54.初日の出
無事曇った初日の出、集まった人は皆がっかりしている。
皆は車を降りていき、車に残っている月火は火音を見上げた。
「どうにかなりません?」
「無理だろ」
「雷神でしょう?」
「……あー」
火音が雷神を呼ぶと、最近は雲に乗らないことにハマっている雷神が出てきた。
天井に頭をぶつけ、頭を抱える。
火音は月火を傍に寄せると月火の席に雷神を座らせた。
「雲を操れ? お易い御用だ」
「マジか」
「我は神なるぞ! 神は己の支配下に置くもの全てを操る神なのだ!」
「妖力どんくらい使う?」
「……本土全体を晴らすなら神通力ざっとひゃくごじゅっ……」
「却下。一部でいい」
「範囲がイマイチ分からんが太陽を見せろと言うなら三回分は使うぞ」
「……ある?」
「ちょっと待ってくださいね」
初日の出を見たいならここの真上ではなく向こうの山上を晴れさせたらいいわけだ。
真上を広くと遠くを小さくで使う妖力量がイコールで繋がるなら、月火が今から指輪を外して最速で貯め、使いながらなお貯めればギリってところだろうか。
「まぁ多少雲被ってても綺麗ですしね。やりましょうか」
「失神しませんよーに」
「案ずるな。火音が倒れる前にやめる」
「やめられたら困る」
今が六時過ぎなので、もう貯め始めないと。
月火は指輪を外すと九尾を出して、普段滅多にやらない妖力回復を始めた。
「音楽聴いていいですか?」
「好きにしろ」
妖力回復は人によって感覚は違うが、月火は心の闇を妖力の容器の皮に流し、そこから絞り出すイメージ。噴水みたいな。そしたら妖力が増える。
嫌いな人とか他社の法をすり抜けるやり方とか仕事、勉強、趣味、人間関係。
季節の不満から実家への不満、自己肯定感の低さとか。
あの闇黒い曲を聴くのも納得してしまうほどの心の底に秘める妬み、嫉妬、憎悪、嫌悪、憤慨、恐怖、警戒。
マジのクズへの恨みもそれはお前の性格が悪いってことも、果ては寄付金越えられたという横暴なものまで。そこから自己肯定感の低さが垣間見えて、これほんとに高校生かと疑う。
「……結構回復しましたね」
「お前大丈夫? 一回精神科行こう? カウンセリング」
「うるさいですね。雷神、これぐらいでいいですか」
「うむ。これを火音に流せば我が使える」
車の中でなんかやってんなーと思いながら、隣で凹む玄智を見下ろす。
玄智はしゃがんで地面に画伯な絵を描き、炎夏はそれを写真に撮る。
「僕の妖心が神様ならさぁ? 雲なんてパーッと晴らせるのに」
「……神かぁ」
神がいるなら、そもそもこんな天気にはしないだろうけど。
六時半を過ぎても晴れる気配がないので集まっていた人達はぱらぱらと諦め始め、火光は玄智の頭に手を置いた。
「五十分まで待つでしょ? 寒いから飲み物買ってくるけどなんかいる?」
「……ジュース」
「緑茶と烏龍茶。月火コーヒー」
「了解。寒かったら車入っといてね」
最近色々あって病み中の玄智は炎夏の肩に顔を置き、炎夏は玄智の頭を撫でた。
「ほんとついてない」
「エゴサでもしとけ」
火光達が帰ってきて、玄智は烏龍茶をカイロにしながら炎夏にもたれかかった。
初日の出が六時五十一分、ここは五十分に見えるらしい。
玄智はスマホの時計を眺めて、暗い顔をした。
「万札注ぎ込んだのにな〜。神様恨む」
「まぁまぁ。朝日なんてほぼ毎日見てるじゃん」
「そうだけど……」
炎夏が立ち上がって、玄智に手を貸していると残っていた人達が少しざわめいた。
突然、山上の雲が晴れる。
瞬間、目を刺し脳を焼くほど眩い太陽が登り始めた。
「セーフ!」
「あー疲れた……」
「ありがとうございます。助かりました」
「別にいいけど。お前こそ妖力大丈夫かよ」
「狐戻したので」
「便利」
車から降りてきた月火は朝日の写真を撮り、皆がその二人を唖然とした様子で見た。
二人に気付いた月火は火音にスマホを投げ、こっちに走ってくる。
「ちょっと! 写真! スマホ出せボンクラ」
「えな……マジか」
「マジだよ。はいピース」
月火は二人と肩を組むと、天にブイサインを掲げた。




