68.風呂場
CMが無事完成し、月火は上機嫌で夕食を作る。
明日の昼に帰るのだが、火音は後ろのちゃぶ台で突っ伏している。充電が切れたらしい。
水月と火光はいつも通りじゃれ合い中。
「月火、ご飯なにー?」
「何がいいですか」
「刺身!」
「無理ですね。オムライスです。卵消費しないとなので」
「食材使い切るのもすごいよねぇ」
「計算だよ水月君」
「黙れ芸術家」
月火はものすごく器用に卵にご飯を包んだり卵をねじったり、ご飯の上で切ったり、フライパンを振って皿に乗せたり。
一人一人の好みに合った包み方をすると、ケチャップをかけた。
「火音さん、先に部屋戻っといてください。持っていきますから。駄々こねるなら一緒に食わせますよ」
火音はのろのろと歩いていき、月火は机に四人のご飯を置いた。
「月火、火音君大丈夫なの?」
「うーん……昼間まではものすごく上機嫌だったので充電が切れたんだと思います。明日満タンになったらいいんですけど……」
「バッテリーかよ」
「ガソリンです」
「なんか違う?」
「勝手に揮発する」
火音の部屋にご飯を持っていくと、火音は黒葉にもたれて脱力していた。
「火音さんは黒葉が好きですね。ご飯持ってきましたよ」
「…………つかれた」
「お疲れ様です。もうゆっくりしましょう」
「ほんとに疲れた……むり……」
月火がちゃぶ台にお盆二つを置いていると、火音が上からもたれてきた。
体をひねって、火音を支える。背筋が。
「食べれそうですか? 明日の朝でもいいですよ」
「……動くの面倒くさぁい……」
「昼間テンションが高かったので余計疲れが来たんでしょうか。よしよし」
月火は大の字に倒れた火音の傍に行くと、火音の頭を撫でた。
火音は月火の膝に頭を乗せると月火の手を頭に乗せる。
「つかれた。つかれた……」
「よく頑張りました。一応今日も新幹線貸し切ってるので今日帰ることもできますよ?」
「……新幹線貸切って馬鹿高いんじゃ」
「ん〜、貸し切りが丸一日でちょっとお得にしてもらいましたからね。億はかかってないですよ?」
「さすがに申し訳ない」
「ありがとうって言ってください。人助けをするためのお金です」
「でも……」
「それ以上負の感情を出すとチーズ口に入れますよ」
月火が火音の頬を挟むと、火音は口を噤んだ。
頑張って食べて、頑張って風呂に行ったので月火は脱衣所前でしゃがんで待機する。
母屋の風呂の一つだが、離れに近いので離れ組の風呂になっている。
月火が時たま頑張れと応援しながらスマホをいじって待っていると、上から誰かに覗き込まれた。
見上げると、顔面国宝級。間違えた緋紗寧。いや間違えてはねぇか。
「なんですか?」
「何してんのこんなとこで」
「火音さんが風呂なので誰かが入らないように監視中です」
「明かりついてたら分かるでしょ」
「体験ありませんか? 入ってたらいきなり女の人が入ってきたとか酔った男が入ってきたとか」
「いやいや君じゃないんだし」
「火音さんは多々ありますよ。多くは寮への不法侵入も兼ねて」
「……治安悪ッ」
否定はしない。
月火が薄笑いになっていると、緋紗寧が月火の隣にしゃがんだ。
「なんです」
月火は一歩横に離れる。
「二人は付き合ってるの?」
「いいえ。何故ですか」
「ロリコンは俺もだから」
月火が身を守ると、緋紗寧はふいっと顔を逸らした。
「俺の対象年齢は十四歳以下ですぅ」
「……火音さんを犯罪に巻き込まないでください。同じ顔なんです」
「火音さんですかっ?って何回街で声かけられたか。誰だよって思ってたけどまさか弟とはね」
「妖輩の詳しい事情は知りませんか」
「興味ないもん」
「火音さんもロリに興味はないんです」
「君と付き合ったらロリだよ?」
「私がロリの年齢を超えればただの歳の差です」
「へぇ?」
「でも火神に残るか分からないなら婚約話は暒夏さんに流れますからねぇ」
双葉はあの五人で終わりと言われていたが、火音達が見つかったことで存在が確定した。
火音の戸籍の話はまだまとまっていないようだが、でも婚約候補は一からたぶん八ぐらいに下がるだろう。どうでもいいが、火音の『体質対策のいい方法がなかったら婚約作戦』は破綻するかな。
火音が双葉になったら暒夏は月火と婚約したいと言い出すだろうし。たぶん月火の婚約者は稜稀が決めるのでなんでもいいか。
「緋紗寧さんはロリコン一筋ですか。甘顔の彼女とか」
「うーん、そもそも女に興味ないからなぁ。可愛かったらショタでもいいし。あぁ顔がって意味ね」
「私ロリ顔にもなれますよ。メイクでですが」
「ほんと? 明日やってよ」
「構いませんが。……緋紗寧さんって妖心何体出せます?」
「うん? 俺の妖神は分身するから。でも本体で言ったら1.5、ぐらい? 子供……みたいな」
「そもそも妖心なんですか」
「天狗。風躁るよ。初詣の時もそれでやった。初日の出か」
「便利ですねぇ」
月火が少しうつらうつらして、目を閉じかけているのに気付いた緋紗寧はそれに一歩近付こうとした。が、その前に扉が開いて火音が月火を抱き上げる。
「お邪魔しました〜」
緋紗寧はさっさと去っていき、なんだったんだと睨んでおく。
月火が目を覚まし、現状を理解すると慌てた。
「お、降ります。疲れてるでしょう? 先に帰っといてください」
「待っとく。月火も危ないし」
「私は狐がいるので大丈夫ですよ?」
「あの狐反応鈍いし」
怒って出てきた白葉が噛み付こうとするのを月火が掻き消し、ホッと息をついた。
「それじゃあ、すぐに上がってくるので見張りお願いします。飽きたら好きにしていいですから」
「うん。ゆっくりしてきて」
少しして、スマホを見るやる気もなく床を眺めていた火音は足元に黒葉が出てきているのに気付いた。
頬を撫でると尾を振る。
「主様が起きないの。風邪引いちゃう」
「寝てる?」
「うん。完全に寝ちゃった」
「あー……」
しばらくは起きないか。
誰か女、赤城はいないし晦もいないし玄智は男だし稜稀は過呼吸になるし、母親二人に見られるわけにはいかないしと連絡先を見ていると鬼互の連絡先を見付けた。アイツ妹来てたっけな。
『もしもし? どうしましたか』
「妹離れ側の風呂場に呼べ」
『玄寧! 風呂場離れ!……どうしたんですか?』
「月火が寝たから」
『あぁ、すぐッ……』
途中で電話を切って、扉から二、三歩ズレた。
「ねぇ火音、お湯出てるの。風邪引くわ」
「大きくなって止めろ」
「やり方分からない」
火音は頭を押さえると、少し考えてから風邪より貞躁だなと結論付けた。
「お湯だろ、平気」
「ほんとに? じゃあ風邪引いたら首噛みちぎるわ」
「やめて」
少しして、玄寧とその母が来た。
月火を任せ、火音は無心でお腹を見せて撫でてもらう黒葉を撮る。暗闇なんて気にしない。
そんなことをしていると、扉が開いた。
「火音さん、あとお願いします」
「はい」
火音は立ち上がると、抱っこされている月火を横抱きにした。
ここ数日ずっと当主として社長として気を張っていたので一気に疲れが出たのだろう。
月火の腕を首に回すと、ついてくる黒葉とともに部屋に帰った。
月火を寝かせ、今日は膝で寝れないなぁと思いながら布団を敷く。人の温かみを感じながら眠るのがあれほど心地よいとは思わなかった。
人が着たあとの上着の温かみでさえ気持ち悪いと思ったのに。
枕にバスタオルを敷いて髪を上にあげ、タオルでしっかり水分を取った。
ぽんぽん叩いて、根元もタオルドライする。
ほんとに絹みたいな、日本人形並みに綺麗な髪だなぁと思っていると髪の毛をいじっていたせいか月火が大きくあくびをした。
うとうとと目を開けて、頭に疑問符を浮べる。
「……あれ……?」
「風呂は玄寧とその母親にやらせた。俺は見てない」
「よかった……すみません、風呂場で寝るなんて……」
「気が抜けたみたいでよかった」
「……膝枕してほしいんですか?」
「人と寝るのあったたかったから」
火音が自分の布団も降ろしていると、月火は布団から這い出てきた。
何をする気かと思えば、火音側に潜り込む。
「はい」
「お前俺に見られたくないくせにそういうのやんの?」
「駄目ですか。まぁ倫理的に駄目でしょうね」
「うん強制退場の部類」
月火はムスッとしながら、自分の布団を引っ張ってきた。
布団をくっ付けて、そこに潜る。
「これならセーフです」
「近付ける意味ある?」
月火は火音の布団に手を入れると、手を掴んだ。
「ほら」
「……おやすみ」
「あれ〜?」
火音は背を向けて眠ってしまい、月火は首を傾げながらもそのまま寝落ちした。




