47.クリスマスバースデー 3
廻醒は前火音が使っていた部屋の隣なので、こっち側のインターホンを鳴らすのは少し新鮮。
インターホンを鳴らしても応答がなかったので、遠慮なく中に入った。
「お邪魔します」
「おーう」
間取りがイマイチ分かっていないが、とりあえず血が滴っている方に行く。
真正面の扉はLDKに続き、質素な部屋のど真ん中で廻醒は倒れていた。
「うーわ酷い」
「たすけて〜」
「医療具どこ?」
「そこん棚に入ってる」
廻醒は起き上がると、傍に置いた髪留めで前髪を上げた。
「痛って……」
「ねーガーゼない」
「あれ? 底に入っとらん?」
「そこってどこ」
「底辺」
「…………あぁあった」
月火は廻醒をうつ伏せに倒すと、新しいタオルを出した。
消毒液を吹きかけて、傷口の上に置いた。
「イッたい……ッ! いだァい!」
「うるさい! 何特級にでも出くわしたの?」
「……怪異じゃなかったと思うんよね。後ろからざっくり切られた」
「人間にってこと?」
「たぶん。……もしかしたら、あの狐かもしらん」
圧迫止血で止血できたので、月火は薬を塗った。
火音じゃないのでチューブから直接ベーっと出して、ぽんぽんと。
「大きなったね。高校生か」
「廻醒は変わってないね。小さいまんま」
「お前にだけは言われたくねぇ」
「いや、火音さんと並んだ時の身長差が笑えて笑えて……!」
「あの人? 共鳴かなんかしたの」
「そう。会ったことあるでしょ?」
「屋敷で何回か。いとこがあの人のお師匠さんと友達言うてたな」
「……師匠?」
「うん。一人であそこまで強くなれるわけないやろ」
「ふーん」
そんな話聞いたことないなぁと思いながら、別に興味ないので適当に流した。
火音に早く帰ってこいと言われたので、ガーゼをぺたぺたと貼ってから体を起こして包帯を巻いた。
胴全体に巻いてから、腰辺りで結ぶ。
「……気を付けなね。一応火音先生も男なんやし」
「あの人私が高等部卒業するまでに体質の対処法がなかったら婚約する気らしい」
「俺人の邪魔すんの好きー」
「よーく知ってる。でも私の邪魔すんな」
「はぁい」
ついでに腕も頼まれたので腕の傷にも包帯を巻き、首は大丈夫かなと覗き込んだ。
廻醒に膝に乗せられ、後ろから抱き着いてくる。
「眠ぅ。ツキちゃん抱っこしてる時が一番安心するわ……」
「重い」
「変わったなぁ。……な〜頭撫でてや。怪我してん」
「そこもかよ。撫でる前に薬塗る」
「どこか分からんで?」
「化膿したら面倒だし」
月火は廻醒の頭に傷を探そうと髪を上げた。
探すまでもなく、頭皮も傷だらけ。
「ぼろぼろ……」
「瓦礫多かったからなぁ。……ふわぁ…………あぁ……ねむねむ……」
「寝といていいよ。朝早かったんでしょ」
「よう分かるなぁ」
「寮に教師が二人住み着いてるんでな」
ワイヤーカチューシャを外すと少し傷んだのか頭を押え、そこに薬を塗った。
「これはガーゼだな」
「頭に包帯嫌いや! いらん」
「絆創膏でも」
「禿げるわ」
「我慢して」
「禿げんの!?」
「包帯を!」
こういう会話を火音としかしなかったので少し言葉が欠けるだけで伝わり方が全然変わってしまう。
共鳴は口下手への一歩なのだろうか。いや月火の文章力の問題だな。
「……はい終わり」
「あーがと」
「血でドロドロだ……お風呂借りていい? ジャージと」
「えぇけど絶対デカいで。ツキちゃんより20は高いから」
「いいよ。貸して」
「はいはい」
廻醒に、黒に緑のラインが入ったセットアップのジャージを借りて風呂に入った。
さっきから火音がさっさと帰ってこいとうるさい。
「言われなくても分かってますよ。血まみれで帰ったら嫌がるのは火音さんでしょう」
「血付かなかったらいい。さっさと帰ってこい」
「なんでそんな急かすんですか。ちゃんと帰るのに」
「なんか嫌」
「独占欲的なものがあると思うんですが」
「分からん。とりあえず帰ってこい」
いつの間にか声に出して会話していたようで、月火は黒葉に、火音は寝起きの火光に指摘された。
風呂から上がると廻醒は既に寝たようで、酒呑童子が傍であぐらをかいていた。
「お、狐! 久しい!」
『ほんとに。貴方ちょっと老けたんじゃない?』
「雷神の見すぎですよ。それじゃあまた何かあれば」
「助かった。達者でな」
「はーいさよーなら」
月火が寮に帰る途中、炎夏と出会った。
「こんな時間にどうした?」
「教師の階行ってた。廻醒が任務で怪我したって嘆いてたから」
「……風呂入ったの?」
「血浴びたみたいなことなってたから。このまま帰ったら火音さんに怒られるしと思って」
「あぁ。あの人血が駄目だもんな」
「うん。……炎夏は?」
「水虎様と食べに行ってた。どっかの誰かとどっかの誰かに断られたから」
「明日行こ」
「俺明日任務」
「間悪っ。また暇な時誘って。冬休みに出掛けたいし」
「おう。じゃ、おやすみ」
「おやすみ〜」
月火が寮に入ってリビングに行くと、肘を突いて不機嫌そうに待っていた火音に睨まれた。そのまま、風呂場を指さされる。
おとなしく二回目の風呂に入って、シャンプーをやり直して。
ジャージも自分のに替えて、外に出ると火音は無表情に戻っていた。
「そんなに他人の妖力が嫌ですか」
「気持ち悪いとか以前にお前が他人の妖力に包まれてんのが嫌。あと匂いが違うのも。雰囲気とか」
「……それは私が好きなだけでは?」
一人で絵を描きながら呑んでいた火音は喋り相手が戻ってきたのでタブレットを消し、隣に座った月火と向かい合わせになった。
「なんです?」
「お前髪下ろしてた方が学生らしいな」
「そんな変わります? 上げてた方が楽なんですが……」
「切らねぇの?」
「怒られますし」
「稜稀様? 過干渉だなぁ? 普通娘が髪切って文句言うかよ」
「神々はどっかしらおかしいんですって」
「お前もおかしいもんな、ツキちゃん」
「やめろ」
火音はいい餌を手に入れたとニヤニヤし、月火は不満たっぷりの目で睨んだ。
火音の箸を取って、おつまみ回収すると自分で食べ始めた。トロタクとマグアボ。美味し。
「ツキって月火の月だろ。なんでそうなったわけ?」
「昔漢字で書かれた月火が読めなかったんですよ。月火って間違えてそこから」
「へー。俺もそう呼ぼ」
「やめてくださいほんとに」
「鬼互が呼んでも無反応だったくせに」
「火音さんって知れば知るほど面倒臭いタイプですね。廻醒は火音さんに思考が伝わる前は覚醒スター君って呼んでたんですよ。カッコいいでしょう? 向こうもそれと同じ感じです。たぶん」
「たぶんて……」
月火はマグロアボカドのマグロだけ全て食べると、アボカドは今の味付けを全て消す青じそをかけて食べ始めた。
「アボカドうまぁ」
「炎夏はつくづく不運だなぁ」
「何故炎夏さん?」
「べーつに」
思考が廻醒で埋められ、それが邪魔すぎて炎夏のことがイマイチ読み取れない。
こいつ妬み深すぎだろ。
「嫉妬って言え」
「言ってませんし自分が持ってると思わないでください」
「お前は俺の」
「ついに本性現した」
「道具」
「ざけんな」
火音はケラケラ笑い、月火は怒るとアボカドを流し込み火音のソファを奪った。
「火音さん、今年も正月行きますか?」
「うん。餓死する」
「いやさすがに対応考えますが。たぶん廻醒一家も来ますよ」
「……いない方がいい?」
「いえ、なんの問題もありませんがただの確認です。十月頃に正月に実家に帰って当主教育をする的なことを仰られていたので」
「……思い出したくなかった!」
「火光兄さん起きますよ」




