01話 いざピクシーの村へ
いよいよ第2章です。少し物語の根幹に繋がる内容も入ってきます故、お楽しみ下さいませ。
「はぁー……」
今日で異世界に来て丁度30日目だ。
そして、こっちには和食がない。
「はぁー……」
まだ朝なのにも関わらず、本日何度目かの溜め息。要するに、何が言いたいのかというと……、
「勇者様、どうかなさいましたか?わたくしの料理に何かご不満など御座いましたか?」
「いや、そうじゃないんだ。ただ……味噌汁が飲みたい。焼き鮭が食べたい。冷や奴が食べたい。ただそれだけなんだ」
事実そうである。ルルナが作ってくれるご飯はとても美味しいし、どんな名店にも引けを取らない味だと贔屓目なしに言うことが出来る。
だがしかし!いや、だからこそ!日本人たるもの、和食が恋しくなるのだ。
「無礼を承知で伺いますが、その、ミソシルやヤキジャケとは、如何なるものなのですか?」
「ええとね、味噌汁は、味噌……豆に塩を加えて、カビをつけた米とかを入れて発酵させたものな、それを水に溶かしていろんな具材を煮た食べ物かな?焼き鮭は、塩漬けにした鮭って魚を焼いたものだね」
味噌汁に関しては適当である。この世界には麹という概念がないだろうし、第一、水→具材→味噌の順番が一般的だ。……ま、良いだろう。
「聞いたことがありませんね……。それは、勇者様の世界の食べ物なのですか?」
「そうだね。あ、因みに麹って知らないよね?」
「申し訳ありません。わたくしは存じません」
一応確認してみたけど、やっぱりか……。
少し肩を落としていると、可愛らしく明るげな声が聞こえてきた。
「何々ぃ?新しい食べ物の話ぃ?ボクにも食べさせてよねぇ!」
「食べられるんなら俺だって食べたいよ……。はぁ……どうにかして食べる方法はないかなぁ……」
暫くの沈黙が食卓を支配する。
すると次の瞬間、唐突にルルナが、あ、という声を漏らす。
「ん?どうしたの、ルルナ?」
「作れば良いのではないでしょうか」
「作るって言ってもなぁ……麹が無ければ多分作れないしなぁ……」
「あるよぉ」
「へ?」
「麹なら、あるよぉ。ハッコーショクヒンとかに使うやつでしょぉ?」
え!?マジで、あるの!?
「それ、何処にあるの!?」
「ピクシーの村に行けばねぇ。ピクシーの主な産業は、ハッコーショクヒン作りだからねっ!」
凄い、やったぁ!クルル、初めてのお手柄では!?
「……クルルさんが、初めて役に立ちましたね」
「それ何か傷つくんですけどぉ!?」
まあまあ。あ、でも……。
「例えあったとしても、物凄い時間が掛かる気がする……」
「ご安心あれぇ!ピクシーの上位種たるハイピクシー様なら、ある程度時間を操作する事も出来るからね!」
「何それ万能かよ!?」
兎に角、そのピクシーの村とやらに行ってみるっきゃない。という事で、俺達はクルルに案内されるまま森を歩き、ピクシーの村まで行く事にした。
〜★〜★〜★〜
「この辺りだよぉ!」
見ると辺りには霧が漂っており、何だか神秘的な雰囲気だ。異世界って感じがする。
「クルルさん、この霧は結界で間違いありませんね?」
「モチのロンだよっ!本来、ピクシー以外は通り抜けられないんだけど、ピクシーが認めた人間なら入ることも出来るよぉ〜」
へぇー、そんなのもあるんだ。流石だなぁ……。
などと思いながらクルルについて行くこと、約10分。
「おかしいですね。この手の結界は、これ程分厚くする事は出来ない筈なのですが……」
「ギクリっ!」
「確かに、これは流石に長過ぎるよなぁ。なあ、クルル。もしかして、入らないって事は……ないよね?」
「ギクギクギクリっ!!」
ああ、図星か。それにしても、何で……。
「そういえば、クルルさんは過去にピクシーの集落から追い出された、と言っておりましたね。ここがそうなのですか?」
「ゲホゲホっ!ごほんごほんっ!違う違う、そんな事ないから!」
「言って下さい。言わないと凍らせます」
「ごめんなさい、そうですぅ、そうですから勘弁して下さぁーい!」
はぁ、やっぱそんなところか。まあ、クルルだしな。
「やはりですか。……凍って下さい」
「何でぇ!?ちゃんと言ったじゃん!?」
「ちゃんと言えば凍らせないなどと、誰がいつ申し上げましたでしょうか?」
「酷いよぉ!」
「ハイハイそこまで。今はどうやったら村に入れるかを考える」
まったく、仲が良いんだか悪いんだか……。
「それに関しては問題ありません」
「え……」
「『我天ト理ニ従イ聖ナル力ヲ行使スル。光ヨ、我等ヲ阻ム異物ヲ排除セヨ』ホーリー・ライト」
そうルルナが唱えると、辺りが見えなくなる程の眩い光が俺を覆い、やがて晴れた。
すると、目の前には想像を絶する程の美しい光景が広がっていた。
陽の光を浴びて眩い煌めきを放つ蒼い湖に、その畔で戯れるピクシー達。小さくもカラフルな家々。そして、一面を華やかに染める花々……。
俺とルルナは何の言葉も発する事なく、それらの景色を見つめていた。
だが、その穏やかな時間は、何処からか聞こえてきた威厳のある声によって終わりを迎えた。
「貴様等、人間だな。妾達ピクシーの村に、何用だ」
その、何処かで聞いたことのあるような、それでいて何処か威圧するような口調でそう告げた何者かは、さっと俺達の目の前に移動すると、いきなりバッと黒いローブを取った。
すると、そこにいたのは、豪奢で華々しい衣装を見に纏った、艶やかな美女だった。身長は人間くらいではあるものの、彼女の雰囲気は人間のそれとは明らかに異なっていた。
「大変失礼致しました。本日はコウジとやらを譲って頂きたく存じまして、この村へと馳せ参じた次第で御座います」
「そうか、では何故わざわざ結界を壊した?貴様の言うだけの理由ならば、もう少し穏便であっても良いと思うのだが?」
「こちらのピクシー曰く、ピクシーに認められた者ならば入る事が出来る、という事だったとですが、手順通りに行きませんでした故」
クルルならば、ここに来てボクの所為ぃ!?などと言いそうなのだが、何故か彼女は口をつぐんだままだ。
あれ、どうしたのだろう、と思いクルルの方を見ると、彼女は恐怖に顔を引きつらせ、ルルナの後ろに隠れようとした。だが次の瞬間、クルルは先の女性にむんずと捕まれてしまった。
「おや、クルルではないか。何故今更戻って来た?よりにもよって人間を伴って……。まさか、叛逆か?良いだろう、せめて苦しみを感じないよう、一瞬で消しとばしてみせよう」
「違います違います違いますぅ!今日はただ、アイツが麹を欲しいって言ったから……」
「それはもう聞いた。だが、わざわざここに戻ってくるとは、貴様もよっぽど死にたいと見える。3人揃って死ぬが良い!」
すると次の瞬間、ルルナは一瞬で女性の首にナイフをあてがい、冷徹な声で、
「穏便に、行きたいのですが……」
とだけ言った。
女性も心底ビビったのか、「あ、あぁ」と言い、両手を挙げて降参の意を表明した。
そして俺に近づき、「お前も大変だな」と耳打ちした。
〜★〜★〜★〜
ほとんどの家が高さ30cm程なのに対し、地球における一般の一軒家程の大きさの、赤い屋根を持つ家に招待された俺達は、その中の円卓を囲って話をする事となった。
「して、貴様等の名前は?」
「えっと、俺の名前はヒロミ。で、こっちが……」
「従者のルルナです。何卒、宜しくお願い致します」
「ふむ、ヒロミにルルナか。妾の名前はアルヴェンヌ、このピクシーの村の長だ。親しい者はアルと呼ぶ」
長ねえ……。どーりで威厳があると思った。
「おいクルル、茶を沸かせ」
「はいはいわかりましたよぉーだ」
……こうやってクルルをちゃんと従わせられるようになりたい。……いや、ルルナがいたわ。
「で、麹が欲しいんだったか?」
「あ、そうです」
「よし、分かった。麹はくれてやろう。何を作るのか知らんが、それを作るのにも協力してやろう。ただし、1つ条件がある」
「な、何ですか?」
何だろうな……凄く、嫌な予感がする。
「条件とは、如何ようなるものでしょうか?」
なんか怖くて問う事が出来ない俺の様子を察したかのように、ルルナが代わりに問うてくれる。
「それはだな……」
ゴクリ。一体どんな条件を差し出してくるのだろう……?
「貴様……ルルナだったか?……が、妾と戦う事だ!」
?????????????
頭の中に何個も?が浮かぶ。戦うって何の戦い?何で戦うの?えええ???
「戦う、とは、戦闘の事と見て差し支えありませんか?」
「当然であろう。むしろ、胸の大きさなど競ってみるか?」
「け、結構ですっ!」
「だろう?妾はどちらが勝つか分かっている勝負など嫌いなのだ。ヒロミもそう思うだろう?」
「ま、まあ……」
肯定しかけたところで、ふと殺気を感じ曖昧に濁しておく。
頰を真っ赤に染めたルルナは、
「と、兎に角、戦うのであれば今すぐにでも戦いましょう。先程の言葉を後悔しないで下さいませっ」
と、つっけんどんに言うと、プイっとそっぽを向いてしまう。あーあ、怒らせちゃったな。
「まあ待て。気が早いのも嫌いじゃないが、ひとまず落ち着くが良い。クルルが茶を淹れておるし、それでも飲んで談笑しようではないか」
「そうだね」
あ、丁度のタイミングでクルルが戻って来たみたいだ。
身の丈の半分程もありそうなティーカップを、とても重そうに頭上に掲げ、アルヴェンヌの前に置いた。
「あー疲れたっ!あ、ヒロミとルルナは自分で持ってってねぇ〜」
流石に、あれ程重そうに持って来られちゃ、断る事は出来ない。
「はいはい。あ、俺が持ってくるからルルナは良いよ」
「では、お言葉に甘えさせて頂きます」
こちらを見もせずにそう言ったルルナの言葉を受けて、俺は先程クルルがいた方へと向かい、ティーカップを持って戻った。
あれ、そういえば……
「クルルはお茶、良いの?」
「別にぃ〜。あれ不味いじゃん」
「あっそう」
もう面倒臭くなったので適当に答え、改めてアルヴェンヌの方を見る。
「じゃ、クルルについて、聞かせてもらっても良い?」
「無論だ。こやつは、先の冬にな……」
「だ、ダメぇっ!言わないでぇ!」
「冬を越す為の食料のほとんどを保存してある倉庫に、1匹の火鼠を誘導した」
「ゲぇっ!?」
「ねえルルナ、火鼠って……」
「勇者様は知る必要ない事で御座います」
ええーっ!マジか……。
「……ルルナさん、まだ怒ってます?」
「いえ、わたくしは物心ついてからというもの、一度たりとも怒ったことなど御座いません」
「嘘つけぇーっ!……っと、ゴホン。お優しく麗しきルルナ様、頼みますから許して下さいっ!」
「反省なさったなら結構です。火鼠とは、体長60cm程のモンスターのことです。大食漢で気性が荒く、怒ると火属性の魔法を使ってきます。まあ、あまり強くはありませんが」
うぇっ。という事は、クルルの所為で冬越しの為の食料の大半を失ったって訳か。……って!
「お前それ、妖精皆殺しにするところだったんじゃないのか!?」
「その通りだ。お陰で食料は全損。倉庫は壊滅するし、火鼠はピクシーを襲うしで、危うく犠牲者が出るところだったのだ。流石にこれには全員懲りて、満場一致で村を追放、となった訳だ」
……うっわ。俺とルルナは、クルルから露骨に距離をとった。
「うぅ〜!わざとじゃなかったのぉ!いや、わざとだけど、そんなつもりじゃなかったんですぅ!」
「それでも反省しないやつだからなぁ……」
「してますよ、反省ぃ!ねぇ、ごめんなさいってばぁ!」
「安心せい。もう誰も貴様を相手になどせぬ」
「それ安心出来ないぃ〜!」
その後もこんな調子で会話をしていたら、すっかり日が暮れてしまった。俺とルルナはそれぞれ部屋を貸してもらい、そこで一晩を過ごす事となった。
因みにアルヴェンヌは、夜になって起き出したソラ(最近夜行性気味)にも、餌をくれる、優しい人だった。
……異世界生活30日目、終了。
GWとはいえ毎日書く事など出来ませんね……。
とはいえ、折角の休みです。皆さんも休みをenjoyしましょう♪私も書けるだけ書いちゃいたいです。




