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第81話 天竺牡丹組のウェパルちゃん

ウェパル

29の軍団を率いる序列42番の公爵

人魚の姿をしている。ゴエティアには珍しく属性持ち。ちなみに水。武装船団を連れてくる悪魔。


「ねぇ、どうしてこんなことしたの?」


「わたし……なにもしてないもん」


「ん~無罪っ!」


 ウェパルちゃんのように小さな子の涙は強い。駄目なものは駄目だと教育しなければいけないことは間違いないのであるが、叱るべき事柄と、目を腫らして流す涙とを比べてしまうと……どうしても許してしまうのは仕方がないことであろう。

 

 おしまい。






「いや、あのぅ……流石に角材で後頭部を不意打ちする行為は許容できるものではない気がするのですが」 

「あれ? 平林先生どうされたんですか? 肉汁が流れ出てま」

「血ですっ! 今しがた説明したばかりじゃあないですか遠藤先生っ! ほら、親御さんを呼ぶなり警察を呼ぶなりしてあげないと、ウェパルちゃんの為にもなりませんよ!」


 平林はバスの整備をしていた所、後頭部をしたたかに殴打された。そろもん幼稚園のいたずら小僧共の頂点に位置するいたずら娘であるウェパルちゃんに。


 大人しくしていれば、良いところのお嬢様。ダンゴムシと蟻の巣さえあれば日長一日、過ごすことのできる鼻水を垂らした同年代の男の子たちを下に見ている節こそあれ、ありあまる可愛らしさの前では、それすらも霞む。それどころか、ちょっと気が強い位が女の子グループにも高評価という強者である。


 多くの習い事、厳しい躾、がんじがらめの生活の結果……


「……けいさつさんよぶの? ウェパルわるいこ?」


「ああそうだ! 人は角材で殴っちゃいけない。っていうか角材を振り回しちゃいけない」


「……ご、ごめんなさい。ほんのできごころで」


「いいや駄目だ。こういうことをするとどうなるか、ウェパルちゃんはしっかりと知らなきゃいけないんだよ?」


「……じゃあ」


「?」


「じゃあ、平林先生が普段から私のことをいやらしい目つきで見ていることを警察の方へお伝えいたしますね」


 捻くれた性格(コレ)である。


 八方美人を貫かねばならぬ日常は、周囲を見極める目を養い、数多くの社交の場は『子ども』の立ち位置が社会的に非常に優位であるという事実を認識させるに至った。あらゆる年齢層との交流は言葉を流暢に成長させ、大人の弱点を熟知させる方法を学ばせることとなった。


 悪魔誕生である。


 そんなウェパルちゃんにとっては『そろもん』こそ唯一無二の『何でも許される場』であり、公然と悪戯を働くことができる『ストレスの掃き溜め』『癒しスポット』と化していた。


『お遊戯? 楽しいねぇ。私の思ったように『幼馴染』が動く姿は何とも言えない高揚感をもたらしてくれる。一緒に並んで演じるのも良い気分転換だ。なんてことはない、自分自身も彼らと同じく幼稚園児なのだから楽しくて楽しくて仕方がない』みたいな。


 ちょっとばかし大人びた子どもというものは、如何せん周囲を卑下したがるものだ。『何故、私がこんなに幼稚なことをしなければいけないのか?』という具合に。だが、ウェパルちゃんは違う。本当の意味で大人びている。心の底から『子どもであることを楽しんでいる』のだ。


 例えるならば、社会人として働き出して『ああ~、小学生の頃は夏休みになると朝からプールで遊んで、駄菓子屋でアイス買って疲れて帰って、目いっぱい寝てもまだ昼過ぎで……ああああああああ戻り゛た゛い゛!!』といった現実逃避を実際に体感しているようなものである。


 そりゃあ楽しい。


 ウェパルちゃんのカマ掛けは何も対象者一人に対する脅しに留まらない。今回の場合であれば遠藤ばかも含まれる。


「なっ! なんてことをしてるんですか! 平林先生! それは洒落にならないでしょうが! なんたる! なんんたるるるぅぅぅ(巻き舌)」


「してませんよ? なに簡単に引っ掛かってるんですか。……はぁ」 


「そうなんです?」


「少しは信用してくださいよ、もう」


 意外にも冷静な平林。まぁ本当にやってないのであるということもあるが、ウェパルちゃんの育ち、環境、これまでの言動、思考に至るまでが平林には理解できていた。


 彼もまた特別な存在(ボンボン)であるから。


 周りの大人も、同級生でさえも己ではなく己の背後にそびえる大きな影、つまりは親の威光にしか目が向いていないという寂しい状況を彼は知っていた。だからこそ……


「えんどーせんせい?」


「へ?」


「……」

「……」

「……ん?」


「おといれでこのあいだ……バスト占いの歌を全力で」

「すぐに警察を呼ぶね! ごめんねウェパルちゃん。色々と気付いてあげられなくて。でももう大丈夫だから安心してね! 全速力で平林先生を通報してあげるから! 佐藤先生! 佐藤先生―――!」


「はーいなんでしょうか遠藤先生?」


「平林先生の意識を飛ばしてください」


「ちょっ」


「それは構いませんけど?」


「構え! 少しは構えて! ……いやいやいやいやいや、佐藤先生っ! 話をですね、僕のはなしをlsdkjgh……」


「……任務、完了です」


「うわぁーこわかったよぉ……えんどーせんせー、さとーせんせー」




 平林は確かに目にした。

 薄れゆく意識の中でハッキリと。


 泣き真似するウェパルちゃんの口元がニヤリと歪んでいたのを……


 情報操作を行うにはブラフだけでは足りえない。周囲の人間を如何に巻き込むことができるか、巻き込んだ人間をどのようにして味方にすることができるか、味方にした人間を前線に立たせて戦わせるにはどのような『動機付け』が求められるか。


 ウェパルちゃんは気絶したまま連行される平林を尻目にボソリと呟いた。


「時代が違うのだよ。時代が……」


「ん? ウェパルちゃん何か言った?」


「んーん、うぇぱる、なんにもいってないよ?」


「そっか、じゃあ皆でお遊戯会の練習しよっか?」


「うん!」 


 満面の笑みを浮かべる遠藤とウェパルちゃんの間に、なにやら口にしがたいギスギスしたものを感じ取る佐藤なのであった。


バスト占いのうた

作詞:宮崎吐夢


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