73.狐共
スコンと頭を殴られ、頭を抱えた。
先ほど月火が九尾二体を消費して妖心術空間を破壊した。結果、校庭に馬鹿でかい穴が空いた。
「まず思考を繋げろ。火光がいなけりゃ死んでたぞ」
「すみません……睡眠不足で正常な判断が……」
そう言いながらあくびをする月火に呆れ、とりあえず緋紗寧が持っていた白黒魅刀を渡した。
「……私そっちがいいです」
「俺それ使えん」
「きっと今なら使えますよ」
「太刀は重いから嫌」
「ねぇ」
「他の人が触ってるし?」
月火が火音の腕をつねって火音が痛がっていると、水月と火光がやってきた。その後ろから廻醒が追い越して、月火に飛び付く。
「ツキちゃーん! 無事!?」
「し、死ぬッ……!」
首が絞まって瀕死になっていると、火音が剥がしてくれた。
ペッと捨てて、水月と火光の方を見る。
「月火、大丈夫?」
「よしよし」
「兄さん案外冷静ですね」
「うんあんなんぶっ放せるなら平気かなって」
「ご迷惑おかけしました」
「大丈夫! 修理するの、月火でしょ?」
「……はい」
しおれる月火に自分でやったんだろとさらに追い打ちをかける水月を黙らせ、火光は月火の頭に手を置いた。
「なんもされてない?」
「へい……」
「火音に」
「俺!?」
「……怒られました」
「おいッ」
「怖かったから逃げたかったんだよね〜ね〜火音君わかるー?」
引きちぎらんばかりに腕をつねってくる火光に痛がっていると、水月が三人の戯れを遮った。
「楽しんでるとこ悪いけど本番だよ」
狐面の二人が起きて、月火が妖心術の空間を破壊したせいで中にいた狐面も全員現れた。全員若いが、後ろに下がった奴らを見るに戦闘狂と非戦闘狂がいるのかな。援護と近距離か。
火音は月火の腕を掴むと少し下がらせた。
「動けるか」
「えぇ」
「熱でぶっ倒れん?」
「……踏ん張りは効く方です」
「お前倒れたら俺死ぬからな」
「薬は一年分ありますよ?」
「どーも」
火光は炎夏と玄智と緋紗寧に後方に集まる人を任せると、廻醒含む五人は気合いを入れた。
「校舎、上層部破壊は控えるように。校庭はお好きにどうぞ」
「お前が一番破壊魔だろ」
「腕もぐぞ」
火音は口を噤むと、大人数を三人に任せて狐面兄の方に刀を振るった。
月火は妹側に切り込み、上手く力が入らない肩に無理やり力を入れる。
──妖刀術 妖楼紫刀──
──妖刀術 日音月光──
──妖心術 遊雷──
──妖心術 雷漸──
──妖心術 雷牙──
妖心術を乱用する火音は相手に回復させる暇を与えず、失神させると雷神にそれを押えさせた。
瞬間回復した黒葉が押さえてくれたので、月火の方に回る。
「早くないですか」
「お前下がれ。肩脱臼してるだろ」
「してませんが」
「してる。神経麻痺ってるだけだ」
月火は下がると、脱臼してるらしい肩を押えた。ドロっと血が付き、目を丸くする。脱臼してんじゃなくて神経が切断されてんだ。そりゃ力も入らんわな。
火音は兄よりは弱い妹の背面に大きく切り込むと、大腿の筋肉を切った。
刀から血が垂れ、それを払う。
「終わった!」
「兄さん……たちも問題なさそうですね。戦闘特化型じゃないのか……」
「帰ろ〜……」
「帰っててもいいですよ。もう終わりますので」
うだうだ駄々をこねる火音を黒葉に頼み、月火は即殲滅した兄たちの元へ寄った。
「兄さん、終わりましたか」
「終わったけどさぁ」
「ボス格がいないんだよね」
「月火血が……!」
「肩が切れていたみたいです。それよりもボス格がいないとは?」
「わかんない。弱い奴らの集まりがあの子供統率できるとは……」
水月の話の途中で、玄智の火光を呼ぶ声が聞こえた。と同時に、火光は無意識に妖心術を発動する。
──妖心術 霍壁──
──妖心術 童辣獄──
炎夏と玄智二人が牢で覆われ、火光は地面がえぐれるほど強く蹴ると炎夏に触れた男を蹴り飛ばした。水月の頬が折れた蹴り、それの百倍ぐらい。
──神通力 圧──
飛んでいかないようにその辺に圧をかけると、校庭が5メートルほど凹んだ。
「おぉすげっ……!」
「ねぇこれ内側からも無理なんですけど」
「変に手出できないようにだろ」
「……便利なのかなんなのか」
火光は二発で終わらせ、皆が駆け寄った。
「月火の神通力はなんでもやるね」
どこかに隠れていた緋紗寧がやってきて、中に浮く。
「どこいたんですか」
「天狗の隠れ蓑」
「なんでもとは? 神通力は神に通ずる力ですよ」
「普通は未来予知とか心を読むとか中に浮くとか水面を歩くとか。そんなんの一つが神通力だよ」
「……知りません。兄さん退いてください」
寝不足で考えるのをやめた月火は火光を退かせると、それの脈があることを確認した。
「牢に。殺さないように」
「はぁい」
「私は帰ります……」
炎夏に支えてもらいながら、月火は寮に向かった。
眠っている月火が熱を出して、火音は少し心配する。
寝ている人の発熱に気付くという状態が初めてなので、何をすればいいのか分からない。
まぁ、起きてからでいっか。
月火が眠るソファの傍にしゃがむと黒葉を膝に抱き上げた。
『火音、白狐は喋らんのか?』
「喋る」
『まことか! どこにいる!』
「……たぶん月火の妖力が減ってるから」
いきなり出てきた紫月に少し驚きながら、火音は月火の傍に座ると頭を支えネックレスを出した。
ネックレスが体から離れると、黒葉が元気になって飛び跳ねる。
数分もすると白葉も出てきて霊体の紫月に抱き着いた。否、紫月が狐に抱き着いた。
『狐ぇ! 相変わらずふわふわだなぁ!』
「主様主様っ! 主様!」
「静かにしろ寝てんだから」
「ねぇ火音、神通力はなんでもできる力じゃないの?」
黒葉が聞くと、火音は首を傾げた。
「知らん」
さっき緋紗寧とそんなことを話していたが、緋紗寧との会話など微塵も興味がないので考えない。
やる気起きないなぁとぼんやりしていると、その頭に手が乗った。
振り返ると、月火が目を開けている。
「頭が痛いです」
「熱出してる。過労だろ」
「……日越えましたか」
「まだ全然」
「水……」
月火が火音の首に腕をかけると、火音は月火を支えながら起こした。
ペットボトルから水を注ぎ、月火に渡す。
「……うま。うまぁ」
「そりゃ何より。大丈夫か?」
「スマホ取ってください」
月火はスマホで炎夏に連絡すると、食うもん買ってきてと頼んだ。
大きくなった黒葉にもたれ、そのまま呻く。頭痛い。
火音が紫月と話しながら月火の頭を撫でていると、ふと月火が顔を上げる。
「ネックレス取りました……?」
「白葉出すのに。……月火これ視える?」
「火音さん通じてしか」
「……それこそ神通力で」
「ちちんぷいぷーい……」
「アホになるな」
「頭痛い……ぎもぢわるいィ……! か………………肩切れてるの忘れてた……!」
今言われてもとても困るのだが。
飛び起きてよろける月火を支えると、月火はジャージを脱いだ。
もう白いTシャツが真っ赤に。
「……お前貧血じゃね?」
「……あぁ!」
腕が使えないからな。はい緊急搬送。




