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妖神学園 改正版  作者: 戯伽
1年生
30/103

30.潔癖

 日曜日、月火が幼馴染三人で任務という名の狩りに行った翌日。



 月火と火音は刀を持って校庭に降りる。


 今日は刀の練習。あとから補習終わりの炎夏も参加予定。





「火音さんは紅陽秘刀太(こうようひとうた)で」

「……重いな」

「かなりありますからねぇ。今日は鞘付きのままです」

「割れない?」

「大丈夫でしょう。鞘のまま人の胴体突き破りますし頭蓋骨かち割りますし」



 そんなこと聞いて使いたくねぇんだよなぁ。




 火音は刀を見下ろすと、少し離れたところまで歩いた。



 校庭は日曜ながらに部活や体育祭の練習のため人が多い。

 そのため、ぶつからないように殺さないように比較的離れた場所で。




「……共鳴目的でいいんだろ。手加減なしでいくから流せよ」

「はい」






 そう、今日の練習は共鳴目的。

 狐面の子供は情報を吐く前に舌を噛み切り手首を掻きむしって出血させ自害。


 共鳴の情報は妖心からしかない。




 情報のすり合わせで分かったのは二人ともが異様に集中し勝ちに拘った時に現れたということ、共鳴した際には高熱を出すが、頭痛等は現れず二人共に特有の感覚が現れること。


 膜が張った感覚、血流の音すら聞こえるほどの優れた聴覚。

 白が光るように見える視界、視界を瞬間処理する脳、服がすれるのも激痛の肌、踏ん張れば瓦を割れそうな筋力。



 とにかく、体が常軌を逸する。

 それが命を削っているのか妖力の問題なのかは知らないが、強くなれるならなれるだけ強くなりたい。それで早死しても知らん。


 二人とも、望むものは共に強さのみ。







「……行くぞー」

「お願いします」




──妖刀術 妖楼紫刀(ようろうのしとう)──


──妖刀術 流狐風楼(りゅうこふうろう)──




 カンッと音が鳴って、火音は月火のその異様に重い刀に押されながら刃先に手を当て押し返した。



──妖刀術 紫陽花百貫(あじさいひゃっかん)──


──妖心術 狐鬼封縛(こんきふうばく)──



 月火妖心術でいきなり刀を縛られた火音は混乱により固まった一秒にも満たない時間で蹴り倒された。




「ッ、これ術ありかよ……」

「ほら、妖術関連でしょう?」

「お前無意識でやったろ」

「無性に腹が立って」




 火音が背中に膝を突く月火を退かして、立ち上がると砂埃を払った。



「最悪……」

「大丈夫ですよ」




 火音は不機嫌そうなまま、二人で指揮台のある学園の正面側に戻った。






 指揮台の周辺には火光と炎夏が座っていて、見つからないよう指揮台の下に置いていた月火達の荷物を上に移動させ火光が側に座っている。



「あ、来た」

「うわ火音様砂まみれ」

「蹴り倒された」

「ははは」



 月火は水を飲むと火音が払え払えと言う砂を払って、背中も払ってから膝の裏を蹴った。


 火音は前に手を突くと足を振り上げ月火の顔面を蹴り上げようとしたが月火は大きく仰け反ってそれをかわした。

 火音は振り上げた勢いで立ちブリッジから飛び下がり、その動きの間で月火は間合いを詰めると火音に蹴りを入れる。



 しかしそれは片手で防がれ、月火の軸足を払って腹を蹴り落とす。




「いきなり仕掛けんな」

「そのまま転けたら面白かったのに」




 月火は立ち上がるとジャージを脱いで上着をバサバサと払った。火音を顔をしかめ、火光を風上に置いて逃げる。



「ねぇ僕を盾にしないで」

「汚い……!」

「火音様、上着は?」

「こうなるとは思わんし……!」



 ほんとにお互いが本気でぶつかって勝ち負けなしの耐久検証かと思ったら、妖心術使われたし。

 火音は上着を脱ぐとそれを置いて寮に帰って行った。



「え……月火!」

「着替えに行ったんでしょう。置いといてください」



 どうせ寮に砂埃を入れたくないとかそんなんだろう。


 あれは感情がどうのと言うのでその面で勘違いされやすいが、普通に埃も花粉も無理。人の髪はダブルパンチで。




 月火は火音のジャージの上に自分のジャージを置くと妖楼紫刀(ようろうのしとう)を炎夏に渡した。


 自分は白黒魅刀(はっこくみとう)を構える。



「火音さんが戻ってくるの暇潰しになってください」

「いーぜ」

「がんばれー」

「黙れ」



 火光は口を閉じると、それを眺めた。



 炎夏が押しているが、この場合は余裕で流している月火の方が凄い。

 技術の問題だよなぁと思っていると、少し遠くで二人を眺めている少年に気が付いた。暇なので絡みに行く。




「刀興味あるの? 月火ファン?」

「ファンです。水神先輩も憧れてますけど。刀も使えたら戦い方は広がるだろうなって……」

「妖輩の子か」

「はい。中等部二年です」

「……あぁ、話し合いにいたね。今クラス一人だっけ」

「はい」



 火光が少年の頭に手を置くと、無表情だった少年は少し口角を上げた。




「二年だったら一年だけちょうど被るね。教えてもらいな」

「え、いやでも」

「妖輩は横の繋がり大切だよ。御三家関連なら余計に。弟子なら将来めっちや贔屓にしてもらえるだろうし」

「……でも、迷惑じゃ……」

「息抜きにいいんじゃない? DV彼氏的なのができても我慢するから」

「DV……?」



 火光がはははと笑っていると、火音が帰ってきた。


 新しいジャージにウィンドブレーカーを着て、マスクを付けている。相当嫌だったんだろうな。



「炎夏とやってるし……」


 ジャージを退けると、指揮台の下にあった水筒に手を伸ばす。が、誰か触ったのか知らないが気持ち悪くて触れない。


 指揮台に手を置いて絶望していると、頭を小突かれた。


 見上げると、刀で突いたらしい月火が見下ろしてくる。



「何してるんですか」

「気持ち悪い」

「やっぱり人が多い時間帯は駄目ですね。戻りましょうか」

「あー最悪」

「水筒?」

「持って帰って。俺先帰る」



 ふらっと消えた火音に呆れると、月火は自分の上着と火音の上着を羽織って水筒を二本と刀を三本抱え、寮に帰った。








 玄関の扉の前で、手が塞がって開けられないと突っ立っていると誰かが駆け寄ってきた。



「先輩、無理なら開けますよ」

「ありがとうございます」



 さっき火光と話していた少年に開けてもらい、お礼を言いながら扉を閉じて鍵をかけた。




 ジャージを廊下に落として、刀を部屋に置いて水筒をリビングに持っていくとソファでは火音が丸まっていた。向かいのソファには天狐が丸まっている。



「今日は調子悪そうですね。言ってくれれば無理しなくても別日にズラしたのに」

「……朝はそんなことなかった」

「じゃあ砂埃にまみれたせいですね。お風呂貯めますか」



















 夕方頃、火光と水月がやってきた。



「あれ、火音は?」

「お風呂です」

「珍しいね、早い時間に」

「いつもは布団が汚れないように寝る直前なんですがね。今日は二時から入ってますよ」

「えッ、今六時だよ!?」

「寝てるんじゃないの……?」

「寝てはないと思います。嫌悪感にまみれてるので」



 火音が唯一気持ち悪いという思考が抜ける時が寝ている時。寝苦しさや嫌悪感が感覚的になくなるわけではないが、それでも嫌という思考は消える。今はそれがあるので寝ているわけではないだろう。



 そんなことを話していると、火音があがったらしい。扉が開く音が聞こえた。




「月火と火音は共鳴で思考が分かるんでしょ。痛みとかも分かるの?」

「痛みよりかはあー痛いんだなーって思考が分かります。自分では無意識でも他人に入ってくると感じてると分かりますよ」

「あ、あがってきた」



 首にタオルをかけた火音は髪を拭いて、小さくあくびをした。



「やっぱ寝てたんじゃないの」

「コーヒー」

「どうぞ」



 月火は用意していたコーヒーと昨日の残りのケーキを渡し、火音は専用の椅子に座ってそれを食べ始めた。



「月火! 僕も食べたい!」

「もうないです」

「えー」

「何か作りましょうか」

「ケーキ」

「材料がないので無理です。できてクッキーかマフィンですね」

「アイスは?」

「お使いに行くならケーキでも」

「買ってくる」




 甘党代表とでも言いそうなほど甘党の火光は大喜びで出ていき、火音はケーキを食べ終わるとコーヒーを半分ほど飲んだ。



「月火、ご飯何?」

「何がいいですか」

「魚」

「ないですね。肉です」

「鶏?」

「豚と牛。……あぁ魚もありました。私魚の気分じゃないので豚にします」



 聞いたくせに全てを一方的に決めた月火に水月は薄笑いになって、火音の方を見るとこっちは何も気にした様子もなく絵を描いている。



 傍から見ると変人の会話なんだよなぁと思っていると、月火がスマホをいじって誰かに電話をかけ始めた。




『はいはーい』

「一時間1200円で尾行」

『対象は?』

「火光兄さん。現在地は自己確認で」

『ラジャ!』



 月火は通話を切ると、引きつった笑みで見下ろしてくる水月を見上げた。



「なんです?」

「誰……?」

「玄智さん」

「火光の……尾行……?」

「まぁあの方なら色々察して誘導してくれるでしょう」




 火音は鼻で笑って部屋に帰っていき、それに月火は少し不服そうな目を向けた。


 水月が聞く暇もなく夕食の準備を始める。



















 夕食後、月火がケーキを作って兄者共が消えたあと、ずっと引きこもっていた火音がふらっと出てきた。



 喉でも乾いたのかと思っているとカウンターの傍に椅子を引っ張って、そこで月火を眺め始めた。




「……なんですか」

「別に。疲れたと思って」

「お疲れ様です。またお風呂入りますか?」

「シャワーだけ」

「浸かってきたらいいのに」

「疲れるし」



 月火は火音が風呂に行ったのを見送ると、生クリームを泡立て始めた。


 火音がいる時はうるさいのが嫌だと言ってハンドミキサーが使えないので今のうちに。







 ハンドミキサーと洗い物が終わった頃に火音は上がってきて、ほんとに調子が悪いのか濡れた髪のままソファに寝転がった。いつもなら絶対乾かして出てくるんだけど。




「火音さん、ソファ濡れますよ」

「もー……」

「頭上げてください」



 のろのろとソファに座った火音の頭を一段落した月火が拭き、こいつ手のかからない子供より面倒臭いと思いながら髪を整えた。



「はい」

「まだ」

「ちょっと待ってください」



 月火は火音の頭にタオルをかけるとケーキを取り出し、また一段落してから火音の元に戻る。


 なんで自分でやらないだと思いながら後ろも拭いていると、水月と火光が戻ってきた。



「月火! ケーキでーきー……たァ?」

「まだです。兄さん顔が怖い」



 俯いていた火音が少し顔を上げ、横目で水月と火光を見ると火光は至極不満そうな目をした。



「何」

「いや……部屋帰る」

「コーヒーは?」




 火音はふらっと部屋に消えて行き、火光はそれを見送ると怒った様子で中に入ってきた。



「駄目だよ月火、いくら人間味がない奴だからって。月火には触れるんだし」

「兄さんは私の恋愛にも踏み込んでくるんですか」

「月火の彼氏はどうでもいい。教師が生徒に手出すなっつってんの」

「火光落ち着いて。火音だよ」

「火音だからだよッ」

「月火の婚約者になったら火光の義弟になるんだよ」

「……ないか」

「うん」



 この人たちの中で火音はどういう存在なんだろうか。

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