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第8話

 やがて彼女たちはなんとか包囲網を突破した。だがもちろんそれで終わりではなかった。

 流石に疲労を顔に浮かべ始めた彼女たちに、槍兵が容赦なく突きを繰り出す。これにはイレーネの反応も一瞬遅れた。


 「イレーネ様危ないっ!」


 セラフィナがイレーネの前に飛び出してその身体でイレーネを狙った槍を受け止めた。


 「ぐっ……!」

 「馬鹿者! 何をしている!?」

 「イレーネ様……ご武運を……」


 自らの身体を盾にして主を庇ったセラフィナは、周囲の槍を両手で掴み、身動きの取れなくなった槍兵をすぐさまシャルロットが打ち倒していく。だが、その時には既にセラフィナは事切れていた。壮絶な最期を迎えたにも関わらず、彼女の表情は穏やかで、最後の最後で愛するイレーネの役に立てて幸せだとでも言わんばかりであった。


 「くそぉぉぉぉぉっ!」


 気合いで周囲の兵士を薙ぎ払ったイレーネであったが、既に彼女自身も、生き残ったシャルロットとリタの2人も満身創痍だった。昨夜、イレーネが愛撫し貞操をもらった彼女たちの身体には無数の傷が刻まれており痛々しく変わり果てている。

 しかし彼女たちの闘志は消えていなかった。厳しい訓練を耐え抜き、精神的にも肉体的にも成長した彼女たち2人は怪我や仲間の死をものともせずにイレーネを見つめて指示を待っている。「死んでこい」という最後の指示を。

 だから、イレーネはこう叫んだ。


 「共に行こう!」

 「ええ、ヴァルハラの水先案内人は不肖このシャルロットが務めましょう!」

 「ヴァルハラでまた皆で楽しく過ごせますよね?」

 「ああ、きっとだ」


 イレーネの言葉でリタの顔が輝いた。今までイレーネの傍で他の姉御分たちに守られるようにしながら戦っていたリタはセラフィナを失い空いてしまった穴を埋めるように、イレーネの左を守るべく進み出る。


 「リタ。少し前までは剣を握ることすらやっとだったのに……立派になって……」

 「イレーネ様のお陰ですから!」

 「私は幸せ者だな……本当に」


 妹分からの嬉しい言葉に、決意を新たにしたイレーネは、この日何度目かの突撃を敢行する。目標はもちろん敵の大将である国王であった。


 「止まるな! 進め! 命ある限り一歩でも前へ!」

 「イレーネ様ぁぁぁぁっ!」


 彼女たちはシャルロットを先頭にしてついに敵の本隊へと突入した。が、特に精鋭揃いの本隊はたかが3人ごときの突撃ではビクともせず、落ち着いて侵入者を迎撃する。

 まずは先頭のシャルロットが無数の敵に囲まれた。いくつもの致命傷を負いながらもなお剣を支えにして立ち上がろうとしており、その気迫にしばし敵の動きが止まったが、やがて背後から突進してきた槍兵の一撃で仕留められた。


 「うぁぁぁぁぁっ!」

 「やぁぁぁぁぁっ!」


 イレーネとリタも雄叫びを上げながら奮戦したが多勢に無勢。本陣までたどり着くことがなかなかできずに、ついに敵兵の刃がリタを捉えた。


 「イレーネ……様……あ、ありが……」


 敵の刃を受けながら愛する主の方へ手を伸ばしながら感謝を述べようとしたリタだったが、悲しいかなその手はイレーネに届くことはなく、痛みと寂しさと悔しさとで涙を流しながらリタは力尽きた。それでも、あのままイレーネに拾われなかったら味わえなかったであろうイレーネの愛情を感じ、そして姉御分たちが実の妹のように可愛がってくれたリタは、間違いなく幸せだっただろう。


 イレーネは特に目をかけていた末っ子の妹分の死にも動じなかった。もはや一心同体であった彼女たちの想いは例え言葉をかわさずとも痛いほど分かっていた。それに、すぐに死後の世界であるヴァルハラで再会できるのだから、寂しくもなかった。


 無数の傷を負う中、イレーネは強い信念と本能だけで己の身体が動かなくなるまで剣を振るい続けた。



 その姿は多くの隣国の兵に目撃されており、彼女の勇姿は敵国で大いに賞賛され、語り草になった。

 やがて、イレーネと5人の妹分は『騎士のあるべき姿』を象徴するものとして──英雄として隣国で後世まで語り継がれる人物となったのだった──


〜おしまい〜





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