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妖神学園 改正版  作者: 戯伽
1年生
72/103

72.主様

 月火のいる空間に移動しようと校庭に出た時、校庭に子供が立っているのに気付いた。




 見たことある面だ。

 なんでこいつがここにと思った途端、火音は即座に刀を立てた。




 鞘にヒビが入るほど重い振りに、刀の先に手を当てて耐える。




 天狗が緋紗寧(ひさね)を庇い、雷神が子供に雷を落とした。


 難聴になるほどの雷鳴で皆が耳を塞いだが、それを一身に受けたはずの子供は一歩引いて飄々とする。



「お前、お前だろ。妹を殺しかけたの。俺と同じ面を付けた子供を……!」

「俺じゃねぇよ」



 たぶん、年越し前に月火が拘束した奴のことだ。

 水族館の時に「共鳴しないと帰れない」と言っていたらしいので上に誰かいるとは思っていたが、こいつだろうか。いや、助けに来たみたいだしこいつも同格か。それとも共鳴したので必要な人材と判断したか。勝敗は関係ないのかな。



「月火拐かしたのお前らか。お前らが拐った奴があの狐面刺したんだけど」

「そう……じゃあ、お前はいらない方だ」



 火音は刀を抜くと黒葉に鞘を渡した。




 異常なほど威力がある振りを受け止めて、下に流す。



──妖刀術 日滝(ヒノタキ)──



 倒れたそれの首に向かって真下に切り込んだが、一秒も経たない間にふっと消えた。




「火音!」

「……黒縄って切れないよな」

「う、うん……」



 駆け寄ってきた火光と水月は少し首を傾げ、火音はふと上層部に目を向けた。



 傍に罪人を幽閉する塔がある。




「火音、どうする気」

「火光、生徒二人と周囲守っとけ。水月手伝え」

「はいはい」




──妖心術 守衛(シュエイ)の牢──

──妖心術 複写(コピー)・雷神──



 塔の一部が破壊され、黒縄で縛られていたはずの狐の面と、いなくなった狐の面の二人が出てきた。

 一人は消え、妹の方は刀を出す。


 手首には切れた黒縄の切れ端と、首に巻かれていたのは消えている。




「も〜私も早く帰りたいのに!」

「僕餓鬼って死ぬほど嫌いなんだよね。殺したら怒られるかな」

「好きにしろ。俺は殺らん」

「ねぇ怒られると思う?」

「好きにしたらいいと思う」



 怒られるとは断言しない火音を蹴ると、綺麗に蹴り返された。いがみ合うのを火光に怒鳴られる。やめはしない。





──妖刀術 偽・抜刀(ばっとう)──



「そっから抜刀術……!? 無理無理無理……!」



──妖心術 雷神複写(コピー)藤雷(トウライ)──



 狐の面は火音の明らか離れた場所かつ鞘なしの抜刀に混乱しながらそれを受け止めた。


 体に衝撃が走り、雷が地面に突き抜けていくのを多く離れた兄に治してもらう。



 激痛と混乱で過呼吸になって視界が白飛びしてまともに見えなくなるのを第六感でカバーしていると、突然頭に鈍い衝撃が走った。




──妖心 酒呑童子──



 金棒を持った青鬼。しかし、次の瞬間には赤に変わった。




「火音せんせーい、ツキちゃん誘拐されたんマジ?」

「お前……」



 木から降りてきた廻醒は髪をワイヤーカチューシャで上げ、にこっと笑った。水月は誰か分かっていなさそう。



「俺デフォこれなんで。あの狐捕まえればいいですか? 殺したらツキちゃん怒りますもんね」

「やっぱそうよな」

「そりゃ記者はどこにいるか分かりませんし内部告発考えたら怖いですもん!」

「あー言いそう」

「ツキちゃんの思考は全部インプットされてるんで〜」



 そこまで言って、水月はツキちゃん呼びで誰か分かったのかハッとした。



「一級四位だ……!」

「一位に変わりましたぁ」

「お前自分の順位と入れ替えてるじゃん」

「駄弁るのはいいから餓鬼に集中しないと」



 都合が悪くなったらすぐ話をすりかえる水月に二人で呆れながら、廻醒は気合いを入れ直した。



 火音は下がって月火の思考を読むのに専念する。




 黒葉が鞘を持ってきて、それを受け取ると刀を納めた。




「火音、主様の元に行くの?」

「うん。月火拐った奴殴りたいし」

「白葉が薄くなってるの。早く行かないと主様守れない」

「月火がいる空間に干渉できるか」

「……うん、できる。でも壊せないわ。妖力が足りない」

「俺の使っても?」

「全然駄目」


 あぁそう。



「……緋紗寧のを使ったら?」

「…………ヒビは、入るかもだけど……」

「月火を動かせたら早いのに……」

「……白葉を怒らせたら、できるかも……」



 黒葉を見上げると、傍に座っていた黒葉は火音を体で囲んだ。



「白葉のもう一人の主様のいる場所」

「連れて行け」





 サッと風に拐われ、気付けば墓地にいた。



「神々の墓地よ」

「……白葉のもう一人の主って何? 俺が埋まれってこと?」

「ううん。……私は主様の妖心なの。でも白葉は、前の主を覚えてる。前の主も主って言ってた」




 鬼が分かりやすいだろうか。


 酒呑童子は毒で殺されたあと、死後の転生で人間と結び付けられ妖心となる。


 白葉は、転生後元の主が死んでまた転生し月火の妖心になったということか。



 雷神に聞いただけだが辻褄が合う。この話の辻褄の合わせ方をこれしか知らないし。





「……で、白葉を怒らせる方法は?」

「そこの木、切ったら怒ると思う」



 黒葉が示すは、初代神々当主の眠る墓と墓を飲み込むようにして生える大樹。



「……と、思う?」

「大切な木だって聞いたわ」

「なんでそんなふわふわ……」

「いいから早く! 主様が危ないのよ!?」


 まぁ、それもそうか。祟られませんように。









 躁状態で判断が鈍り、鬱状態で体が重くなっている火音は大樹に手を合わせると木の根の端にしゃがんだ。



 桜の木か。あの特有の模様が入った幹。



 死体が埋まってたりしてなーと思いながら、鞘で少し強めに殴った。さすがに切断する勇気はありません。






 微かに皮がめくれると、突然ゾッと背中に悪寒が走った。



『我の墓を荒らす者』



 見上げると、真正面に月火と瓜二つの少女。



 飛び退いて、それを上から下まで確認した。

 月火に瓜二つだが髪は月火より長く、指貫袴(さしぬきはかま)を着ている。



『お前、雷神の者だな。何故墓を荒らす』

「げ、月火、現当主が消えた」

「白葉を怒らせたら主様が動けるようになると思って。木を傷付けたら怒ると思って」

『狐が喋ったッ!』

「月火の妖心です。……あの、あなたは……?」



 火音がその場から動かないまま聞くと、少女は火音を見下ろし首を傾げた。



『名は?』

「え、あ、一応火音……」

『一応?』

「まだ一応。で、誰?」

「いきなり失礼な言い方になったわ」

『我が名は紫月(しづき)! 神々を率いた当主だ』

「初代当主か……!」

『……まぁ、そうだな。今はそうとも呼ばれている。……月火が拐かされたと言ったな。あの子は私が見ている子だ。九尾を憑けていたのに……』

「……つまり白狐は初代当主の妖心?」

「主様のじゃないもの」

『我が生まれる前に宿したのだ。妖心が同じ狐だったからな!』


 つまり、月火の妖力が多すぎるのは妖心が別の人のものだからか。そりゃ他人のものまでしまってたら棚も溢れるわな。



 先祖と同じ妖心の子が生まれ生まれ変わりだと騒がれるみたいなことはたまにあるが、まさか実際に宿されていたとは。



「……九尾は月火が生まれるまでここの墓にいたってことか」

『まぁそうなるな。歴代の当主の選定を任せていた』

「マジかぁ……」

『お前、月火と共鳴しているのだろう。早く見つけ出せ』

「月火の中に他人の妖力が流れ込んで共鳴できない。だから九尾を怒らせた」

『……九尾が怒ったから、月火は助かるのか』

「まぁそうなることを願え。黒葉、戻るぞ」

「はぁい」





 神通力で校庭に戻ると、校庭では酒呑童子が狐の面を縛っていた。



「あ、帰ってきた」

『おぉ鬼だ!』



 振り返った廻醒の声の次に聞こえた紫月の声にビクッと体を震わせ、黒葉とともにそちらを見た。



「ついてきてるし……!」

『しばらく憑かせてもらうぞ。霊体だと誰かに憑かないと移動できんでな』

「……えじゃあ他人には見えないってこと?」

「そう……じゃ、ない……?」



 黒葉と首を傾げていると、火光が駆け寄ってきた。



「火音! どこ行ってたの」

「ちょっと。黒葉壊せるか」

「……白葉が怒り狂ってるせいで全然反応してくれない。もう……!」

『黒狐、狐の元へ連れて行け』

「う、うん……いいの?」

「好きにしろ」



 火光は黒葉が喋ったことに唖然として、火音は黒葉に憑いた紫月を見送った。



「ね、ねぇ火音……黒葉喋るの……?」

「らしいな」






 酒呑童子に拘束され身動き取れていない狐面の向かいにしゃがみ、面を取った。


 紫の髪に青い目の女。十いくつか。



「返して」

「月火どこにやった。拐ったのお前の仲間だろ」

「ふん、どうせ殺されることはないし気長に待っとけば?」

「待つ間にお前の耳と四肢を落とすぞ」



 火音が刀を抜くと、狐面は顔を逸らした。



「言ったってどうにもなんないよ……!?」

「なんで拐う」

「し、知らない!」

「耳、右か左」

「ほんとに知らないの……!」

「共鳴目的らしいけど。お前の上にいるのは誰だ?」

「知らない……!」

「逃げないように足落とすか」

「な、何百年とか生きてるって……! それだけ、聞いたことある……!」



 麗蘭たちと同類、麗蘭たちが神々初代当主の時期から生きているのは妖心だか魂だかが関係していると言っていた。その関係者か、あるいは当時不老不死にすることは難しくなかったか。


 なんにせよ妖心が関連しているはずだ。



「男か」

「男! たぶん、四十……いくつ……四十にもいってないぐらい……!」

「名前は」

「知らない……!」



 狐面は泣きながら顔を横に振り、水月と火光は至極面倒くさそうな顔をした。



「泣くな面倒臭い。ハッキリ喋れ。なんでお前が共鳴させる役になった。なんも知らされてないくせに」

「知らないよ……!」

「さっきのもう一人は?」

「お、お兄ちゃん……! 双子のっ……!」

「親も関係者か?」

「違う……! 物心ついた時からそこにいたの……!」

「歳は?」

「十四……」


 嘘だろ明らか小学生の体型。



 でもまぁ歳はなんでもいいや。


 使い捨ての駒ならさっさと潰した方がいいが。





 火音は立ち上がると、後ろから伸びてきた腕を掴んで妹に叩き付けるように背負い投げた。




 今の今まで気付かなかった廻醒と水月、火光は警戒し、火音は妹の方の頭を鞘で殴った。死んでももう知りません。



 兄の腕を掴んだまま腹に足を乗せ、鞘を落とすと首元に切っ先を突き付ける。




「利き手じゃなくていいの?」

「あいにく右利きでな」

「あっそう……妹を脅すのやめてくれる? 俺の大切な家族を」

「無理」



 火音は刀を地面に刺すと後ろに飛び下がって兄らしい男の蹴りを受け流した。瞬きしたら見失うなこれ。



──妖心 雷神──



 雷神から妖楼紫刀を奪うと地面に叩き付けた男の肩を突き刺した。

 バリバリと全身を電気が突き抜け、男は失神する。どうせさっき雷が効かなかったのも妖心術だろう。妖心術は使う暇さえ与えなければさして怖くない。





 現れた妖心、阿修羅を切り捨てた。



「火音、どうする」

「……お前拘束系ないもんなぁ」

「う、うむ……」

「……まいいや。ほっとけ。黒葉は?」

「なんか、どっかにいる」

「呼べるか」

「月火も起きたみたいだぞ」



 それを聞いた途端、月火の相変わらずの怒涛の思考が流れてきた。あぁ土石流の堤防が決壊した。

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