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断章 『拒絶する者(リジェクター)』 第十人格:p‐man


 『・・・・この物語はリジェクターにしか読めないように特別な禁呪が施してある。なぜなら、覚醒者(アウェイカー)に知覚されるとたちまち書に侵入され改編される恐れがあるからだ。したがって、今この文章を読めているあなたはリジェクターのはずだ。ということはまだ同士が残っているということだ。それは素直に喜ばしい。

この書物が、どのような経緯であなた手元にあるのか分からないし、あなたがどのような思想を持っているのか分からないが、願わくはこのリジェクターの辿った物語を後世に伝えて欲しい。そしていつの日にか・・・・』


その書物はリジェクターの物語を著した大作であったが、争いのなかで散逸してしまい今では、ほんの一部分しか読めない。そこからうかがい知れることは、今、巷間に流布されている物語と、この書物の内容がかなり違っていることだ。我々とアウェイカーは多少の摩擦があったが最終的には円満に合法的にアウェイカー化することに同意したことになっている。しかし、実際には幾多の血が流されて反覚命運動が終息し、次第に淘汰されたのだ。その一端が読み取れる。リジェクターである我々は物語改変の影響は受けない。先人達が残したこの書のように、私の血には虐げられた歴史が刻まれ続けている。しかし私に残された時間は少ない。アウェイカー風に言えば物語は動き出しているのだから。すべてを闇に閉ざすための。


『・・・・始まりがなんであったかは定かではないが、初代大統領の聖書世紀宣言の中ではこう言われている「はじめに、光の聖書があった」と。その聖書がどんなものであったかわからないがアウェイカーを生み出したのは現実だった』


アウェイカーとは何なのか?

特別な器官=語感を持ち、世界のあらゆるものに物語を知覚する能力だという。そこから様々な特殊な力を持った者が現れた。物語を見出す・物語を共体験する・何の齟齬もなく分かり合える・物語が混じり合う・誰でもが物語の作者であり・読者であり・主人公であり・脇役であり・・・

それを人の目醒めだという。人の意識の覚命だという。


『・・・ここで、演説の一部を引用しよう。いわゆる「アウェイカー促進特別法」が可決された際の政治的指導者、まつりかの「リジェクターに告ぐ」である。

“アウェイカーは、人の革新である。それを受け入れられない人々は、人の意識が拡大しつつあるのを気付かぬ古き人々だ”』


古き人々と呼ばれた我々リジェクター。受け入れないのではない。守りたいのだ。人は固有の物語を持っており、絶対的な価値をそこに見いだす。それは各個人のみが語るべきである。何人も、これを侵すことはできない。それは普遍であり続ける。過去も今も未来も。

しかし、世界のほぼすべての人がアウェイカーになり、統一政府も出来、法も社会もすべて変わった。

しかし、当然のことながら出現初期の頃はアウェイカーこそが少数だった。我々は楽観的に捉えていた。ただの胡散臭い宗教的な社会運動の一つとして見なしていた。


『・・・ではなぜ、覚命運動は広がったのか? 一つには強力な能力者の存在があったと言われている。後の議会で「サロン派」と言われるある文学サークル出身の政治結社のメンバーにはことごとく優れた才があった。事実、初代大統領はそのメンバーから輩出されている。また、無視できない存在がいわゆる「アウェイドル」である。政治的マスコットとしてその美貌と歌唱力を生かし大衆に絶大な人気を誇っていた。先に挙げたまつりかもサークル出身でありアウェイドルの一人であった』


サロン派とは、強引にでも人を覚醒させようと主張する者達である。初期の議会においてはこの他にも、緩やかな覚醒を促す穏健派、アウェイカーを認めないリジェクト派、アウェイカーとリジェクターの共生を模索する共存派等が存在していたが、次第に強い能力を持ったサロン派の力が増していった。強い力には惹かれる者もいるが、恐れを抱く者達も多く現れる。そんな者達が起こし、その後の流れを決定させる「血の講堂事件」が起きる。これは恐怖心が増大した狂信的なリジェクターが、善良なアウェイカーの集会に乱入し多数を死傷させたといわれる事件である。その惨劇のさなか、アウェイカーたちはこう叫んだという。“心の壁がなくなり一つの物語を一緒に読めればこんな悲劇は決して起きない”と。各地で追悼集会が行われ、世論は一気にアウェイカー側に傾いた。今では、我々を非難する枕詞のように使われているが、実は我々はむしろ被害者で、真実はアウェイカーの「エージェント」・「修正者」と言われる特殊能力者が争い合った事件である。


『・・・血の講堂事件は、アウェイカー同士の争いである。アウェイカーの中でも様々な思想があるが、大きく分けて、物語の改変を肯定的にとらえ秩序を保とうとする修正主義と、極力手を加えてはならないとする自然主義の二つがある。事件は大規模な改変を行おうとした修正者とそれを阻止しようとしたエージェントの特殊能力者同士の争いだったのだ。その争いを改変し世論を動かすことに利用したのだ。いや、むしろ、故意的に事件を起こした節さえある。なぜなら、自然主義アウェイカーに思想的なシンパシーを感じて共生を目指し、これを支援するリジェクター達がその場にいたからだ』


そうした、様々な思想を飲み込んだ争いは混迷したが、やはりここでも特殊能力者達は暗躍した。中でも後に星の文壇といわれ、世界を動かす組織のメンバーになる者達の力は凄まじく、他を圧倒していた。一体どれほどの被害や改変があったのか、正確に読み取れる物語はないが、事態は収束し我々は次第にマイノリティーとなっていった。

 


「どうだ、何か手がかりになるような物語は書かれていたか?」

「いや、今回も“悲劇”しか描かれていないな」

「そうか。伝承は伝承でしかないか。それとも誰かが書いた物語に過ぎないのか」そう言いながらオッカムはひどく損傷し所々焼け焦げている数枚の紙片を取り出した。

「こいつも無意味か。せっかく苦労して手に入れたんだが」

私は、慎重に手に取り読みあげた。


『・・・追い詰められた我々は、禁断の書の作成に着手した。すなわち我々にしか読めない物語(セイショ)である』

『・・・闇の聖書と名付けた』


私は震えていた。あったのだ。ついにその名前がでてきた。

“闇の聖書”と読んだ所でオッカムは興奮した声をあげた。

「今、闇の聖書といったな。その先はなんて書いてある!」


『・・・すべての物語を闇で照らして・・・』

『・・・再び一つの世界に・・・』

『・・・修正者たちの襲撃が・・・』


「これ以上は損傷が激しくて読めない」

「くそ!」と吐き出すと近くにあった椅子を蹴り上げた。

「伝承通り存在するかもしれん。だが、もう待てない。カウントダウンは始まっている」

“光の聖書には対になる闇の聖書が存在する”と。リジェクターが編んだとされ、星の文壇クラスの最高位の能力者しか知り得ない伝承。“全ての物語を闇に閉ざす。ゆえに読めない聖書である”と言われている。

これから、老子達と事を構えるのにセイバーとアサシンは手に入れたが、文壇のやつらはとんでもないからな。生半可な力では通用しない。だから闇の聖書の力が欲しかったんだが・・・例え伝承であったとしても。逆に、存在の薄い物語の方があいつらには効果があるだろう。ただ、主の元に盲目の文字を視る能力者がいると聞いたが、もしかしたらその少女なら読めてしまうかもしれない。

「やるんですか」

「ああ、やる。物語は動き出している」大統領やAGN、王と楽心も動き出している。

「そうですか・・・」闇の聖書の物語はすべてのリジェクターの希望だったのですよ。ようやく手がかりらしきものが読めたのに。最初、あなたは言いましたよね。“俺たちが憎いんだろ? だったら手を貸してやるよ”って。耳を疑いましたが、話を聞いているうちに自身の仲間である星の文壇の人たちを相手にするには、なるほど、憎まれる相手でも手を組まざるを負えないと。それほど強大であるのは我々リジェクターには痛いほどわかりますよ。身をもってね。

「残念ですよ。精々アウェイカー同士で殺し合って下さい」

「じゃぁな」

オッカムは消えた。


どれくらいの静寂があったか。

くっくっくっと最初は含み笑いだったのが、次第にトーンがおおきくなりついには爆笑していた。


なにが残念だ、だ、なにが精々殺し合って下さい、だ。冗談ではない! リジェクターの手できっちりと今までの借り返させてもらう!

さぁ、すべての物語を闇で照らそう。文字を黒く染めよう。誰も物語を読めないように。


読めなかったのではない。読まなかったのだ。最後のページを。


もう、世界には私しかリジェクターはいないのだから。



誤字脱字分かりにくい表現等がありましたらご容赦を。

終盤にきて、全然物語を進めることができなくてすいません。

色々と無理でした。

紫伊さん、よろしくお願いします!


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