36.妖神学園体育祭 1
「ただいまより妖神学園体育祭を始めます。例年に続き、記録がないため回数が不明で第何回とは言えませんが、今年も最後までよろしくお願いします」
人前に出ると硬直する麗蘭の代わりに開会式と、生徒代表の挨拶を済ませ指揮台から降りた。
下で待っていた炎夏と玄智は月火にプログラムを渡し、月火はすぐに競技準備をした。
御三家は特別なので、テントが一つ専用である。
本来は初等部、中等部、高等部、大学部としてあるのだが、なんせ高等部に集まりすぎている。
中等部の澪菜は両親大好きだし大学部の暒夏は不要と断言したので高等部のテントしかない。
しかも、そこに教師も兼用で。
月火は中に入るとタオルと水筒を持って外に出た。
競技に向かう月火を見送り、炎夏と玄智は顔を見合わせる。
「すっげ、フルシカトしてった」
「視線すらやらなかったね」
「火音先生、衣食住が危うくなったんじゃないですか?」
「元々安全地帯ではねぇ」
火音がそう言うと、月火に「気遣いで養ってやってんのにふざけたこと抜かすな」と怒られた。気分が沈む。
「火音先生、1500メートルリレー出るのに大丈夫?」
「……始まるまで何分?」
「十分ちょっとあるけど……」
タブレット取ってこよう。精神安定には集中が手っ取り早い。
火音がどこかに行ったのを感じ取りながら、赤いハチマキを解いて手首に縛った。袖で隠しておく。
月火はずっと赤チームらしい。この大人数を赤白でわけるものじゃないと思うんだけど。
ネットで生配信と、ネットの投票箱にも色々と仕掛けがある。主に、赤白どっちが勝つか投票後、結果発表で選んだ方が勝ったら火音と月火の合作フリーイラストが表示されると言う。
サイトは水月に作ってもらった。イラストも数種類描いた。告知は月火に任された。死にかけた。
トレンドには妖神体育祭や妖神学園体育祭が上位にくい込んでいるし、月火や玄智のアカウントも載っているので出だしとしては上々だろう。
一学園の体育祭とは思えない。
都内の一般校はここと体育祭、文化祭、修学旅行を重ねないのが鉄則らしい。
逆に、地方の一般校で東京に来る予定がある場合はこの時期に合わせることが多々あるらしい。
「第一種目は借り物競争です。観客の皆さんも一緒にゴールできるかもしれません。アピール頑張ってください」
炎夏と玄智は指揮台に腰掛け司会を務め、月火はくじ引きで場所を決めた。
何故か火光がピストル係らしい。
片耳を塞ぐと掛け声をしてからそれを撃った。
お題の入った封筒を取り、紙を広げた。
今年、何かで一位になった人|(証拠がある場合のみ承認)。
これは、月火が引いたらとても不利なやつではないだろうか。自分で言ってもなんだが色々かっさらっている。
何かで一位。しかも今年。今年、何があっただろうか。
学園事。部活、妖輩、芸能界、仕事。
皆がバラける中、月火は紙を持ったまま合否役の火光の元へ歩いた。
「これ自分じゃ駄目ですか?」
「やめなさい」
「だってこんなん人見知りに地獄を味わせるお題……」
月火はぶつくさ呟きながら、周囲を見回した。
一位なんてそうそういるもんじゃねぇし。火音がいたら学園美男ランキングとかトレンド一位のスクショで使えるんだけど、それは癪だからいたとしても使わない。
月火は玄智の元に走るとマイクを拝借した。
「えーと、今年何かで一位になったよーって方! 私と走りましょー?」
月火がそう声をかけると、会場がざわめいた。
その中で、誰かがテントから誰かを引っ張って連れ出してくる。
「神々せんぱーいッ! こいつ! こいつこいつ! これ! 夏季総体でバドと幅跳びと高飛びの一位かっさらった奴いますよーッ!」
校庭に響くその声にハッと反応すると、マイクを炎夏に渡してその子の元へ向かった。
見れば、いつかどこかで見た少年だ。たしか妖輩コースの。
「君……なんか見た事あるなぁ?」
「前に先輩とひお……」
「まいいや。とりあえず走るよー」
月火は少年の腕を掴むと、初っ端から負けてられんとほぼ全力で走った。
スマホで記録を調べて、火光に突き出してからゴールする。
「おめでとうございます、二位です」
「……うっそ〜。一位誰ですか」
「僕だよ〜」
「あ、暒夏さん」
見ると、暒夏がピースをしていた。
「お題なんだったんですか?」
「月火オタク」
「……で、誰を?」
「え、火光先生」
月火は助走を付けると勢いよく火光に飛び蹴りを食らわせた。
殺気を感じて即座に防いでしまった火光は腕を振る。
月火の蹴りを受け止めたら折れる所の話ではない。
「何!?」
「審判が参加してどうすんだッ!?」
「いいでしょ別に! 観客も参加できるんだから!」
「観客と選手が参加できるルールなんですぅ! 審判がいいなら司会だっていいでしょ!? トレンド一位でも投稿者イケメンランキング一位でも連れてきますよ!」
「玄智じゃんッ! それは観客楽しめないからアウト!」
「あんただってアウトだろうがッ!」
月火が怒っていると炎夏が回収に来て、火光を一発殴ってから退場させた。
月火は二人の間に座るとふんすと怒って、炎夏は月火の頭を撫で落ち着かせる。
「……こんなんやってたらアイコンの下の顔バレるね、炎夏」
「べつにいいし。どうせ出かけるなら厄介事になりますよーだ」
炎夏はプログラムを確認すると、月火のハチマキを後ろで結んでやる。
この後は月火対火音の1500メートルリレー。お互いを一番初めとアンカーにしたのでとても楽しみ。
「よし、勝者になって戻ってこい」
「それ言いたいだけだろ……」
「勝って火音先生に勝者が正しいと突き付けてこい」
「よっしゃ!」
謎なところで気合いが入った月火は上機嫌に走って行き、炎夏が玄智に頬をさされているといきなり指揮台にダンッと大きな音が鳴った。
二人どころか周囲の人もびっくりして、指揮台の中心を見た。
どうやら上から降ってきたらしい火音がしゃがんでいる。
「あ、火音先生遅かったね」
「遅かった……!」
「ちょうど月火が火音先生潰すって喝入れてたとこだよ」
「これ俺の荷物のとこ置いといて」
火音は玄智にタブレットやその他諸々を渡すと、指揮台から降りて二、三歩歩いた。
そこで、ふと思い立って振り返る。
「炎夏、お前今朝玄智にかき消された答え知りたいか?」
「……え待ってなんで火音先生が」
「あいつの五感は俺に筒抜けだと思え。ちなみに俺はあいつが何をあんな悩んでたのかその答えも知ってる。なんならちょっとアドバイスもした」
「……火音先生って案外変態だったりします?」
火音は炎夏の元まで戻ると指揮台に座っていた炎夏の手スレスレに足を強く置く。
炎夏はびっくりして手を跳ね除け、心臓が飛び跳ねるまま火音を見上げると、そこには真っ黒な笑みを浮かべた美男が立っていた。
「あの馬鹿は信じられないほど鈍いが同じ脳みそ持つ俺は一般人の感性だからな。一人いる場には二人いると思え」
「サイッテーだろこの人ッ!」
「なんなら俺は人の雰囲気を読み取るのに長けてるからお前の思考も手に取るように分かると思え青二才」
「教師として大人として間違った存在の仕方をしてる!」
「ねぇそんなこといいから早く行ってくださいただでさえ遅れてきたのに」
玄智は親友を救う意味で火音を追い出し、撃沈した炎夏を慰めた。
白いハチマキを結び、月火から白いバトンを受け取る。
「内側で」
「好きにしろ。なんなら負けてやってもいい」
「あぁそうですか。その顔のくせに足は女子高生より遅いと言うのを見せ付けたいなら止めませんけど」
二人の間にバチバチと火花が散り、同じチームの人はその二人の怖さに少しドン引きする。
二人がレーンに付くと、審判の火光が近付いてきた。
火音の肩にポンと手を置き、爪を立てる。
「炎夏から全部聞いたからな。今炎夏に何言ったかも全部情報入るからな」
「俺は悪くないから」
女子を卒倒させんとするほどの輝かしい笑顔をする火音の顔面を殴ると、レーンの内側に立った。
「位置についてーよーい!」
ピストルと同時に二人が走り出す。
それを見ていた水虎は水明を見上げた。
「二人とも同時にフライングしてましたよね?」
「一般人には見えないよ。ゲホッ……」
「水どうぞ」
「ありがと……」
負けてやってもいいとほざいた火音はバリバリに本気で300メートルのトラックを走り切り、月火は数秒遅れでバトンを渡した。
まぁ、こうなるとは思っていたので陸上部集めてきたが。つっても顧問こいつだけどな。あー腹立つ。
「二人とも身体強化使わなかったね」
「ラストに持ってくんじゃねぇの。月火だけが使って火音先生ぼろ負けしねぇかなぁ!」
「マイク入れる?」
「やめろ殺されるから」
抜かし抜かされ、月火チーム優勢でアンカーに。
月火は慣れたようにバトンを受け取るとまた走り出した。火音は目が死んでいる。
今年は玄智と炎夏が体育祭実行委員として体育祭を司っている。
描きたいは赤と黒の対立、あんだけ共闘したくせにめっちゃ仲悪いんやぞというギャップの絵。
それさえあれば、超人対神童の戦いだけで体育祭は盛り上がる。その盛り上がりに便乗し一般生徒もやりやすくなる。
それが最も理想的な盛り上がり方。
だから今回の采配は全て玄智と炎夏。勝敗なんてどうでもいい、盛り上がれば何もいらない。
だって僕たちは個人競技にしか出ない、どっちにも属していないんだもの。
ちなみに個人競技の結果は劣勢チームにあげるというお情け。
あの二人は知らず知らずのうちにチームの首相になっている。
「なのに花の騎馬戦であの二人が出ないのはねぇ」
「しゃーねーだろ女子と潔癖なんだから」
「……僕ら出る?」
「お前叩き落としていいなら」
「ごめんじゃん」
寝転がって腕で顔を覆っている炎夏にごめんねと言っていると、月火がやってきた。
「炎夏炎夏、見た?」
「見てない。終わった? どっち勝った?」
「は? 見とけよ。玄智は?」
「月火勝ったねぇおめでと」
「いぇーい」
月火と玄智はハイタッチをして、炎夏はすぐにスマホを取り出した。生配信の履歴を上って、アンカーにバトンが渡った辺りから。
月火が徐々に身体強化をかけて、火音はかけようにもただでさえ気持ち悪いバトン持ってんのに自分の嫌いな妖力で満たすわけにもいかず、月火の圧勝。
「おぉすげ。火音先生に勝ってる」
「お前小細工すんのやめろ……」
何かを手に塗り広げている火音がやってきて、月火は勝ち誇った顔でブイサインをした。
火音は塗り終わった手をパッと見せて、不思議そうな顔でパッと手を開いた月火に指を絡めた。瞬間、甲側に折ろうとして月火が飛び退く。
「ちょっと……!」
「お前手洗えよ汚ぇな」
「火音さんの手乾燥しすぎでは?」
「水とアルコールのせい」
「しばらく禁酒ですね」
「エタノールに決まってんだろ馬鹿」
月火は火音を蹴ると怒って手洗い場の方に歩いていき、火音はシートで月火の汚れた手に触った手を拭きながらテントに体を向けた。が、炎夏にジャージを掴まれ、ジャージ越しに手首を掴まれた。
「うわひっでー手!」
「毎夜毎朝保湿はしてる」
「マジで!? 玄智!」
「僕醜いものを見ると鳥肌が立つから無理」
「写メっとこ」
「お前なぁ……」
「投稿していい? 顔いい人の手」
「やめろ月火に吹き込むぞ」
ここも険悪になりそうな予感。




