22.盗撮魔・妹 前編
放課後、月火が誰もいない教室の椅子で足を抱えて丸まっていると窓が開いた。
「おいビビり」
「火音先生さいてー」
「仮にも女子高生ですよ」
「女子高生が部屋に不法侵入されてどんだけ怖いか分かんないでしょ!」
「女子高生っていうステータスに差はあるか知らんけど部屋から数百個と盗撮カメラを見つけたことはある。犯人も捕まってない」
「……メイクって楽しいね」
「お前この顔でよかったって思っただろ」
炎夏が玄智の頬をつねっていると、その騒がしさで月火が顔を上げた。
眠そうにあくびをして、火音は腕を伸ばしその写真を撮る。
黒葉が腕にぶら下がるのも気にせず火光に送って反応を楽しんだあとにお褒めの言葉を頂いていると、火光が飛んできた。
月火を叫び呼ぶ声で月火は目を覚まし、足を下ろすと髪を払って立ち上がった。
「さて、行きましょうか」
「僕らも行ってあげるよ」
「どうも」
「お前これ着とけ。ちょっとした男避けになるから」
炎夏に渡されたのは男物のジャージで、サイズ的に炎夏のか。月火はセーラー服の上からその黒いジャージを着て胸元のファスナーを上げた。
「……大きすぎるんですが」
「はははッ! チビッ!」
何故か玄智にまで蹴られた炎夏は色んな意味で腹を抱え、月火は玄智に少し袖を折ってもらった。
約30センチの身長差。
「いいんじゃない? 落ちてきたらまた上げるよ」
「ありがとうございます」
「ほら炎夏立って、引きずって階段降りるよ」
「やめろ……」
珍しく制服の炎夏といつも通りジャージの玄智はちょっかいを出し合って、月火は二人の襟首を掴む。
「行きますよ」
「はい……」
「火音さんは待ってるでしょう?」
「行く」
「来ないでください吐かれたら面倒なので」
「吐くもんねぇし。俺の教師寮にも入られてたんだし俺も行く」
隠すことなく盛大に嫌な顔をする月火の顔を掴んで、痛がる月火を無視して目的の寮に向かった。
火音と月火は不仲そうに顔を逸らし、炎夏はその月火の頬をさした。
玄智は反対側から腕を組んで、月火の顔を覗き込む。
「痴話喧嘩?」
「その耳かじり落とすぐらいなら」
「やめて」
「月火って火音先生とまぁ仲悪いよな」
「ストレスですよストレス……!」
「だって火音先生」
「了承したんそっちじゃん」
「性格悪ッ」
炎夏が小さく笑っていると、後ろから走る足音が聞こえた。
徐々に近付いてきて、振り返ると同時に炎夏は目潰しされかけるのを火音が手を入れて防いだ。
ハッと見ると、暒夏が月火に飛び付いている。
「月火ちゃん! 盗撮魔の部屋行くんでしょ。教師に任せて安全な部屋にいたら? 玄智君の部屋……にもあったんだっけ。被害ない?」
「あ、僕は……はい……」
「僕の部屋も無関係な子が仕掛けてるからなぁ。火光先生……は部屋ないんだっけ」
「ありますよ?」
「あ、転入生の部屋は? 確かなかったんだよね」
「ちょっと、落ち着いて下さい暒夏さん。暒夏さんの部屋にもカメラあったんですか?」
「ん? うん、前に同級生とふざけて盗聴器見つけるやつやったらコンセントとかからあって、部屋ひっくり返したらカメラとかいっぱいあったよ」
それを明るい笑顔でケロッと言う暒夏にドン引きしていると、いきなり服を引っ張られた。
振り返ると、炎夏が物凄く不機嫌そうな顔で立っている。
「……あれ火音さんは?」
「知らん。どっか行った」
「……消毒液切れですかね」
ものすごく伝わってくる嫌悪感からそんなことを予想しながら、月火は炎夏の手を払った。そんな力で掴んだらジャージが伸びる。
「すみません暒夏さん、また今度」
「気を付けてね〜?」
「はい」
月火は髪を払い、玄智は月火に髪ゴムを渡した。
月火が持っているともしもの時に切れる可能性があるので、遠距離かつ持っていてもおかしくない玄智が持っている。まぁ月火も持っているが。
「髪上げてくればよかった……」
「まぁいいじゃん。先どっち?」
「妹の方ですね。麗蘭も来るはずなんですが……」
月火はスマホをいじると、麗蘭に電話をかけた。
『……はい』
「もう着いてます?」
『うん』
「えどこ……」
「見下ろせ馬鹿」
直接声が聞こえて、炎夏の斜め下に視線を向けると、いた。
角に合わせてしゃがんで、三人を見上げている。
炎夏はびっくりして飛び退き、三人で目を丸くした。
「……何故、そんな隅に……?」
「普通に歩いてたら生徒が喋らなかったから隠れてた」
「なんもないそこに隠れれるってすごくない……?」
「影の薄さの賜物ですね。火音さん遅いッ!」
『水月どこ行った?』
「知りませんよいりません」
『そ。じゃもう着く』
電話越しにそう言われて、玄智に袖を引かれそちらを見た。
火音と、その後ろに麗蘭と瓜二つの少女。
「何故麗湖が」
「人事部長だぞ? 教師からと上司から潰すに決まってるだろ」
麗蘭は黒い笑顔を浮かべながら立ち上がると、火音を見上げた。
「お前のストーカーだろ? お前も潰せ」
「データさえ取れれば」
月火がインターホンを鳴らすと、少ししてから扉がゆっくり開いた。
「……はい?」
「こんにちは。お久しぶりです、一菜さん」
「お、お久しぶりです……」
この子の父親は犬鳴、去年まで高等部の教師をやっていた。
元々人気というわけではなかったしハズレ教師と言われていたが、問題になったのがその裏側。
カーテンを閉めた教室での日常的な体罰。
ほとんどが人目のある体育の高等部で日常的な体罰と言えるほどなんだから、その頻度は想像以上だろう。
半洗脳状態だった生徒のうち一人は現在休学して精神病棟に、二人は進学し晦に見てもらっている。
月火は犬鳴の子供達に聴取をした本人だ。父親の普段の家での様子を聞き、悪意があったことを確認。即処分。
「お父さんの件はお世話になりました」
「は、はい……。……あの、ご要件は……?」
「実は貴方のお父様の購入されたカメラが私の部屋から大量に発見されまして。まずはご血縁にあたる一菜さんと兄の珀藍さんの部屋を調べることになったんです。てことでお邪魔しますよ」
「えちょっ……!」
火音が扉を開けると月火は滑り込み、靴を脱いで中に入った。
玄智も続いて中に入り、炎夏はここまで来て嫌がった火音を放置して中に入る。
生徒寮なので自分達の部屋の間取りと何も変わらないが、部屋の中は異様だった。
一面の壁に貼られたコルクボード、そこに飾られた思い出の写真や手紙。ベッドにはぬいぐるみが三つと、机に椅子。角に一人用のソファ。
コルクボードで一面が埋め尽くされている以外は普通の部屋。
「こんなことなら隠しとけばよかった……!」
真っ赤な顔を押さえてしゃがみこむ一菜を見下ろすと、マスクに新しくパーカーを着た火音が中に入ってきた。
「月火、裏」
「なんですか」
「常套手段」
月火は火音の言った通り、コルクボードの一枚を掴んで、裏返した。
小さなコルクボードの集合体なのでめくることに苦はないが、返した裏がすごい。
面白がって炎夏と玄智も裏返し始め、火音は顔をしかめた。
「気持ち悪ッ……」
「吐かないでくださいよ」
「これ、全部盗撮か……!?」




