64.会議準備
昼間、月火は火音と共に母屋の奥座敷に向かう。
最も広い部屋じゃないと人数が入らない。赤子含め御三家と分家、今回の関係者となると百人近くいる。
特に火神派と水神派は多く集めたので。
月火は中に入ると上座にパソコンを置き、資料の確認をする火音を見上げた。
「大丈夫ですか」
「仕事に私情は持ち込みません」
「教職休んだくせに」
「やり甲斐なけどやらないと寮から追い出されるじゃん」
「まぁ無関係を置いておくわけにはいきませんからね。そんなことより私大事なこと忘れた気がします」
「どんまい。俺は刀取ってくる」
「せめて何か聞いてください」
「分かったんで」
火神に関する噂のリストを作成を忘れていた月火はスマホにまとめていたそれを早急にパソコンに打ち込む。
パソコンのタイピングは一分で日本語、80から90文字打ち込めるのでそれなりに早い方ではあると思う。が。
「……水明さんこれ任せました」
「投げましたね?」
「知りません」
月火はスマホとパソコンを水明に渡すと、玄智からスマホを借りる。
「月火が仕事忘れるなんて珍しいね」
「覚えてるのでやる必要がないんですけどね。何か見て言った方が信憑性増すでしょう?」
「いやぁ月火の場合はそんなこともないよ?」
「月火様、できました」
「……早くないですか」
「水月様に言ってください」
月火はほんとにできている資料を見て目を丸くした。
上から手が降りてきて、上に向けさせられる。
「いらないから水明に無茶振りしないの」
「すみません。どうやったんですか?」
「写メって読み込んでコピペ」
「わぉ時短」
「げっか〜、資料確認しといて」
火光は月火に分厚いファイルを渡すと、月火は指を横に滑らせ、パラパラパラとめくる。それを左右から四回ほどやった。
その間に水月がパソコンとスマホを持っていく。
「9と38ページ同じ、102と6ページ矛盾、113ページ飛んでます」
「あれ。誰だこれ作ったの……」
「水月兄さん」
火光は上座に行くとファイルで水月を殴り、月火は火光の腕をつねった。
水月は頭を抱え、火光はそれを直していく。
「……火光が作るべき資料だよ!」
「回してくれたら作りましたがな誰だよ取って雑いまとめ方したのは」
「すみません」
「……てかこれデータ抜けてない? 白紙なんですけど」
「あれ?」
「私白紙は認識しませんよ」
「あれーどこ行った」
三人で三角形にパソコンを並べ、各々データを確認する。
「……あマジで抜けてるやべ」
「馬鹿やってんね。月火覚えてる?」
「覚えてますけど白紙抜いてくださいね。邪魔なので。0.1グラムでも軽く」
「はぁい。火光あれどこに入れた」
「そっち」
「火音どこ行ったの? 進まないんだけど」
「刀取りに行ってます。あの方仕事終わってますよ」
「いらなくない?」
「いるんですよねぇこれが」
外からぺたぺたと裸足の足音のようなものが聞こえて、妙に冷たいその足音に気付いた皆がそちらを見る。
襖が開いて、緑の怪異が姿を現した。
皆が警戒する前に、何かが暴れるそれを咥えぶんぶんと振り回した。
一瞬静かになったと思えば、ぐちゃぐちゃと喰い始める。
『まっず。うえぇ……』
『なんでも食べるからよ』
『まずぅいぃ!』
「うるせぇ」
月火は大きいまま入ってきた白葉と、肩の上に出てきた黒葉を黙らせた。
黒葉は垂らした尾をゆらゆら振って、白葉は珍しく四本の尾をなびかせる。
いつもは一本で九尾らしさなんて微塵もないのに。
月火は黒葉を肩からおろし、近寄ってきた白葉の頭に乗せた。
てか火音どこ行った。
『そろそろ帰ってくると思うわよ』
『黒葉邪魔ッ! 降りて!』
『主様が乗せたの』
白葉が勢いよく頭を振ると黒葉が落ちて、体を床に打ち付けた黒葉は白葉に怒鳴った。
二体が喧嘩体勢になり、月火はこめかみを押える。
そのうち飽きたらしい黒葉は小さくなるとやってきた火音の足元に行った。
「騒がしすぎる」
「付けてるんですけどね」
「あアレ切れてたぞ」
「……ほんとに? やりすぎたかな……」
「えやりすぎるとかあんの?」
「お役御免にならなかったら殺人なんて起きてません」
「……俺危なくない?」
「葬式ぐらいやってあげます」
「やめろて」
火音は刀を部屋の角に立てかける。
妖楼紫刀は紐が切れていたので持ってこなかった。持ってこなくて正解だった。
紐が押さえきれなくなったら刀が暴れるなんて、殺意高すぎるだろあの刀。一番人を殺してるだけある。
「月火、火音の親どれ?」
「あのお二人」
「火光行ってきてよ」
「やだよ絶対面倒臭いタイプ」
「僕も行きたくないよ。火音の片割れとか。ねぇ月火」
「そうですね」
月火が興味なさそうな声で流すと、水月は振り返って炎夏を指さした。
気付いた炎夏はきょとんとした顔でこちらに来る。
「ね、これあの二人に確認させてきて」
「僕の生徒に押し付けんな沈めんぞ」
「火音様の片割れだろ。やだ怖い」
「散々な言われようですね。水虎さんに渡してきてください」
「結局俺かよ」
「お二人呼んでもいいんですけどねぇ」
火音は黙って水月のパソコンを持っていき、水月が火光のパソコンを取ると火光は月火とスマホでまた何かを作り始めた。
炎夏は月火のパソコンを覗き込む。
「昨日できたって言ってなかったっけ」
「ただの確認と矛盾点ないかの総チェックだよ。チェックは何回やってもミスが見つかるから」
「ふーん。月火なら一発で全部分かりそうなのに」
「私が作った資料のチェックですよ」
炎夏はすたこらさっさと逃げていき、水虎にパソコンを渡した火音が戻ってきた。
「ねぇ火音もやってよ。終わんない」
「あー……じゃあお前しばらく頭空にしとけ」
「え何するんですか」
火音は月火のパソコンを閉じると月火の頭を押さえ付けた。
月火は混乱しながらも白という色だけを考え、段々無になっていく。
火音はパソコンを開くと、ここ最近の月火の記憶にある資料作成時の記憶を一から流した。
月火がしゃがみこみ、火光が慌てて支える。
「……当主候補生呼べ。お前誤字脱字多すぎだろ」
「あぁ気持ち悪い……」
「おめでとう処理落ち初体験だ。身をもって体感しろそして後悔し懺悔しろ俺に向けて謝れ」
「すみませんでした……!」
他人の思考が理解する前になだれ込んでくるというのは物凄く不愉快なものがある。しかも不意打ちで流れるともう堰き止めることはできない。堰き止める方に思考が回らない。
これは、火音が失神するのも分かるなぁ。
水明と水虎、暒夏と炎夏と玄智がやってきて、全員パソコンやタブレットを開いて火音が怒涛の勢いで言う修正箇所を直していく。子供達は誤字脱字、大人は情報の修正。と誤字脱字。
会議にはまだ一時間近くあるが、これは早速頭が痛い。
時々くる怪異は白葉と黒葉が喰らい、火音が言い終わったので交代で月火が直していく。
火音は刀の傍の隅で休憩。
「……終わった! 火音もうないよね!?」
「あーやめて……」
「えーと」
月火は頭を抱え、火音はまたダイジェストでそれを脳内再生した。
「……うん月火の記憶がある限りは」
「やった! 終わった!」
「よーし次だ水月君」
「もーッ!」
「これはもういいです。他は全部暗記してるので。会議始まるまで少し休憩にしましょう」
「やたー!」
「いぇーい! やっと解放された!」
「じゃ、うるさいので出てってください」
「熱湯とドライアイスみたい」
そう呟いた玄智は炎夏とともに席に戻っていき、火光は真顔でそれを見送った。暒夏も戻っていく。
「水明さんたちももういいですよ。景さんたちの傍にいてあげてください」
「何か淹れさせましょうか?」
「僕コーヒー」
「僕もコーヒー」
「私は大丈夫です。……あぁ子供達やあまり関わらない母親等は別室でいいです。あまり人数が多すぎるとアレが持ちませんので。あとこの二人が至極不機嫌なので。泣かれても駄々こねられても面倒ですし」
「子供を移動させる理由をそんなつらつら言わなくても」
「お願いしますね」
「はい」
旧水神兄弟は揃って頭を下げると、二人で一年ズと暒夏にも手伝ってもらいながら子供達や親の移動を始めた。
未だパソコンと睨めっこ中の月火の元に澪菜がやってくる。
「げ、月火さん、私、なにか……」
「……お茶の用意でも手伝ってください。台所の場所は分かりますね」
「わ、は、はい」
澪菜はぎこちなく頭を下げると小走りで出ていった。
十分ほどして、そろそろ会議が始まると言う頃稜稀が火神の当主夫妻と前当主、それに智里を引きずって入ってきた。
月火はすっと姿勢を正して直立のままパソコンを叩き、澪菜は稜稀と水哉の分の飲み物を伝えに行く。
「月火、連れてきたけど……」
「お手数お掛けして申し訳ありません。あとはこちらでやるので大丈夫です」
「いいの? 全然手伝うわよ」
「大丈夫です」
月火が頭を下げると、水哉に気を使わせても悪いと言われた稜稀と水哉は神々傍系の並ぶ最も上座に近いところに座った。
月火は時間を確認すると、資料やパソコンを全て片付け始めた。
「……先生は行かなくていいの?」
「あくまでも当主の兄弟だからね。補佐は夫婦または血の繋がった両親、子供だけ」
「じゃあ、あの量一人でやるの?」
「月火ならできるよ。……できるから、十四で当主に慣れたんだよ」
「一月二十日水曜、十一時。ただ今より妖輩御三家総会議を始めます」




