苦くないといったら嘘になる
今思えば、そうだったのかもしれない。
気づいていて、気づかない振りをしていたのかもしれない。
あなたが好きだといった小説も、趣味だといって見せてくれたカメラも、全部、全部、あの人とのものだったのかもしれない。
結局私は、あなたの心に触れることはできなくて、あなたの思い出に残ることもできなかった。だからこうして、一人あなたとの思い出を、まるでガラス瓶でも扱うようにいつまでも綺麗に、抱え込んでしまっている。
外に出ても、そこら中にあなたがいるから、どこに行こうにも躊躇してしまう。
たぶんあなたは、そうやって私のことをいつまでも苦しめる。たとえ私に、あなたを乗り越えられるきっかけが来ようとも、ふとした時に香るあなたの好きなコーヒーの匂いが、私をいつまでも苦しめる。
大好きなコーヒーがわたしを、思い出を、真っ黒に閉じ込める。
でも性懲りもなく、あなたとの思い出を探してしまう私は、今日も、たぶん明日もコーヒーを片手に本をめくる。
もう来ることはないと分かっていても。
あなたの広い、大きい背中を。
今日も、また。