59.誕生日・水月 後編
一騒動あったあと、また皆が居間に集合したので水月はしょぼくれながら火音のもう一つのプレゼントを手に取った。
火音の腕の中には既に黒葉が待機し、水月に首には火光の手が。
こんな殺伐とした誕生日会初めてではと思いながら、水月はそれを開けた。
一個目があれなのでこっちも期待していると、期待は裏切らない。
「わぁ可愛い!」
「うわいいなぁ!? 火音僕にもちょうだい!」
「はいはい」
二人で興奮する兄と額縁の間にスマホを入れると、玄智はそれを月火に見せた。
まさに月火と言える少女の正面、胸の前で手を重ね、伏せた目は白で、黒髪を広げて。知らない人に見せたら聖女か妖精とでも言いそうな。
月火は火音の胸ぐらを掴むと腹に膝を当てる。
「おい」
「被害代償として」
「ぼったくってんじゃねぇ」
「処理落ち二回と狐被害三回、狐戦六回、その前十八」
「食事」
月火に負けた火音は机に突っ伏し、月火は水月の傍に行く。
「さぁ、著作権は火音さんですよ」
「著作権放棄!」
「だってさ」
「肖像権は私にあります」
「誰も月火を描いたとは言ってないもん。所有権は僕にある」
「わ……」
「システム、止めるよ」
月火が固まり、水月は真っ黒な笑みを浮かべた。
「困るよねぇ、会社のシステム。僕に著作権があるんだもん。契約破棄だってできるよ? 他に作れる人知ってるの? 積んできたデータ、僕のものになるよ?」
「……解雇しましょうか。システムは一般のものでも問題なく対応できるものですしプログラマーなんて何百人と心当たりがいます。貴方の生活基盤、私の手のひらにあるんですよ」
「こんな幸せにならない誕生日会やだね」
「な」
玄智と炎夏が顔を見合わせると、火光がそれをひょいっと取り上げた。
「間を取って僕が貰います。玄智、いる?」
「なんで?」
「著作権、放棄されたよ?」
玄智は大喜びでそれを受け取ると、人と影が入らない床でそれを撮った。
フィルターをかけて、絵を火光に返し、さっき撮った散らばった写真と共に投稿の下書きにしておく。
「あー10万いいねが見える」
「幻覚見えてんぞ」
「未来予知って言って」
月火は火音の隣に戻ると、突っ伏している火音の頭に手を置いた。
不満そうに見上げてきた火音を、殺意の籠った目で見下ろす。
「丸飲み、覚えてますからね」
「遺書でも書いとこうかな」
「あるでしょう」
「犯人ツキちゃん」
月火に殴られた火音は背中を押えて倒れ、その間に水哉は水月にプレゼントを渡した。
稜稀や一年ズ、鬼互も渡している間にどっかに行った月火が大きな箱を持って戻ってくる。
「月火のプレゼントそれ!?」
「違います。私からはこれ、こっちのダンボールは……」
水月の横に置くと、隣からもう一つ同じ大きさのを持ってきた。それに、大きな紙袋も。
「神々社、月火社、上層部の皆さんからです。私のは当然入ってません」
水月は固まると挙動不審になり、火光を見上げた。
火光は勝手に月火からのプレゼントを開ける。
「あ、よかったじゃん水月。廃盤になった両手マウス」
「……わぁ?」
「あーあ語彙力失った」
「そこまで顕著に現れますかねぇ」
「お前も大概だろ」
「え力説した方がよかったですか?」
「それはそれでちょっと嫌」
「でしょう。そのマウスの製作会社の会長に連絡が取れたので特別価格で作って貰ったんです。近いうちに数量限定の私デザインの何かも発売されます」
「あーなんかやってたな」
「去年一頑張りました」
「去年一ね」
月火と火音が喋っている間に、水月はボロボロと泣き始める。
火光はその写真を撮ろうとしたが、その前に顔を隠され抱き着かれた。
「うぅー……」
「ほら水月、も一個あるよ」
少し顔を上げたところで写真を撮って、それを確認した。勢いよく肋を殴られ、腹を抱える。
「痛った折れた……」
「ふぅ〜イッケメーン!」
「可愛いの部類に入るなこれは」
火光の胸に顔を埋めて、ちょっと出た目は上目遣いで。売れる。
「僕の兄妹顔面偏差値高くない。恵まれてんなぁ!」
「自分はいれなくていいのかよ」
「顔で困ってる奴らが三人いるんでね」
「火音先生と瓜二つのくせに。何が駄目なんでしょうね。塩顔で言動が幼いからでしょうか」
「単純に馬鹿っ面だからじゃない?」
「おい毒を振り撒くな」
玄智の言葉で火光は死に、水月は顔を上げない。
月火はケーキを二ホール持ってくると、一つを手に乗せたまま倒れた水月と死んだ火光を背景に写真を撮った。あとで矢印で『主人公』と書いてアップしよう。
一年二人は水月と火光を踏んで乗り越えると二人の席の前に並べられるケーキの写真を撮り、ケーキ包丁を持ってきた月火はまた席に戻った。
「またフルーツ」
「今回はonタルトです。抹茶でしょう?」
「うん」
「前回のフルーツも食べてませんし零回ですね。文句言わないでください」
「眠くなってきた」
「そうですか」
月火は二つを回収するとそれを切り分け、水月と火光に二種二切れ渡す。チョコプレートは水月と火光に。
皆に配って余った一切れは食べたい人がどうぞ。
「さ、食べましょう。兄さんたち起きてください」
「……玄智癒して」
「授業分かりやすいよ〜。見て炎夏、クッソ盛れた」
「お前なんでもござれだな」
「いーでしょー」
水月は涙を拭いながら起き上がり、元気の出た火光はケーキに喜ぶ。その顔に純粋な笑顔が似合わねぇんだな。たぶん慣れの問題だけど。
「たーべよ。いた……」
「そーいや火光って月火の誕生日にプレゼント何渡したの?」
「アナログ画材総セット」
「そう」
「いただきまーす」
水月と火光は声を揃えて食べ始め、月火は皆の米を配膳する。
皆もおずおずと食べ始め、月火は米を配ると酒を持ってきた。
「はい兄さん。あげます」
「いりません」
「そっちじゃありません」
「いりません」
月火は二人が拒否した酒を廻醒に回し、水月と火光にはノンアル。
「何にします?」
「いらん」
「そうですか」
火音はチビチビとご飯を食べ、月火は先に水月の誕プレをまとめて少し離れたところに置いた。
ポットを移動させ、色々確認してから火音の横に座る。
「……美味しくないですか」
「一生今日が続けばいいのに」
「どこぞの主人公ですか。その顔なら張れますよ」
「あー……」
「食べてる時ぐらい黙ってください。いただきまーす」
月火は一番最後に食べ始めると、腕の中から顔を出した黒葉の口を押えて押さえ込む。
「出てこないで」
『食べたいの』
「あとで」
『今』
月火は箸を置くと黒葉を連れて厨に移動し、ケーキ以外食べ終わった火音もそれについて行く。
「お前指輪は?」
「付けてません」
「付けろ。せめて妖心が言うこと聞くギリギリまで下げろ」
「怖いんですもん」
「てか一部が触れてるだけでいいならネックレスにでもしたら?」
「……あぁ」
月火は土間に魚の頭や背骨、腹骨、血合いを置くと、黒葉が食べている間に走って部屋まで戻った。
全然使っていないネックレスのチェーンを外し、指輪を通した。
火音が後ろで留めてくれて、外れないかを確認すると着物の中に入れた。
一番長いやつを選んだので着物に隠れるし、首も凝視しないと見えない。
「大丈夫そうですね」
「吸われてる?」
「はい。助かりました」
心臓と繋がってる指にはめるなら、心臓の上に置いても一緒だろ。
二人で居間に戻ると稜稀と火光、寧夏と玄寧が潰れ、水月は一年ペアと一緒にプレゼントを開けていた。
なんでだろう、静かに食べているのが水哉と廻醒だけだ。
「火光兄さん……飲んだんですか……?」
「母さんが飲ませた。遅かったねー?」
「これ取りに行ってたんです」
「指輪でしょ。妖心食べたがってたもんね」
「あぁ」
玄智の予測通り月火は指に触れ、納得した水月は視線を戻した。が、すぐに火音を指さす。
「お前はストーカーすんなッ!」
「ただの付き添いですー」
「火音さん食べ終わるの早いですね」
「お前が遅いんだろ」
「準備が色々ありまして」
月火は食器をまとめるとお盆に乗せ、厨に持っていく。
「座ってていいのに」
「危ないじゃん」
「世話好きですね」
「心配性って言え」
「それはいいんですか」
「心配はしてるから」
二人で机を片付けると、月火は余っていたご飯をついで大皿を前に並べ、ようやく落ち着いて食べ始めた。
白葉が出てきて、月火の膝に乗る。
「まさか食べたいとか言わないでしょう」
『黒葉がいないんだもん』
寂しがりめ。




