55.正月
初詣の帰り、月火はスマホで仕事をする。
疲れ切ってしまった火音は月火の膝で眠り、廻醒はこっそりそれを撮る。
「撮れた?」
「ばっちり」
「送って」
「月火、初日の出の送っといて」
「はぁい」
「ツキちゃんが火音さんの膝は可愛いのに火音さんがツキちゃんの膝はアウトよなぁ」
「大人と子供か子供と大人か。分かるでしょ?」
「倫理観的な問題」
大人たちが頷く間も月火は嬉々として仕事をし、それに大人は呆れた。
屋敷に帰ると、珍しく稜稀がスマホを見ていた。
月火が挙動不審になる。
「あ、おかえり。ねぇ皆、これ……」
稜稀が見せてきたのは、二つの記事をまとめたもの。
一つは月火たちが行った場所の雲が晴れたというもの、もう一つは、愛知県辺りの雲が晴れたというもの。
月火たちがいた場所は記者が御三家の力ではないかとしてトレンド入りしているのに対し、愛知は雲の神を祀る神社があるためそれの力ではないか、と。
なんとも滑稽なことが書かれていた。
「ふっ、面白いこともあるものですね」
「なんか分かる? 気象予報士」
「し〜らないっ!」
初等部で気象予報士の資格を取っている火光はふぃっと顔を逸らすと、帰りには元気になっていた玄智に初日の出の写真を送っておいた。
月火がお雑煮とおせちを運ぶ間に皆で机を囲む。
「火音は?」
「寝に行きました」
「えッ」
「他人と食べるのが嫌なんでしょう。ほっといたらそのうち起きてきますよ」
月火はお屠蘇も用意すると、月火が上座に座った。
当主が最も幼いため、当主から。
年始の挨拶をしてから、月火は願掛けを呟きそれを飲む。
我が家には一口飲んだらぶっ倒れるのが二人と暴走するのが一人、笑い上戸が二人、未成年が一人いるのでみりんのアルコールを飛ばしたもの。相変わらず不味いが。
全員で回して飲み、最後は皆で神に感謝をしてからそれを終わった。
「では食べましょうか」
「お腹空いたー!」
「ツキちゃん焼酎! そば!」
「はいはい」
皆が食べ始める中月火はお酒を皆に配り、月火は火光の前にスピリタスをトニックウォーターで割ったものを置き、水月の前にはノンアルを置いた。
「僕いらない……」
「残ったらあとで片付けます。飲みたくなるかもしれませんし」
「月火食べないの?」
「先に着替えてきます」
月火が髪を解きながら部屋に帰ると、部屋の中では白葉にもたれて火音が絵を描いていた。
「寝ないなら食べたらいいのに」
「お前も食べてないじゃん」
「私はあとで食べます」
「俺もそんときに食べる」
火音は月火から視線を外し、月火は振袖から着物に着替えた。
せっかくだし火音に合わせるか。
羽織りを羽織って、髪を適当にまとめていると火音が起き上がった。
「四日から火神に行くんでしょう? 私も行きますが無理しないでくださいね」
「うん。無理できるほど強くない」
「強い方ではあるんですけどねぇ」
火音は月火の髪を梳くと、こめかみの髪を編み込んだ。
反対は普通の三つ編みを二本、他をポニーテールにして左の三つ編みはゴムの周りに、右の三つ編みは一緒にまとめた。
「髪飾り」
「楽しくなってますね」
「髪綺麗だから触んの楽しい」
「髪飾り何がいいですか?」
月火が引き出しを開けると、中には色々な種類の髪飾りが入っていた。
「……赤のリボン」
「これ? マジですか」
「ほらもう女子高生って感じ」
月火は頭に疑問符を浮かべながら、リボンを確認した。
「……意外と悪くない?」
「センスには勝てませんね」
「お腹空いた。雑煮作って」
「はいはい。お年玉くださいね」
雑煮は稜稀が作ってくれたので火音のは作り直さないと。上手く作れるかな。
厨に移動して、月火は人参の飾り切りから始める。
火音は当たり前のように背後にくっ付いて、手元を覗き込んだ。
型を使わずに包丁だけで器用に梅や桜にしていく。
「火音さんってかまぼこ好きですよね」
「美味しいじゃん」
「もっと豪華なものが好きだったらいいのに。寿司とか。握りますよ」
「興味ない」
「残念。退いてください」
「肉入んの?」
「え、入れないんですか?」
「いや、火神のとき海老だったから」
「わー豪勢。和桜さんが作っていたなら兵庫か九州の雑煮ですね」
「あの人兵庫出身なん?」
「そうですよ。だからバリバリの神戸弁なんです」
火音がへぇと言う間に月火は海老あるかなぁと冷凍庫を探す。
奇跡的にシュリンプをやった時の残りとシーフードカレーの残りで三匹残っていた。
火音に笑って冷凍海老を見せた月火は、ふと無表情になる。
「なんで二匹だけ……」
「お前が余ったっつって入れ直したのは覚えてる」
「よく覚えてますね。でもラッキーです」
月火は出汁を作ると具材を入れ、ふと火音を見上げた。
「餅は?」
「入ってない」
「わぉ。地域性出ますねぇ」
「入ってるもん?」
「うちはいつも入れてますね。あ、あとで餅つきやろ」
火音は月火の傍をついてまわり、月火は海老を入れて雑煮を完成させるとそれをお椀二つに注ぎわけた。
火音の分のおせちも持って、お盆を二つ持ち居間に行く。
まだ小一時間しか立ってないはずだが酒豪とノンアル組以外潰れ、廻醒は月火に手を振る。
「ツキちゃーん、ぜんざい作って!」
「いいですけど、餅ついてくださいね」
「マジかよ」
「餅つきやんの?」
「ありますよ。毎年兄さんたちがつくんです、け、ど」
そもそも臼と杵あるのかと問う火音に頷いて、月火は潰れて水月の傍にうずくまる火光を見下ろしてから、廻醒を見下ろした。
「玄寧さん、餅つきお願いしていいですか?」
「父さんやってよ」
「父さん?」
「お父さんの上腕二頭筋、見たぁいなぁ?」
潰れた寧夏の背中にピッタリくっ付いてスマホを見ていた廻醒の父、拝神はふんすとやる気を入れ、月火は机にお盆を置くと空いた食器を片付けた。
おせちはものすごい量作ったのでまだまだ余っている。
「先に食べててください」
「ツキちゃん手伝おか?」
「大丈夫です。怪我人はおとなしくしといてください」
「はぁい」
火音は月火から食器の山を受け取ると二人で机を片付けた。
向こうに戻って、食器を水に浸ける。
昨日の夜水につけておいたもち米を炊飯器にセットすると、小豆も炊き始めおせちの第二陣と焼酎を持って居間に戻った。
ようやく座れた二人はおせちを食べ始める。
「いただきまーす」
「火音さんのお雑煮海老や」
「火神はこうなんですって」
「うちもいっつも海老よね」
「やねぇ。おばあちゃんの作り方やんね」
「うん。おばあちゃん九州出身やから関西より九州寄りやから」
火音はガン見してくる拝神からスっと視線を逸らし、それに気付いた廻醒は二人の視界の間をファイルで遮った。
「すみません火音さん。うちの父、美男美女に目がないんです」
「こっち見といてください」
「未成年には興味ないみたいで」
「……何歳と何歳?」
「俺二十四で玄寧が二十二です」
「あ同い歳だ」
「ちなみに火音さんが卒業する時妖輩首席で進学したんですよ。首席の二人です」
「へー」
月火は雑煮を食べ終わると火音の空になったお椀に重ね、祝い箸でおせちを食べ始めた。
廻醒がファイルを降ろす頃には拝神は寧夏に抱き着いており、玄寧は仕事に戻っていた。
「お酒飲みますか」
「疲れた」
「お疲れ様です。飲んで寝て縮んでください」
「おい僻み」
「私と火音さんの身長を足して二で割ったらちょうどいいんですけどね」
「164.5、低い却下」
「計算はやッ……!」
「チビの気持ちを味わえ」
「俺中二まで150だったから。セーフ」
「私高一で153なんですが」
「女子の成長期って早いだろ。もう伸びなさそう」
「まだ伸びてるんですぅッ!」
月火はぷんすか怒りながらお酌をして、おせちを食べた。
火音が食べ終わって、あとで食べるかもなぁと思ってラップを取り戻ってくると仰向けになった火音の上に誰かが座っていた。
火音は瀕死の顔をして、上に座っている少年はよっと手を挙げる。
「……神様、ですね」
祝い箸は一方は自分、一方は神様が食べるために両方が細くなっている箸だ。だから、一応雷神が食っててもおかしくはないのだが。
「そこ座って大丈夫ですか……?」
「さっきのあれでほぼお前の妖力だ。問題ない」
「いや、物理的に……」
「吐きそう」
「はいどいてください」
月火は雷神を抱き上げると自分の場所に座らせた。
火音は端に寄り、月火は間に座る。
「あぁ胃が変形した……」
「大丈夫ですか? このあと餅つくのに」
「……え俺も?」
「私は機械でやります」
「機械あんのにつくん……」
「火音さん食べたいでしょう?」
「うーん……」
食べたことがないのでよく分からないと悩む火音にものは試しだと言いながら、雷神と二人でおせちを食べていると狐も二体出てきた。
月火と火音の膝の上から前足を机に置き、目をさんさんと輝かせる。
「……食べたいんですね」
『早く早く!』
「準備するので待ってください」




