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第68話 そろもんと怪しげな神父さん

 そろもんには不定期で神父が訪れる。いつから始まったのか、誰が呼び始めたのか、何のために来るのかは不思議と誰の知る所でも無かった。「何をしに来ているのか」なんてことを聞くのは野暮というものであろう。古今東西、神父が行うことなど決まっているのだから。


 黒一色の学生服にも似た一張羅に身を包み、銀色に輝く十字のロザリオを首からぶら下げて、水晶のチャームを手首に垂らした神父は園児たちに向かって優しく語りかける。


「天にまします我らが父よ、その御名みなにおいて御国みくにの来たらんこと、その御旨みむねを天の如く地に行ない、我らが人にゆるすが如く、我らの罪を赦し、我らを悪より救い給へ。アーメン」


 神父は決して表情を変えることはない。どこまでも穏やかでどこまでも寛大でいて、子どもたちに向かって祈りを捧げる。その非日常がどうにもお子様たちには楽しいようで、じっとしていられない。


 ちょっとしたヒーローショーみたいな扱い。もっともテレビで観ているような戦隊ヒーローではなくて、どちらかといえば警察官であったり消防隊員といった括りに近い類いの分類ではあったが、その辺りの線引きは幼い子どもには理解できないまま、「なにかよくわからないけれど、とりあえずカッコいい!」という具合に。


 ……遠藤も。


 正体不明、しかし『悪』ではない。風の噂によると昔、ヴァチカンで修行したことがあるのだとか。また、事情通によれば、首にぶら下げたロザリオはご家庭にある換気扇についた頑固な油汚れのような悪霊を綺麗サッパリと浄化してしまう程の加護を持ち合わせており、さらに、さる筋からの話によれば手首に巻かれた水晶のチャームには英霊が封じられていて魔を滅する能力が秘められているのだとかなんとか。


 まぁ、黒い十字架を見て「ブラッディ・クロス」とか平気で言っちゃうような、若干……ほんのちょっとだけイタめな大人の心をも鷲掴みにしてしまった訳である。


 神父が『いつもの』お祈りを終える頃には子どもたちは一人残らず寝てしまう。スヤスヤと。憑き物が取れたかのように天使の寝顔を浮かべながら……


 ……


「ありがとうございます神父様。いつも子どもたちの成長を神様に祈ってくださいまして」


 波留は言葉尻こそ丁寧であるが、それでも決して気を許してはいないとばかりに冷たくあしらう。茶菓子と共に差し出した粗茶も冷たい。冬なのに。


「いあいあ……いえいえ、波留先生。それよりも『例の件』ですが……」


 波留は神父の言葉を遮るように断りを入れる。いつものこと、いつものことである。波留には神父の考えていることがわからない。そろもんの、ただでさえ手狭な敷地に教会を移設したいという申し出。一時期、そろもんの乗っ取りを企てているのではないかと探ってみたことがあるが、どうやらそういう訳でもないらしい。


「しかし何度も伝えている通りですが、この幼稚園には神が何度も訪れている! 天使もだっ! それに私は何度も神の声を聴いてきたのですっ! 「この地に悪魔が降り立つ」と」


「あ~、はいはい。その手の話は遠藤先生が代わりに聞きますので」


「聞きますっ! 聞きましょう! 聞かせてくださいっ!」


「波留先生……非常に申しあげにくいのですが、遠藤先生はちょっと……私の立場的に『聖母』を自称されている方とマトモに話すことは難しいかと」


「遠藤先生? 問題ありますか?」


「全く問題ありません。私もしょっちゅう神様から話しかけられていますから」


 遠藤は鼻息荒く胸を叩いた。ここは私に任せておけと言わんばかりに。

 代わりに神父は鼻からため息をついた。今日も駄目であったかと肩を落としながら。

一方その頃、天界では。


神様「え? (下界に降りた時)見られた?」

天使「いえ……そんなことはないかと」

神様「見たって言ってんじゃん! あの神父さん!」

天使「……ご、ごめんなさい」


……


神様「大体あの神父さん、どうやって天界からの電波受信してる訳?」

天使「さあ……」

神様「『さあ』って君さぁ……」

天使「……」

神様「黙ってちゃわかんないよ?」

天使「主が電波っていうな! あと、主が遠藤に『テレビアニメを通じて覚醒を促す』とか言い出さなきゃ何の問題も無かったって言わなきゃわかんないかなぁ!」

神様「……」

天使「……」

神様「……すみません」


 ギクシャクしてた。


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