07話 更なる人手を求めて
更に投稿が遅れて申し訳ありません!
…ホントに、次回からは気をつけるよう努力致します。
「流石に大丈夫であるかとは存じますが、万が一の事があればこの魔術具を使ってお呼び下さいませ」
「そう、ありがとう」
そう言ったピアナだったが、その顔は少し不安げだ。なるべく早く帰ってきてあげなければ。
「それでは失礼致します。ハク、今日は全力疾走でお願い致します」
その声に嗎で応じたのは、俺達の馬、ハクである。雌ではあるけれど、とても力強く、そして速い。ちなみに名付けの親は俺である。
〜★〜★〜★〜
俺達がやって来たのは、邸宅の裏にある森である。
普段は1時間も掛かる道程をたったの20分程で駆け抜けたハクを軽く撫でてやると、ハクは嬉しそうに目を細めた。…この際だから、滅茶苦茶気持ち悪かったのは勘弁してやろう。
「ルルナ、ところで何でこんなとこに来たんだ?」
「それは普通来る前に聞いておくべき事かと存じます。育成スキルでは、モンスターをテイムする事も可能なのです。ですから、偵察に便利な魔物を、勇者様にテイムして頂こうと存じまして」
テイム…飼いならす事、だったかな?そんな事出来るんだ。
「じゃあ、偵察に便利な魔物って?」
「一番は、ソウルイーターやゴースト等の実体を持たない魔物が良いのですが、もう少し奥に行かなければなりませんし、テイムしたり仲良くなったりするのにも時間が掛かります。ですから、周囲に擬態したり、状況に応じてある程度大きさを調整できる、スライムがよろしいかと存じます」
「出たー、ファンタジーのお約束モンスター」
某超有名RPGのお陰だか知らないけれど、まず知らない人はいないくらいの雑魚敵だった気がする。事実、俺でも知っているくらいだからなぁ。
くりんと可愛らしく首を傾けるルルナだったが、すぐに気を取り直し、スライムについての詳細を俺に伝える。
「スライムは川や湖、湿地等の近くに生息する魔物で、基本的にはものすごく弱いです。剣等で、中心の核球を砕くだけで死んでしまいます。モンスターテイムは、人間と魔物の間の魂の契約によって成り立つもので、力で相手を屈させなければならない場合も御座います。くれぐれも、殺さないようにご気をつけ下さい」
「そんなに弱いの?」
「はい。勇者様でもなんとか倒せるくらいには」
「地味に酷いな、それ」
クソ雑魚呼ばわりされるスライム達と、それと比較される俺。何だかとっても不憫だ。
「近くの湖までは、ここから歩いて10分程となります。ピアナ様が待っておられます。急ぎましょう」
そう言って、手を差し出してくるルルナ。
「…ん?」
「勇者様がはぐれないよう、手を繋ぎましょう」
…ドキリ。パーティー前の練習で、散々握った白くて細い手。その手に触れる度に緊張してしまうのは男の性と言うやつなのだろうか。
遠慮がちにルルナの左手を握ろうとすると、早くして下さい、とばかりに強引に俺の手を握るルルナ。
「…別に、他意は御座いませんから」
少し頬を染めてそんな事を言ってくるルルナが可愛すぎる。全くもって罪深い娘だなぁ…。
「…こほん。今ので時間を取ってしまいました。急ぎましょう」
そう言うと、ルルナは軽く地面を蹴り、一瞬で15メートル程の距離を跳んだ。
当然、棒立ちしていた俺の右腕にはとんでもない力が加わる。
「うわー!痛いから、ホントに!脱臼しちゃうから!」
「この程度で痛がっていては勇者などやっていけませんよ?ほら、急ぎましょう」
さほど気に掛ける様子も無さそうに、また地面を蹴って跳ぶルルナ。50メートル走2秒とか、地球の最高記録普通に超えてんじゃん。
「…仕方が無いですね。勇者様、心のご準備を。では行きます」
そう言うと、ルルナは俺を…空高く、投げた。
「うわぁぁぁあああ!!!」
やがて俺に働く力のベクトルはゼロになり…そして、今度は落ちていく。
え、ヤバイ、これ死んだんじゃね?、と思ったのも束の間。次の瞬間、俺は湖の中に落ちていた。
(バッシャァァァァァアアアン!!!)
水中で凄まじい音を聞きながら、俺は湖に沈んでいく。水を吸わなかったのは不幸中の幸いだろうか。
途端、何かに引っ張り上げられ、俺はやっと肺呼吸を許された。
「勇者様…凄く、格好悪かったです」
「いや、君の所為だよね!?」
どうやら俺を魔法で陸地まで運んでくれたらしいルルナが真顔でそんな事を言ってくる。
「勇者様、お召し替えを」
「どんだけ準備万端なの!?」
「それは…図っておりましたから」
「確信犯かよ!」
とはいえ、濡れた服のままというのは重いし、気持ちが悪い。渋々といった様子で着替えを受け取った俺は、念の為にルルナに釘を刺す。
「…恥ずかしいから見ないでね?」
「今更恥ずかしがるのですか?パーティーの時もわたくしが致しましたし、普段勇者様の下着を管理しているのもわたくしですが?」
「そういう問題じゃ無いから!」
「ならば構いませんが」
…もしかしてルルナってそういう娘なの?そういう感じの変態さんなの?
「因みに申し上げておきますと、わたくしは別にそういった類の変態では御座いません。そこのところはお間違えの御座いませんように」
あたかも俺の考えを見透かしたかのように言うルルナ。なんで分かったんだろう。
そうこう言っているうちに着替えが終わったので、早速要件に入っていく。
「ねえルルナ、スライムって何処らへんにいるの?」
「この辺りならば何処にでもいるかと存じます。…そろそろそちらを向いても構いませんか?」
「あ、ごめんごめん。忘れてた」
スライムっていうとやっぱり青いのだろうか?いやでも、周囲に擬態できるとか言ってたしな…。
等と考えながら湖の周りを歩いていると、
(つるん)
「うわっ!」
何だか分からないが、足が滑って転んでしまった。
折角着替えたのに、また服が汚れてしまった。
「いったたた…。ん?コレ…」
俺は、先程自分が滑った地面を指先で突いてみる。
ぷにっとした柔らかい感触。何だかずっと触っていたいような、そんな感じの…。
すると、その柔らかい地面はだんだんと盛り上がってきて…透き通った、大きなグミのような見た目になった。
「…ぴゅ?」
くりくりとした目が可愛い。大きさは直径10センチ、高さは5センチくらいで、指先で突いてやるとぴゅい〜、と可愛らしい声を出す。
「おーいルルナ!見つけたぞ〜!」
するとルルナが駆け寄って来て、
「これは大きいですね…って、へ?これはプリズムスライムではありませんか?」
「何それ美味しいの?」
「それについては存じませんが、限られた条件下で稀に見られるレアな魔物です。ほら、ご覧下さい。よく見ると7色に光っているでしょう?」
「…ホントだ」
確かに、太陽光が屈折して…というわけではない、自ら放っているであろう光を確認できる。
「それで、これの何が良いの?」
「擬態能力や戦闘能力がスライムの中で突出して高く、また核球を売りに出せばかなり高い値段が付きます。勇者様、逃すという選択肢は無いかと存じます」
流石に、用が済んだらただの素材、という、ような事はしないが、他のスライムに比べて強いのなら確かに見逃さない方が良いであろう。
「それで…テイムってどうやったら出来るの?」
「昨日のようにスキル詠唱をした後、“テイム”と言えば宜しいかと」
「有り難う。…育成、テイム!」
すると、先のスライムを光が覆う。
そして…
(ーーー・プリズムスライムから契約条件が提案されました。
・契約条件
十分な量の食事及び安全な寝床の提供、
お肌のケア
しっかり構う事
承認しますか?)
最初のやつは理解出来るけど…後の2つ!どんだけ構ってちゃんなんだ!
とはいえ時間もあまり無い。
「承認します」
(名前をつける事でーーー・プリズムスライムとの契約が完了します)
名前かぁ…。下手なのを付けても可哀想だしなぁ…。
…少し水色がかった透明な身体から、あたかも太陽光が分散したかのような7色の光が漏れている。
「お前の名前は、ソラにするよ」
「…ぴゅいっ♪」
(ソラ・プリズムスライムとの契約が完了しました)
「ルルナ、契約完了だって」
「それは良かったです。では、お城へ戻りましょうか」
「うん、そうだね」
こうして俺達は城へと戻った。
〜★〜★〜★〜
こっそりとピアナの部屋の前まで行き、ルルナが軽くノックしてから入る。
あのルルナがノックの返事を待たずに部屋に入るだなんて、相当…
「勇者様、駄目っ」
急にルルナが腕を伸ばし、俺の視界を遮った。
「な、何?」
「ピアナ様が…お召し替えの途中でした」
ほらぁ〜、ノックの返事を聞かずに入ったからぁ…等と言ってやりたいが、ついこの前に俺も前に同じ事をルルナにしたので、そんな事は口が裂けても言えない。
「ねえ勇者様、見てませんよね?」
「大丈夫、見てないから安心して」
「…ホントのホントのホントにですか?」
「それは命に賭けても良いよ?」
「うぅ…確かめようが無いと言うのは悔しいけど、勇者様が無いって言うならそう信じるしか無いよぉ…。ああん、もう私、お嫁に行けないよぉ…」
「だから見てないってのに!」
「いえ、確かめようなら御座います。陰属性魔法で勇者様の記憶を覗けば…………勇者様、いくら幼いとはいえピアナ様は女性なのですから、嘘は承服致しかねます」
「ホントに魔法使った!?俺見てないんだけど!?」
冤罪だぁ!これは酷いぞ!
「ほんの冗談です。ご安心下さいませ、ピアナ様。勇者様のお言葉は残念ながら事実のようです」
「ホント!?良かったぁ…」
何でルルナの言葉はあっさりと信用するのに、俺の言葉はこんなにも信じてもらえないのか…。
とはいえ、だ。
「早く着替えて頂きたいんですけどぉ…」
「も、もうちょっとだけ待って下さい!…ていうか、いくら見てないとはいえ、男の人の前で着替えるのって凄く恥ずかしいんだけど…」
「という事ですので扉は閉めさせて頂きます」
そして約5分後…。
「もう良いよ〜」
ホッ、と思わず溜息をついてしまう。あーなんか疲れた。
「ご、ごめんなさい勇者様…。昨日は普段着のままベッドに入ってしまったので、シワが気になって着替えてたんです。それにルルナがあんな事するなんて、想像もしてなくて…」
「こほん。先程は大変失礼致しました。ですが、お嫁に行けなくなる事はないかと存じます」
「え?何で?」
「ピアナ様が無事女王の座につかれた暁には、勇者様とご結婚なさる事に…」
「「ええ!?」」
何それどーゆー事!?頭おかしいんじゃない!?
この子まだ中1くらいだよね!?
「ご存知なかったのですか?過去に召喚された勇者は皆、役目を終えた後に王族の女性と結婚されているのですよ?」
「い、嫌です!…あ、別に勇者様が嫌いとかそういう意味ではなく!そのぉ…私、まだ結婚なんかしたくありません!」
「激しく同意だ!まだ13歳の女の子に結婚を強要するのは可哀想だよ!」
「いえ、それはピアナ様がご成人なさり、尚且つ勇者様が現れた魔王を討伐なさらないと起こり得ないかと」
うおぉ…。頼むから魔王さん出現しないで下さい。コレホントに。
「でも…それだけ自信満々に“女王になれる”って言ってもらえて、凄く嬉しいよ。別に本当は女王になりたいわけじゃないけど…でも、こんな自己中心的な人達が威張っていられるこの国の今を、変えたいの」
そういうピアナの目尻には、何か光るものがあった。
「…ピアナは、強い子なんだね」
本当に、強い子だなぁ。父親に他界されたばかりなのに、プライベートと王族としての公務、ちゃんと分けて考えられるだなんて…。
勿論彼女1人で出来る事はあまり多くないだろう。
だが、彼女のような人間には自然と人も集まって来る筈だ。
そんな彼女を応援する為にも!
「ソラ、早速で悪いけれど…」
出来る事をするだけだ!
…異世界生活12日目、未だ終わらず。