46.クリスマスバースデー 2
月火がはとこの廻醒君と電話をしに部屋に戻り、水月と火音だけのリビングが静まり返っていると火音のスマホに火光から連絡が入った。
『もしもし火音? 月火誰かと電話してるの?』
「うん。声掛けようか」
『お願い』
通話を切り、数分すると電話を終えた月火が戻ってきた。
「火音さん、これにHappy birthdayのデザイン描いてください」
「なにこれ」
「チョコプレートです」
「ケーキどんなん?」
火音が描いている間に月火は夕食を完成させる。
今日は少し豪華にお刺身と天ぷら。
「……こんなんでいいの?」
「やっぱりセンス命のものは火音さんですね。私じゃ駄目だ」
「僕のケーキには火音使わないでね」
「はいはい」
十分ほどすると、火光が帰ってきた。
大荷物を持って、上着を床に落とすとふらっとソファに倒れる。
「づがれだァ……」
「お疲れ様です。上着洗濯に出しますよ」
「もー死にそう。ほんっとに無理」
「どうしたんですか」
「あ月火、外の大量の紙袋何?」
「紙袋?」
火光の上着を洗濯に出した月火は火音を見上げ、火音も知らないので肩を竦めた。
とりあえず、危ないので火音が見に行く。
「うーわ」
「バレンタインですか?」
「プラス生誕祭だ」
クリスマスプレゼントと誕生日プレゼント。
二人に、一人一人が二つ用意したせいでとんでもない量。
八袋はあるな。全部、液タブが入っていた紙袋より大きい。液タブが32インチなのだが。
二人で顔を見合わせると、火音はそっと玄関を閉じた。
月火がゴミ袋を持ってきて、袋のそれを詰めれるだけ詰める。これに巻き込まれないよう友人からは手渡しで貰う。
紙袋をひっくり返し、何とか中袋で二つにまとめた。
「ゴミの日月曜なのに……」
「土日は業者来ないしあとで置きに行くか」
「ですね」
あーあきったね。
二人で思考が一致し、溜め息をついた。
月火はチョコプレートに火音がデザインしたそれを描くとケーキに飾り、写真を撮った。
「火音さんロウソク立てます?」
「火吹き消すやつ? お前が消すならどっちでもいい」
「いりませんね。餓鬼じゃあるまいし」
プレートに歳は書いたのでそれでいいだろう。
こういう時、つくづくアナログで書けて良かったと思う。
机に並べると、皆が写真を撮った。
「月火、火音、はいピース」
「俺もかよ」
「僕火音いらない」
「黙れ愚兄共従え」
火光の圧に火音は月火に負けんほどの輝かしい笑みを浮かべてピースをして、火光は二人の写真を撮った。やべ、ケーキ入ってない。
水月は立ち上がると角度を付けて月火だけが入る構図で写真を撮った。
写真タイムが終わるとすんっと真顔に戻る二人が面白い。
「はっぴばーすでー」
「歌わなくていいです。先にご飯食べましょう」
月火は水月をぶった斬るとケーキを箱に戻し、冷蔵庫に入れると皆でご飯を食べた。
まぁ話すのは主に水月と火光で月火は聞き手、火音は笑う火光可愛いなぁと眺めるだけ。
なんとも滑稽な兄二人を見ながらご飯を食べ終わって、皆でケーキも食べた。
八等分が二ホールで十六切れ。火光が二切れ食べて寝落ち、水月が一切れ食べてソファで天狐に踏まれ、火音は珍しく二切れ目を食べる。
ワインを飲みながらいい大人に見えるがスマホで見てんのが火光のSNSなんだよなぁ。
頬杖を突いて、前髪が邪魔なのか片手で流している。
「髪伸びましたね。切りましょうか」
「……前に切ったの十月半ばぐらいか」
火音は美容院に行けないので月火が切っている。
昔はどうしてたか知らないが、記憶にある限りじゃ火音が髪を放置した長さになっていたことはない。
「そもそも昔は伸びなかったからな。ただの栄養不足」
「食べ始めたのが中等部からですもんねぇ」
火音はワイングラスでワインを飲み、月火は喋り相手。なくなったら注いでいるが、もうすぐ空になりそうだ。
めっちゃいいワインなのに。
「……廻醒のSNSがない。知ってる?」
「なんで見ようとしてるんですか」
「新人チェック」
「やってる的な話は聞いたことありませんが」
「メールのアイコン見せて」
一体なんのスキルなのか、火音は一瞬かじりついたかと思うとすぐにそれらしいアカウントを見つけた。月火は思わず顔を引きつらせる。
「……私の裏アカ見つけないでくださいね」
「お前のは思考が伝わってくるから全部分かる」
「アカウント乗っ取って本名晒しますよ」
「既に出てんのよ」
「イラストレーター火神火音」
「やれるもんならやってみろ。こっちには裏アカがある」
「あれは消しましたから!」
「新しいの三つ作りましたから」
月火は救急セットを漁るとワインに入れたら殺せる薬を探し、火音は月火を救急セットから引き剥がした。
「やめろ、マジで」
「……裏アカなんて使わないんですけどね。なんで作るんでしょう」
「好奇心」
「それは大いにある」
やっちゃいけないって言われると、やりたくなるよね。
火音がワインを飲み終わったので、月火は上着を着た。
ゴミを出しに行かなければ。
「ついでに酒買おう」
「好きですねぇ」
火音はマスクを付けると、月火とともにゴミを出しに行く。と言っても火音は持てないのでただの付き添いだが。
そのまま学校を出て、近くのコンビニまで行く。
「……身分証明書持ってきました?」
「いけるところは学園の教員証でいけるんだけど」
「無理なら?」
「障害者手帳あるし」
「それはあるんですね。せめて保険証」
「あれ顔写真なしでいけんの?」
「当たり前でしょう」
案の定冷や汗だらだらの高校生バイトが挙動不審のまま身分証明書をと言ってきて、火音のを見せた。
月火はジャージの襟で口元を隠しながら、スマホ決済で。
「あ、ありがとうございました……!」
「火音さんってビール飲みませんよね」
「まずいじゃん」
「本能って感じ。焼酎とか日本酒は美味しいんですか?」
「うん。ハイボールとか酎ハイはいけるし。ぜんっぜん酔わないから飲まないだけで」
「え火音さん酔うんですか?」
「当たり前だろなんだと思ってる」
「異人……」
月火がハッとして頬を押さえると、耳を引っ張られた。
「すみません口に出しただけ許してください」
「素直だからおっけーじゃねぇんだよ」
「よく分かってらっしゃる」
二人で寮に帰ると水月は部屋に帰っていて、ソファには火光が乗っていた。天狐は相変わらず腰の上。
「あーあ疲れた」
「私この時間に買い物しに外出たの初めてな気がします」
「何回もあったら困るだろ。先風呂入ってくる」
「行ってらっしゃい」
火音が風呂に行っている間におつまみを作っていると、天狐が月火を呼びに来た。
スマホが鳴っていたらしい。
「……もしもし廻醒? どうした?」
『ちょっと部屋来てくれん? 動けんなった』
「怪我?」
『背中ざっくりと』
火音のおつまみを用意し、声を掛けてから廻醒の部屋に向かった。




