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「成る程な。お前の話はヨークわかった。」
まだHRのチャイムも鳴らぬ早朝、和一は、例の開かずの教室に来ていた。どうしてだか今は葉子の姿は無く、この小さい少女のマコが椅子に胡坐をかいて、腕を組みながらウンウンと言って和一の話を聞いていた。
和一の右手は学校のものではない大きなバッグを持っている。
「つまりこういう事か。今朝、いつもよりだいぶ早く家を出たお前は、何となく少し寄り道をしたくなり、わざわざ遠回りの道を行くことにした。んで、ゆくりなくも通りかかった人気の無い公園で何やら異様な気配を感じ、誘われるようにして入って行った。そしてタマサカ、ベンチに置かれていたそのバッグを発見する。誰かの忘れ物かと思い、中身を調べるとそこには男のバラバラになった死体が詰め込まれていた。驚いたお前はすぐに俺らに相談しようとここまで走ってきた、と。そう言うんだな?」
「うんそう」
「オメーワ! 頭のネジが五、六本イカレちまってんのか!? 普通、警察を呼ぶもんだろ、そういう時は。前々からマトモな奴じゃないなとは思っていたけど、もうちょっと分別を弁えてると思ってたのに、正気の沙汰じゃねえ!」
「いや、もちろん見つけた時は驚いたよ。最初は警察に知らせようとした。でも、公園を出る手前で、バッグも持って行ったほうがいいなと思って引き返したんだ。気持ち悪かったけど。ところが戻ってみるといつの間にかバッグの中から右腕が無くなっていたんだ。さっきまでバッグを開けたらすぐ目につく位置に入っていた筈なのに。俺は出した覚え無いし、周囲には人影も無い。小さな公園だけど、人が隠れられそうな場所はない。その時、これは何かおかしな事になってるぞと思い、ここまで来たわけ」
「どっちにしろイロイロとおかしいじゃねえか……」
「だろう? もしかしたらお前らの専門なんじゃないかって思って来たんだ」
「そういう意味じゃ――」
そうマコが言いかけた時、おもむろに和一はバッグを開いた。すると中から二十代前半くらいの男性の首が現れた。顔が物凄い形相のままかたまっている。
首は項の辺りで切断されており、断面にはドス黒い血の塊がこびり付いていた。流石のマコも「うえっ」と言って目を逸らした。
「んなもん見せんなよ。っていうかなんでそれが俺らと関係あんだよ。わかんねえじゃねえか」
「いや、そう感じるだけだからなんとも……」
「はあ」
溜め息をつかれた。呆れている様子をあらわに示してくる。
「そいつの言っている事は正しい」
不意をつくタイミングで現れたのは葉子である。相変わらず無表情で、冷然とした面差しで見られた途端、和一は肩をビクッとさせた。
「葉子、今までどこ行ってたんだよ?」
マコの問い掛けに、葉子は自分の椅子に腰を下ろすと同時にこう言った。
「散歩」
「へ? 三時間も?」
キョトンとした顔のマコ。彼女のこういう顔は大変珍しい。
「そうだと言ったろう。それより問題はそいつだ」
葉子は、和一の持っているバッグを指差し、有無を言わさず和一からバッグをひったくると、何を思ったのか徐に中身を取り出しはじめた。
首、左腕、両足、胴体(胴体からは腸がはみ出ていた)それからバッグの隅にも原型を止めていないドロドロした内臓らしきものが二、三つほど転がっていた。
思わず度肝を抜かれたマコと和一。和一は口を押さえて俯き、マコは軽い悲鳴をあげながら目を両手で覆う。
「ば、何やってんだよ葉子!」
「コイツを見てみろ」
「はあ?」
そう言われてマコは、恐る恐る指の隙間から葉子が指差す方向を覗いた。
「エッ?」
見て驚いた。左腕が独りでに動いている。指を駆使して肘を曲げ、芋虫のように床を這っているのだ。