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妖神学園 改正版  作者: 戯伽
1年生
49/103

49.おせち

 皆が昼ご飯を食べる間、月火はおにぎりを食べながらおせちを用意する。

 ちなみに後ろの上がり(かまち)には火音が座っていて、月火にねだって作ってもらったアイスを食べている。




「……あぁ寒い」

「上着着たら?」

「食べるのやめていただくだけで治るんですが……」

「耐えろ」



 月火がスースーする首をすくめながら大根を切っていると、台所の戸が開いた。



「ツキちゃーん、持ってきたで」

「お前育ち関西?」

「こんにちは火音先生。父が関西人で俺お父さんっ子なんで」

「……そういえば親は?」

「父の実家に顔出してます。大晦日には来ますよ」


 さらに増えんのか。



 火音が少し億劫になりながらアイスを食べていると、シンクにお皿を置いた廻醒(かいせい)がハッと振り返った。



「アイスいいなぁ。買ってこよ。ツキちゃんいる?」

「いらん」

「チョコミント〜」



 神々の台所は台所ってか(くりや)に近い。

 玄関からと屋敷の中から繋がっていて、屋敷側の扉の傍には上がり框。その下は土間で、右の隅には竈門が残っている。


 左側をリフォームしてシンクとコンロは取り付けたものの、広い土間に竈門や外には井戸もあるので、たぶん厨。




 廻醒は玄関の方から出て行き、それと入れ替わりでまた戸が開いた。



鬼互(おにたが)!? クッソあいつ!……いいなあ火音アイス」

「廻醒さんチョコアイス一個!」

「はぁい!」

「月火僕もッ!」

「兄ちゃん私練乳な!」

「僕適当!」



 この真冬に子供達はアイスを楽しみにし、廻醒に逃げられた火光はイライラしながら去って行った。



 火音は戸を閉めると、月火の手元を覗き込んだ。




「なますって何?」

「大根と人参の甘酸っぱいやつです。ほら、あれ」

「……あぁ。食べたことない」

「毎年同じレパートリーしか食べませんよね」

「毎年同じレパートリーで作業分担するじゃん」

「まぁ慣れた手順が一番ですからねぇ。今年は火音さんの取り分けるので好きなだけ食べてください美食家さん」

「別に美食家じゃない」

「料理人が美食家つったら美食家なんだよ」



 月火は二つを塩もみすると、大根と人参を力いっぱい絞った。


 水分が出てきて、しなしなになった二つをボウルに入れる。




「……あ、酢がない」

「鰹節もないな」

「牛乳もないし……」



 月火はスマホを出すと、廻醒に電話をかけた。




『はいはーい』

「ちょっと足伸ばしてスーパーまで行ってきてー。言うよ」

『うぃ』

「お酢、鰹節、牛乳、きび砂糖、海水から作った塩、乾燥しいたけ、お麩。鞠のやつね」

『酢、鰹、牛乳、砂糖、塩、枯れしいたけ、麸』

「枯れしいたけて……」

「かまぼこ一本。……いっぱい食べたいでしょう?」

「うん」

「あと大根。卵、糸こん。その他おでんに入れたい具材」



 月火は腰に腕を回して顔を寄せてくる火音の頭を撫でながら、廻醒のだんだん暗号めいていく確認を聞き流した。



『でいいんよね?』

「うん! とりあえず足りないと思うものお願い。かごの中写メってくれたら確認するし」

『はーい。じゃまた写真送りまーす』

「お願いしまーす。じゃ」



 月火は電話を切ると、スマホを火音に渡した。



「どうしたんですか? 最近元気ないですけど」

「うーん…………なんでもない……。……着替えてくる」

「行ってらっしゃい」



 まだジャージだった火音を見送り、月火はおせちの続きを始めた。







 色々調べながら、去年の味に近付けるため画策する。



 自分で作っていたものはいいとして、ずっと稜稀が作っていたものは合ってるのか分からないまま進めていると火音が戻ってきた。



 この屋敷、広すぎて人探すだけで一時間とか普通に有り得る。

 まぁ火音の部屋からここまで小走りで二分だとして、五分かからず着替えたことになるな。



「早かったですね」

「袴着んのは楽」



 黒に金の刺繍が入った着物に黒い袴を着た火音は、持ってきた月火の羽織りを肩にかけた。



「はい」

「あ、ありがとうございます。どっかの誰かが上着着ずにアイス食べるので寒かったんです」

「上着部屋だもん」

「取ってきてください虚弱体質さん」

「はい」




 月火は棚から月火の箸を出すと、ボウルのそれを少しつまんだ。


 そっと火音の口元に近付けると、火音は警戒心を示す。



 なんか、初めて見る餌を警戒する猫がこんなんだった気がする。




「たたきごぼうですよ。去年少し食べたと思いますが」



 火音はそれを一口かじり、残りは月火が食べた。



「……なんか足りない」

「ですよねぇ」

「なんか、もっと深い味が欲しい」

「深い味……醤油とみりんは入れましたからね。お砂糖ちょっと足して……」

「月火? 母さんちょっと買い物行ってくるけど」

「あ、足りないものなら廻醒さんに頼みました。アイスを買いに行くついでに買ってくださるそうです」

「あほんと? 一気に在庫が切れちゃったから大荷物になるのに……。背中大怪我なんでしょ? 水月! 車出して!」

「水月運転できんの?」

「できますよ」


 一時期車で女子達と遊び回ってたんで。


「運転は普通に乗れる程度には」

「へぇ」



 稜稀は水月を引きずって屋敷を出ていき、月火はたたきごぼうを見下ろして首を傾げた。



 色々と頭に案を出しては弾き飛ばしていると、火音がスマホを見せた。



「鰹節かお酢だって」

「鰹節にしましょうか。お味噌お味噌……」

「味噌?」

「ほんの隠し味程度にですよ」


 鰹節はまたあとで。




 月火は黒豆や白豆、赤豆を味見すると、火音にも一粒食べさせた。



「……甘い」

「苦手ですか?」

「もうちょっと柔らかい方が好き」

「じゃあもう少し炊きます。体調悪いなら座っててください」



 それでも火音は断固として離れず、月火は首を傾げながらまた火音の頭を撫でた。




「あとはー……あ、ごまめ! 忘れてた!」

「何それ?」

「あれですあれ」

「あぁあれ」


 田作りに必須のカタクチイワシの稚魚。



 月火は慌てて、廻醒にそれを頼んだ。

 あと稜稀たちが車で向かったってのも。




「……あとは明日、明後日ですね。よしよし」

「座ろ。疲れた」

「部屋帰ってなくて大丈夫ですか?」

「うん」

「ちょっと顔色悪いですけど」




 月火が隣に座ると、火音は月火の膝に寝転がった。


 月火はその頭を撫でて、カメラで自撮りをした。




「さすが神々の高画角。新しいスマホ買ってもらえてよかったです」

「後ろの人もバッチリか」

「ほら髪の一本」

「いらんいらん」



 月火が見せようとしたら火音は顔を逸らした。


 戸が開いて、三人がおずおずと出てくる。



 楽しそうな玲寧(れな)、不貞腐れた火光、穏やかな顔の水哉。



「火音さん、火光兄さんの顔見てください」

「眠い。お前ちゃんと寝ろ」



 月火は目を丸くし、火光は頭に疑問符を浮かべると仰向けになって顔を横に向ける火音の上にまたがった。



「こっち見ろロリコン」


 火音は一瞬合わせた視線をふいっと逸らし、月火は驚く。が、火光は火音の腹を踏むと厨を出て行った。



「火音さん、ほんとにどうしたんですか……?」

「寝る」



 黒葉が出てきて、枕にするのかなと思ったがそんなこともなく、火音は黒葉抱っこすると月火の膝枕のままうたた寝し始めた。



 顔が穏やかなままただならぬ雰囲気を放つ水哉を、玲寧は引っ張って回収しようとする。



「水哉! こら若人の恋愛に踏み込まないの!」

「娘が傷を負った直後に孫娘まで魔の手に落とすわけには……!」



 玲寧がスコンと殴って引きずっていき、月火は一度火音を起こした。



 豆の火を止めて、火音の手を引く。




「私の部屋入ったことないでしょう? 冬は寒いので毎回奥まで行くんですよ」

「荷物向こう」

「私が移動させておきます。私が寝てる間にイラストでも描いてください。それで正常に戻ってください機械さん」

「……正常なんだけど」

「いや正常じゃないです」




 月火は火音の手を引くと、屋敷の一番奥にある月火の部屋に案内した。



 中はさっきの何もない部屋とは違い、机や本棚、ドレッサーがある。





 月火が襖を閉めると、火音は月火の腕を掴んでそのまま押し倒した。


 月火は目を丸くし、火音の頬を撫でる。




「どうしました?」

「この部屋なら月火の声は居間まで聞こえないだろ。襲われたらどうするつもり?」

「襲うつもりですか?」



 月火が動揺を見せない瞳で目を見つめ問い返すと、火音は少し目を細めたあと首を横に振った。



「別に。危機感があるならいいや」


 まぁ月火が本気で嫌がったら火音ぐらい九尾が噛み砕いて丸呑みにするでな。


「怖い。ほんとに」

「私の嫌がることしなければいいんですよ」


 月火は大きくなった白葉にもたれると、手を広げた。


 火音はそれに抱き着き、溜まってたものを全て吐き出すように月火を抱き締める。



「……よしよし。よく我慢できました」



 火音は嫌だ嫌だとばかり思って肝心の原因は一切見せない。でも、火光を見ても前のような興奮が消えたのは月火でも分かった。


 今の火音は、執着対象が月火や九尾に変わった気がする。




 火音の頭や頬を撫で、背中をさすった。ポンポンと等間隔で叩いて、大丈夫だよと落ち着かせる。




『主様、寝たわ。火音が寝たわ』

「最近全然眠れてなかったみたいですし、眠いのは私じゃなくて火音さんなんですよ。区別が付かないほどいっぱいいっぱいだったんでしょう」

『……よいしょ』



 小さくなった黒葉は、月火を抱き締める火音の腕に潜った。


 月火は体をズラすと火音に膝枕をして、少し子守唄を歌った。


 狐まで眠り始めたのは予想外。

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