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妖神学園 改正版  作者: 戯伽
1年生
48/103

48.帰省

 二十九日に帰省すると、水哉と稜稀が出迎えてくれた。



 火音は相変わらず過剰に緊張する月火を月火の部屋(空)に連れて行き、荷物を下ろすと背をさすった。


 ここ数日まともに眠れていなかったようなので、そのせいで車で酔ったのと緊張、火音の幻覚で瀕死状態だ。




 火音は呼吸するので精一杯の月火の脇に手を入れると、抱き上げる形で立たせた。


 火音が支えながら、軽くかかとだけジャンプさせる。




「……大丈夫か」

「……眠いです」

「大丈夫そうだな。俺来る前に食べてきたし寝といたら?」

「昼間に寝たら怒られる……」

「稜稀様ぐらい押さえられるから。寝とけ」

「でも……」

「水明押さえたんだぞ大船に乗ったつもりで寝ろ」



 火音が白葉の上に月火を寝かすと、月火は離れようとする火音の袖を掴んだ。



 火音は白葉に許可を取って、背に座ると月火の頭を膝に置いた。




 狐サイズの黒葉は月火の上着を持って白葉の上に飛び乗ると、頑張って寝転がる月火にそれをかけた。でも雑なので火音が直す。



 さすがに寒い。


 火音もウィンドブレーカーを取ってもらうとそれを羽織って、イラストを描き始めた。








 しばらくして、火音がものすごく病んでいる絵を描いていることに気付いた頃、月火が少しうなされ始めた。


 頬に手を滑らせると、冷たい手が火音の手を握る。


 寝返りをうって、上着にくるまりながらまた眠った。




『……火音は主様のことが好きなの?』


 唐突に白葉にそんなことを聞かれ、火音は首を傾げた。


 黒葉は興味なさそうに大あくびをする。



『珍しいことじゃないわよ。共鳴は魂の相性が合う者たちが繋がるから、性格が合わなくても本能で惹かれることは多々あるの。火音もそれと同じ?』

「……いや、さぁ……? 特に気にしたことない。けど、今すぐ婚約しろって言われるなら生活面でも月火が安心できるけど」

『疎いのね』

「腹立つな」

『主様は女よ! 女はつぼみは長いけど開花は一瞬なの! 月下美人なんてまさにそう!』

「お前月下美人の花言葉知ってるか」

『知らないわよ興味ないわ。私が知ってるのは主様の名前がつく花ってことだけ!』


 残念ながら漢字が違うけどな。




 火音は上着の中に潜ろうとする月火の体をぽんぽんと叩き、まだ緊張しているのか渦巻いている感情を落ち着かせた。



 その中で、ふと月火の左手を取る。




「黒葉、月火の指輪は?」

『鞄の中にあるわ』

「取って」



 黒葉は月火のリュックの中に半身を突っ込むと、諦めてリュックをごと持ってきた。



 火音はケースを取ると、それを薬指にはめる。


 大きさも調整して、とりあえず落ちない程度に。




 鞄を黒葉に戻すよう頼んでいるとすぐに月火が楽そうな顔をした。


 やっぱり、妖力が多いせいで体が耐え兼ね疲労が取れていなかったようだ。

 こいつが持ってるのはなんでも本人に対して強大すぎるんだな。恵まれすぎた子って感じ。





 落ち着いてきた月火の頭を撫でて、心情が穏やかになったので安心していると部屋にノックが鳴った。



「ツキちゃーん」

「月火なら寝てるぞ」


 襖が開き、顔を出した廻醒(かいせい)は目を丸くした。



「火音先生、こんにちは」

「よぅ」

「火音先生も来てたんですね」

「月火の料理しか食えないからな」

「……寝てる……?」



 廻醒は中に入ると月火の顔を覗き込み、レアな寝顔を一枚撮った。



「……かぁわい」



 そう言いながら出ていき、あいつ水月と同じタイプかと警戒していると、黒葉が大きくなった。



 前足で襖を閉めたが、すぐにまた開く。



 なんだと見ると、廻醒が掛け布団を持ってきていた。




「月火の部屋の布団置いときます。それじゃあ」



 黒葉がスカンと速攻閉め、布団を噛むと火音の手が届く場所まで引っ張った。



 月火の上着を退かし、布団を被せる。


 冷たかったのか身震いして、火音が頬に手を当てるとそれを掴んで中に引っ張った。



 これは全人類が可愛いと思える機能が付けられてんだなぁと思いながら、月火のさらさらもちもちの頬を撫でる。


 こいつ、頬が餅だ。いや大福と言った方がいいかな。

 いつもは強くしかつねらないので気付かなかったが、これは炎夏や玄智がふにふにするのも分かるかもしれない。



『起きるわよ』

『起こさないで!』

『黒葉うるさい』



 黒葉はしゅんと凹み、火音は月火の頬のふにふにはやめた。ただ、手触りがめっちゃいいので離したくない。





 首に指先が当たると少し首をすくめ、今世紀最大の癒しを得る。


 なんだろうな、なんかめっちゃ、なんか。




 火音が答えの出ないというか出したらまずい問に悶々としていると、人の話し声が聞こえた。



「月火!」

「月火さーん!」

「だからさぁ!? 違うじゃん!」



 襖が開き、水月と初めて見る女、どこからが聞こえてくる火光の怒声。

 この襖防音性すげぇなと思っていると、月火が体を震わせて布団に潜った。途端、黒葉が襖を閉める。



「あ」

『火音、そろそろ起こして大丈夫よ』

『主様、お腹すいてるわ』



 火音は月火の肩を揺すり、声をかけた。



「起きろ。水月来たぞ」

「んん……寒い……」

「ほら起きろツキちゃん」



 火音は月火の脇に手を入れると背中をつねられながら起こし、月火は大きくあくびをした。



「……何分ぐらい経ちました……?」

「小一時間」


 小一時間月火の頬触ってたんか。



「右頬がちょっと痛いんですが」

「下になってたせいだろ」



 ふいっと顔を逸らした火音は頬を爪で刺され、すみませんと謝った。



 月火は白葉から降りると、押入を開ける。ここにも着物は置いているらしい。



「着替えるので向こう向いててください」

「出て行きます」

「それは困ります」


 わがまま娘め。



 火音は白葉に座って、押し入れの前で私服から着物に着替える月火に背を向けながらスマホをいじった。




「あ、鬼互のアカウント確認してない」

「火音先生のニックネームどうします?」

「火音でいいです」

「火音……火、音……名前まんまですもんね。居候とか?」

「払ってんだろって! いい加減飽きたぞそのネタ」

「私だってツキちゃんネタには飽きました」

「すみません」



 て言うか、さっきから火光の怒声が永遠に聞こえるんだが。怒声というか、めっちゃ叫んでる。




「顔洗いに行きたいです」

「俺なんのための付き添い?」

「兄さんたちに絡まれたら面倒ですし」



 襖の前にいた二人が消えているのを確認すると、月火は九尾を連れながら早足で洗面所に向かった。






 火光の声が聞こえる居間の襖をそっと開けると、火光は廻醒の背中に肘を突いて上からパソコンを覗き込んでいた。



「ちーがーう! お前は黄色が赤に勝つと思ってんの!? 火音の髪色だぞ!? 月火より主張激しいのに!」

「火光先生痛い……」

「ちょっと兄さん退いてください。背中割れてるんですから」

「あ月火。大丈夫? 顔白いよ」



 月火は火光の腕を掴むととりあえず廻醒から引き剥がした。


 廻醒は相当痛かったのか背を押えてうずくまる。



「大丈夫ですか?」

「……待って傷口開いた」

「兄ちゃん大丈夫!?」



 月火は廻醒を立たせると、勝手にパソコンをいじる火光を見下ろしている火音を見上げた。



「ちょっと手伝ってください」




 三人で隣の部屋に行き、月火は医療用具を取りに行った。



 廻醒は着物の袖を抜くと上裸になる。




「痛い……」

「寝転がれ。止血する」

「できるんですか?」

「やらないと失血で死ぬぞ」


 それぐらい異常な出血。



 火音は黒葉が咥えてきた大量のタオルを二枚重ねると、消毒液を吹きかけてから傷口に置いた。

 沁みたのか、声に出さない声をする。



 火音は上から体重をかけるとそのまま止血した。


 開いた傷口が異常に汚い。菌とかそういうんじゃなくて、皮膚がボロボロ。なんか、錆びた朝星棒で切り裂かれたみたいな。爪で引っ掻いたように傷口がボロボロだ。ファスナー思い出すなぁ。




「……とりあえず止まった。動くなよ」



 月火が走って戻ってくると、傍に救急セットを置いてそれを開けた。




「麻酔なんて一般家庭にありませんから麻酔なしでいきますね。縫合は知衣さんに太鼓判押されてるので安心してください」

「え……嘘やろ……?」

「はい口枷」

「んッー!?」



 月火は廻醒にタオルを噛ませると後ろをゴムで縛り、火音は廻醒の両腕をタオルで挟むと腕を床に固定した。



「暴れたらもう一本傷ができますからね〜」

「ん〜!? んーッ!」

「黙れ」



 黒葉は廻醒の額を床に付けると頭の上に座り、尾を振った。


 月火は消毒をすると、縫合を開始する。







 廻醒の発狂する声が聞こえ、隣の居間にいた皆はドン引く。


 それでも火光はぶつくさ文句を言いながらパソコンを触り、水月は平然とスマホをいじっていた。



 ものの五分ほどで廻醒の声は収まったと思ったら、火音の呪いを吐く声が聞こえてくる。血がついたらしい。すぐに去って行った。




「お騒がせしました」

「ほんとにうるさい。何したの?」

「ただの縫合ですよ」

「たかだか麻酔なしの縫合ぐらいで大袈裟な……腹の方が痛いし」

「喉縫われる方が痛いよ」

「神通力で内臓治すのが一番痛いです」



 月火は念の為救急セットを棚の隅に置いておき、月火の最もな言い分に火光と水月は静かに頷いた。




「あ、玲寧(れな)さんお久しぶりです。月火です」

「月火ちゃん!? やだちょっと、美人になりすぎじゃない!? 花蓮(かれん)ちゃんそっくり! いやぁ稜稀ちゃんの遺伝子強すぎ! 男の遺伝子なんにも入ってなぁい! 可愛いわぁ!」



 廻醒の祖母、水哉の姉である玲寧は目を輝かせ、廻醒は妹の玄寧(はるね)も大きく手を挙げた。



「月火さん久しぶり!」

「お久しぶりです。先日はありがとうございました」

「いいよぅ仕事だからねぇ! 火光先生には兄ちゃんがお世話になってるし私は月火さんのお世話になってるし母さんは稜稀様のお世話になってるし、支え支えられどころか一方的に乗っかってるね。すみません!」

「いえいえ、廻醒さんが高等部に入ったおかげで残業する人が一人減りましたし、玄寧さんのおかげで私も仕事が回ってますし。私も玲寧さんには頭が上がりません」

「どうぞ上げちゃってください。今や立派な当主様なんですから!」



 月火が苦笑いを零していると、襖が開いて火音が戻ってきた。

 後ろから、着物を戻した半泣きの廻醒も戻ってくる。相当痛かったらしい。




「はぁ……」

「あからさまな溜め息やめろ。手本作ったから気付いたこと書き出して」

「はい」

「火光は何やってんの?」

「三学期から理科受け持つらしいから授業に使う試料の作り方叩き込んでる。これは経験よりもセンスだし。センスは磨くものだよ」

「言われてんぞ社長様」

「磨くものがありませんので」




 月火は廻醒のパソコンを覗き込むと、火音を手招きした。



「現理科教師から見てどうですか?」

「……俺とは系統が違う。無理」

「うちのクラスには一級品の馬鹿がいますからね。これでいいやぁだったら理解してもらえませんよ」

「酷いなぁ炎夏だって頑張ってるんだよ」

「誰も馬鹿が炎夏さんとは言ってません」

「うちのクラスの馬鹿は炎夏だけです」



 担任までボロクソ言いながら、月火は廻醒のパソコンを少しいじった。


 火音が指示するファイルを開くと、色々な種類の資料テンプレート。



「好きに使え。火光に作ったやつだけどもう使わないから」

「懐かし〜! 火音が見かねて作ってくれたんだよね! 僕の授業があまりにも不評だから!」

「そうそう」

「否定してほしかったなー」

「同じ歴なのに持ち合わせるものが違うだけでずいぶんな違いですねぇ」



 月火はちょいっとパソコンをこちらに向けると、そのテンプレのコピーに試しに同じ文章を打ち込んでみた。




「……これフォント変えるのは?」

「そこ」

「はい、火音先生が初めての授業で使った資料のコピーです。これを踏み台に頑張りなさい」



 月火はパソコンを廻醒に返すと、火音から逃げ出した。

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