あとがき『残された物語』 第十三人格:ヤギ郎 <Part 1-2>
あとがき『残された物語-作者と金髪美少女と共に』
Part 1-1
▲Part 1-2
Between the Layers 2
決戦前夜 1
Between the Layers 3
Between the Layers 2
フルーツミルフィーユを僕とツヴァの皿に盛り付けた。
「用意した新カットについて、『光の書』や『闇の書』は既に語られていることだよね。『真実の門』って何?」
一応、念の為に言っておくと、新カットについては僕が描いたものではない。これらは自動的に現れたものである。ツヴァに言わせれば、既に存在するシーンをつなぎ合わせようとした時に自然と出てくるのだそうだ。そのため、僕は新カットについて知らない。
「『真実の門』というのは、あれだ」
ツヴァは後ろへ振り返り、大きな門を指し示す。
「あの門が『真実の門』なの?」
「そうだ。全てはあの向こう側で起こっている」
「あの向こう側はどうなっているの?」
「安心しろ、すぐに分かる」
そう言われてしまうとこれ以上聞きようがない。
「なんだかんだ上手くいくね。アウェイカーとリジェクターの対立が土台にあって、この戦いにまつわる物語が展開されていくと。あのケーキ屋に転職した敏腕制作進行のように『万策尽きた!!』って叫ばなくて良かったわ」
「それはどうかな」
「どういうこと?」
「物語が続くということさ」
決戦前夜 1
「本日はお集まりいただきどうもありがとう」
長机と椅子の置かれた殺風景な部屋に数名の男女が集まっていた。
「デウス・エクス・マキナ、大統領、オッカム、希仁、フレイカ、そして『閉ざされた少女』がいない。これは疑いようのない“真”である」
スーツをきっちりと着た理知的な女性が立ち上がった。
「お嬢様ついては、私が代理として仰せつかっております」
司会役の老人はうんと頷く。
「希仁とフレイカについては、投票権、発言権、裁決権を私に委任しておる」
「すると残るはデウス・エクス・マキナ、大統領とオッカムだね」
煙管を一口吸ってから女性は話し続ける。
「推理するまでもないけれど、その3人はそこの老子に呼ばれていないんだわ」
「今回、皆様をお呼びしたのは『大統領』と『オッカム』について相談したいことがあるからだ」
「あら、デウスちゃんはいいのね」
「デウス・エクス・マキナには既に話しておる」
「ふーん、それで、『大統領』と『オッカム』がどうしたのさ?」
「とある情報筋から二人は『星の文壇』のクーデターを企てているそうだ」
「まさに『星の分断』だね」とロリーポップを舐めている少年が言った。
「主、ちょっと黙ってちょうだいね」
老子と呼ばれた老人はゴホンと咳払いをする。
「皆も知っていると思うが大統領は主要なリジェクター勢力を結集させて、反アウェイカー団体を立ち上げている。この団体はアウェイカーとリジェクターの差別をなくし、『語感』を越えた全世界が統合することを望んでいる。団体の主義主張そして運営においては、あくまでも政治的・社会的な統合を目指しているが、情報筋によると大統領はその先へ行くことを考えている」
「その先とは何ですか?」
「『真実の門』だよ」
室内が凍えるように静まり返った。
「真実の・・・門」
「そうだ『真実の門』をくぐるとハイヤー・レイヤーがあり、『語感』なんぞ関係ない、もはやキャラクターであることすら関係なくなる世界があるそうだ。大統領はそこへその他大勢と共に向かうというのだ」
「老子。読者に、そして世界にフェアであるために一つ確認したいのだが、『真実の門』というのは、あの『真実の門』、すなわち大講堂にある扉でありますか?」
「そうだ。我々『星の文壇』は世界政府を樹立したことではなく、『真実の門』の守護者であることが存在理由なのだ」
「はっ、はぁー。『星の文壇』の一員になってしばらく経つけど、まさかそんな話があるなんてねぇ」
女性はふーと紫煙を吹く。
「質問があります」
スーツの女性は手を上げた。
「お嬢様から聞いた話ですので確かなことはわかりませんが。『真実の門』をくぐるには『光の聖書』と『闇の聖書』の2冊が必要だったと思いますが」
「温田さんの言う通り『真実の門』を開けためには、その2冊が必要だ」
「その2冊の所在は?」
「一冊、すなわち『光の聖書』はデウス・エクス・マキナに確認してもらっている。『闇の聖書』については大統領の手元にある可能性が高い」
「なるほどー、敵の手に落ちたという訳ですか。それはざんねぇん」
「ねぇ、ローシー」
「なんだ、主」
「『真実の門』をくぐり、ハイヤー・レイヤーへ行ったその先にはなにがあるの?」
「・・・世界の統合」
「ほんとに?」
「正直に言うと、ワシも知らん」
「ふーん」
「ただ、その門が開かれた時、この世界が、この物語が消滅する。これは絶対だ」
「消滅は“真”でありますか」
「それでぇ、老子ちゃんは私達に何をお願いしたいの?」
「『真実の門』の死守だ」
「『光の聖書』はいいの?」
「デウス・エクス・マキナがなんとかしている。我々は『真実の門』を守るのだ」
「まぁ、文壇の一員だからね。仕方がないわ」
「そこで皆に一つ相談がある。
戦力増強も兼ねて文壇に新たなメンバーを加えたい。名は『楽心』である」
「よろしいかと思います」
「いいんじゃない、私は来る者は拒まず精神だから。誰でも大歓迎よ」
「それが“真”となることを願います」
「一つだけ言いたいことがあるんだけど」
「なぜだい、主」
少年はガリガリと飴を噛み砕く。
「ぼくね、一度『楽心』に会っているんだ。正確には黒服を通して間接的だけどね。『楽心』はね、ぼくの生んだ物語を改変しようとしたんだよ。最後の最後で黒服たちがなんとかしてくれたんだけど、ほんと危なかったわ。まさか世界改変ができるほどの魔力と『語感』の持ち主がいるとは思わなかったからね」
「坊やは『楽心』には強力な魔力があるから仲間にしないほうがいいと言いたいの?」
「違うよ、エラリーおばさん。ぼくは嬉しいんだよ、あれだけ強い人に会えるのだから。むしろみなさんのほうが心配でね。楽心を相手にした時、ぼくにはみなさんを守れる自身がないわ」
「何言っているのよ、このクソガキ。大言壮語をいうにはまだ歳が足りないわ!」
「主よ、つまり『楽心』を迎え入れることについて反対ではないと?」
「そういうこと、ローシー」
「投票するまでもなかったな。『楽心』をこの文壇に迎い入れることに一致したということで、彼のもとへ使者を送りたいのだが、誰が適任だろうか」
「楽心様は『星の文壇』の事情についてご存知でしょうか?」
「ほとんど知らないだろうな」
老子は長いあごひげを梳く。
「お嬢様にご相談してからになりますが、『遅瀬慎』はいかがでしょうか?」
「『遅瀬慎』とは?」
「もともとは私の勤務する出版社で小説家をしておりますが、最近は『星の文壇』や創世神話についての文章を発表しておりまして、現在の状況をよく理解していると思います」
「あー、『調整者』とかいうアダ名を使っていた人ね。いいじゃない」
「ワシも異存は無い」
「了解いたしました。お嬢様の許可を取り次第すみやかに対応いたします」
「これで一人強力なキャラクターが我々の仲間になった。
大統領一派との対決が近いと目されている。皆、しっかりと魔術を確認しておくように。解散」
了解、おつかれ~、といった声の中でそれぞれ会議室を出ていった。
「主よ」
主と呼ばれた者は帰り際に呼び止められた。
「アカシック・レコードの状況は?」
「万全中の万全。念のため『黒服』に警戒レベルを上げるように指示するわ。老子は心配性だな」
「備えあれば患いなし、というだろ」
「爺臭いなー」
主は会議室を後にした。
「この物語の終焉が近い」
Between the Layers 3
「『真実の門』は『星の文壇』にあるわけか。あの門を開けると、大講堂へ出るのね」
「まだ開けるなよ」
「えっ、あー、うん」
Part 2-1 へつづく