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妖神学園 改正版  作者: 戯伽
1年生
56/103

56.餅

 餅つき機で少量の餅を回す間、月火は家の前で火音ともちをつく。


 ブルーシートを敷いて、(うす)(きね)で餅をつく。

 後ろでは玄寧(はるね)と父の拝神(はいじん)がつき中。




「あー疲れた」

「交代します?」

「いや大丈夫だけど。なんで手動……」

「だってこの大量を機械でやったら二年で壊れますよ」

「……そりゃあ、まぁ」


 言い返せないぐらい大量にはあるけども。



 火音はまた餅をつき、それを十分十五分続けた。




 よく伸びるもちもちの餅になってきたところでそれをやめ、水をなみなみ張ったボウルに餅を入れた。


 ちょいっとちぎってつまみ食いする。



「お前なぁ……」

「美味しいですよ。戻りましょうか。兄さん! 片付けお願いします!」

「はぁい」




 水月にあと片付けを頼み、月火は厨に戻った。



 タスキをかけると割烹着を着て、餅の準備を始める。


 餅つき機のやつはもう十分なので止めて水に浸しておく。




「餅何で食べますか?」

「何で食べる?」

「磯部とか大根おろしとか、あんことかチョコとか」

「なんでもいい」

「甘いか甘くないか」

「甘くないやつ」

「両方作りましょう」



 月火は皆のあんこに適当に餅を放り込んではお盆に乗せ、それを食べる人分。

 なんか、一個めっちゃでかいのあるけど。




「運ぶの手伝う」

「いいんですか? 座っといて大丈夫ですよ」

「停滞期中」

「あら。じゃあ居間にお願いします。置いといたら適当に食べると思うので」



 月火は火音に渡すと、次は火音のを作り始めた。



 作った抹茶のガナッシュを包んで抹茶パウダーをかけたやつ。あと磯部やきな粉、みたらしも。


 一種類二つか三つぐらい。量なんて気にしない。だって面倒臭い。




 玄寧がついてくれた餅も受け取ると、今度はこっちにもきな粉やみたらしを作り始めた。


 青のりをまぶしたやつや大根おろしにぽん酢。これは火光と稜稀が永遠に食べるので。




 また火音に持って行ってもらい、月火は火音のを持って行った。




 潰れてた組も意識が戻ってきた人から食べている。



「ツキちゃんぜんざいおかわり」

「ほんっとに好きですね」

「美味しんやもん」



 一番大きいのを一番早くに食べ終わった廻醒は月火にお皿を渡し、月火はそれをまた作りに戻った。



 火音は餅に手を付ける前に寝転がるとタブレットを開く。餅は月火が戻ってきてからでいいや。




 昨日描き始めたイラストを描いて、やっぱり塗り方を悩んでいると黒葉が出てきた。


 火音の腕に潜って、腕と腕の間にすっぽり収まる。邪魔で描けねぇ。




 もういいやとタブレットを閉じて、黒葉に顔を埋めあくびをしていると月火が戻ってきた。


 さっきより大きくなった器を二つ持って。



「はいどーぞ」

「やったー!」

鬼互(おにたが)って案外子供っぽいね」

「火音さんみたいにはなれませんわ」

「無理でしょうね。根が子供なので」

「おい」

「ははー」



 火音の上を跨いだ月火は二人の間に座り、月火の意図を汲み取った火音は月火の頬をつねった。月火は薄笑い。


「誰が子供だ」

「事実れすよ痛いれす」

「少なくとも俺よりコイツの方が重症だろうが」

「窮地に陥った時にこそ人の本性は現れるんですよ。火音さんより廻醒さんの方が幾分か大人です」

「ツキちゃんそれマジ? 俺勝ってる?」

「……対応どうこうは置いといて対処できるか否かで言えば負けてますね」




 火音と廻醒は黙って餅を食べ始め、月火は膝でうずくまる黒葉の背を撫でた。











 昼は餅になり、月火は足りないのでおにぎりを作って厨の上がり框で食べる。火音は消えた。



 月火が一人で食べていると、戸が開いて廻醒が顔を出した。



「ツキちゃーん。……一人で食べてるん」

「だって足りないから」

「よう食べるね。なぁなんか美味しいお菓子作って。甘いもん食べたい」

「明後日水月兄さんの誕生日会だけど」

「待てん! 今食べたい!」



 廻醒は月火にもたれて糖分を求め、月火は呆れながらその頭に手を置いた。




「……かき氷ならできるよ。最速で」

「アイスないん?」

「火音さん用しかない」

「火音さん火音さんて。俺は〜!」

「うるせぇな酔ってんなら寝とけ」



 月火に突っぱねられた廻醒はムスッとして月火の膝に寝転がり、月火はおにぎりをかじる。


 火音はたぶんどっかで寝てるなぁと思っていると、インターホンが鳴った。



「誰? 何?」

「私の荷物」



 月火はおにぎりを口に放り込むとほぼ丸飲みで嚥下した。


 廻醒は飽きたのか酒呑童子に引きずられていく。寝たな。




「はーい」



 月火が扉を開けると、やっぱり配達だった。



「み、神々月火さんで……」

「そうです。ありがとうございます」



 月火が大きな荷物を受け取って框に置こうと背を向けた時、いきなり口を塞がれた。


 驚く前に手を引っ張られ、屋敷の外に連れ出されかけたのを白葉が男の腕に勢いよく噛み付いた。



「触んな野蛮人」


 月火が恐怖心を抱えながら振り返ってあとずさると、背中に誰かがぶつかった。


 やってきた火音にしがみつくと、火音は月火を庇いながらそれの写真を撮る。そのまま扉を閉め、鍵をかけた。



「大丈夫か」

「び、びっくりした……!」

「顔洗え」

「あ、着物……」

「平気」



 月火は落とした荷物に手を伸ばそうとしたが目眩でバランスを崩し、火音は慌てて支えた。



 月火が荷物を拾うと火音は月火を抱き上げる。



「……すみません」

「やっぱ離れない方がいいな。狐は月火が状況理解してからじゃないと動かないし」

「主様、大丈夫?」

「うん……」



 月火は心配そうに後ろをついてくる黒葉の頭を撫でると、荷物を部屋に持って行ってもらった。


 口元と、ついでに顔も洗ってメイクを落とす。


 少し濡れた前髪を整えるとまた火音に抱っこされる。



「もう大丈夫です」

「まだ震えてるだろ」

「……耐性がなさすぎるんですね。慣れかもっと冷静にならないと……」

「これが普通だし。変に強がらなくていい」

「でも」

「でもも何もない。強いて言うなら俺ぐらい投げ飛ばせるようになれ」



 月火は火音にしがみつき、火音は月火を抱っこする腕に少し力を込めた。








 火音は羽織りだけ替えると、黒葉にもたれた。月火を膝に座らせ、頭を撫でる。



 こういうのが倫理的にアウトって言われるんだろうな。



「前までは絶対にしなかったのにいきなり変わりましたね」

「……ほんとやだ」

「どうしたんですか。火光兄さんに執着しなくなったのと関係あるんでしょう?」

「……次、火神に行った時に確認する」

「私の方で見れる資料もありますよ」

「嫌」



 月火の肩に顔を埋める火音の頭を撫で、大丈夫だよと安心させた。



















 夕食の用意をしている間は変わらず火音は月火にくっ付き、さすがに慣れた月火は手を滑らせて突き刺さないように気を付けながら玉ねぎを切る。



「目痛くなりますよ」

「届きません」

「……ずっる!」

「あでも月火のがめっちゃ伝わってくる」

「火音さんの泣き顔見たいです」

「やめろ」



 火音は痛い気がする目を押さえ、月火はもっと痛くなれと念を込める。が、結局泣くことはなかった。つまんな。



「……あ、月火電話」

「取ってください」



 火音は応答すると、月火の耳に付けた。




「もしもし? どうした?」

『月火? 一人?』

「後ろに背後霊がいるけど一人みたいなもん」


 玄智からの電話で、背中を刺してくる火音の手を払った。



『今からそっち行っていい? さすがに迷惑?』

「全然いいけど。夕食は蕎麦です」

「遅くね?」

『……いいの?』

「あでもできればスイーツを買ってきていただけるとうちの甘党がめっちゃ喜びます」

『ケーキ買ってく。二ホール』

「一でいいかなぁ……?」

『人多いんでしょ。余っても僕と先生で食べる』

「さいですか。じゃ待ってまーす」

『ありがと』



 通話が切れ、月火は玉ねぎをもう半個増やす。



「蕎麦って年越し蕎麦? 遅くない?」

「忘れてたんですしょうがないでしょう」

「忘れてたん……」

「それより火光兄さんに玄智が来るの伝えてきてください」

「はぁい」



 火音は月火から離れると、居間に向かった。



 居間では稜稀と水月が過呼吸になるほど笑い転げていて、起きたらしい寧夏(ねな)は旦那を甘やかしている。



「どうしたの火音」

「あ、今から玄智来るって。……炎夏も」



 一瞬火光が固まったかと思うと、勢いよく立ち上がった。



「生徒にドン引かれる未来が見えた」

「片付けるか」

「鬼互片付けろ!」

「はい」



 と言っても火音は常に素を晒しているので特に手伝うことはなく、月火からの思考を伝えるだけ。






 ものの十分ほどで、インターホンが鳴った。

 玄智の大きな声で月火が呼ばれる。



 火音が出ると、玄智が手を挙げた。


「お邪魔します」

「アイツ料理中だから居間行って待っとけ」

「これお土産」

「向こう持ってけ」



 火音は厨に戻り、玄智は炎夏と二人で顔を見合せた。


「火音先生が動いてるって変なの」

「月火に敷かれ始めたかな」

「酔った勢い?」

「完璧な酔い方じゃん」





 二人で居間に行って襖を開けると、水月の隣で息切れしている火光が机に突っ伏していた。


 居間は思ったより綺麗。



「い、いらっしゃい二人とも……」

「あれ〜綺麗だ。笑ったろうと思ったのに」

「ケーキ買ってきたぞ」

「やった!」


 玄智がケーキを二箱机に置くと、月火がやってきた。

 相変わらず美しいこって。



「ちわっす」

「邪魔してるぞー」

「お土産ありがとうございます。頑張って片付けたご褒美だと思っといてくださいね火光先生!」

「ねぇやめて精神が」

「教師って面倒臭いね」


 明るい笑顔で毒を吐く玄智に火光が殺され、パソコンを触っていた水月はもたれてくる火光を膝に置いた。



 月火はケーキを引っ張り出すとそれを切り始める。



「兄さんどっちがいいですか。チョコかフルーツ」

「どっちも!」

「一応三切れ余る予定」

「あーあやっさしい生徒ですこと!」

「ほんとに」


 火光は立ち上がると大きなお皿に乗った二種のケーキを受け取り、写真を撮ると上機嫌に食べ始めた。



 二切れは廻醒に渡し、皆選んだ方を配る。最後の切れは一年ズで。



「二人もどうぞ。荷物貰います」

「いいよ。一室貸して」

「同じ部屋でいいんですか」

「そりゃあねぇ?」

「お前寝る前うるさいから別で」

「ねぇッ!?」

「炎夏さんって事実しか言いませんね」

「ねェ!?」

「でも寝る前に限らず常にうるさいですよ、玄智さんは」

「寝たあと溺死に気を付けろ」

「限定的ッ……!」

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