21.校長
校長室にて。
机を挟んで向かいのソファには寝転がって書類に埋もれた校長の麗蘭。
反対にはソファに座った月火と火光、後ろには火音と、麗蘭のソファの後ろに水月。
「ねむぅぅぅい……」
「さっきの気迫はどこいったんだよ」
「ろくん……録音……」
呼ばれる度にあれが流れるのか。嫌すぎる。
「呼ぶ前に寝ればいいのに」
「そこの問題児ペアが……ふゎぁ……公衆の面前でかっこいいことしてくれたせいで編入希望が大量に……あぁ……」
「ではこちらで確認しておくので寝てください」
麗蘭がすやすや寝始めたので月火が資料を確認する間に水月がぐちゃぐちゃの机をさっさと片付けた。
綺麗になってきたという直後、水月は寝落ちた麗蘭の首根っこを掴む。
「忙しいんだよ。帰っていい? 僕掃除しに来たわけじゃないんだよね」
「おにィ……!」
「帰るよ」
「待って待って待って起きるからァ……!」
麗蘭は半泣きのまま水月にすがりついて、水月はそれを起こした。
「……マスコミがそこの美男美女をクッソおだてあげたせいで妖輩コースを志望して転入しようとする奴が山のように出てきた。……助けてくれ、無能にかける金はねぇんだよォッ……!」
「もうすぐ体育祭ですね。そこでふるいにかけましょうか」
月火は資料を手に取ると、軽く振って目を通した。
このぐらいしかいないなら、もう少し集めた方が盛り上がるな。
「兄さん、集人広告を」
「火光任せた」
「はいはい」
「この件は私が動きましょう。少し考えさせてください」
「おう考えろ考えろ!」
麗蘭はわくわくとした表情で月火を見つめ、月火は麗しい顔のまま少し考えた。
火音も書類に目を通して、顔をしかめる。
麗蘭の毒舌な報告書。主に、火音と月火のせいと言う。
酷いなこれと思っていると、月火はすぐに顔を上げた。
「極力予算を押えたいので体力削って最後の最後でふるいにかけましょう」
「じゃ演目は教師側で考えとくよ。月火は文化祭の用意もあるんでしょ?」
「今年はもう何に誘われても絶対にやらないと決めました」
九月、十月の体育祭、文化祭に向けて準備が始まる。
体育祭は妖輩が見せ場の一日目、文化祭は体育祭後二日間、その他の人数が多いコース生が皆で出店をやったりライブをしたりなんやかんやしたりしなかったり。
体育祭は毎年教師陣が演目を変え、文化祭は生徒が自主的に行う。
両方の目玉はもちろん美男の火音と美女の月火、文化祭に関しては表は紳士な水月と優しい火光に近付こうとする人も多い。
まぁ後者二人は馬鹿騒ぎできる質なのでいいとして、問題は潔癖男と人間性皆無少女。
と言っても火音は毎年消えるし月火は炎夏と玄智に守ってもらうことが常なのだが。
「よし、じゃあ決定! 解散おやすみ〜!」
「待ってください」
「何?」
「どことは言いませんが生徒寮、教師寮から計七十二個の盗撮盗聴カメラが発見されたんです。処分を」
「犯人は?」
「購入者の血縁者は二人しかいませんでした」
「送っとけ。明日には決める」
「じゃ、解散で」
授業に戻ったあとの昼休み、月火がパソコンを叩いているとどこかに行っていた炎夏と玄智がやってきた。
水月を押しのけ、窓から月火の頭をさす。ちなみに向かいには火音。
「げーっかちゃん、ソプラノやって」
「メドレー」
「いいですよ。音楽室行きましょう」
「弾いてくれんのマジ!?」
「炎夏さんが」
「やーだ」
「月火弾いてくれるんなら音源なし!」
「いやミックスしてくださいよ」
「ちぇ」
三人が去っていくと、教卓にいた火光が顔を上げて三人を追いかけて行った。それに釣られるように、火音も出ていく。
月火がピアノを弾いてソプラノ、炎夏がアルト、玄智がバスまたはテノール。
声的には炎夏の方が低いが、歌声になると玄智は裏声が出せないので。
三人の様子を火光が盗撮して、ついてきたはいいものの火光を見れて満足の火音は暇そうにスマホを眺める。
「……月火が敬語じゃない」
「あいつ常に敬語ってわけじゃないだろ。三人だけの時はほとんどタメ」
「なんで敬語抜かないんだろ」
「知らんけど喋ったせいで気付かれてるぞ」
火光が視線を上げると、三人が真顔でこっちを見ていた。
火光は録画を止めるとおもむろに立ち上がって、何も見なかったかのように去っていく。
炎夏と玄智と追いかけっこが始まり、ピアノを片付けた月火も外に出る。
「何しに来たんですか」
「火光についてきただけ」
「暇人め」
「火光がその口調に不満がってたぞ」
「そうですか」
月火はてくてくと歩きだし、火音もそれについて行く。
今日の放課後、カメラを仕掛けた犯人の部屋に行くため二人ともかなり怖い。と言うか、月火の恐怖心が火音にまで流れてきている。
一応水月達も来るには来るらしいが、来たとして役に立つかどうかと言われると悩みどころだから。
「そう言えば水虎が一級への推薦が鬱陶しいって愚痴ってた」
火音が思い出してそう言ったが、月火からの返事が来ない。
見下ろすと、何を考えているか分からない目でどこか上の空を見ていた。
人の話ぐらい聞けよな。
頭を殴ると、我に返って後頭部を押えた。
「なんですか……!?」
「人の話に反応しろ。そんなビビってんのも珍しいけど」
「一応女子高生なんですよ……!」
「自分で一応って付けてるし。そんな怖がらなくても俺が守ってやるよ」
「わー頼もし」
「思ってねぇな」
「ツッコミがボケに回られても」
「ツッコミになった覚えはねぇよッ」




