04話 パーティーは不穏な雰囲気
馬車に揺られて小1時間。夕焼けが綺麗なその時間、俺達は城へと向かっていた。
「勇者様、見えて来ましたね」
「…相変わらずでっかいなぁ…」
「当然です。ここは世界の中で三代国家と言われる、エルグランド王国の王様が住まわれるお城なのですから」
「え、そうだったの?道理で大きいわけだ」
ていうか此処はエルグランド王国っていうのか。
「はい。本日のパーティーが終われば、勇者様にはこの世界の地理について学んで頂きます」
「ちょ、マジか…」
まぁ、元の世界での最後の1年間はほぼ勉強づくしだったけど、別に好きでやってた訳じゃないしな…。
「それにしても…クルルさんがいないとこんなにも静かなのですね…」
「…確かに。寂しいというのか落ち着くというのか…」
「いえ、落ち着きます」
因みに、ルルナが「ピクシーは人間に嫌われていることが多い」と指摘した事から、クルルは邸宅に残してある。滅茶苦茶ブーイングを喰らったけれど。
そうこう言っているうちに城の表口に着いてしまった。
…話しながら仕事も完璧にこなすとは、流石ルルナと言うべきか。
「お待ちしておりました勇者様。パーティー会場にご案内させていただきます。尚、パーティー後に我が国の王と謁見して頂きたいと思っております。宜しければそちらもお願いしたく存じあげます」
「ああ、是非宜しくお願いします」
俺達を迎えてくれたのは召喚された俺に対して、先ず最初に話しかけて来た中年で痩せ気味の男性である。
「それとルルナ。勇者様とは仲良くやれていますか?」
「勿論で御座います、オットー様」
「良き事です。今日のパーティーておいて、貴女は一人の客人です。楽しんで」
「有難う存じます」
この人はオットーさんというのか。
…確かにそんな感じの見た目をしている。
「それでは、お楽しみください」
そうして俺達は城のメイドに案内され、とても広い部屋に案内された。天井にはシャンデリアが吊り下げられ、とても豪華な感じの部屋である。
「勇者様の、おなぁ〜りぃ〜!」
「勇者様、こちらはお掛けください」
「あ、はい」
案内された椅子は、肘掛けのところに宝石が散りばめられていたり、様々な部分が金で装飾されていたり、と色々と座りにくい。が、案内された椅子なので渋々座る。ルルナはその横に立っている。
すると、純白の豪奢なドレスに身を包んだ13、14歳くらいの少女が、
「皆様、本日はお忙しい中このパーティーにご参加下さり、誠に有難う御座います。このパーティーはご存知の通り、先日召喚された勇者様をお祝い致すもので御座います。…勇者様、何か一言お願い出来ますか?」
こう言われた俺は椅子から立ち上がって、
「あ、ああ。ええと、皆さん、今日はこのような席に招待して頂いた事、誠に光栄に思っております。こんな俺が何か皆さんの助けになれるとは思いませんが、精一杯頑張りますので、宜しくお願いします」
と言った。
(パチパチパチパチ…)
「それでは皆さん、本日は是非楽しい時を過ごして下さいませ。以上をもって第一王女ピアナからのお話を終わらせて頂きます」
(パチパチパチパチパチパチパチパチ……)
へえ、この子が噂に聞くピアナ様か…。思ったりより小さいんだな…。顔は整っていて、金髪碧眼と白いドレスがよく似合っている。
するとピアナはこちらへ来て、ルルナに話しかける。
「久しぶりねぇー、ルルナっ!勇者様とは仲良くやれてるの?」
「はい、それなりには」
「それなりじゃダメじゃない…。ちゃんと笑顔も見せてる?」
「いえ」
「ほらぁ…いつもポーカーフェイスなのはお人形さんみたいで可愛いけど、ルルナは笑うともっと可愛くなるんだから。ほぉら、笑って」
「…こ、こうでしょうか?」
と言って、ルルナがぎこちない笑みを浮かべる。
「うん。まだちょっとぎこちないけど、それも含めて可愛いよ!」
「あ、有難う存じます」
おお、凄え。あのルルナより実質的に上に立てるだなんて!
と、俺の視線に気づいたルルナが、
「…勇者様っ!あ、明日の魔力を感じる練習、覚悟しておいて下さいね…!」
と、未だ少し頰の赤いルルナ。
おお、怖っ…!
そんな事を考えていると、ピアナ様が俺の方へと向いてきた。軽く会釈を交わし、彼女は話しかけてくる。
「して…貴方様が噂の勇者様で御座いますね。とても弱い、等という噂が私の耳には届いておりますが…」
「その通りですね…。戦闘スキルを一つも持ってなくて…」
「心配ありませんよ。生活してく上で新しいスキルを手に入れる事も珍しくないですから。魔法は…あんまり無いですけど」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。それと、普通に喋って頂いても構いませんよ?勇者様が高々一国の王女である私ごときに、敬語で話す必要など無いでしょう?」
「まあ勇者なんて自覚は無いけど、お言葉に甘えて。
それより…凄いんだね、ピアナ様って。未だ小さいのに、こんな立派な国の第一王女として、沢山の大人の前で喋れるだなんて」
この言葉は決して社交辞令などでは無く、本心から出たものだ。
無論、俺が同じ年代の時には、絶対に同じ事は出来なかっただろう。
「ピアナ、と呼び捨てで構いません。それに、ここにいる貴族達は、幼い頃から顔を合わせてきた人達ですから」
これ以上王女様に立ち話させるわけにもいかないため、「その家庭環境が以上」という言葉は飲み込んでおく。
「立ち話も何ですし、椅子に座りましょうか。どうやら勇者様と私がちゃんとお話しできるよう、専用の席が用意されているようですし」
「そうだね」
どうやら俺と同じ事を考えていたらしいピアナは、その先へと俺達を案内する。
そして何故かさっきからだんまりを決め込んでいるルルナに、
「…もしかしてピアナの事、苦手?」
「…いえ、そういう訳では。確かに親しい者との間では、押しが強いお方ですが、可愛らしくて、わたくしは好きですよ。ただ…一瞬の間にピアナ様があのような砕けた態度になられるだなんて…」
「ん?ヤキモチかな?」
「べ、別にそういう訳では…」
「勇者様、こちらになります」
「おっと、有難う」
わかりやすくていいなぁ、とここぞとばかりにルルナをイジるが、これ以上やると後が怖いのでやめておく。
…さっきもあったか、こんな事。
「勇者様、お食事を取りに行っては如何ですか?勇者様が動かないと貴族達も続けられないので…」
…言われてみれば、貴族と言われた人達の多くは俺の方を見ている。
「そうだね。じゃあピアナも一緒に」
「喜んで」
そう言って、俺達が席を立ち上がろうとした矢先の事だった。
それなりに身分の高そうな人達が慌ただしく扉を開けて、叫んだのだ。
「緊急!緊急!国王陛下が危篤!誰か治癒魔法の施せる方は至急こちらまで!」
ざわざわと、貴族達の間に一気に動揺が広まった。
それは俺達とて同様である。
「え…父上が…?」
「そんな…ゼスラ様が…」
「…私、行かなきゃ」
そうして彼等のところにピアナを含め数名の人が集まり、廊下へと消えていった。
「尚、本日のパーティーは国王陛下危篤により中止と致します!繰り返します…」
「災難でしたね、勇者様」
「それは良いけど…王様、大丈夫かなぁ…?」
実際にあった事はないが、13歳か14歳くらいであろうピアナが長女だという事、又、昔は早く結婚する事が多かったという話から、まだ若いのだろう、という事だけは想像がつく。
「…心配ですが、帰る他はありません。あくまでもわたくし達は部外者ですから、ここに長居したところで何も分からないでしょう」
「…そうだね」
こうした俺達は邸宅へと帰った。
〜★〜★〜★〜
「お帰りぃ〜。割と早かったねぇ」
「ああ、実は…」
と、俺は事の顛末を話す。
「そりゃあ災難だったねぇ…。じゃあ御馳走にはありつけずぅ?」
「そうですね…国王陛下は昔からお身体をよくされていなかったと聞いているだけに、不安ですね…」
「へぇー。どぉーでも良いけど、兎に角、ボクの方が豪華な食事にありつけたってのは結構重要な事かなぁー」
等とドヤ顔でほざくクルル。
だが、その発言を聞き咎める少女が若干1名。
「あれ…おかしいですね。クルルには食事を用意したいなかった筈なのですが…流石に自ら命を売りに行くような事はしていないとは思いますが…」
俺達がパーティーに行くとか言っておいて食事用意しないとか、中々に悪質な嫌がらせだな。
「え、えっとぉ!そのぉ…」
「まさか狩りでもしたのですか?」
「そ、そぉだよぉ!」
「…そのピクシーの虚弱な身体でもって倒せ、尚且つピクシーの敏感な舌を満足させるような魔物が、この近くにいるのですか…?それは是非とも教えて頂きたいものですね…」
「ル、ルルナなんかにはお、教えないよぉ〜だぁ!」
「はい、無礼な発言をしましたね?今日の夜ご飯になって頂きましょう」
「ごめんなさぁーい!」
…じわじわと追い詰めていくスタイル。乙女の皮を被った鬼の姿を見た気がする。
「…何か、失礼な事を考えていますね?」
「いえ何も!」
「…まあ、構いません。ですが…心配です」
「…そうだね…」
ーーー国王崩御を知らせる赤い手紙が届いたのは、それから30分もしないうちのことだった。
少女は、「面倒な事にならなければ良いのですが」、と呟いた。
その声と溜息は仲間に聞こえる前に、フェンリルの遠吠えに掻き消された…。
〜★〜★〜★〜
知らない人とはいえ、誰かが死んだと知っている事を意識してしまうこの朝は、あまり気分が良くない。
そんな時に部屋に入ってきたのは、ルルナだ。
「勇者様、あまりご機嫌がよろしくないのですか?」
「まあ、ね」
「勇者様はお優しいですね。それに、折角踊れるようになったフォークダンスの練習も、無駄になってしまいましたしね」
「まあ…そうなんだよねぇ…」
「…勇者様、今日からはこの世界の地理と文字を学んで頂きたく存じます。あまり難しくはありませんが、なるべく3日以内に覚えて頂きたいので、少し厳しくなりそうですが、ご容赦お願いいたします」
「え、3日!?何で!?」
「諸事情です。…勇者様も、いずれお分かりになるでしょう」
「えー…無理だよ…」
「3日の間寝ない覚悟ででもやって頂かなければなりません。わたくしもご一緒しますから」
「う…宜しくお願いします…」
こうなったルルナは意見を曲げないと、ここ1週間で俺は学習している。それに、何か事情があるみたいだし…。
「勇者様の魂に刻まれるくらい深く教えて差し上げます」
「何それ怖い!」
ヤバい、寒気と頭痛が…なんて言ったらすぐ仮病だとバレそうなのでやめておく。
「それはそうと、この世界の世界観等について知って頂かないと、勇者様も勉強する上で困ってしまう事になるかと存じます。そこで、わたくしが存じている基本的な事柄をお教えします」
お、それは少し興味があるかもしれない。俺にも結構疑問が溜まっていたしな。
ルルナが知らないって事は…無いと信じる。なにせ「万能」だし。
「じゃあまずはじめにだけど、何で俺はルルナ達と会話が通じるんだ?そのくせ、文字は読めないんだけど」
「申し訳ありません。わたくしは存じません」
マジか!?万能とはいえ限度があるという事か…?
「じゃあ、何で勇者は異世界から召喚されるんだ?この世界にも歴戦の猛者とか、いると思うんだけど…」
「申し訳ありません。わたくしは存じません」
むむむ…!
「…んじゃあ、何でこの世界では水晶が魔法の道具として使われているんだ?」
「申し訳ありません。わたくしは存じません」
ぐぬぬ…!!
「…じゃあさ、俺の名前って何だか分かる?」
「申し訳ありません。わたくしは存じません」
「いや分かるだろ!!」
「すみません。少し意地悪してみたくなりまして」
こいつSか!?…いや、そうだったな。
「本当の事を申し上げますと、最初の質問については存じませんが、2番目の質問は、戦闘による強い冒険者の損失を防ぐ為、3番目はは、水晶はある程度採りやすく純粋で魔力に染まりやすいからで、最後はヒロミ・ヤマモト様ですね」
「そ、そう。有難う…?」
「何故疑問形なのか分かりかねますが、質問は以上でよろしいですね?では今から授業とさせて頂きます」
「ちょ、ルルナストップ!」
「尚、授業中はルルナ、ではなく、先生、とお呼びくださいませ」
…この先が思いやられる。頑張ろう。
…異世界生活9日目、未だ終わらず。
次回も来週土曜日に投稿する事が予想されます。是非ご覧下さい♪