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時間停止系主人公くん


 放課後。俺はウキウキ気分で街を闊歩していた。


「ふっふふ~♪ 遂に買えたぜ!」


 嬉しくて思わずスキップしてしまいそうな俺の手には、出来立てホカホカのたこ焼きを包んだ紙箱が乗せられている。

 俺が買ったのはとある人気店の数量限定メニューのたこ焼きだ。

 通常メニューのものと違って午後の3時半から販売される代物で、数量限定ということもあってか出遅れるとすぐに売り切れてしまう人気メニューなので、放課後はコレの奪い合いなのだ。まぁ俺以外はみんな男子だったけど。


 肝心のメニュー内容は、ソース天かすのせと明太チーズのハーフなのだが、味が二つで合計八個なのにお値段なんと150円。安すぎて意味が分からない。

 ヤバい時だとさらにたこ焼きを二個サービスしてくれたりする。店主のオッサンは人が良いというか、学生に対して優しすぎだ。


 と、そんなこんなで俺はお目当てのものを手に入れたわけだ。

 冷めると勿体ないしどこか座れる場所を探さなきゃ。


「どこで食べよっかなぁ~……おっ」


 ベンチ見つけた。あそこに座って食おう。

 


 ──そう思って足を動かしたその瞬間、俺が狙っていた席は学生服の男の子に奪われてしまった。



「あぁっ。……くぅ」


 一瞬握り拳を作ったが、すぐに解いて肩を落とした。

 悔しいが、先を越された俺が悪い。逆恨みなんかしてもせっかく買ったたこ焼きがマズくなるだけだ。

 しょうがないから別の座れる場所を探そ──



【おっ? あの女……いいな】



「いてっ」


 後ろから何かが飛んできて後頭部にぶつかった。いたい。

 一体なんだと振り返ってみれば、そこには妙なセリフが書かれている吹き出しが地面に落ちている。

 顔を上げてみれば、視線の先にいるさっきのベンチ奪いの男子が俺を凝視していた。


 なんだ……?


【体つきのいい女は食い飽きてたところだ。ちいせぇ女は締まりが良かったし、また試したくなってきたな】


 ひっ、ひぇぇぇ……! 鬼畜抜きゲータイプの主人公だぁ……ッ!?

 そ、そう、そうなのだ。主人公ってのは必ずしもヒーローばかりとは限らない。

 特に女の子を蹂躙することを主目的とした成人向けゲームなんかじゃ、主人公は大抵『悪』だ……ヤバイ。


 逃げなきゃ! 


【むっ、オレに気がついている……? いや、まさかな。肉体を透明化している俺を視認できる奴なんていない。】


 まって待って。俺って透視能力もあんの? 何で? あの変態野郎が見えてるのって俺だけ?

 ともかく一刻も早く離脱しないと処女膜ブチ抜かれる。慰み者にされてしまう。弄ばれてしまうぅ……ッ!

 嫌じゃイヤじゃ! ヒトの子など孕みとうないッ!!


【まぁいい。露骨に逃げる素振りを見せたら時間(とき)を止めるだけだ】


 うごくのやーめた……。

 いや、えっ? 詰みでは? どうすりゃいいの? 

 アレか、知らんぷりして素通りすればいいのか。無関心を貫けばあっちも興味が失せるかもしれない。


「ひゅ、ヒュ~ルル~っ……♪」


 鼻歌ふきながら行けばだいじょう──ぎゃあああもうすぐ目の前にいるぅぅぅ!?

 どどっどどどどうしよう!? このままじゃヤられるッ!


(くっ、やるしかない……ッ! ヤられるまえに()れ、だっ!!)


 ここは腹を括ってイチかバチかの反撃をするしかなさそうだ。見た感じあの男の子は前髪で目が見えないっぽいし、運動神経がよさそうには見えない。不意打ちはきっと通じるハズだ。

 こっちの手が届く範囲まで接近してきたと同時に、俺の全力パンチ(スタープラチナ)を叩き込む……ッ!



【いままで犯してきた女は、全員このオレを虐げ迫害し続けてきたクズ共だった。】


 あ、歩きながら独白してるぞアイツ。吹き出しがポンポン飛んできてるぞ。



【イジメ、なんて生温いものじゃない。オレは間違いなくあのクズ共の玩具だった。】


【便器に顔を突っ込まされた。犬の糞を食えと命じられて、拒否すればタマを蹴られた。ライターでの火あぶり、昼食にぶち込まれる汚物、毎日毎日理不尽な命令を強要され──オレに人権なんて無かった。】


【だから神社の神に祈って奇跡的にこの力を手に入れた時、オレは歓喜した。

 復讐できるから、じゃない。抗う術を手にして、無限に続く煉獄から抜け出せるのだと知ったからだ。】



 ……おっっも。

 いや、重いな。君の設定ずいぶん重くない? 最近出会った主人公の中じゃトップクラスに激重な過去よ?

 鬼畜ゲーっていうか、単純な復讐モノだったのね。あの子視点で見れば、今は復讐が終わったあとのボーナスタイムってわけだ。


(で、でも俺だって素直にやられるワケにはいかんぞ。襲ってくるならキンタマぶっ叩いてでも逃げる!)



 そう考えて身構えると──あることに気がついた。


 抜きゲー主人公くんの後ろから、男子たちが乗った自転車が二台近づいてきている。

 二人とも会話をしながら並列走行をしていて、目前にいる抜きゲー主人公くんに気づいていない。



【だが、オレは復讐という大義名分を掲げて、クズ共相手とはいえ鬼畜な行為の数々を犯してしまった。】


【オレはもう“悪”なのだ。光の側へ戻ることはできない。それを許してくれるヒトなどいるはずもない。】


【ならいっそ、目の前にいるこの無垢で罪のない少女に手を出して、名実ともに悪の犯罪者になってしまおう。戻ることができないのだと、そう自分を納得させられるほどの罪を背負ってしまおう。】



【そうしなければ罪の重圧に耐えられず、オレの心は壊れてしま──】







「ぁっ、あぶないッ!!」







【 ──えっ?】



「あだっ! ……ぃ、いたた……」

「き、きみ、どうして……」


 やっべ助けちゃった。あぁ、たこ焼きもダメになっちゃってる。最悪だ。


 この主人公くん、後ろから迫ってきてる自転車に気がついてなかったみたいだし、走行してる側も直前までしゃべくってやがったから、俺が主人公くんを抱き倒して庇わなければ大惨事になってた。あぶねぇ。


 ……いや、何してんだ俺!? こんなことしてる場合じゃないって貞操狙われてるんだぞ!


「あわわっ。じゃ、じゃあわたしはこれでっ!!」

「へ? ……ぁ、まっ、待って!」


 横断歩道へ走り出す俺。呼び止められたが知った事じゃない。

 ナニがなんでも俺の処女を奪われるワケにはいかんのだ──



「もう赤信号だっ!!」



 ──ふぇっ。









「っ……! ……っ?」


 赤信号だと言われ、直前まで迫っていたトラックの存在に気がつき、俺は咄嗟に身を庇った。

 だが、いつまで経っても俺の体には衝撃が訪れない。

 撥ねられればまず命はないであろう猛スピードのトラックアタックが、俺の体を襲ってこない。


「あ……れっ?」


 うっすらと目を開けてみる。

 俺が座り込んでいたのは、横断歩道のボタンがある場所。

 車が絶対にこない安全圏。道路の直前。


 飛び出したはずの俺は、なぜか元の場所に戻っていた。



【──あぁ、よかった。間に合った。】



「いてっ」


 コツン、と頭にぶつかる吹き出し。

 思わずそれを拾い上げて立ち上がり周囲を見回すと、少し遠くに吹き出しを出しながら歩く少年の姿が見えた。



 ……まさか、時間を停止して俺を助けてくれた?



【この力で誰かを助けたのは初めてだ。】


【神様がオレにこんな特別な力を与えてくれた、その本当の意味を……ようやく理解できた気がする。】


【けど、オレは彼女に手を出そうとした。それは変えようのない事実だ。こうして助けたことで我に返ったが、このままじゃいずれオレはまた誰かを襲おうとしてしまうかもしれない。】



【踏みとどまれてよかった。また他人を傷つけてしまう前に、ヒトのいない場所で命を絶とう。

 

 それがオレにできる、唯一の贖罪──】



「ま、待って」


 急いで彼のもとへ駆け寄って、主人公くんの手を後ろから掴むことで引き留めた。

  

「……っ?」

「あ、あのっ、助けてくれたんでしょ?」


 正直に言えば抜きゲーの主人公なんかとは関わりを持ちたくないし、それが時間停止とか体の透明化とか使うチート野郎ならなおさらだ。

 ()()()()()をされなければ、自殺だって引き留めようとしなかったかもしれない。


 ……まぁ、でも今回は命の恩人だし?

 死ぬ死なないは置いといても、お礼くらいは言っとかないと自分自身が納得できないってモンだ。

 礼を言ったらすぐ逃げよう。調子に乗って襲われたらたまったもんじゃねぇ……!



「……ぁ、ありがとう」



【 ────っ。】



「いだっ!」


 ぎゃあ! 吹き出しに殴られた! いたい!

 もうーやだっ! こんの鬼畜主人公なんかもう知らん! 永遠にアデュー!


「そ、それじゃあ!」

「……ま、まっ──」


「あんまり悪いことは、しないようにね? ……ば、バイバイっ!」


 ニゲロー!!!








【誰かに礼を言われたのはいつぶりだったか──】



【わからないけど、もう少しだけ生きてみても、いいかもしれない。

 今度は復讐鬼としてではなく。


 この力を、誰かの為に。】




今回登場した主人公

1.鬼畜凌辱抜きゲー時間停止系主人公

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