第3話 この街での噂
「さぁ!入って頂戴
何もないけどお茶くらいは出すわね
もしクラクラするようだったらそこのソファに横になってくれてもいいから」
初老の女性に連れられユイナは町から少し外れた湖の畔にある家に来た
『すみません・・・
お邪魔します』
中は一人で住むには少し大きい二階建家で窓から湖が見えその手前の庭には花々が沢山咲いていたそして部屋の中は統一感のある家具で調えられたおしゃれな家だ
女性はキッチンに向かいお茶を準備していた
ユイナは部屋を見渡した時
ふと隅に置かれている男物のジャケットや靴、本や家具が目に入った
――旦那さんのものかしら
再度ユイナが周りを見渡してみると写真を見つけた
初老の女性と優しそうな雰囲気の男性、そして最後にふわっと笑うユイナより少し年上の女性が映っていた
「それ、旦那と私の娘なのよ」
女性はお茶を入れユイナがいる部屋に戻ってきた
女性の表情はもの悲しげな顔をしながらユイナに話した
「自己紹介がまだだったわね
私はルイス・エンバス、ルイスでもおばちゃんでも好きに読んでちょうだい」
『わたしは…』
ユイナはふと思った
この国で幹部をしていた身なうえ名前を名乗ったらビックリさせるのではないか
――まあ大丈夫かな・・・
あんまり表の舞台として出たことはないし―――
『すみません…
私ユイナ・S・リーチェと申します』
「!?
そうなのね よろしくユイナちゃん」
女性はやはりユイナのことを知っていたのかビックリしていた
そして少し話づらそうにしながら
「ユイナちゃんはこのトリス国の女性幹部と同じ名前よね
もしかしてユイナ様なのかしら?
一度見かけたことはあるのだけどうろ覚えで。。。」
『・・・そうですね
今朝まではこのトリス国の兵士でした』
ユイナは少し気まずい中答えた
「少し不躾なことを言ってもいいかしら…
やっぱり…
あの話は本当だったのね
有能な女性兵士が一人追い出されたって」
ユイナはその話に吃驚した
すぐにそのような話が出回ることはわかっていたが有能といわれているとは
『私 そんな有能ではないですよ…?』
「いやいやそんなことないわよ!!
魔法がなくても戦場で成果を上げてる
そして兵士の訓練は厳しいけどその兵士にあった訓練を考えてくれるって・・・
それにこの国では数少ない女性幹部ですもの」
女性は少し興奮気味にユイナに話をする
ユイナは困ったように笑いかける
「それに…」
「おばちゃんあの新しく入ったルル様?はあまり好きではないのよ
一度お見かけしたんだけど…ほかの幹部様って男性じゃないその幹部様たちと話している時とそうでないときの態度が違うってこの辺りでは結構有名なのよ」
ユイナはルルに対して国民にそのように思われていることについて内心驚いていた
トリス軍内で自分の味方になってくれていたのは自分の部隊のみだと思っていたから自分の悪いうわさなどが流れていてもおかしくないと思っていたのだが
ルイスはルルのことをあまり好んでいないようだった
「それにユイナ様は一度この街で有名になっていたのよね」
『えっ?』
「ほら就任したてのころこの街に挨拶をしに来ていたでしょう
その時ちょうど身ごもった女性が通り魔に襲われそうだったけどすぐに制圧してくれたじゃない女性がお礼を伝えようとしたら笑顔で『無事でよかったです 危ないところでしたね』ってその時の記憶はよく覚えているわ」
「それにトリス国で働いているシェフの人から少し話を聞いたことがあってね
ルル様のせいでユイナ様がお食事をとることがなくなって部屋に持ち込もうとしたら書類の山だったと無能無能と言われている人がする仕事ではないように思うし
なんならルル様は噂のような仕事をしているように見えず逆にあまりお仕事をされている様子がなかったと」
その話をきいてユイナはこの街に来た記憶とトリス国の食堂の気さくなおじさんを思い出していた食堂のおじさんはトリス軍で過ごしにくくなってからも気にかけてくれていたように思った
そうかたまにパンやスープが部屋に届いていたのは自分の部下たちではなく食堂のおじさんだったのか
『いつかお礼を言いたいですね・・・』
ユイナはほんの少しうれしそうに言葉を吐いた
するとルイスはその様子を嬉しそうに見て
「この街にたまに食料調達しに来るから会えるといいわね」
そう返答した