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灰色の塔

作者: 佐藤さくや


 少年は消しゴムで白い軌道を描く。


 少年の後ろには何もない。だから、様々なものがなだれ込んでくる。

 少年は振り返らない。

 

 僕は向こうへ行きたいんだ。


 誰かが道を塞いだ。

 少年はそれを知らない。

 知らせ。知らせ。また、知らせ。


 鳥。

 一羽、舞い降りた。続けて二羽、三羽。

 教えてくれてありがとう。少年は深々と頭を下げた。


 紙。


 仕方がないので、背負った荷に放り込んだ。また重くなる。そして、膨れる。

 閑静な住宅街を抜けて商店街へと少年は進む。少年が通った後はやはり、白い道ができている。


 白く、染まっているのだ。


 この紙を作った人たちにとって、紙の中の世界は過去なんだ。でも読んでる人にとっては今。


 未来の未来の未来にいる人。その人のいる場所へ少年は向かっている。本当の未来を取り戻す。


 背負った荷は、大人一人では持ち上げられないほどにまで膨れ上がっていた。

 だが、少年は平然と歩いている。鳥が多くなってきた。荷にくちばしを突っ込んで知らせをおいていく。


 額にはうっすらと汗がにじんでいた。

 灰色の塔。


 見上げながら少年は汗を拭った。てっぺんは見えない。

 入口に荷を置いた。鳥が集まる。みるみるうちに、膨れていく。

 

 役目を終えた。

 少年の表情は、晴れやかだ。

 最近、好きな人ができたんだ。

 歯を出して笑った。


 荷が弾けた。乾いた音。白撃(はくげき)が少年を飲み込んだ。渦を巻いて塔を包み込む。


 何も見えない。少年は振り返った。道。それも見えない。

 さよなら。

 思い出したかのように手をふった。

 塔は渦の中。不意にその渦が消えた。拡がる。塔も消えた。紙切れが舞った。


 一枚。


 少年の手元に、飛んできた。

 灰色の塔がありました。そう、書かれていた。

 少年はからの荷を背負い、歩き出す。




 昔、好きな人がいたんだ。

 名前は忘れた。でも、また好きになればいい。

 紙をくわえた鳥たちが空を舞う。

 きっと、大人になっても大好きだ。


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