聞く人が聞いたら泣きますよ」




 月火はチョコの混じってないアイスを火音に一口あげると、アイスを食べ終わった。

 ペロッと唇を舐めて、満足したので家事をする。






「お前って不幸そう」

「なんですかいきなり引きずり回しますよ」

「もうちょっとマシな道歩けば?」

「もうちょっとマシな人間に出会えるといいんですけどねぇ」



 黙った火音を睨んで、呆れながら洗い物を終えた。


「私は針山地獄の先にこそ転生が待っていると……」

「何言ってんの」

「イバラの道の先にこそ幸せがあるんですよ。私幸せでも火音さんが野垂れ死んだら夢枕に立たれそうですし。永遠に呪いかけられそうですし」

「俺はやらんけど雷神にやらせるかも」

「でしょう? 今は針山の途中です」

「高校生が嫌なこと言う」

「火音さんから始めたんでしょうッ!?」




 月火が不満ながらに家事をしている間に火音はアニメを見ながら二次創作の漫画を描いている。この人ほんとに、創作活動者として収益得れるな。














 今日は調子のいい火音に安心しながらも少し羨ましく思いながらも、とりあえず仕事を処理する。なんせ溜まっている。早く処理しないと、手が付けられなくなってしまう。そもそも二つの会社に別れてんのが悪いんだよなぁ。一つの中で大きく展開すりゃよかった。まぁ、素早い信頼は新事業の特権かもしれないが。


 既存の会社が全く別の業界に手を出しても試されるより先に怪しまれることが多い。

 似た業界ならあぁこっちにも手伸ばしたんだーで取られたりするけど。





 溜め息をついて、頭を捻っていると突然首に腕がかかった。


 見ると、火音が狐並みに擦り寄ってきている。



「なんですか」

「……ん〜……」

「邪魔しないでください」



 月火は火音の頭を雑に撫でると押し返すが、火音は意地でも離れない。



 仕方がないので、このまま仕事しよう。


 眉間を押え、目を細める。厄介な客も厄介な取引も面倒な中小企業も、寄って集っていじめてくんなよなぁ。










 パソコンと睨めっこして、頭痛を堪えながらタッチパネルに指を滑らせていると火音に肩を叩かれた。



「なんですか」

「二時」

「にじ?」

「お腹空いた」



 顔を跳ね上げて時計を見ると、あぁ二時。やっべ。



「すみませんすぐご飯作ります」



 月火は慌ててパソコンを閉じるとキッチンに移動し、すぐに昼食を作り始めた。もう米を炊く時間はないのでリゾットで。




 人参を切りながら溜め息をつくと、珍しくキッチンに火音が入ってきた。


 普段は断固として入ってこないのに。




 月火の後ろにくっ付いて、手元を眺める。左手の包丁って怖い。



「心配しなくてもそこまで大雑把じゃありませんから。座ってていいですよ」

「……土間の台所がいい」

「早くどっかの屋敷に婿入りすることですね」

「……双葉になったら婚約できないのか」

「できないことはありませんが火音さんの立場が弱くなった今、水神兄弟が派閥争い起こそうとしてますからね。……と言っても兄弟は起こす気ないみたいですが」



 今、暒夏は月火の婿候補に、炎夏は次期当主になるために頑張っている。

 しかし逆に、派閥の長老たちは嫡男の暒夏を当主に、次男の炎夏を婿に追いやろうと画策中。結果、おじ達も何もできないままあたふたしている。


 子供の意思をへし折るか当主派水明派の派閥を両方ねじ伏せるか。どっちにしろ簡単なことじゃない。



 まぁ若い世代が行動で黙らせたら早い話なんだけどな。




「神々の分家に当たる双葉が見付かったので神々派の頭硬い人たちも変に動いてますからね。もしかしたら実力名実、顔ともに世界一の火音さんと私をくっ付けようとするかもしれません」

「……月火に頼らず生きてく方法の目処すら立ってない」

「案外色んな人の料理食べたら合う人がいるかもしれませんよ?」



 月火が見上げると、火音は微かに視線を逸らした。



「なんですかそれは嫌って」

「月火の料理がいい」

「まぁ火音さんを飼うことになったらそんな嫉妬するような人と結婚はしませんから。三人同居か、まぁ水月兄さんが身を固めてくれるなら子供は確実にできるでしょうし。てかデキ婚でもおかしくないと思ってますし。最悪私一生独り身でもまぁ特に問題ないかと」

「二十六まで一人だったら娶ってやろう」

「なんなんですかその中途半端な」

「ギリ行き遅れにならない年齢。その年齢で俺とならだいたい納得されるだろ」

「二十六……いや最高でも二十四ですね。いい歳に三十越えの人と結婚したくないです」

「俺三十越えて顔変わると思う?」

「思いません。一生童顔かと」


 誰も童顔とは言ってねぇ。



 火音が月火を睨むと、月火は鼻歌混じりに顔を逸らして誤魔化した。お口チャック。



「……まぁ大学部には行きませんし卒業を伝えると同時に婚約は急かされるでしょうね」

「………………大学部行かんの……?」

「そんなショックですか。私が高二か高三になってもーって言ってたのに?」

「……マジ」

「まぁ近場にマンション借りてそっちで同居すれば食事面でも問題ないでしょう」

「…………まぁじ」

「ショック受けすぎでは?」



 高等部で終わるために中等部の頃から全コース大学部を卒業しつつあるのだ。

 つーかもう全部終わってるんで、一応大卒までの資格はあるし。



 いいよね飛び級制度、日本で唯一ここだけ。





「毎朝通勤できるなら別のマンションに部屋借りますし。無理って言うならまぁ理事長ってことで住めますし。なんなら上層部の方にも住めるっちゃ住めますし」

「…………転職するかなぁ」

「話聞いてます?」

「教師が元生徒の一人暮らしの家に同居はまずいだろ」

「現在この状態も非常にまずいと思いますが」



 腰に腕を回して、ガッツリ背後霊と化している。この状態を密着以外になんと言う。



「……まぁそれはそれで。毎朝通勤とか面倒くさすぎる」

「そんなあっさり放置します?」

「会社で働きたくないからさー。フリーランスかなぁ。妖輩一本でやったら体壊す気するし。てか三十なる前に引退したい」

「それは好きにしたらいいと思いますが。まぁなんにせよ、頑張ればどうにでもなるような問題しかありませんよ。大丈夫大丈夫」

「問題あるのが嫌なんだけど」

「私は解決できる力を持っているので」

「心強い」




 月火は米と野菜を炒めるとブイヨンを入れて蓋をした。



 火から離れると、火音の方に体を向けて腕を広げた。


 火音は月火を抱き締め、月火も頭を撫でる。




「心配しなくても私が死ぬまで面倒見てあげますよ。無理になったら私が殺してあげます」

「そーして。一生雷神傍に付けるから」

「それはいらないです」

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