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第98話 最強のふたり

 山田が園に帰ってきた。

 園児たちが『ああ、そうですか……そんなことより磯野、野球やろうぜ!』くらいなリアクションであったのは、大人の事情をよく理解できていなかったためであろう。山田は込み上げてくるものをグッと堪えたが結果的に嗚咽を洩らした。 


※ ※ ※


「ひらばやしせーんせ。『うみ』はどうしてあんなにあおいの?」


 そろもん幼稚園、女の子代表格であるパイモンちゃんは平林に問いかける。遠藤や波留、佐藤といった同性の大人に対しては決して行わないような質問。別段、本当に疑問に感じている訳ではない。背伸びしたいお年頃の女の子が抱く『パパ以外の大人の男性の興味を惹きたい』的な好奇心である。


「それはねパイモンちゃん。海がいつも青い空を視ているからだよ」


「へー! そーなんだ!」


 思いがけず綺麗な回答を聞かされたパイモンちゃんは思わず目を見開いて感嘆の声を上げた。


 決して格好の良い見た目ではない平林ではあったが、こういう気の利いた発言が良い感じに子どもたちに受け入れられ、今ではすっかり『そろもん幼稚園の平林先生』としてのポジションを確立している。


 山田はそんな平林に在りし日の自身を重ねてしまい、ついつい嫉妬する。


「へ~、平林先生は物知りなんですね~。……そうだパイモンちゃん! 僕になんでも聞いてくれていいんだよ?」


「……」


「や、山田先生? ……パイモンちゃん?」


「パリはもえているか?」


「燃えてないよ。でも萌えてるよアニメで」


「へー」


「……」


「……」


「『KING CONG』でキングコングなのに、どうして『HONG KONG』はホングコングじゃないの?」


「実はホングコングって言ってるよ。物凄い早口だから『グ』が聴こえないだけだよ」


「へー」


「……」


「……」 


 パイモンちゃんは『なんか違う』といった表情で、かつ無言で、しかも唾を吐き捨てその場を後にした。


「……」


「……」


「へ~、平林先生は物知りなんですね~。それに子どもたちへの対応がとても丁寧だ。素晴らしいですね。普段はどういった心構えで?」 


「え? なんですか今の間!? 何故無かったことに?」


「秘訣は『素』ですか。いいじゃないですか! 素! 僕なんて子どもたちが大好きってことを前面に押し出してますからね! それに表面だけ取り繕っても素直な子たちは見破ってしまいますからね!」


「ええい、誰と会話をしとるんだアンタは」


「いやぁ平林先生とは上手くやっていけそうな気がしますよ! 僕の代わりに頑張ってくれている方がいるって話を聞いた時から『いい人だったらいいな』って思っていたんですよ!」


「『後任のヤツに渾身の一撃を喰らわせる』みたいなこと仰ってましたよね?」


「誰がです?」


「貴方が」


「ハハハッ、ありえない。ところでですn」


「『ありえない』じゃないですよ!? やだー! なにこの人!」


「まあまあ平林先生。落ち着いて。そんなブヒブヒ言わなくても」


「言ってません!」


 山田と平林が、ごちゃごちゃと楽し気なやりとりを繰り広げている中、パイモンちゃんに手を引かれた波留が合わない歩幅にヨロヨロとなりながら二人の前へと現れて面倒臭そうに一言。


「もう。子どもたちの前で仲良くできないのなら明日から来なくて結構ですよ?」


「……」


「……」


 不遜な表情をした平林と山田は互いに顔を見合わせ、


「何を言ってるんですか波留先生」

「我々ほどに」

「息の合った」

「コンビは」

「存在」

「しません」

「「よ」」


 ガシリと腕を組んだ。

 

 後のモースト・デンジャラス・コンビ誕生の瞬間である。


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