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第70話 九藤神父の紙芝居「ソドム爺さんとゴモラ婆さん、ときどきバハムート」

九藤くとう教会

そろもん園と同じ街にある小さな教会。どこにでもいるヴァチカン帰りの祓魔士エクソシストである九藤神父の教会。悪魔がどうのこうのと若干、電波気味なので波留から敬遠されている。悪魔が気になってちょいちょい園に遊びに来る。


 前回までのあらすじ。


 波留が不在のタイミングを見計らって『そろもん』を訪れた近所の教会神父、九藤くとうは遠藤と園児たちの巧みな話術により創作紙芝居を強要されるのであった。

「ようしっ! やってやろうじゃあないか!」

果たして九藤は子どもたち(と遠藤)の期待に応えることができるのか!


――――


【ソドム爺さんとゴモラ婆さん、ときどきバハムート】


 昔々よりもさらに昔。若い頃から好き勝手に過ごしてきたソドム爺さんとゴモラ婆さんが『せめて気持ちだけは若くありたい』と日々平穏かつ刺激的な毎日を過ごしていました。


 たまたまその地を訪れた旅人は、あまりにも奔放なおじいさんとおばあさんの振る舞いに『なんだこいつらは……たまげたなぁ』と驚嘆するばかり。


 その日、お爺さんはゴルゴダの丘へ髭もじゃを助けに。お婆さんは川へ命の洗濯に向かいました。


 お婆さんは、そのアクティブな日常生活のため、また、夜毎に自身に向けられるお爺さんの若い頃と変わらない熱い眼差しのため、年齢に不相応な程に美しい肌をしていました。清らかな川のせせらぎに鳥たちは歌い、光は賛美し、彼女の穢れの一切をサラサラと流していくのでした。


 年老いた彼女の皺は、その一筋ひとすじに生きてきた証を刻んでいるようでした。良い夢を見るための香草ハーブも、空を飛ぶための軟膏も、別れの悲しみを忘れさせてくれる媚薬も、疲労をポンッと取り除いてくれる液体も、全ての経験が彼女を一人の完熟した女性へと昇華させ、歳を追うごとに魔女染みた魅力となって表れていくのでした。


 一方その頃、ゴルゴダの丘では髭もじゃの男が磔にされようとしておりました。お爺さんは執行場の周りを囲む屈強な兵士共の目をどう掻い潜ればよいものか、考えあぐねていました。


「くっ……やはり『アレ』を使うしかないのか」


 お爺さんは苦悩します。『アレ』を使えば髭もじゃを助けることは可能でしょう。しかし、『アレ』はそのチカラの凄まじさのため、もう若い頃とは比べ物にならない程に衰えたお爺さんの身体では耐えられる保障はありません。……迷う時間はもうありません。お爺さんは覚悟を決めて叫びました。


「顕現せよッ! 超絶竜騎神・アザ・ト―――――スッ!!!!!!」


 お爺さんの声に呼応するように大地は裂け、天は割れました。地響きを奏でながら現れたのは数えきれない程の腕と足を生やし、無機な皮膚をした禍々しく、そして力強い人類の英知が生み出した化け物兵器。人の世界を護る為、神との闘いのために建造された人類最終決戦兵器アザ・トース。


「ウ、ウヴォアアアアアアアアア!!」


 その不気味な咆哮は場にいた人々の心を惑わし、不安に陥れ、眩暈を引き起こし、頭痛を与え、のどの痛み、鼻づまり、咳、くしゃみ、全身を襲う倦怠感と悪寒を味あわせる。


 この世ならざるモノの雰囲気に気圧された動物たちは、助けを求めるように川でお清めを終えたお婆さんの下へと集まっていた。


「どうやら『アレ』が目を覚ましたようですな」

「そのようですな。やれやれ、どうしてこうも人の業とはいつまで経っても……おっとこれは失礼、お婆さんは人でしたな」

「くすくす……『まだ』ですけれどね」


「五月蠅いぞ森の猩々ども! はよ森に帰れっ!」


 川の冷水で引き締まったお婆さんの肉体はアスリートのように洗練され、かつて「彼女ほどにビキニアーマーの似合う者はいない」と国の内外から言わしめた頃を髣髴とさせた。お婆さんは覚悟を決めるように呟く。


「ふむっ、まぁ全盛期とはいかぬか……さて、今の私にどこまでやれるか」


 それがお婆さんであるゴモラがゴモラたる由縁。人が人であるが故の罪の一切をその身に引き受ける代わりに不死に最も近い存在へと成った唯一の人間の定め。


 生まれながらにして神からの最後の審判を受けることが確定づけられた哀れな贄。審判が下るまでに人を、より善い方向へと導くことこそがお婆さんの役割。


 お婆さんは飛んだッ! 空を駆けたッ! 今まさに業の限りを尽くさんとする片割れ……ソドム爺さんが黄泉より呼び寄せた真・破魔巨兵アザトースの暴走を止めるためにお婆さんは……今、光となる……


――――


「……こんな感じでどう、ですかね?」


 九藤神父は遠藤に問いかけた。

生まれて初めて作った紙芝居。創作というものは、どういう形であろうが誰かの目に触れると不安になるものである。過程においてノリノリであったとしても得られた感想がズタボロであったとあっては目も当てられない。


「あ~^いいっすね~。私こういうの好きです! で、バハムートはどの辺で出てくるんです?」


「一応、十七話辺りから……で、では、早速子どもたちに」


「大作かっ! あと、名前ブレすぎだろっ! ちょっとは推敲しろ!」


九藤神父「お、おか、お帰りなさい波留先生」

波留先生「なーにをやってるんですか? 神父さん」

九藤神父「あっ、いやこれは、その……え、遠藤先生ぇ」

遠藤先生「何をやっているんですか! 勝手に園に入ってきて! やっていいことと悪い事の判断もつかないのですか!」

九藤神父「え? ……す、みません」


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