42.妖神学園文化祭・午後
文化祭午後、月火は火音と共に校庭に降りた。
舗装されたアスファルトの道を歩きながら、月火は上機嫌に鼻歌を歌う。
最近月火が永遠にリピートしている曲。火音は頭が痛そう。
「ふふーん」
「その曲やめろ。トラウマになる」
「そんなにですか? いい曲なのに」
「闇すぎんだろ。夢にまで出てきたんだぞ」
「いーなー。私が寝てる間聴いといてくださいよ。私の夢に出てくるまで」
「やめろって!」
火音が耳を塞ぎ、月火がしつこくねだっているといつの間にか皆が来ていたらしい。頬をさされた。
「何やってんの」
「……音楽が夢に出てきたらしいので逆パターンのお願いを」
「トラウマになるっつってんのに」
「なんの曲?」
月火が元気よく歌おうとしたら、火音に割と本気で殴られた。
月火は頭を抱え、玄智はケラケラと笑う。炎夏は興味なさそう。
結月が凄い音が鳴った月火の頭を心配していると、月火が火音を睨んだ。
「火音さん、腕」
「あ?」
月火は火音の右腕を掴むと、傷口を爪を立てながら勢いよくつねった。てか、もうちぎろうとしただろこいつ。
火音はあまりの痛みに勢いよく腕を振り下ろし、月火に内心罵詈雑言浴びせる。
「お互い様で」
「発端のお前がやんな」
「いい曲でしょう? 私このアーティスト好きなんです。月火社のCMソング大量に作ってもらってますから」
「アーティストは好きにしろその曲だけやめたら口は出さん」
「いい曲なのに」
「テンション下がるんだよその曲……! 仕事に支障が出る」
まぁたしかにちょっと病んでてちょっと人を殺したりして後悔したりして、ちょっと鬱っぽい曲だが。
「ちょっとじゃねぇ」
「うるっさいなぁ……仕方ありませんね私の恩恵に感謝なさい」
「はいはいありがとうございますー」
「腹立つこのヒモッ……!」
火音がふいっと顔を逸らしたら、いきなり頭を掴まれた。
「おいお前まだヒモやってんのか」
「痛い痛い痛いです火光さん」
「おい」
「あぁ兄さんたち。遅かったですね」
「なんでわざわざ集合場所道のど真ん中にするの?」
「端にいても目立つので。この顔が」
月火は火音を指さしたが、火音は月火を指さした。
どっちもどっち。
火光は火音の頭を離し、代わりとでも言うように水月は火音の足を蹴った。
「お前ヒモ生活辞めるんじゃなかったのかよ」
「ご安心を貴方と違ってちゃんと払ってますので」
「僕はいいんだよ」
「よくねぇよ」
「火音さんはただのヒモとして」
「払ってんだろうがッ」
「水月兄さんは仕事してんのに家に家賃入れてないんですよ。ただの泥棒と同義ですよね? 極悪非道」
「でも僕最近行ってないよ?」
「……じゃいらないので来ないでください。払わない間は一生」
月火は穏やかに微笑むと、踵を返して歩き始めた。
一年ズは高校生らしくエンジョイし始め、水月は胸を押えた。
火光が慰めようとした時、二人の頭にスカーンと衝撃が走る。
なんだ誰だと思って振り返ると、あぁ般若。じゃなくて母さん。
「聞いたわよ水月、火光。居候して払ってないの?」
「僕は払ってます」
火音が。
「僕マンション持ってるし……」
「マンションと月火両方に払うかマンション解約して月火の所に住まわせてもらうか月火の寮に行かないと宣言するか選びなさい。娘天君いるんでしょう」
「……払います」
「滞納したら私から連絡するからね」
「はい」
そんな光景を少し離れたところで見ていたら、月火から動揺が伝わってきた。
それとほぼ同時に、女子に囲まれていることに気付く。
「すみません、今お一人ですか……?」
「教師さん? 私達と回りません?」
「一昨日の体育祭でリレーアンカーしてた方ですよね! かっこよかったです〜!」
全員が同時に喋り始め、初めこそ聞き取れたものの諦めたら何言ってるか分からなくなった。
ふと、疑問に思う。これ、指輪付けてたら結婚してるんでで騙せそうだが。
変な噂が出るので駄目だろうか。
別に火神に迷惑がかかる分にはいいよなと思っていると、背中を叩かれた。
「それ私に迷惑が出るのでやめてください」
「他三人は?」
「彼氏と伯父と担任と消えました」
戻ってきた月火は火音の腕を引き、二人で輪を抜けようとしていると女子の一人が月火を掴んだ。
「ちょっと! まだ話してたのに」
「この方成人ですよ。童顔ですけど」
「見りゃ分かる! けど違う!」
「この方が欲しいならまず収入源確保ですね。生徒に養ってもらってる教師がいなくなるなら私も歓喜します」
火音に頬をつねられ、冗談だと言いながら踵を返し歩き出した。
火音はマスクを押えて、月火は火音の腕を掴みながら買い食いに連れ回す。
「ん〜美味し!」
「そういや稜稀さんが水月に家賃払わせるって言ってたけど」
「その名前どっちも出さないでください。テンション下がるので」
「はいはい。今日何時まで?」
「五時前には帰る予定ですが」
「疲れた。もう帰ろう」
「一人でどうぞ」
「お前昼のアレ忘れたか?」
月火の腕が止まり、少し顔色が悪くなった。
トラウマだな。
何度かガチャガチャとなることはあったしその度火音が対処してきたが、一般人が出入りしている時は初めてだからか。相当怖かったらしい。
「……離れないでくださいね」
「はいはい臆病ちゃん」
「誰だって怖いです!」
「まぁそれはそう」
火音は月火の頭に手を置くと、月火は火音の袖を掴んだまままた歩き出した。
月火があまりにも怖がるので、一旦人のいないところに行く。
寮棟の裏にある階段。ここならそうそう人は来ない。
月火は壁に背をつけしゃがみ込むと溜め息をついた。
「そんな怖いか?」
「いや……まぁ怖さもあるんですけど、やっぱり見られてるんだなぁって思うと緊張して」
「高校生が考えることじゃないだろ」
「社長は考えるんですよ」
俯いて腕に顔を埋めた月火の頭に手を置いた。
「社長だって人間だ。常識に縛られてるお前なら非難されることはねぇよ」
「……それ褒めてます?」
「俺がお前褒めると思う?」
「……褒められたことないかもしれない。これだけ生活を支えてるのに!」
「感謝はしてます」
今日はもう帰ろう。疲れた。
月火は火音に手を借りて立ち上がると、ふと火音を見上げた。
「何?」
「身長伸びたかもしれない……!」
「伸びてないかもしれない」
殴られた火音は患部を押えながら、そこの階段を上がって寮に帰った。
午後、まだ三時頃。
風呂から上がるとカバーを付け替えたソファが月火に取られていた。
足の周りを飛び回る天狐を反対のソファに行かせ、ソファの傍にしゃがむ。
あの天狐、最近めっきり見ないと思ったら水月の部屋に寝床を作ったらしい。火光と仲良くなっていたのでそこからだろうな。
火音が月火の頬をさして起こすと、月火は不機嫌そうに目を開けた。
「……嫌」
「なんも言ってねぇ」
「部屋帰ってください」
「お前が帰れ」
「動きたくない……」
「起きろ」
月火が体を起こしたので座ると、月火は火音の膝に寝転がってまた寝始めた。
もう知らん。




