第3話 モール その3
某発売から7年経ってるのに未だに早期アクセスのゾンビゲーをやろうと思ったけどPCのスペックが足りず、買うかどうか悩んでたら書くのが遅れた今日この頃。
三人が降り立った四階には、ゾンビはあまりいませんでした。
エスカレーター周りにいた数体はジョーの射撃で倒れ、その音を聞きつけてやって来たものには、カレンが一体ずつ丁寧に弾をぶち込んだので、取り敢えずは安全です。
「よっし。じゃあ、サクッと行って来ちゃいなよ。店の外は見張っててあげるから、中のクリアリングは自分でしてね」
「分かりました。ありがとうございます」
カレンは小走りにアウトドア用品店に近付くと、少し立ち止まって耳を澄ましました。
店内から、うー、あー、というゾンビの声が聞こえました。それほど沢山はいないようです。
それだけ確認すると、カレンは店内に足を踏み入れました。
入ってすぐの所にあったレジを見てゾンビの姿を一体認めると、すかさず射撃。9mmの拳銃弾を顔に3発食らったゾンビは、崩れ落ちました。
レジのカウンターを飛び越え、その内側に入ったカレンは、陳列棚の上から突き出ているゾンビの頭を慎重に狙って撃ち抜いていきます。
背の高いゾンビをあらかた始末したので、カレンはレジの中にいたゾンビの身体をまさぐり始めました。程なくして、ズボンのポケットから鍵を見つけ、その鍵で開けるべく店の奥のガラスケースに歩み寄ると、
「うがー!」
「ぎゃー!」
角待ちをしていたゾンビに鉢合わせました。いっけなーい、窮地窮地。
驚きはしたものの、冷静さは失わなかったカレンが、
「そいっ!」
ブーツに挿していたナイフを抜き、ゾンビの胸に突き立てます。
「よいしょっ!」
そのまま体重をかけ続けると、ゾンビがたたらを踏みました。そうして距離が取れたので、
パン。
9mm弾を一発だけ額にめり込ませ、それを最後にそのゾンビは動かなくなりました。
「はあ…」
何とかしてデッド・オア・アライブなラブコメ展開を回避したカレンは、一人溜息をつきました。
直後、
「おっとと」
素早く辺りを見回します。どんな時でも気は抜けません。
幸いにも、見える範囲にゾンビは見当たりませんでした。いつの間にか声も聞こえなくなっています。どうやら、こいつで最後だったようです。
カレンは倒れたゾンビに足を掛け、自分のナイフを回収しました。べっとりと付いた血は、そこら辺にあった適当な布で綺麗に拭き取りました。
次に、ガラスケースの鍵を開けると、その中に置かれていた多種多様なナイフを手に取り、あちこちのポケットやバックパックに分けて詰め込みました。刃を折り畳めるタイプの物しか置いていなかったので、刃は全てしまった状態で。
ガラスケースの物色を終えたカレンは、他に使える物を探すべく、立ち上がって店内をしばらくうろつきました。
カレンが店から出て最初に見たものは、数体の倒れたゾンビと、その前で腕立て伏せをしているサヤの姿でした。
「ちょ…。サヤさん、何してるんですか?」
「腕立て伏せだよ」
「それは、見たら分かりますけど…」
「いやあ、折角だからソ連式にチャレンジしてみようと思ってね」
「ソ連式?」
「まずはこう」
サヤは右手を背中の後ろに付けました。片腕で腕立て伏せをしています。
「わ、すごい」
「んでもってこう」
サヤは左手も背中の後ろに付けました。腕を使わずに腕立て伏せをしています。
「…ん? え? え?」
「おお、やればできる物だね、やっぱり」
「…えっと、それは…どこを鍛えているんですか?」
「うん? あ、ホントだ。これじゃ腕が鍛えられないね」
サヤは腕立て伏せ(疑惑)を続けています。もうどこの筋肉を使っているのかすら分かりません。
「というか、こんな所で悠長に腕立てなんてしてて良いんですか?」
「だーいじょぶ。この辺のゾンビは全部始末したから」
「あ、そういえばジョーさんは…?」
「下の階をちょろっと見に行ってるよ」
サヤはようやく立ち上がって答えました。
「私はカレンちゃんを待ってたんだよ。さ、行こう」
「ああ、はい」
エスカレーターまで二人して戻ると、ジョーが待っていました。
「三階、二階にはほとんどいない。だが…」
ジョーが目線で階下を見るよう促します。カレンが廊下から見下ろすと、
「う…」
「見ての通りだ。一階には掃いて捨てるほどいる」
二階より上と違って、全面床なのもあるでしょう。大量のゾンビがうろついています。
「あちゃー、一杯いるねえ。どうする?」
サヤが問いました。
「まずは、ここからの脱出を目標とする。室内だとどうしても囲まれやすい。身動きが取れなくなった瞬間、圧倒的質量に潰されてジ・エンドだ」
「おっけー。で、外に出たらどうするの? そのまま逃げる? それとも迎撃する?」
「その時の状況に合わせて、また考えるさ」
「分かった。カレンちゃんはそれで良い?」
「はい。それで行きましょう」
「じゃあ、そんなカレンちゃんに問題。一階に降りる時、どうするのが良いでしょう?」
「……うーん」
カレンは首を傾げました。
「エスカレーターの上から撃って数を減らす、とか…」
「悪くない案だけど、この量を銃三丁で捌き切るのには無理があるね。銃声でどんどん集まって来そうだし」
「じゃ、じゃあ……そうして集まった所で、もう一つのエスカレーターを使って降りる、っていうのはどうですか? ここ、確かありましたよね。エスカレーター二つ」
「それでも良いんだけど、そうすると集まらなかった奴が怖いよね。挟み打ちにされちゃう」
「ギブです……どうするのが正解なんですか?」
サヤはおもむろにUTS-15にショットシェルを込め始めました。
「教えたげる。こういう時はね……」
フォアエンドを動かし、もう1発入れると、
「なーんにも考えずに突っ込んじゃうのが一番良いんだよー! ひゃっはー!」
エスカレーターを猛然と駆け下り始めたのです。
「……は? はい!?」
「ああ、全く…。俺達も続くぞ。こうなったら、もう誰もあいつを止められん」
「え、えええ……」
困惑しながらも、カレンはサヤの後をついて行きました。ジョーはその後ろです。
三階をスルーし、二階も見て見ぬ振りをして、一階へと続くエスカレーターにカレンは足を掛けました。既に一階に降りて暴れ回っているサヤに合流します。
「サヤさん。色々と言いたいことはありますが、取り敢えず何も言わずに何かをするのはやめて下さい」
「だが断るッ!」
サヤは、ショットガンのストックでゾンビの顎を強打しながら言いました。力強い否定でした。
「ここまで来てしまったら、もう力任せに突破するしかない。攻撃を一点に集中させろ。道を切り拓け」
こんな時でもジョーは冷静です。こういうのが一人いると、全体がまとまるのです。
「おっけー」
「了解です!」
カレンはジョーに答えながら、自分に言い聞かせました。
もう、出し惜しみは、ナシだ!
カレンの親指が、セーフティ兼セレクターレバーに触れました。
かららっ。
「およ?」
聞き慣れない銃声に、サヤはちらっと右を見ました。
カレンが綺麗に拳銃を構えていて、そして、
かららっ。
少女の腕が反動で跳ね上がりました。
「カレンちゃん、それマシンピストルだったの!?」
フルオート、又はバーストで射撃できる拳銃がマシンピストル。サブマシンガンを小型化した物と、自動拳銃を引き金を引くだけで連射できるようにした物の二種類あります。カレンの拳銃は後者でした。
「そうです! 弾薬の消費が激しいから普段は使いませんけど、今は特別です!」
「死んだら元も子もないからなあ……」
かららっ。
引き金を一回引くと、三発の9mm弾が飛び出します。マシンピストルは、その発射レートの高さと腕二本だけで撃たなければならない事から、反動がとても大きいのが特徴です。なので、とにかく乱射してラッキーヒットを狙うのが基本の戦い方。白ランのあの人のようにマシンピストルで二丁拳銃なんてやろうものなら、命中どころか自分がケガをする可能性もあります。格好良いのは認める。
「このペースなら、包囲を破れるな」
ジョーが呟きました。