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第75話 マルコシアスの災難

マルコシアス

30の軍団を率いる序列35番の地獄の侯爵

翼の生えた黒い犬の悪魔。


 昔々、今の人類がウホウホ言い出す前の世界。

 

 汎人類的な文明を築き、魔法のチカラで隆盛したりしなかったり、その力で海を割ってみたり山を割ってみたり、割ってみたところ熱い湯が噴き出したので慌てて元に戻したりしていた世界に、突如として悪魔と呼ばれる存在が現れ始めた。


 地の獄から解き放たれた悪の軍団は、人々の家々と村々をメラメラと焼き払い、それまで地上の覇者として君臨していた人間を追い出し、追い出した土地で焼き畑農業を初め、地獄から取り寄せたジャガイモや同じく地獄の人参、果ては地獄の牛を放牧し、地獄の住民たちが悪魔っぽい笑みを浮かべながら豊かに過ごせる集落を次々に作っていたのであった。


 そんな中、故郷の村を焼かれ、見知らぬ天使に(自分探しの)旅に出ることを薦められたエイリーンは「殺るっきゃないね!」とばかりに出会う悪魔も魔物も区別なくバッタバッタと無差別に薙ぎ払い、レベルがドンドン上がっていくので楽しくて仕方がなかった。


 それまで抑圧されてきた訳ではなかったが、小さな村のモブ少女Aとして生きてきた彼女にとって、戦えば戦う程に力が腹の底から湧き上がってくるようなムチムチプリン状態に笑いが止まらなかった。その鬼神の如き傍若無人っぷりは、瞬く間に悪魔たちのあいだで「あ、あいつはホンマに悪魔やで~」と言われる程。


 でも、タンク役もヒーラーもいない一人旅、勇者というよりも自制が利かないバーサク状態だったので落とし穴にハマったりなんやかんやあって捕まったのであった。


……


 最早、返り血に染まったようにも見える赤い短髪に血走った眼。武器が無くなった時の備えであろう鋭利に尖れた爪、腰には安価で購入できる既製品の短剣。それに初期装備っぽい布の服。


 赤い真ん丸の月が不気味な光を放つ宵闇にあって、地に伏せた彼女を見つめる大きく黒い狼。あばらは浮き上がり、目は鋭く、大蛇の如き尾が岩を打ち付けこれを砂山のように爆ぜさせる。


 エイリーンの両足は魔法の麻紐で縛られ、加えて後ろ手に縛された状態で抵抗できないようにされていた。それでも彼女は希望を捨てない。


「この犬の悪魔めっ! 私を拘束してどうするつもりだっ! ……はっ。もしかして、このまま私が動けない状態にあることをいいことに、乱暴するつもりね! エロ同人みたいにっ! このエロ犬! 人でなし! 悪魔! 鬼! えっと、あと……犬!」


「(エロ同人?)……ふっふっふ、威勢がいいのもどうやらここまでのようd」


「離しなさいってば! この……エロ魔犬っ!」


「(エロ魔犬?)……ふっふっふ、なかなか手こずらせてくれたものよ。よもや、我が軍団n」


「くっ……どうやら、私も年貢の納め時のようね。こうなることも覚悟の上ではあったのだけれど、もう少し……殺るなら早くなさいっ! この駄犬ッ!」


「……聞けって。あと駄犬っていうな! 狼だから。こう見えて賢狼だから!」


……


 黒く大きな賢狼は地に伏した化け物みたいな女に尋ねる。大きな体躯からは、押さえつけられぬ程の怒りが熱として放出され、辺り一帯が高熱に包まれる。立ち上る蒸気は空気を、空間を燻らせる。


「貴様の手によって我が三十の地獄の軍団が壊滅してしまったわ! 一体どういう力をしておるのだ貴様は! というか貴様は誰だ? 何故、我らは貴様に襲われたのだ? (山菜獲りに来ていただけなのに!)」


 マルコシアスが理不尽に対する憤怒を吐露すると、彼から放たれる熱はより一層強さを増した。彼の起こした地響きは森中に響き、轟き、天をも揺らした。


 熱気の直下に伏せるエイリーンの頬にはタラりと汗が滲み出る。目の前の悪魔の犬が抱く底知れぬ闇に落ちた眼は静かに「答えようによっては……」と覚悟をせまる。


 乾いた喉がゴクリと鳴る。


「さあ、心して答えよ。何故、我らを襲った」


「……オークはどうした?」


「ん?」


「姫騎士が拘束されてんだからオークだろうが! 犬にゃあ用は無ぇんだよ! 豚連れて来い豚ぁ!! おお? お前が豚か? ほれ、ブヒブヒ言うてみい! ほれ! ブヒィ!!」


「……」


「……?」


「……?」






「いやああああ!! 犬が喋ってるぅ!!」


「(もういいや……)」


 エイリーン、バーサク継続中。


一時間後


エイリーン「お手」

マルコシアス「……くっ、殺せ!!」

エイリーン「……お手は?」

マルコシアス「わんわん!!」


来世


遠藤「マルコシアスちゃーん!」

マルコシアス「ひぃ!!」


マルコシアス。転生してもトラウマ継続!!


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