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第四位火属性

 さっきまで偉そうにしていた爺さんが、信じられないといった表情を見せながら、自分の左胸に突き刺さった剣を見つめる。


「で、殿下、これは……?」

「シルズ、この爺――」

「ロブロスにございます」

「そうそう、この爺の爵位はなんだったか?」

「一代男爵と記憶しております」

「そうか。ならば、王族に対する不敬罪で処理しろ。家族がいるのなら、連座として相応に罰せ」

「かしこまりました」


 金髪男の言葉が分からない。

 いや、言葉の内容は分かるが、爺さんに剣を突き刺しておいてなんで普通に話せるのかが、全然理解できない。


「でん、か」


 力尽きたのか、刺さった剣がずるりと抜きながら、爺さんが仰向けに崩れ落ちる。

 その両目が開かれたまま閉じずに、俺の方をずっと見ている。

 見ているんじゃない、死んだんだと、すぐにわかった。


「さて、下郎。自分がなぜこのような状況に陥っているのか、知りたくはないか?」

「は、はい!」


 金髪男が、今度は俺に言葉をかけた瞬間、反射的に返事をした自分がいた。

 この男の機嫌を少しでも損ねたら、爺さんの後を追うことになると直感したからだ。

 はたして、金髪男は端正な顔に邪悪な笑みを浮かべながら、俺に向けて言葉を放った。


「一言で言うとな、お前はそこの爺の手柄に利用されたのだ」

「手柄、ですか?」

「そうだ。お前につけられた仮面はな、過去に王国に存在した名のある魔導士の記憶をコピーした魔道具の一種だ。仮面を装着した者には凄まじい勢いで記憶が転写されるが、適性がなければ精神を破壊され、二度と元には戻らぬ」

「じゃ、じゃあ、爺さんは……」

「勘違いするなよ、下郎。不要となった転生者を貴族がどう扱おうが、罪に問われることなどあり得ぬ。実験体の処分としては妥当なところであろうよ」

「は……?」


 金髪男の残酷な物言いに、頭がついて行かない。

 そこでくたばっている爺さんが、俺を壊してもかまわないと思っていたこともショックだが、それが罪にならないと言い切った金髪男にも恐ろしいものを感じる。


「だが、そこの愚か者は、俺に無断で仮面を使用した。あれは王家の財産だ。いかに第四位のクズ魔導士の記憶といえど、一代男爵ごときが勝手にしていいものではない」

「ですが殿下、さすがに御自ら手を下す要はないかと。近衛騎士の役目を奪うのは感心いたしません」

「言うなシルズ。それは反省している。許す、そこの亡骸を下がらせよ」


 金髪男の言葉と共に、どこに隠れていたのか、ガタイの良さのわりに小さな剣を提げた男が二人出て来て、軽々と爺さんの死体を担ぐと一礼して去って行った。


「さてと、下郎。貴様には二つの道がある。今しがたの爺の後を追うか、俺の命に従うかだ」

「な、なんでもやります!!」

「その言や良し。シルズ、案内してやれ」


 爺さんの後を追うっていうのもなかなかの地獄だが、異世界転移して訳も分からずに死ぬのはもっと嫌だ。

 金髪男の二択とは言えない提示に、一も二もなく後者を選んだ。



「先ほどは殿下のなさりように驚いたであろう」

「い、いえ、まあ」


 施設、いやもう王宮と認めるべきだろう。王宮の通路を先導されながら進む。

 俺の先を歩く、金髪男にシルズと呼ばれていた男の人。

 その迷いのない歩みについて行くのがやっとだが、話しかけられれば返事をしないわけにもいかない。

 ――まだ、俺の命が助かったと安心できるわけでもないからな。


「普段の殿下は、やや傍若無人な一面はありますが平民にも磊落に接する懐の深い御方です。よほどの無礼がなければ、あそこまで怒りを露わにされることはありません」

「は、はあ」

「その点、ロブロス男爵は殿下の御気性を見誤り、愚かな真似に出たわけですが。それでも一つ、明確な成果を出しましたから、連座した家族は一等減刑されて死罪は免れるでしょう」

「し、死罪?」

「そこは重要ではありませんよ。あなたが今考えるべきは、ロブロス男爵が死と引き換えに残した成果だという自覚ですよ」

「……お、俺が?」

「ええ。もっとも、今のままでは忌むべき、蔑まれるべき力としか認識されないでしょうが」


 なぞかけのような言葉を残して、シルズさんはさっさと前を進む。

 質問する余地がないその態度に、この世界の右も左も分からない俺は追いすがるしかない。

 だが、シルズさんは説明を放棄したわけじゃなさそうだった。


「見なさい。あれが我が王国のシンボル。政治経済軍事に渡ってあまねく力を及ぼす、四つの属性を模した紋章です」


 シルズさんの目線の先にあったのは、王宮で一番目立つ建物の尖塔。

 その天辺近くに、黄金色を基調とした、縦に長い四角形の紋章が輝いていた。


「紋章には特殊な魔法がかけられており、毎年算出されるそれぞれの属性の貢献度により、上から順番に表示されるようになっています。去年の第一位は水で、王国南部に干ばつの危機が迫った際に水魔導士が活躍したことが認められました」


「つまり、その下の緑色が風で、次が、土?」


 上から青、緑、茶色のシンボルが刻まれているから、どれが何の属性を表しているのか、俺にもわかる。

 ――ということは、


「そして、最後が火属性。かつて王国を滅亡の危機に追いやった災厄の元凶であり、それ以降数百年、一度も第三位以上に浮上したことのない呪われた属性です」

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