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妖神学園 改正版  作者: 戯伽
1年生
26/103

26.金、借、毒、犯

 炎夏と玄智が勉強会と称し月火の新寮に集まり、何故か水月と火光、水明と水虎、当然火音も。

 集まったある日。





 月火はキッチンに行くと火音におにぎりを渡し、またキッチンに戻って冷蔵庫を開けた。




 ラップに包まれたおにぎりを渡された火音は白葉に下敷きにされている水虎を見下ろす。



「お前らいつぐらいに帰んの?」

「えぇっと……炎夏達が終わったら……?」

「月火! 夕食!」

「いいですけど火音さんはいませんよ」

「……いいよ月火のご飯美味しいから」

「お前の目的はなんなわけ?」

「別になんだっていいです。炎夏さんは?」

「食べる〜」

「月火僕も!」

「僕も〜!」

「お前らは食費を入れろ生活費を家賃をせめて光熱費を払え! できるなら生活費! てか生活費を!」



 嬉々として手を挙げた兄二人を月火が睨むと、皆が火光と水月を見上げた。



「無銭飲食……?」

「ヒモじゃん。妹に養ってもらうとか」

「はい! 僕は払ってます!」

「えぇ三ヶ月に一回ぐらい?」

「家族が家族を養うのは当然ではありませんか!」

「水明さんが甥に養ってもらってたらドン引きするくせに」

「自分を棚に上げて支払いから逃れようとするクズの典型」



 玄智の呟きに火光が瀕死になり、水月は倒れた火光の隣に正座をした。



 冷蔵庫から夕食の材料を取り出した月火は、兄二人を通り過ぎると顔を埋めて完全な狸寝入りをする火音の耳を引っ張った。



「引きちぎるぞ」

「痛い痛い痛いッ!」

「一番生活費を払うべき人間でしょう」

「痛いッ!」

「せめて食費を払ってください」

「マジで痛い離してッ……!」

「この寮だってタダじゃないんですよ」

「ちぎれる……!」

「住んでるせいで光熱費も電気代も潔癖のせいで日用品とか水道代も馬鹿にならないのに」

「待ってマジで裂ける」

「裂けろ。滞納してきた生活費で医療費ぐらい払えるだろ」

「すみません払いますから離してください」




 月火はパッと手を離し、起き上がった火音は耳の付け根から血が出ていないことを確認した。

 ほんとに、マジでちぎられるかと思った。



 と思っていると、二の腕に激痛が走る。



 見下ろすと、黒葉が腕に噛み付いてぶら下がっていた。



 月火も愕然とし、火音は狐の首を掴むと月火に返した。




「俺マジで狐に喰われるかもしれん」

「……腰以上の胴体にいったらその月の生活費チャラで」

「金より命なんだよなぁ」

「じゃチャラ取り消しの代わりに火光兄さんの幼少の写真集をあげます。一枚ずつ」

「乗った」

「それでいいのか」



 火音は水明の呟きを無視して、大きいまま口を開けて迫ってくる白葉の鼻先を押し返す。



「お前自分の妖心の面倒ぐらい見ろよ」

「最近どうも自由になりすぎるんですよね。近いうちに改善します」

「そうしろ。俺は寝る」

「おい待て話逸らして寝るなヒモ」

「家賃は入れてるだろ!」

「せめて食費を入れろ! 女子高生に養われるなッ!」

「お前仕事は?」

「仕送り抜いて全部貯金です。今は妖輩の仕事だけ」

「……折半でいくら」

「21万前後を」



 月火は棚に入っていた一冊のノートを取ると、それを確認し平均値を割り出す。




「だいたい10万5000ですね。5000はまけましょう」

「……じゃ火光含め14万入れる」

「狐が噛んでも4万はかかりますよ」

「いい」

「じゃあ火音さんは性格が面倒臭いのと潔癖の手間賃で7000円上乗せして毎月14万7000円で」

「小遣いで15万入れてやるよ」

「そうですか。14万7000円月末に入れてくださいね」

「はいはい」

「あと小遣いよりも貸した金を返してください」

「……なんもり借りてない」

「引っ越し代、移動費、なんならここの初期費用だって」

「それもかよ……」

「まぁ払いたくないならいいですよ。借りが三つつくので」

「払います」


 こいつに貸し作ったら何要求されるか分からん。




 火音は寝転がってソファの肘掛けに頭を置くと、スマホをいじった。



「口座入れて」

「……わぁ金持ち」

「プライバシーもクソもねぇな」

「私の通帳見たんでしょうトントンです」

「見てねぇよッ!?」



 こいつの嘘で火光と生徒からの信頼が大きく左右する。ほんとにやめてほしい。


 生徒からはともかく、ほんとに火光から非難の目が来るのは精神が焼き切れるから。





「はい」

「じゃお前水月と火光に渡すっつって俺から巻き上げた金返せ。吐きながら現金触ったんだぞ」

「あぁそんなこともありましたね。あれは二人から返してもらってください」

「返せ」

「僕も?」

「火光はいいや」



 炎夏が丸めたノートで火光の頭を叩き、火光はおとなしくスマホでウェブ送金し始めた。




 水月は何で借りたんだっけなぁと思い出す。




「……いくら?」

「35万8000」

「そんな金借りたっけ? なんの用途?」

「え、どなたか妊娠させたんでしょう?」

「させてません」

「お前マジか」

「してねぇってッ!」

「水月」

「ねぇマジでやってないのほんとに!」




 火光は近付くなとちょっと離れ、月火と火音で軽蔑の目を向けた。



 水月はほんとにやってないと訴えかけ、体を丸めた。時に、思い出した。




「あそうだ。モニター買ったんだ」

「モニター?」

麗凪(りな)の部屋に設置するやつ。経費で落としてるから……」

「落ちてねぇんだよ俺の金だボケ」

「……来月の給料に上乗せしときます」



 月火は軽くスマホをいじると、ソファから降りて救急箱を開いた。




「水月兄さんの生活費は給料から引いておきましょう。火音さん、まずは止血を」

「止血?」

「ソファに垂れてますよ」



 火音は水虎に指さされた腕を見下ろし、勢いよく立ち上がった。

 そうださっき狐に噛まれて血出たん忘れてた。



「……あんま痛くない」

「あら、神経繋がってるといいんですけど」

「え?」

「指動くなら繋がってるだろ」

「まぁ多少なりとも毒はありますしそれで麻痺しているんでしょうね。はい、服脱いでください」

「やだ」

「袖切りますか?」

「じゃあ全員追い出せ」



 月火は火音の首根っこ掴むと部屋に引きずった。



「月火ッ! 二人きりはアウト!」

「二人とも馬鹿晒す担任を押さえてください」

「しばらく黙ってろ火光せんせー」



──妖心 七人御先(シチニンミサキ)──






 月火の部屋に入れると、ベッドに座らせ上のジャージを脱がせた。


 月火は椅子に座って腕の手当をする。




「あれの牙って切れるんですかね」

「お前の妖力次第で再生するだろ」

「うーん……」

「お前手冷たい……」

「すみません」



 月火は袖で手を包み、腕の傷口を消毒するとガーゼを貼って包帯を巻いた。



「ソファって買い替え?」

「カバーを替えれば大丈夫だと思いますよ。嫌なら買い換えます」




 火音の左肩には深く、たぶん心臓手前ぐらいまで大きな傷が入っている。過去の事件で負った傷、月火が治しきれなかった傷。と言っても内側を治したので見た目だけで左腕は動くけど。




「はい終わりです」

「お前の部屋エアコンねぇの?」

「ついてる部屋を一番病弱な方の部屋にしたので」



 エアコンが付いている部屋は火音の部屋とリビングだけ。月火と水月の部屋にはついていない。



「すみません」

「別に構いませんが。電気代跳ね上がる時期には生活費も上がりますよ」

「それは何百万でも払ってやるけど。お前自分で使いたいから自分の会社建てたんだろ。それを上層部、学園の経営費に回してどうすんだ」

「別にいいんですよ。私より日本の安全ですし。私はさっさと特級にでも上がって稼ぐので」

「マジ」

「離婚しましたからねぇ」



 服を着てジャージの前を閉めた火音はベッドに寝転がり、月火は包帯とガーゼを片付けると救急箱を閉じた。



 ふと、火音を見下ろす。



「よく寝転がれますね」

「この部屋が一番居心地いい」

「また感情的な何かですか」

「……お前ちょっと面倒臭がってるだろ」

「体験できないものは理解できないものですよ。知識があったとしても納得できるかは別なので」

「……そんな変な感覚かなぁ」

「まぁ世界に十人もいないでしょうね。そもそも妖力を感じる人が少ないですし」



 月火が使ったものをメモしてついでに予備も確認していると、いきなり火音が飛び起きた。


 びっくりして、火音の方を見ると火音は鼻を押える。




「鼻血出た」

「いきなり……」

「ティッシュ……!」


 月火がティッシュに手を伸ばす前に血が出て、月火は慌てて袖で火音の鼻を押えた。

 こいつ、自分の鼻血でも吐くのに。



 一気に火音の顔色が悪くなり、口元を押える。




「炎夏ヘルプッ!」



 頭の中で火光と玄智は駄目なので除外して、水月も嫌なので炎夏を呼んだ。



 すぐに走ってきて、二人の状況を見て愕然としながらティッシュを十枚近く取って月火の袖と替える。




「なんでいきなり……」

「お前の妖心の毒とやらじゃねぇの?」

「……私もイマイチどういう効果があるか分かってないんですよねぇ」



 月火は火音を立たせると箱ティッシュとともにトイレに閉じ込め、自分はジャージを脱いで水を張った洗面台に浸けた。つっても、たぶんもう着れないだろうけど。

 売れるかな、『美男の血付きジャージ』。駄目だろうか。




「月火、大丈夫?」

「私はなんともありませんが。火音さんは瀕死でしょうね」

「自分の血でも吐くのに戦えるの?」

「顔付近から出血しない限り大丈夫です。体辺りは慣れたらしいので。ただ額から血が垂れるとか鼻血とか口切れたとか、血被ったような時は失神しますし」

「あー、確かに前倒れてたね」

「あれ血のせいなんだ」



 炎夏と玄智はあーと納得して、月火が火音の方に行ったので皆で二人の話を聞いた。




 前に火光がいなかった時の授業で、月火が火音の顔面蹴り飛ばして鼻血と額出血で失神したと。




「……月火が蹴り飛ばしたの?」

「顔面直で入ったよなぁ」

「あの月火の勝ち誇った顔は忘れない」

「脳震盪かもって心配してたけど潔癖か」

「通りで病院行かなかったわけだ」

「脳震盪でも火音は病院嫌いだから行かないけどね」

「そなの?」



 玄智が火光を見上げると、火光は月火の席に座ってノートをめくり始めた。



「あれはねぇ、真の病院嫌いだね。人が多いってのが一番の理由なんだろうけど」

「ほんと火音先生って子供っぽいとこあるよね」

「ギャップよな。女子に人気になんのも分かるわ」

「あの人は他人にギャップなんて見せませんよ。女子に人気なのは顔面です。一部からは声も支持されていますが」



 戻ってきた月火は髪を解くと手を洗って、キッチンに立った。いつの間にか新しいジャージに着替えている。



「月火、火音先生は?」

「死んだので埋めました」

「そう」

「でもあの人性格嫌われてそう。嫌われててほしい」

「妬み?」

「妬み恨みとかそんなんじゃなくてさぁ。女子達が「キャーかっこいい! あれで性格が優しかったらなぁ!」とか話してたら面白いじゃん」

「確かにそれは思うかも。ねぇ月火!」

「この際あの人のクズ秘話を暴露するか……」

「えーやりたい!」



 勉強そっちのけでスマホゲームを始めた炎夏は会話から離脱し、夕食を作り始めた月火と玄智は火音の馬鹿・クズエピソードで盛り上がり始めた。

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