第79話 そろもんの罪と罰
「僕は罪です」
「私は罰です」
「はぁ、私は遠藤と申します」
そろもん園に訪れた小さな訪問客に対して遠藤は挨拶を交わした。小雨に対して黄色の雨合羽を着込んだ小さな子たちは恐らくは双子なのであろう。性別こそ違えども、髪の長さは違えども、瓜二つの目鼻立ちをしていた。
「今から罰ちゃんが罪を犯します。なので罪ちゃんが罰ちゃんの罪を罰します」
「でも罪ちゃんは罰ちゃんの痛覚はリンクしていますので詰みちゃんなのです」
「あ、いや、ちょっと待ってちょっと待って。全然意味がわからない!!」
「馬鹿なの?」
「馬鹿なの?」
「し、失礼だなぁ、君ら」
シトシトと雨粒が降り注ぐ。
然程離れてはいない距離でキャイキャイ駆け回る園児たちの声が聴こえる。
小さな訪問客は遠藤をジィっと見るでもなく、キョロキョロと彼らに目を落とす。兄なのか弟なのかはわからないが、姉なのか妹なのかわからない方の雨合羽をクイクイと引っ張っては何か言いたそうな表情を浮かべた。
「君たちも一緒に遊びたいの?」 遠藤は問いかけた。
「罪ちゃんはどうです?」
「罰ちゃんの意見を尊重したい感じです」
「罪ちゃんは、いつも罰に押し付けるのですね」
「罰ちゃんは、そうやって罪に押し付けているとは思わないのですか?」
「罪ちゃんは、罰に押し付けているつもりはないと言うのですか?」
「罰ちゃんの罪はそういう部分だと思うのですよ」
「お言葉を返すようですが罪ちゃんの罪こそそういう部分でしょう」
「ちょ、ちょっと待ってちょっと待って、わかんなくなる!」
「馬鹿なの?」
「馬鹿なの?」
「やっぱり失礼だな、君ら」
シトシトと雨粒が降り注ぐ。
ほんの少しだけ肌寒い風が吹く。黄色い雨合羽の双子が風に飛ばされないように互いの手をギュルリと握り絞める姿に仲の良さを見ることができる。
片方のフードが風に巻かれて飛んでいった。二人は空高く舞い上がる黄色い片を見上げて残念そうな口振りで話す。
「罰ちゃんのフードが飛んでいきましたね」
「罪ちゃんのフードは何故、飛んでいかないのです?」
「罪は、罰ちゃんのように罪を犯していないから罰を享ける筋合いはないのですよ」
「『罪』なのに?」
「『罪』なのにです」
「よしんば、罰が罪を犯したとするのならば、罪ちゃんが罰に罰を与える約束ではなかったのですか?」
「罰ちゃんが罪を犯したとして、それが罪の与えるべき罰とするのならばそのようにするのが筋でしょう。だからといって全ての罰ちゃんの罪を裁けるという訳ではないのです」
「だぁー! だから何を言ってるのかわかんなくなるってば!!」
「馬鹿なの?」
「馬鹿なの?」
「……」
「……」
「……」
「……」
……
「……な、なんか遠藤先生、一人でブツブツ言ってますけど大丈夫ですかね?」
花壇に咲くパンジーに向かって一人話し続ける遠藤のことを心配した佐藤は、波留に相談した。
「そういえば、花粉症に効く薬を知らない人から買ったとかなんとか言ってましたね。そのうち元に戻ると思いますよ? 頑丈な人ですからね」
「そ、そういう問題ではないような気もしますが……」
空は澄んで雲一つない快晴の日の出来事であった。
クスリ、ダメ絶対!!