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妖神学園 改正版  作者: 戯伽
1年生
57/103

57.牧場主

 水月の誕生日当日、月火と火音は昨日の夜に寮に戻り、スポンジケーキを焼いて今朝戻ってきた。本家に型はないので。



 珍しく火音は居間で絵を描いて、炎夏と玄智はそれを見学中。




 そんな昼間、火光が話しかけてきた。



「ね〜、火音って潔癖でもあるんでしょ」

「潔癖でしかない」

「妖力とか置いといてさ」

「あぁ、うん」

「何が無理なの?」

「埃、花粉、ハウスダスト、ゴミ、人の髪も汗も涙も菌も無理」

「これやって見てよ」



 炎夏がスマホを受け取って火音の前に置くと、火音はタッチペンでスクロールした。当てはまるもの全てにチェックを入れる。

 セルフチェック、病院でも役に立つやつだ。



 いつかの時にやったなぁと思いながら、完了を押して火光に返した。



「……あは、ほんとに潔癖だ。見て水月」

「火光の部屋には入れないね」

「無理だねー。毎日掃除とかマジ無理だもん」

「火音先生、潔癖の人ってお風呂前と後でスリッパ変えるってほんと?」

「風呂で変えるし睡眠で変える。毎日同じのとか履いてられん」

「外着でベッドに座らないとか」

「帰ったらまず着替える。ソファはことあるごとにカバー変えてるけど」

「月火が」

「そう」



 炎夏の補足に肯定した火音は玄智の呆れの目線も気にせず、資料を見ながら下書きを描いていく。



「火音何描いてんの? 僕炎夏の課題が心配でならないんだけど」

「あ火光教えろ」

「教えて! 火光せんせー」

「変なコーナー作らないでその生意気な口をやめろ炎夏」



 炎夏は火光と水月の間に座ると課題を始め、終わっている玄智は引き続き見学。



「何描いてるの、火音先生」

「塗り絵。依頼来たから引き受けた」

「火音先生絵でも稼いでるの?」

「いやぁ普段はやらん。でも単価バカ高かったから」

「いくら?」

「一枚7万二枚」

「すご! なんの塗り絵!? 本とか!?」

「大手イラストアプリの公式企画だってさ。周年記念だからアプリのオリキャラ描けって」

「へぇ! そんなすごい人なんだ! 月火はアカウント知ってるんでしょ? 教えてくれないんだよねぇ」



 二人でそんな話をしていると、廻醒が覗き込んできた。



「一枚7万って高いん?」

「基本本物のプロなら4万いかないかなぐらい……?」

「すごー」

「兄ちゃんの依頼料とは比べ物にならんね」

「黙れ玄寧(はるね)

「鬼互先生も描くの?」

「俺は絵やないけどね。一枚7万かぁ……」

「火音先生が一枚で稼いだ最高額は?」



 廻醒が戻って行って、玄智がそう聞くと火音はタブレットに書いて見せた。


 玄智はギョッとして、火音を見上げる。



「……マ?」

「デジタルで言うなら7万5000が最高。これはキャンバス」

「マジかぁ……」

「いくらだったの?」



 玄智は火光に教えに行き、耳元で教えられた火光は目を丸くした。



「……えそれ何に使ったの?」

「画材揃えたら消えました」


 うん百万が三日でな。



 火音が溜め息をついていると、月火がやってきた。


「火音さんがデジタルで描く多くはそれでしょう。絵の具なんて尋常じゃない値段しますし」

「税金払うから毎月補給してくんねぇかな」

「国の借金が増えますね」

「はぁー」



 火音が溜め息をつくと、月火は首を傾げた。玄智が後ろからのしかかってくる。



「キャンバスで描きたいんですか?」

「別に。金かかるなぁとだけ。三色で4000越えとか異常だろ」

「仕方ありませんね」

「いい絵の具使ってんだね」

「発色重視」



 玄智は月火に絵の具メーカーを教えてもらい、火音は納得いかないので描き直す。


 なんだろうな、このキャラめっちゃ描きにくい。あれー。



 火音は寝転がって、キャラの映るタブレットを360度回転させ、いい構図はないかと模索する。



「……駄目だ停滞期」

「絵柄変えてみては」

「変えるかー……」

「模写とか」

「スケブ貸して」

「記憶を頼りに頑張ってください」

「せめて下書きを」

「私は描けとは言ってません」



 火音は首を捻りながら記憶で月火のスケッチブックに描いてあった奇っ怪な世界を思い出すが、奇っ怪すぎて描こうにも描けない。あれを絵に表していたコイツすげぇ。



「感心してる場合じゃありませんけどね」



 水月と共にパソコンにかじりついている月火は火音とよく分からない会話をして、皆がそれに首を傾げた。




「てかお前休みだろ」

「絵描きが休憩に絵を描くのと一緒です」

「社畜〜」

「どちらかと言えば牧場主」

「世話する方が大変か」



 火音はうつ伏せで、月火の写真を見ながらいい構図ないかなぁと探す。

 今回はバレンタインがテーマらしいのでバレンタインらしい構図がいいんだろうけど。




「火音さん音楽聴きません?」

「やだ」

「さすがにいいです」


 さすがに、もうあの鬱曲は聞かない。


 歌詞を見てみたら火音が発狂するのも分かる歌詞だった。歌詞なんて気にしたことなかったからな。

 雰囲気が暗い曲とは思っていたが、まさか深淵だったとは。




 火音はイヤホンを付けると音楽を聴き始め、月火は水月と色々相談を始めた。


 皆で共鳴って便利だなぁと感心する。




 月火は仕事スピードを上げ、水月も黙り込み、火光は炎夏の課題を見ながら水月を手伝い、絵を諦めた火音も火神の仕事を始めた。














 バースデーパーティーは夜なので月火は昼食を厨で食べる。

 皆には唐揚げをして、月火はそうめんが食べたかったのでそうめん。ミョウガに大葉や気持ち程度の生姜、薄焼き卵も入れて。



 美味いなぁとすすっていると、厨の扉が開いた。


「頼むから羽織り着て?」

「アイスよりマシかと」

「悪かったけど! 寒い!」

「生姜入ってますよ? アイスには入ってないやつ」

「ほんと悪かったからマジ寒いんだって」



 それでも月火はタスキをかけたまま食べるのをやめず、火音は体を震わせた。


「……てか真冬にそんなん食うなよ。体に悪いぞ」

「食べたかったんです」

「にゅうめんでいいじゃん」

「これが! 食べたかったんです」

「そんなん食ってるから手冷たいんだろ」


 頬にベチっと手を付けられた火音はその手を叩き落とし、頬を押えた。


「殺す気か。心臓止まるわ」

「AED使ったら衝撃ってくるんですかね」

「あー、痛みは来なさそうだけど。意識ないから伝わらんだろ」



 月火は麺つゆまで飲み干すと洗い物を始めた。


 火音は体を震わせながら居間に戻る。



「火音先生大丈夫?」

「聞く耳なし」



 火音は黒葉を抱っこしながら寒い寒いと言い、皆が心配そうにした。


 炎夏が立ち上がって、どこかに行く。



「凍え死にそう……」

「これ火音先生あっためたら月火どうなるんだろ」

「寒さをかき消すには五右衛門風呂に入れるか獄熱カイロで囲むかだよ。火音の体温下がってるなら湯たんぽじゃ体温を戻すだけになるから」

「なるへそ!」



 炎夏のワークに色々と書き込んでいる火光の説明に玄智が納得していると、月火が羽織りを羽織ったのが分かった。


 炎夏が羽織りをかけに行っていたらしい。




 炎夏が戻ってきて、少しマシになったかと思ったが。月火は羽織りを脱ぐとぶんぶんと腕を振り始めた。



「お前寒くねぇのかよ……」


 火音の一見独り言に見える会話が始まって、また怒って厨に歩いて行った。




 厨から怒鳴り声が聞こえたかと思えば月火の悲鳴が聞こえ、一瞬収まったと思ったがまた。


 水月と炎夏で見に行くと、火音が月火の首に手を当て月火がそれを嫌がっていた。



「えぇ……」

「ごめんなさいすみません着ますから離して死ぬ! 凍え死ぬ! 凍死!」

「自殺にぐらいなら付き合ってやるよ」

「ほんっとにすみませんでしたッ!」



 火音が離すと月火はタスキを解いて上がり框に捨てていた羽織りに腕を通した。袖を整え、一人震える。



「寒い……」

「だから言ってんだろ」

「でも美味しかったです」

「他人を慮れ」

「ひとでなしに言われても」


 冷たい手で冷たい頬をつねられた月火はすぐに謝って、羽織りで隠した手で頬を押えた。自分の手も冷たい。



 コーヒー飲もう。体を温めないと。火音も飲むらしい。たぶん基礎体温は火音の方が低いんだよな。この人代謝悪いから。


「おい」

「事実でしょう」

「運動してんだけど」

「汗かかないなら意味ないですよ。痩せる一方です。骨削れたらいいのに。背骨とか」

「あのなぁ……」



 火音が呆れていると、月火が振り返った。



「兄さんと炎夏さんも飲みます?」

「飲む〜」

「俺別の」

「紅茶かココアか」

「紅茶」

「持っていくので座っててください」



 水月はその場にしゃがみこみ、炎夏は白い目をしながらも上がり框に腰掛けた。火音が鼻で笑う。






 四人で戻ると、皆が頬杖を突いてワークに書き込む火光を見ていた。


 月火は玄智の前に炎夏と同じミルクティーを置く。



「やたー」

「何をそんなに見てるんですか」

「教師の鏡だなぁと思って」

「まぁそれはそうでしょうけれども」



 先ほどまで、ぶつぶつ独り言を呟いて炎夏に分かりやすい説明を試行錯誤していたのに。

 炎夏が来た途端ピタッとやめるんだから、たぶんセンサーでもついているんだろう。




「そうだ月火、いつ戻るの? 僕戻りがてら買い物したいんだけど」

「私はあと三日ほど残ります」

「結構残るね?」

「十一日からですし、先に帰っててください。私これ持って帰らないと」

「人を道具みたいに言うな」

「道具より面倒な荷物です」

「失礼すぎる」



 玄智はけらけらと笑って寝転がり、玄智の向かいに座っていた炎夏は玄智の隣に移動した。


 腕を枕にする玄智の脇を狙い、玄智は叫びながら炎夏に背を向ける。

 月火は我関せず。



「月火、予定って何?」

「少々火神に」

「行くの!? なんで!」

「内部の整頓です。仕事にまで支障をきたすのは存在価値を問う必要があるので」

「……僕もか」

「玄智さんには仕事を覚えてもらいますが技量によってはですよ。そもそも教えれる人がいないからこうなってるのであって」

「炎夏は何教えてもらってるの?」

「そろそろ暒夏から次期当主奪おうかなと思って」

「やめてください内乱が」



 月火は頭を抱え、炎夏ははははと笑った。


「神々当主にも止める権利はねぇだろ」

「……まいいですけどね。うちの担任は御三家の仕事も知ってますし」

「幼馴染が強い!」

「ほんとになぁ」

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