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妖神学園 改正版  作者: 戯伽
1年生
74/103

74.戸籍

 バレンタインの翌日、月火は廻醒から貰ったマカロンを食べながら大量のお菓子を眺める。



 イベント毎に毎回この量のお菓子を貰うのでいつも玄関前に勝手に紙袋が設置される。

 結果、それを選別する手間が増える。


 来年からは禁止にでもしようかなと思ったり、でもあまりにも自惚れっぽくてキモいよなぁと思ったり。





 まぁ食べれるものは十円前後で売ったら結構いい小遣い稼ぎになるので。


 食べれないものっていうのは、髪の毛が混入してたり体毛が混入していたり明らか不自然なものが浮いていたり去年売って体調不良が出た差出人の名前だったり。



 自分では絶対に食べない。






 火音はソファが血濡れて使えなくなったので椅子で突っ伏して寝ている。新しいソファは今日の夕方届く予定。安心安全格安速達信頼の神々製品。同じソファだけど。



 ちなみに今日、あと二つほど届く。




「……はぁ」

「終わり?」

「主様、終わり?」



 端で天狐と戯れていた狐たちが寄ってきて、月火は小さく頷いた。



 紙袋を畳むと廃棄分ごとゴミ袋に突っ込む。自分の組織食わせようとする前に手紙をくれないかな、ちゃんと返すから。


 明らかヤバいもん混じってるの渡されても危険人物認定しができない。





 手を洗ってジャージを着替えると、机に突っ伏している火音の背に触れた。


 だいぶん疲れた様子で寝ているので起こさない方がいいかなと思いながら頭を撫でていると、火音の意識が浮上した。




 目を開けて、月火を見上げる。なんや。



「ベッド行かないんですか? 体痛くなりますよ」

「……ねむい……」

「昨日も一昨日もまともに寝れてないでしょう。行きますよ」

「……仕分けは?」

「終わりました。もう処分したので安心してください」

「ん……」



 月火は眠そうにする火音を立たせると、支えながら火音の部屋に連れて行った。寝てる間も傍にいれるし大丈夫だろう。







 ベッドに入れると、黒葉が飛んできた。

 火音の布団に潜り込んで、腕に収まる。とても満足そう。



「……妖心って主の心を表してるって言うじゃん」

「嘘ですよ。さっさと寝てください」

「おやすみ」

「おやすみなさい」


 火音は黒葉を抱っこすると眠り始め、月火はそれを眺めた。










 二時間ほどして、スマホに電話がかかってきた。


 寝てるし、まいっか。



 部屋から出て、自室でそれを取る。




「月火です。戸籍は決まりましたか、和桜(なぎさ)さん」

『突然申し訳ありません。少しお聞きしたいことがあって』




 今、火音の二人の母親は息子のために戸籍を取り合っている。

 火音は今は一応火神戸籍だが、いつでも双葉に移せるよう警察に話は通してある。母親がやらない限り、裁判等もないので比較的火音に実害はないのだが。



「戸籍を火神のまま改名ですか……」

『戸籍は断固として譲らない代わりに、せめて名前はと言われて……できればできないのを望むんですが……』

「できるにはできますがオススメはしませんね。名乗りと名札が違うとストレスがえげつないので」

『で、ですよね!? 分かりました、そう言います!』

「あ、はい」

『失礼しました!』




 嵐というか暴風の如く通話を切られ、少し呆れながら部屋に戻った。



 さっきより明らかに隈が酷くなっている火音は月火を見上げ、黒葉は尻尾を振っているのか布団が動いている。




「……お前じっとしろ」

「寝ないの?」

「寝てほしいなら動くな」



 黒葉はしゅんと静かになって、布団の中に消えた。


 火音は重苦しそうにして、腰に乗った黒葉はジタバタと動く。



 致し方なく火音が起きると、後ろに移動した黒葉は寝転がれとでも言うように布団を叩く。



「お前は何がしたいの……」

「火音が邪魔って言うからこっちに移動したのッ!」

「仲良さそうで何よりです。火音さんはとりあえず寝てください。火音さんが気にすることは何もありませんので」

「……決まったらすぐ教えて」

「分かってますよ」




 火音はすぐに眠り始め、月火はベッドに座る。




 混合状態も落ち着いたし、まぁ睡眠は乱れているけど。心も体も安定している間にしっかりと休息を取らせてあげたい。起きている時は、本人が思っている以上にストレスがかかっている。













 月火も少しうとうとしながらスマホを見ていると、部屋にインターホンが鳴った。


 見ると、珍しい、何故か麗蘭。




「はい?」

『ちょっと話』




 中に入れ、ダイニングに。ソファは使えないので。




「ジュースないのでアップルティーでいいですか」

「うん!」



 遠慮の欠片もねぇなと思いながら、紅茶とコーヒーを淹れた。



「火音は?」

「寝てます。話があるなら伝えますが」

「いや、たぶんいない方がいい」

「……要件は?」

「新学期、火音は大丈夫そうかと思って」

「比較的安定はしてきているんですけどね。まだ病気というより精神やメンタル面が弱ってます」

「一年の担任は火音予定だったのを急遽晦に変えたから。そこは安心しろ」

「あぁそんな重要な仕事請け負ってたんですか」

「コース主任は火光で!」

「仕事で忙しくなりますね」

「大丈夫だろ、あいつ仕事サボってあのスピードだし」


 まぁ神々に育てられたんで通常の三倍ぐらいは仕事早いと思うけどな。



 月火は紅茶を渡すと、向かいに座った。




「本人は新学期から行く気なんですけどね。傍から見てあの状態じゃどうせ行っても倒れるだけと思うほどで」

「……そんなに酷いか」

「まぁ調子いい日が増えてきているのは確かなんですが。……悪い日があるのに無理やり行ってドミノ倒しでまた崩れて……それなら新学期も休ませた方が体的にもメンタル的にも楽だと思います」

「……こちらとしては全然新学期も休養と言うならお大事にで、絶対出ろと言うわけじゃないんだがな。……戸籍はまぁ置いといて、名前が、ほら、色んなところになんて書くか」

「……それが問題ですよねぇ」



 脳裏に浮かぶ、厄介な問題だけ残して零落してったあのドクズ家に溜め息をついた。



「一応こちらからもなるべく名前は変えないでと言ってるんですが、和桜(なぎさ)さんは戸籍も名前も譲らないし(けい)さんは名前を譲らないし……別に対の名前ってわけじゃないんですからなんでそこまでこだわるのか……」

火継(かつぐ)緋紗寧(ひさね)だもんな、まるで関係なさそうだし。……戸籍が変わったぐらいじゃ日常生活に露骨に問題は出ないけど、名前が変わるとなぁ……」

「あの方馬鹿正直なんでめっちゃ苦労すると思います」

「だよなぁ」



 まぁ名付けた親はその名前で二十二年間思ってきたんだから仕方ないは仕方ないのかもしれないし絶対譲りたくないのかもしれないが、なんで子供一番で考えてあげられないんだろうか。火音が一番嫌がるのは改名なのに。


 そもそも親に決めさせるのが間違いなのか。そうだな、大人の火音を親のエゴに巻き込ませるのは可哀想だ、うんうん。




 妙に吹っ切れた月火はスマホを取ると、すぐに電話をかけた。



「……もしもし和桜さん? まだ景さんと話し合い中ですか?」

『月火様……! そうです、ここ連日ずっと……』

「スピーカーにしてください」



 スピーカーになって、景の声も聞こえた。



「お二人とも、戸籍は火音さん自身に決めさせます」

『え!?』

『ま、待ってください! それじゃあ私のところに来る確率なんて……!』

「大人の火音を親のエゴに巻き込まないで頂きたい。これは一人間としての言葉ですが、親のエゴで子供にストレスかけるなら虐待から守っても奪われたとしても毒親に変わりないと思います。現在火音さんは改名だとか苗字だとか立場だとか火神の処理だとか、そんなんで精神病んで死にかけてるので。子供を自殺に追い込みたいっていうなら私が勝手に決めます。神々当主として」

『そんな……』

『……わかりました。でもせめて決める時に同席を……!』

「無理ですね、それじゃ親が決めるのとなんら変わらないので。ではそういうことで、今後お二人は過度に接触しないよう」



 月火はそう言うと、まだ何か言う母二人を無視して通話を切った。


 麗蘭もにっこにこ。



「これで火音のストレスは減るな!」

「ですね。わりと早い段階で落ち着くかもしれません」

「よし! じゃ、私は火音のおねんねの邪魔をしないうちに帰ろう。邪魔したな」

「いえいえ。お疲れ様です」




 麗蘭はすぐにアップルティーを飲み干すと帰っていき、月火は洗い物を始めた。



 それが終わる頃にソファが届いて、月火は箱を開封する。

 前に水月に組み立てのコツを教えてもらったので大丈夫。先に足が付く場所を見付けて足を付け、説明書通りに並べて組み立てる。


 ほらできた、完璧。天才。偉。






 カバーを替えて、ついでになんか知らんけど頼んだ覚えのない箱も。会社の研究所からなので間違いではないと思うが。



 開けると、中にクッションが入っていた。あぁ、頼んでたやつだ。早いな。



 先月の会議の時、火音がなんか抱っこするやつが欲しいと言ったので、いやまぁ言ったのは月火だけれども。

 ソファがお気に入りで狐を枕にしてー、みたいなことを伝えてクッションを作ってもらったのだ。



 こりゃいいな、売れるぞ。改良頼んで万人受け狙うか。





 月火がソファ座ってクッションを抱っこしてスマホをいじっていると、麗蘭が来て三時間ほどだろうか。火音が起きてきた。












 部屋を見回して、さっき麗蘭がいた場所に目を付ける。



「……誰か来たん」

「えぇ。それよりもソファ届きましたよ」



 火音は肘掛けにもたれる月火に後ろからのしかかって、そのまま床に座った。あぁ首が。



「火音さん……ソファどうぞ……同じやつなので……」

「……そのクッション何?」

「これもプレゼントです」



 火音は本物の猫のように軽くソファを押して確認すると、上に上がってクッションも貰った。



「気に入りましたか」

「……ん……」



 火音が寝転がったので月火は降りて、クッションを枕にして黒葉を抱っこする火音の向かいに移動した。


 隈は少しマシになったかな。



「……何?」

「戸籍、火音さんが決めることになりました」

「……親は……?」

「了承しましたよ」



 月火が薄く笑うと、火音は少し眉を寄せながらも小さく頷いた。



 まだ眠いのか目を閉じてぼんやりしているので、月火は傍に座ってスマホをいじる。



 皆のSNSを確認して授業楽しそうだなぁと。今日は平日、ど平日。でも月火は休み。火音がいるから。



 たぶん火光も乗っかって投稿してるんだろうけど、いいなぁ。





 そんなことを考えて見ていると、スマホに手が被った。



「誰の何見てんの」

「玄智の投稿です」


 火音にスマホを取られたので、頭を撫でて落ち着かせる。




 最近、火音の嫉妬というか独占欲というかかまってちゃんというか、そんなんが露見するようになった気がする。

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