45.クリスマスバースデー 1
鬼互からの誕生日プレゼントを火音専用じゃない方のソファで開封し、ブレスレットを手に付けて写真を撮っていると寮に火音が帰ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさい。相変わらず早いですね」
「人が増えたからな」
最速でやって一日でこなせるギリギリの量で磨かれたスキルを、スピードを変えず量だけ減ったらそりゃ早くもなるか。さすが即戦力組だ。
月火が紙袋や箱を捨てていると、椅子に座った火音が月火の手を取った。
「ブレスレットだ」
「廻醒からのプレゼントです」
「廻醒? 呼び捨て?」
「はとこですからね。水哉様のお姉様のお孫様なので」
「神々の血は入ってないのにあの実力か」
「廻醒のお父さんが知る人ぞ知る名家の当主なんですよ。適正のある子供には鬼の妖心が宿るのでものすごい力を持つんです」
「鬼……」
「ちなみに廻醒は酒呑童子ですよ。妹は鬼一口でお父さんは茨木童子」
「……羅生門か」
全員がとても有名な妖怪の姿をしているため、力もまぁ強い。
有名だから強いんじゃなくて、強いから有名になったの。まぁ、多くの妖心は死後に人間とくっ付けられたのが多いらしいが。
「綺麗でしょう。タンザナイトですって」
「わー金持ち」
「ちなみにダブったので贈り直しです」
毎年、たぶん月火のお小遣いが始まった三歳頃から、ずっとお互いの誕生日にプレゼントを送っては一年間付けて過ごすのでダブっていると二人の名誉に関わる。別にはとこ同士なんでいいけどな。
「火音先生の誕プレも先に渡しておきましょうか」
「俺?」
「だから忘れんなって」
「慣れねぇんよ」
月火は部屋に戻ると白い無地の紙袋を持ってきた。
「はい、ハッピーバースデー」
「わぉタブレット…………神々製品……!?」
「いいでしょう。特注カラーですよ」
「マジかよ」
箱を開けると、本体は綺麗な紫だった。見覚えのある紫。ほんとに。
「……火光の目の色だ!」
「写真から抜き取りました」
「マジか凄!? 社長の権力ッ!」
「ちなみにカバーは私デザインです」
同じ紙袋に入っていた手帳タイプのカバーを見ると、シリコン自体に模様が入っていた。
背面は透明なケースに模様が入って、タブレットの色も見えるようになっている。
「すっげ……! マジか……!」
「毎回自分で書いてるでしょう。タブレット本体に。神々製品を傷付けんなって意味でも」
「神かよ」
「神ですよ。神々ですから」
火音が大興奮しながらタブレットに強化フィルムと、紙の質感を出すフィルムを貼っていると水月が寮に入ってきた。
「やほー」
「あ来た」
「……火音が新しいタブレット持ってる……!?」
「私からの誕プレです」
「わーお兄ちゃん聞いてないなぁ?」
「私の会社です」
「家の会社だよ」
「三倍払ったんですよいいでしょう」
「……ズレた」
月火の言葉に驚いた火音はフィルムを剥がした。
タブレットとフィルムを持って逆にやりにくそうなソファに移動すると、フィルムを貼る。
「几帳面すぎでは?」
「だってムズいじゃん」
「作ろうか迷ってるんですけどねぇ。なんせコストが」
「高くてもいいから作れ。俺はそれを買う」
「お兄ちゃんを置いてくな」
「勝手についてこないでください」
月火に抱き着いた水月は冷たい妹に文句を言ったが顔面をはたかれた。火音が鼻で笑う。
「……月火ブレスレットなんて付けてたっけ」
「廻醒さんからのプレゼントです」
「あれ誰? 四位ってだけで知り合いなの?」
「私が中等部上がるぐらいまでは屋敷に遊びに来てたんですよ。知りません? 知りませんね、屋敷の中歩くようになった頃には水月兄さんいませんでした」
「……あーあいつ」
先に思い当たったのは火音らしい。
火音も月火が面倒見るようになってから神々の屋敷に来ていたので、何回か廻醒も見たことあるだろう。
「あぁあいつか。お前仲良さそうだったもんなぁ」
「実際良かったんですよ。私が当主になって忙しくなったので会えなくなりましたが」
「お前死にそうになりながら働いてたもんな」
「えーそんな人いたっけ? 写真ないの?」
「実物見てきてください。下にいるでしょう」
「任務だって出てったよ」
「頑張ってるぅ!」
水月にデコピンされた月火はその手を叩き落とすと、火音の傍に逃げた。
火音は早速カバーをはめて、データを移行している。
「それより容量大きいんですよ。最新機種にしたので」
「便利〜」
「げーっかちゃん!」
「……なんですか」
「誕プレ」
拗ねた水月は椅子に座ると、机に大きなダンボールを置いた。月火は目を丸くし、首を傾げながらそちらに寄った。
「なんですか?」
「開けてごらん」
水月が動画を回し始めたので、月火は首を傾げながらダンボールの開け口を探す。
真っ黒で、会社名も商品名も書いていない。
なんだろうと思って開けると、月火は目を輝かせた。
「あ、パソコン」
「火音邪魔ッ!」
「いぇーい」
「欲しかった機種! えぇいいんですか!? ほんとに!?」
「まぁ僕が色々付け足したから数段性能は良くなってるよ」
「ほんとに!? 消音キーボードで!?」
「高さ調節機能付きの極薄ノートパソコンです」
「やったーッ!?」
月火は目を輝かせて、それを取り出した。
ちゃんと表面や裏、側面に保護シールが貼られている。キーボードは色変更可能のゲーミングタイプ、夜でも文字が光るから見えるよってやつ。
後ろ側には折りたたみ式の足が付いていて、好きな角度に調整できる。
販売しようと思ったら、コストが高すぎて生産が追いつかないのと高すぎて一般層では手が出せない価格になる代物。それを、水月が作ったのか。
「マジですか……!」
「語彙力消えたねぇ。かぁわいい〜」
「語彙力消えて可愛いって」
「黙れ火音」
月火は大喜びして、水月に手伝ってもらいながら既存のパソコンからデータを移した。
「わぁ……! クリスマス前に欲しかった!」
「それは言わないお約束。あとトラックボードあげる。無線だから使いやすいよ」
「トラックボード?」
「指先のタップとスライドで操作できるやつ。タブレットとか液タブで書くならこっちの方が慣れてるでしょ?」
月火は目を輝かせると、手を振り上げて大喜びした。水月はまるで天に召されたかと思うほど穏やかな顔で微笑む。あぁ、妹が可愛い。
「火光の難易度上げちゃったなー。これで月火の興味ないものだったら面白いな〜。僕が」
「じゃ月火、俺からの誕プレだ」
「液タブ?」
三人で火音の部屋の奥にある趣味の部屋、アトリエに行くと、部屋の奥に大きな液タブが一台増えていた。
右側に火音の液タブ、奥に月火の、左側にはアナログ画材の山。
月火は目を輝かせると、部屋の奥を指さして火音を見上げた。
「お前のは奥。設定するか」
月火は声にならない声をしながらいつの間にか増えていたゲーミングチェアに座り、火音に説明されながらショートカットキーやブラシ設定をした。
専門用語のオンパレードで水月はまるで分からなかったが。
「でキャンバス保存。こっちで透過保存」
「うわぁ神だぁ……?」
「お前手袋薄いやつだろ。あれ探しても出てこんかった」
「自分で作りましたからね」
「買えよ……!」
「板タブだったのでいらなかったんです。アナログの時に付けてるでしょう」
「まぁいいや。それ使うか?」
「アナログのやつと違いあるんですか?」
「スポンジみたいなのが入ってる。あとシルク」
「買って!」
「はいはい……」
アナログは紙とペンで描く手法。
デジタルはタブレットやパソコンで描く手法。
設備は違えど結局はアナログを元にした描き方だ。アナログが上手い人はデジタルの使い方さえ分かったらデジタルでもかけるが、デジタルで描く人はアナログで描けない人もいる。
月火はどっちでも描けるがデジタルの塗りが好きなのでデジタル派。
「好きに描いたらいいけど夜更かしすんなよ。俺が眠くなる」
「はーい」
「あと画材使ったら片付けろ」
「すみません……」
火音に頬をつねられた月火は半泣きのままリビングに戻った。
月火はにこにこと笑い、上機嫌のまま夕食準備に取り掛かる。
「月火嬉しそうだね」
「まさか欲しいものが全部揃うなんて夢にも思ってませんでした。久しぶりに廻醒さんにも会えましたし液タブもゲットできましたし仕事も効率化できそうですし」
「火光からは何欲しい?」
「なんでもいいです。貰えるだけで有難いので」
「もう欲しいものないの?」
「いくつかありますけど言いませんよ火光兄さんを馬鹿にするつもりのある人には」
月火に睨まれた水月はしゅんと小さくなり、パソコンを開いた。
火音はタブレットで絵を描き、月火は夕食を作り始める。
少しして、火音が顔を上げた。
「月火! スマホ鳴ってる」
「……もしもし?」
何故か月火の後ろにあったスマホに火音が反応し、月火は電話を始めた。
「よく聞こえたね」
「月火は聞こえてるものの処理が追いついてない時があるから。雑音カットに脳が長けてる」
「火音の邪魔な思考が入ってるからじゃない」
火音の後ろに回った月火は喧嘩しかける火音の口を塞いで、火音の耳にスマホを当てた。
火光の声が聞こえ、火音がおとなしくなる。
『……月火? 聞いてる?』
「聞いてますよ。じゃあ着く十分前ぐらいに連絡下さい。ご飯も合わせます」
『先食べててもいいのに。お腹空いてるでしょ』
「いえ、今日はほとんど動いてませんし。……はい、では」
ソファの肘掛けに座って、黒葉にもたれる火音の頭に手を置きながら通話を切った。
「すぐ喧嘩しないでください」
「俺は何も言ってない」
「私が塞ぎましたからね」
「今回は水月のせいだろ」
「人のせいにすんな」
「事実……!」
この二人はそもそも性格が合わないのに、好きなものを邪魔する役と守る役をお互い兼任しているので余計いがみ合うんだな。
火音は火光に構いたいのに水月が邪魔し、水月は月火に構いたいのに火音が邪魔し。
つまり、超敵対関係ってこと。
「一緒にいるの駄目なのでは?」
「今さら」
「てか火音さんが邪魔しなければいい話では」
「じゃあお前いけよ」
「そうはなりません。妬みの原因を取り除けば早い話であって」
「妬みと嫉妬の違いって何?」
「自分が持ってるか持ってないか。あからさまに話を逸らすな」
火音は不貞腐れたまま顔を逸らし、月火は呆れて溜め息をついた。
「水月兄さん」
「何」
「火音さんが常に物事を考えてると思いますか」
水月が吹き出し、思わぬ飛び火を食らった火音は飛び起きた。
「……思わない……!」
「おい! 俺貶す必要ないだろ!」
「え事実でしょう?」
「言い方ッ!」
「ほら事実」
火音が月火の頬をつまんで左右に引っ張り、月火が事実だと叫んでいるとスマホに通知が入った。
誰のだと思ったが、月火のだ。
一応確認したが、仕事じゃなかったので放置する。
「火音さんといると頬がちぎれる気がします」
「お前のせいだ自業自得俺は悪くない!」
「悲しい大人の成れの果てだ」
「黙れ」
月火がキッチンに戻ろうとしていると、また電話がなった。
月火がスマホを置いていったので火音が覗き込む。
はとこだ。着拒否したら面白いかなと思うとスマホを取られ頭を叩かれた。
「もしもし」
『既読付けたら返信してくれ』
「仕事じゃないのでいいやと思って」
『別にいいけどさ! 忘れるやん!』
「なんせ開くことが少ないもんで」
月火はイヤホンを付けるとスマホをカウンターに置いて夕食の続きを作り始めた。




