70.双子
火音はソファに寝転がると正面でスマホをいじっている緋紗寧を殺意が漏れるほど睨み、緋紗寧はそれを見下ろし鼻で笑った。
火音は背を向けると頭の中で罵詈雑言を吐き捨てる。
呆れた月火は緋紗寧にコーヒーを渡し、火音の頭を撫でた。
「少し我慢してください」
「してる」
景が和桜との話し合いに出掛けたのを知ったせいでただでさえ不愉快なのに、自分のテリトリーに自分が嫌いな自分と同じDNAの男がいるということ、それが受け入れ難かった実の兄であること、あとコイツの性格。
全てが相まって不愉快で不機嫌になっている。
緋紗寧一人をホテルに返すと言おうとしたら、緋紗寧は東京に来てから単独行動をしたがらないらしい。まぁ多くは女のせいだと思うが。
そのせいでホテルへの帰宅も拒否し、月火の寮で待たせているというわけだ。
景が連れて行くのが最善だったのだが、景は緋紗寧の面倒を見ながら真剣な話し合いができるとは思えないと拒否してしまった。
水虎は水明の面倒を見に行ったし。
「社長、ロリ顔やってよ」
「やるのはいいですがその社長呼びやめてください。あくまでも一学生としてなので」
「じゃあ月火!」
「お好きにどうぞ」
「子供の頃の写真とかないの? ロリで美人ならどストライクなんだけど」
「知りませんねぇ」
月火は部屋から道具を持ってくると火音の席に座ってメイクを始めた。
緋紗寧は上機嫌にそれを見学する。
「………………そんな見ます?」
「ロリがロリになる瞬間を見逃すわけないでしょ」
「私ロリの判定から外れてるはずなんですが」
「顔がロリで身長低くて胸なかったらロリだよ」
「こっち来てください頭蓋骨割ります」
「やめて怖い」
月火の地雷を踏み抜いた緋紗寧を鼻で笑うと、火音はゆっくりと起き上がった。
ほんとに気分が悪い。
「大丈夫ですか」
「無理……」
火音は月火に後ろからもたれると、月火はその腕を撫でる。
緋紗寧がそれを撮ろうとすると火音が月火の顔を隠した。
「……つかれた。コイツ追い出そう。いらない」
「少しはシャットアウトしてください」
「無理。嫌いすぎる」
「めっちゃ甘えん坊だ。うわぁ」
「こういうところが殺したくなる」
「少しは話せると思ったんですけどねぇ。緋紗寧さん、いじめるのやめてください。火音さんは殺意押えて」
「無理、悪化する」
「いじめられる方が悪いって言うじゃん?」
月火は呆れると、さっさとメイクを完成させた。
机を片付け、火音を座らせると歓喜する緋紗寧の後ろに移動する。
そのまま頭を掴んで、爪を立てた。
「頭蓋骨……割れるんですが……」
「可愛い可愛いイケメンの弟だぞ? 可愛がれとは言ってない。お互い干渉するなって話。今までいなかった人間を今まで通り無視しろっつってんの。楽でしょう?」
「怖いですロリちゃん」
「ロリやめろ」
緋紗寧は月火の手を離すと、ソファにもたれてその手を引っ張った。
「じゃ君が火音君と仲良くしないなら考えるよ。俺ロリコンだけど歳の差嫌いなんだよね。子供にいい大人が集ってんの見てもキモいし。君もう高校生だしロリ顔だし、いいでしょ? 恋愛とかそんなまどろっこしいのじゃなくて俺の癒しになってくれたらいいからさ」
「はァ?」
月火が眉を寄せると、緋紗寧が笑うと同時に火音が緋紗寧の顔面を掴んだ。
コーヒーを取って月火に渡し、ソファから引きずり下ろすと腕を後ろに拘束する。
「月火、黒縄または手錠か南京錠。鎖で」
「ひ、火音さん……?」
「沈める」
「暴力反対だぞ〜弟」
「黙れ犯罪者。月火に触れた時点でアウト」
「お前もロリコンじゃねぇか」
「餓鬼に興味はねぇつっただろ。せめてヤンデレ気質って言え」
「ロリコン! 上手い言い訳で部屋に転がり込みやがって!」
火音は緋紗寧の後頭部を押さえると顔面を床に押し付けた。
床に寝転がる時点で瀕死の緋紗寧は発狂し、火音はそのまま何度か殴る。
「火音さん……!」
「マジで殺す。月火包丁。てか感電死でいいよな? マジで……!」
月火はコーヒーを机に置くと興奮気味になっている火音の顔に触れて、頭を撫でた。
「月火、早く包丁。いるならブルーシート。殺すから」
「大丈夫ですから。落ち着いてください」
「無理。持ってこないなら死ぬまで殴る。嫌いな奴の血に包まれるなら願ったりだ」
「緋火の時も言ってしまたね。そんなに怒らなくても大丈夫ですよ。ただの冗談ですから、真に受けないで」
「……冗談じゃないよ?」
白葉が緋紗寧の腕に噛み付き、頭の上に乗った。
緋紗寧から月火に移動した火音は月火の背を掴みながら、どうしようもない腹立たしさを堪える。
「……意味分からん……!」
「嫌ですよねぇ。よしよし。もう大丈夫ですから」
「無理」
「大丈夫ですよ」
腹立たしいという感情に任せて言葉を発する火音を落ち着かせ、立ち上がると部屋に連れて行った。
月火のベッドに座らせ、頭を撫でようとするとその手を掴んで下ろされる。
「意味分からん」
「適当なことしか言ってませんよ」
「クソ……!」
「私はロリじゃありませんし火音さんがイライラする理由も分かってます。でもそうはなってないので大丈夫ですよ。火音さんが疲れる必要はないんです」
火音は月火が少し痛がるのも気にせず背を強く掴み、髪を巻き込むのも気にせず服を握り締めた。
だんだん力が弱くなったかと思うと、泣いているのに気が付く。なんて情緒不安定。
「よしよし。疲れたでしょう。水持ってくるので少し休んでいてください」
火音がベッドに横になると、黒葉が傍で見守るとでも言うように出てきた。
月火は黒葉に頼むとリビングに戻る。
「……火音君大丈夫だったー?」
「あまり。本当にからかうのはやめてください。思ってる百倍はストレスかかってますから」
「あれ見たらよく分かるよー。なんか病気? 躁鬱とか? パーソナリティ? 前は鬱っぽかったけど今の見たら躁鬱っぽいよね」
「分かるなら本当にやめてください。今だって必死で薬飲ませてるのに」
「はぁい。もうしません」
「次やったらあなたの妖心噛み殺しますね」
「……妖心って死ぬの?」
「死にますよ。主に危険が及ばない限り自分を過剰に守ることはないので狐なら瞬殺でしょうね」
月火はコップに水を入れるとペットボトルと薬を持って部屋に向かった。
部屋に入ると火音が起き上がって、月火に手を伸ばした。
月火は火音の頭を撫でると膝に座って、コップと粉薬を渡す。
「……薬?」
「飲んでください。そしたらぎゅーです」
「……いらない……」
「飲みなさい」
「嫌」
火音が首を振って拒否するので、月火は少し困った顔をした。
「飲まなかったら口移しですよ? 嫌でしょう? 私やったって公言しますからね」
「……何の薬?」
「ただの解熱剤です」
「何?」
「いつも飲んでるやつですよ」
月火はコップに入っていた水を九割ほど飲むと、それに粉薬を入れた。
軽く振って、火音に渡す。
「飲みなさい」
火音は嫌そうにそれを受け取ると、数秒止まって月火を見上げた。逃げられないのを悟ると、一気にそれを飲む。
ものすごく不愉快で、水をもらうと一気に飲み干した。
「まずい……!」
「よくできました」
約束通りハグをして、背中をポンポンと叩いた。
火音は月火にすがりつき、月火はよしよしと撫でる。
これで興奮状態も落ち着くだろうし、今は眠って休養を取らないと。
「……アイツいつ返すの? いらない」
「補佐の方にホテルまで送ってもらいましょう。我慢してくれてありがとうございました」
「…………ん」
玄智君、お誕生日おめでとう(6月12日)。
毒舌キャラ、頑張って。




