20.職員室
部屋から大量のカメラが見つかったあと、放課後に月火と火音が職員室でその対処をしていると水月がやってきた。
「げっかー! 持ってきたよ〜」
顧客リストを天高く掲げた水月に、立ったまま火音のパソコンに手を伸ばしていた月火はジャンプしてそれを掴んだ。と同時に水月を勢いよく殴る。
「企業秘密、個人情報、企業信用。分かります?」
「すみません……」
月火は誰にも見せないようファイルを開くとペラペラとめくった。
これはカメラ購入者のリスト。
顧客リストは一部の人間しか見ないのでデータ化していない。ハッキングで全部流出したとかシャレにならんし。
「……あぁほらやっぱり。合ってましたよ」
「病院送りかな」
「お好きにどうぞ」
共鳴とやらがあって、狐に言われて意識するようになってからか更に思考が伝わるようになってきた。
火音は月火の思考の量に頭痛を堪えている最中。慣れるまで何も考えるなと言われたが、普通に無理。
慣らしにならんし。
「……火音さん、ほんとにもうありませんでした?」
「たぶん」
「二個足りない」
「玄智と火光のも足して?」
「足りない。あと二個……」
壁際にしゃがみ込んだ月火はリストを閉じると火音からタブレットを借りた。
火音が描いてくれた部屋百八十度のイラストの上から目印を付け、他にありそうな場所を探す。
一部屋の百八十度が二面。それが五種類。計十面。
ペンを口元に当てながら画角から場所を探していると、割と強めに頭を叩かれた。
見上げると、火音が静かな怒りを秘めた目で見下ろしてきている。
「……当てずっぽうでも見付かりませんよ。一回目で見付からなかったんですから」
「俺が探すからお前やれ」
「絶対見つかりませんって」
「黙れ」
「仲良くなったね〜」
月火の隣にしゃがんだ火光は火音を見上げ、月火は火音にタブレットを渡した。
瞬間、火音がタブレットを奪い取ったかと思えば月火の腕に折れるんじゃないかと思うほどの衝撃が走った。
体がよろけて、火光とぶつかって頭の傷口に直撃する。
声は出さなかったものの激痛。意識ある中で骨を抜かれるぐらい。
「ッ……!」
「うーわ」
「月火大丈夫……!?」
「痛った……わッ!?」
火光は足を伸ばして、倒れた水月の頭を蹴り、頭を押える月火を支えた。
今水月の頭を離したら確実に、何がとは言わないが見える。
「傷当たったんじゃないの……?」
「直撃……」
「月火、診せろ」
火音の斜め向かいで仕事をしていた綾奈は月火の傍により、火光は月火を預けると顧客リストに傷がないかを確認した。
月火が即座に守って良かった。
「痛った……!」
「大丈夫、水月?」
「ちょっ……」
狐戦で一番重傷の水月は左肩を押さえ、火音は上に座っている女子大生を蹴り退かした。
「火光、晦呼べ」
「うん……」
晦は現在三年に補習中。
綾奈は月火のズレた傷口を戻し、その間に飛んできた晦は水月を別室に連れて行った。
「はっや」
「さすが火光のメール気にしてるだけある」
「何それ?」
「いやぁ別に」
「火音、無駄口叩いてないで月火の手伝え」
「何しろと」
「ここ押えてろ」
「無理」
火光が代わり、てんやわんやの手当を終えた。
月火は火音の席に座り、火音は月火の頭にパソコンを置いて綾奈に叩かれる。
火光は自分の椅子に座って月火の膝に寝転がっているが、自分と月火の椅子の間には何もないので筋トレついで。
戻ってきた水月は火音を突き飛ばすと月火に背中側から抱き着いた。
「いたぁい……」
「私も」
「よしよし」
「触らないでください気持ち悪い」
「痛った……」
今のが一番痛い。心をミサイルが突き抜けた。
火光は寝転がった状態から水月の頭を撫で、水月はその腕を掴むと火光を引きずり下ろした。
場所を取って膝に寝転がるが、月火が足を揺らすせいで一息も付けない。
「ねぇ……!」
「思春期女子は肉親内に嫌悪感を示すんですよ」
「僕血繋がってなくて良かった……!」
「良かったのかよそれは」
「良かったね火音。反抗期はご飯も作ってくれないから」
「……俺今まで生きてきたし」
「お前あの生活に戻るならじょうごであのスムージー流し込むからな!」
火音は口を押さえると月火に助けを求め、月火はそれを軽くあしらった。
水月を起こし、火音の椅子をしまうとスマホを見ていた女子大生に向かい直した。
「で、誰ですか」
「ん?……あぁ終わりましたかぁ? ご迷惑かけちゃってごめんなさぁい」
「誠意の篭ってない謝罪を受け取る気はありませんが。誰ですか?」
「神崎舞鈴十九歳、来年で二十でぇす」
「そうですか〜。何か用ですか〜?」
「火音様に会いに来たんですぅ。貴方、火音様と馴れ馴れしぃ」
「そうですか〜。だから〜?」
「月火その話し方やめて。腹立つ」
「ウザいよ妹」
「黙れ兄教師」
「僕二回罵倒された……!」
「黙れて」
火光は水月に抱き着き、水月は雑に頭を撫でながらスマホをいじる。
水月を一発殴った火光は椅子から立つと荷物をまとめ始め、皆それを見上げた。
「じゃ、火音あとよろしく」
「は?」
「火光先生!」
戻ってきた晦と入れ替わるように火光は逃げていき、火音は月火を盾にした。
しかし、その盾が使用される前に思わぬ盾が発動された。
「あら、神崎さん」
「うわぁオニババ先生」
神崎の嫌味ったらしい嘲笑にシスコンが反応し、それとほぼ同時に火光も何故か戻ってきた。
「言い忘れてたけどー。神崎、あと三日で留年だから気を付けて」
「……それ今言いますぅ!?」
「あぁ神崎舞鈴ってサボり魔の。あぁあぁ。綾奈さんの地雷三つとも踏み抜いた方」
「月火、それ詳しく」
「晦先生の悪口、知衣さんの邪魔、火音せんせ……」
「ストップ名誉棄損で訴えるぞ」
「……慌てて出てくる言葉がそれってどうなんですか?」
「お前の思考のせい」
自分でもまさか言うと思っていなかった火音は頭を押え、それとは裏腹にスっと立ち上がった綾奈は引き出しからハサミを出した。
綾奈がイラついた時に鉛筆を切り刻むあのハサミ。
「神崎舞鈴って言ったか? 何コースだ」
「え……いや……」
「情報と補佐ですよ。常に留年手前ですが」
「補佐には応急処置能力が必須だからな〜! しょうがないなぁ! 私が直々に! 手解きしてやろう!」
「そいつ究極の馬鹿だから手こずるぞ」
「はは、お前よりマシだろ火音。知紗、先帰っといて」
「う……うん……」
綾奈は魔王のような笑い声を上げながらそれを引きずっていき、月火は火音を見上げた。
「……帰ろ」
「ですね。兄さん邪魔」
「僕一つ聞きたいんだけどさぁ」
「何か」
「なんで火音のタブレットに月火の指紋登録されてんの? 二人ともお互いの寮の鍵持ってるよね? 火音は月火のスマホのパスワード知ってるよね? 月火たまに火音のスマホ見てるよね?」
「知ってるんですか」
「なんで勝手に見てんだ」
「バレたから」
「フェイスロック登録しただけ」
「便利ですよねぇ。火音さんと火光兄さん区別するんですよ」
「なかなかの性能」
「ねぇ答えてよ反抗期。ロリコン」
月火は職員室を出る直前、水月にベーッと舌を出すと火音に頭を殴られ引きずられて行った。
水月は火光の席から立ち上がると月火達とは反対に歩いていく。
「もしもし? ねぇ火音の給料ってさ?」
その翌日、放課後カメラの犯人をとっ捕まえるという日。
朝っぱらから放送が鳴り響いた。
馬鹿な幼子の、馬鹿な声量で。
『神々兄妹! あと火音! 至急私の部屋まで来い! 繰り返す! 問題児四人組こッ……』
火光が放送の音を切り、校内線の受話器を取った。
どこかにかけたかと思えば、それはすぐに出たらしい。
「お前あの放送次流したらお前の黒歴史ホームルームのテレビで流すぞ。上層部にもなんなら各国主要人にも送れるからな」
『ずびばぜんッ……』




