43.火神
ハロウィンが近付いたある日、月火がフルーツバーを咥えながらノートに向かっていると正面でパソコンを叩いていた火音の視線に気付いた。
「なんです?」
「……別に」
「火神の内部整理は手伝いませんよ」
「バレてるし。……行くかぁ……」
「いつ?」
「…………正月ぐらい?」
「おっそッ!」
火音は頭を抱え、月火は手伝わないとは言ったものの心配する。
火神は今、当主が火神の血を引いていない。それは水神も同じなのだが、水神は真面目に書類仕事に向き合うし当主補佐も子を育てなかったとはいえ仕事には真面目な人だ。水虎や超超人水明の手伝いもあって問題なく進んでいる。が、火神家は違う。
言ってしまえば、火神にいる現役で仕事を処理できるのは火音だけ。当主はまるで覚えようとしない役立たず、補佐であるはずの妻は跡継ぎ生んだからあと知りませんの馬鹿。
加えて火音の叔母に当たる智里は手塩にかけて泣く泣く体罰で躾けた火音を当主に押し上げようと画策している。
火音の父である前当主は引退したから我関せず。その妻なんて現状さえ知れなかった。
火音は玄智に教えたいが体質と仕事の山のせいで無理。
本来十人以上いるべきだが五人しかいない神々よりも、腐った奴が六人近くいる火神の方が中は最悪なことになっている。
水神や神々に迷惑がかかり始めたら潮時かなとは思っているが。
「じゃあ」
「まだかかってないので無理です」
「火神の後処理してんの水明だぞ!」
「言葉を変えます。私がカバーしきれなくなったら対応しましょう」
「なってからじゃ遅い」
「なってからでも対応できる能力があります」
強すぎんだろコイツ。
火音は大きく仰け反ると散々呻いたあと、最後の最後で本気で死にそうな溜め息を零した。
「……飽きた。やめやめめんどくせぇこんなん! やーめた! 月火コーヒー!」
185センチの餓鬼がいると思いながら、立ち上がるとお湯を沸かし始めた。
電気ケトルもウォーターサーバーもありません。
火音は月火がキッチンでスマホを見ている間に、月火のスケブを取ってペラペラとめくった。
一時期ゴリゴリ描きこんでいたのは知っているが、これはまた。一枚一枚丁寧に謎空間が。
アナログでこれだけ書けるのもすげぇよなぁと拝見していると、机にコンッと小気味いい音が鳴った。
見上げると、月火が笑顔で凄んでくる。
「返しなさい」
「お前アナログで描くのに液タブいる?」
「私だってデジタル派なんですよ。ただ板タブしか持ってないのでかけないってだけで」
「液タブ買えばいいのに。タブレットもあるだろ」
「金がない!」
嘘だろコイツ。
火音が信じられないような顔をすると、スケッチブックを取り上げた月火はふいっと顔を逸らした。
遺伝。しょうがない。
「……まぁ、別に金遣いに口出しする気はないけど。液タブ誕プレになるぞ」
「やった。貰えるならいつでもいいです」
「……そういや毎年お前の誕生日って水月と火光が祝ってたよな」
「毎年馬鹿騒ぎしますね。それが何か?」
「いや、毎年月火の部屋にこもってたから今年どっか行こうかなと思って」
「ご自分が誕生日というのをお忘れなく」
月火の釘に、火音は少々面食らうと数秒フリーズした。
「……慣れねぇなぁ……」
「何ケーキがいいですか?」
「チョコ」
「抹茶って思いましたね今」
「火光が食えるもんッ!」
「私のを普通のにしますよ。火音さん抹茶好きですね」
「……なんでだろ」
知らねぇよ。
月火はスケッチブックを片付けると夕食を作り始めた。
火光は残業、水月は最近来ていない。でも今日は火光と食べに出るらしいので夕食は二人。
「何ケーキがいいですか?」
「え知らん」
「でしょうね。今まで食べた中で何ケーキが美味しかったですか」
火音は月火のスマホを取ると歴代のケーキを遡り始め、月火にどのケーキはどういう感じでと言うのを説明してもらう。
思考が繋がるので感覚の共有がとても楽だし正確だ。これはちょっと利点だと思う。




