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妖神学園 改正版  作者: 戯伽
1年生
58/103

58.誕生日・水月 前編

 水月誕生日の夕食前、月火がパソコンで仕事をしていると寝転がってスマホを触っていた火音の思考が流れ込んできた。


 月火は眉間を押え、火音は起き上がる。




「制限しろ」

「処理落ち防止でやめてるんですよ」

「どーも」

「いきなり変なこと考えないでください」

「処理落ちしないよう必死なんだよ……!」



 頭を抱えた火音と仕事をやめない月火が言い合いをしていると、玄智が寄ってきた。



「処理落ちって何? 機械と一緒?」

「そもそも一人の人間として頭フル回転させてますからね。そこにコンピューター並の脳が追加されればそりゃ落ちるわけで」

「お前の脳みそが人間超えてんだよ」

「そんなこと断固としてありません。感覚で生きてきた火音さんの脳容量が小さいんです」

「容量小さくはないと思うなぁ……?」

「ほら」

「いーや絶対火音さんのせい!」

「多くは月火だろ。お前バクグラ何百あっても落ちねぇじゃん」

「機械用語で例えないでください」



 玄智は月火の首に腕をかけながらパソコンを覗き、炎夏は玄智の視界を塞いだ。月火はそっとパソコンを伏せる。



「ほんとに思考止めて」

「無理でーす」

「せめて解決してください」

「分かる?」

「分かりません」



 月火は火音のスマホを取ると火音が探しているものを探し始める。


 ふと、玄智は月火の手を掴むと人差し指を立てる形にしてスマホの通知バーを開いてみた。



「へぇ」

「あーね」

「ははっ」

「おい」


 火音はスマホを取り返し、玄智と炎夏二人で火音のアカウントを探す。



「わー有名人!」

「あれブロックされてるッ!?」

「ちょっと!」

「あぁそう言えばしたな」

「ねぇ!」

「ったく……」



 炎夏が何かをし始めたのを見て玄智も手を打ち、炎夏を真似始めた。

 月火は裏垢で新しくできる炎夏と玄智のサブを探し始める。



「俺が二人の見付けたのお前のフォローからだぞ」

「お前のせいかよ」

「やめてね、月火」

「残念……」



 玄智は月火のスマホを借りると、炎夏とともに月火のアカウントから火音の投稿を見る。



「この名前は無理だね」

「かすりもしてねぇな。そりゃ火音様が本名でやるわけないか」

「火音先生がやってるってこと自体びっくり」

「想像付かんよなぁ」

「あでもめっちゃ昔からやってる」

「めっちゃ昔のもバズってんじゃん」

「マジ暴露しようかな。女子高生のヒモ」



 月火はスマホを取り返すと、二人の隣に寝転がった。


 三人で寝転がって写真を撮る。二人の対応力よ。



「これでいいですか」

「お前一人でよかったんだけど」

「自撮りの趣味はなくて」

「いっつも撮ってるくせに」

「火音さんがね」



 火音は写真を参考にしながら絵を描き、月火は仕事を再開する。



「ねぇ音楽聴きません?」

「無理落ちる」

「詰め込めば広がりますよ、そのうち」

「体験談やめろ。無理」

「わがまま」

「切れねぇかなぁ」

「知りません」





 月火が夕食の準備をしに行くと、炎夏と玄智は火音の手元を覗き込んだ。


 水月は物凄く不服そうな顔で火音を睨む火光の頬をさす。



「嫉妬しないの」

「してない」

「先生も見に来たら?」

「興味ない」

「あっそ。火音先生シュレディンガーの猫って何?」

「いきなりだな。確認するまで二つの可能性は同時に存在してるってこと」

「なんで猫なの?」

「猫で実験したから。……何の話?」

「べーつに」

「火光、ヘラクレイトスの川は?」

「僕よりアニメに聞きなさい。課題持ってきて、見るよ」



 二人が走って出ていって、火光は溜め息をついた。

 水月はけらけらと笑い、稜稀もクスクスと笑う。火光は首を傾げる。




「鬼互、なるならこういう教師になれよ」

「それより火音さんとツキちゃんの会話が面白すぎて」

「僕は意味分かんない」

「文章に起こして単語をはめてったらあぁって」

「面倒くさ。そこまでして他人の話聞く気になれない。水月あれ取ってきてー」

「自分で行って」

「僕は可愛い可愛い僕の生徒が帰ってくるからー」



 仕事をしていた水月は盛大な溜め息をつくと、机に顔を置く火光に体重をかけながら立ち上がった。火光は背中を押えて横に倒れ、水月は背中を蹴り飛ばしてから歩いて行く。



「兄ちゃんあれって何?」

「知らん興味ない」

「月火さんが好きなだけかよ」

「謎解き感覚。あとで答え合わせしよー」

「火音さんでいいやん」

「絶対適当なことしか言わんやん」



 廻醒は寝転がって、スマホを見ると耳に付けた。


「はーい」

『火神家近くに二級三体です』

「他の人おらんの? 俺神々やねんけど」

『近場じゃないですか行ってくださいッ!』

「えー寝転がったのに」

『腹筋鍛えて』

「背中割れてんやけど?」

『……大丈夫です』

「何がやねん」

「緊急依頼でここまでごねる人初めて見た」



 火音も結構文句を言う方だが、火音に関しては無理の一言で切る。他はごねる人なんていないし。上位になればなるほどあぐらをかくようになるのだろうか。



 火光は立ち上がると、鬼互からスマホを取った。



「もしもし? 炎夏と玄智に回していいよ。そう、神々にいるから。……うん、僕行く。……それは自分で言って。じゃ」



 火光はそれを切ると、鬼互の顔を覗き込んだ。


「生徒の前でやんなよ」




 火光は炎夏と玄智を呼びながら出ていき、廻醒は起き上がると口を押える。



「先輩に怒られてやんのー」

「……あの人こっわ。二面性どころじゃないじゃん……!」

「そんなに?」

「生徒好きすぎやろ……」
















 三十分ほどすると、月火が居間に戻ってきた。



「二人ともー。……あれどこ行きました」

「……知らん」

「任務だってさ。分かんなかったの?」

「火音さんが現状を把握してないことにはさすがに……」

「あぁ、そっか」

「では夕食は三人が帰ってきてからにしましょうか。水月兄さん、ちょっと」

「何? なになに?」



 月火に手招きされた水月は嬉々としてついて行き、廻醒も電話しに行き、喋る人のいなくなった居間は静かになった。



 ふと、書類仕事をしていた水哉が顔を上げる。稜稀の肩を叩いて、二人で少し相談をした。




「……火音君、これ」


 稜稀に声をかけられた火音は書類を借りると、それに目を通した。



「……こっちで処理しておきます」

「また月火に報告してね」

「はい」




 そう返事をした途端、頭に鈍い痛みが走った。


 こめかみを押え、タブレットを消すと机に置いて倒れるように寝転がる。



 稜稀が心配する前に黒葉が出てきて、横向きに寝転がった火音の頭に座ると尾を垂らす。



 黒葉はそのまますやすやと眠り始め、思考が停止した火音もそのまま失神した。








 肩を揺すられ、目を開ける。

 上を見ると、月火がいた。



「大丈夫ですか」

「……ふざけんなこの野郎」

「すみません。まさかここまでとは」

「あー気持ち悪い……」

「部屋戻りますか」

「動けるわけねぇだろ」

「じゃあ放置しますね」



 月火はうずくまった火音に頭から羽織りをかけると夕食の準備をした。




 三人が帰ってきて、火光が炎夏の怪我を手当しに行っている最中。


 そもそも無傷で帰ってくる月火と火音がおかしいのであって。




 刺身と南蛮チキンを机に並べると、汁物やご飯、取り皿を並べた。


 各々誕プレを取りに行く。




「兄さん仕事やめて喜んどいてください」

「やったー」

「面倒臭いものと面倒臭いものリクエストしたんですから」

「楽しみだよ〜月火ちゃん」

「そうですか」



 任務組も終わると玄智と炎夏が手伝ってくれて、月火は廻醒を呼んだ。ずっと電話しているのかと思ったら電話が終わったままそこで書いていたようで、一向に部屋に現れなかったのだ。



「廻醒さん、できましたよ」

「あとでいい」

「月火さん、連れて行きます」

「あ、ありがとうございます」



 やってきた寧夏(ねな)は廻醒の傍に行くと、耳を引っ張って引きずった。


「痛い痛い痛いッ! 裂けるちぎれる! 待って無理! ヤバい!」

「うるさいわよ」


 母強。





 皆が揃うと、玄智が醤油皿を配る間に火音を起こした。


「火音さん、食べますよ」

「……お前しばらくロボットにでもなっとけよ」

「自立型コンピューターと言うなら既に」

「俺の操作以外で動くな」

「無理ですね。放置するでしょう」

「うん!」



 月火は火音を殴ると火音の食事も用意し、髪が跳ねた火音はそれを整えた。


 ハッとして、どこかに歩いていく。




「げっかー? 猫消えたー」

「すぐ戻ってくるでしょう。代わります」



 火光は生徒に猫扱いされる火音をけらけら笑い、玄寧(はるね)はタブレットPCから顔を上げない廻醒からPCを没収すると電源を落とした。



「ちょい!」

「安心して、保存したから。せめてもの情けや恥を知れ」

「武士かよ」




 火音は数分もしないうちに戻ってきて、火光はにこにこと笑う水月の顔を撮った。



「あは、売れそう」

「せめてばらまけ」

「労力の無駄。はい誕プレ。はぴば」

「やたー」

「水月、俺からもやろう」

「えー珍し。初めてじゃない?」



 月火の隣に座った火音は膝立ちになると水月に30センチないぐらいの薄い正方形のダンボールと、分厚い細めの茶封筒を渡した。



「何? 札束?」

「やめなさい子供の前で」

「うちの生徒いい子なんで」

「ちなみに火光に見られたら嫌われる可能性がある」



 水月は中を見ようとしていた火光からサッと隠して、水哉と稜稀の間でそれを一枚出してみた。


「わぁ!」

「印刷しただけありがたいと思え」

「なんならデータで欲しかった!」

「黙れ」

「えースキャンでバックアップ取らないと」

「何渡したんですか」



 火音からのものであんなに喜ぶのは珍しいと思って、いくらテンションが上がってるにしても不自然だと思いながら火音を見上げた。


 火音は不敵に笑い、月火は立ち上がると火音の胸ぐらを掴んで押し倒した。



「おい」

「ねーこれ……」

「取れ!」



 黒葉がそれを奪うと、回収した玄智が床に中身をばらまいた。



「うーわ」

「なんでこれを火音先生が持ってんだ」




 月火と火光の寝顔集だ。

 ほんとに、ガチ寝の時だけ。夜なんだろうな、加工で明るさ補正がかけられてる。



「玄智君ッ……!」



 火光が水月を引きずっていき、月火はまじまじと見ている稜稀と廻醒の手から写真を抜き取った。



「お願いですからやめてください。死にます」

「可愛く撮れてるのに。貴方寝てる時も可愛いのね」

「なんで撮ってんだ!」

「火光に送ったやつが残ってた」



 撮った本人は頬杖を突いてしらーっと平然として、月火は写真を集めるとどこかに歩いて行った。


 火音は綺麗な二度見をすると立ち上がって月火を追いかけていく。



「やめろッ! 俺のコレクション!」

「私の印刷機で私が買ったインクと用紙です! 肖像権は私にありますッ!」

「著作権は俺だ!」

「いいえ盗撮で相殺して私に権利があります! データあるんでしょう!? 明日の手間賃だと思いなさいッ!」

「それ犠牲にするなら行かねぇよッ! 迷惑かかんの俺じゃねぇし!」

「大家と生徒に対して情はないんですか!? 教師失格! 天下れ下衆男ッ!」




 すぐに煙の匂いがして、皆が見に行くと厨の上がり框で火音が倒れていた。


 火花が弾ける竈門の前に月火がしゃがんで、黒葉が外に続く戸を開けていた。



「あーあ燃やされてる」

「当たり前だろ。あでも水月泣くぞ〜」

「いいんですよどうせ泣くので」

「水月さんって泣き顔が似合うよね」

「腹黒だからだろ」

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